2024年8月28日(水)に株式会社彩からリリースされたスチームパンク×オーディオシネマ『蒸気街のアポリア』。立体的な音響効果によりスチームパンクの重厚な世界観を表現した作品ですが、なぜ音に特化したオリジナルコンテンツを作ってみようと思ったのでしょうか。
本作を生み出したきっかけやどのような挑戦があったのか、プロデューサー・音響監督を担当した当社のクリエイター、本田雅治の回答をインタビュー形式でお届けします。
■スチームパンクを"音"で表現した『蒸気街のアポリア』誕生の背景と動機
──『蒸気街のアポリア』を作るきっかけとはなんだったのでしょうか?
きっかけはシンプルで、こういうコンテンツが欲しいと思ったからですね。世の中のいろんなコンテンツを楽しみつつも「◯◯な作品があったらなぁ……」と、ふと感じることってあるじゃないですか。ですが『蒸気街のアポリア』のような作風に挑戦するメーカーさんはあまりいなさそうだなと感じたので、だったら自分たちで作ってみようと決めました。
自分で言うのもなんですが『蒸気街のアポリア』は昨今の流行りや、様々なメーカーさんが展開する主流コンテンツとは異なる路線です。重厚なスチームパンクの世界観、シリアスな描写……この作品が売れ筋、安牌な方向性かと聞かれたらノーと答えるしかありません。これらの要素を踏まえると、みんながやっていないことに挑戦しましょうとメーカーさんに提案するのは難しいだろうという自覚はありました。
だからこそ『蒸気街のアポリア』は自社オリジナルの企画としてスタートしました。自分たちが良いと思ったモノを実際に形にしたほうが今後企画の提案やアプローチをする上でも効果的だと思いましたし、こういった作品を求めている人は世の中にいるはずだと確かめたかったんです。
■「オーディオシネマ」は耳で観る映画。吹き出す蒸気音など、非現実世界を体感できる
──オーディオシネマという形を選んだ理由はなんですか?
音の可能性はまだまだあると思っていたからです。私自身、オーディオドラマを聞いて楽しんでいた経験があるのですが、映像とはまた違った魅力があるんですよね。登場人物のセリフや行動に合わせて、自分の頭の中に画が浮かんで来るあの感覚。その楽しさを広げる余地はあるのではないかと考えていました。
音だからこその強みは、現実にない世界を体感できること。わかりやすさという点では間違いなく映像やイラストのほうが強いと考えていますが、耳元で吹き出す蒸気の音、それに応えるように動き出す歯車と機械音など「今、自分がその空間に居る」という感覚になれるのは音の力が大きいと思います。
今回は耳で観る映画というコンセプトから本作を「オーディオシネマ」と表現していますが、これは今の時代でどんな工夫や取り組みができるか、従来のオーディオドラマの作り方から変化させられないだろうかと挑戦した意味も含まれています。
収録ではバイノーラルマイクを使用し、クロード役のファイルーズあいさんやパロマ役の石見舞菜香さんなど出演者のみなさんに動き回ってもらいながら収録をしました。舞台をイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれませんね。
中央に置かれたマイクの周りを歩き回り、お互いの立ち位置を計算し、時にはマイクに背を向けて喋るような場面もあり……今回の手法によって従来のオーディオドラマから一歩踏み込んだ奥行きを表現できたと思っています。
スチームパンクという世界観に加え、収録の特殊さも相まってスタジオの方から「この作品は難易度が高い……」とお話があったのですが、力を注いでいただいたおかげで素晴らしいクオリティになったと自信を持って言えます。完成品を聞いた時は「すごい! 右耳で蒸気がプシューって鳴ってる! 左でバルブ回った! やばい街が崩壊してる!」と、自分の作品なのに視聴者目線で楽しんでいました(笑)
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■難航した制作と徹底したこだわり。妥協を許さず全力投球を貫く
──制作はスムーズに進んだのでしょうか?
思った以上に難航しましたね。
私もシナリオライターとして活動しているのでその経験を活かし、本作の脚本を担当した竹知さんと全体の構成や内容について何度も何度も議論を重ねて再構築していきました。
竹知さんがやりたい根っこのテーマはズレないようにしつつ、この作品だからこそできること、オーディオシネマだからこそできること、本作を聞いた方に楽しんでもらうための工夫を折り込みながら仕上げていきました。
「一旦形になったから進めよう」と妥協すればスムーズに進行できたかもしれませんが、この作品の評価が今後の彩の活動を大きく左右するかもしれないと考え『蒸気街のアポリア』は妥協せず全力投球する方針で進めました。
そうやってずっと走り続けてきたので、イラストレーターの六七質さんに描いていただいたキービジュアルが完成した時には本当に頑張ってよかったと思いました。世界観を見事に表現していただいたイラストなので、初見のユーザーさんから「ビジュアルがすごい!」と反応が多かったのが嬉しかったですね。
■クラウドファンディングによる宣伝戦略。予想を上回るスピードで支援額170%達成
──本作でクラウドファンディングを実施した理由とはなんでしょう?
宣伝・拡散のためです。彩はとても小さな企業ですし、オーディオシネマを作りましたと告知をしたところでみなさんに伝わらないだろうと考えていました。潤沢な予算があるわけでもないので、一般的な宣伝広報の手段を使おうとしても限界があるかなと……。
なので、クラウドファンディングとして展開することで「何かやってるぞ」と人目につくチャンスを作りたかったんです。ただ、かなりリスクのある選択肢でもありました。クラウドファンディングサイトに掲載をする以上、目標未達成の場合はその結果が残り続けてしまいます。
もし想定を大きく下回る形になってしまったらどうしよう……と、開始前はとても不安で胃が痛くなっていましたが、1週間以内に目標金額を達成することができた時は本当にホッとしました。みなさんのご支援のおかげで最終的には目標を大きく上回り支援額170%を達成することができました、本当にありがとうございます。
■彩が目指すものづくりの在り方。これからも新たな可能性を広げるチャレンジを
──オーディオシネマは今後も展開していく予定なのでしょうか?
『蒸気街のアポリア』によって音を軸にしたコンテンツの可能性をひとつ広げられた実感はありますし、その魅力をお伝えすることができたと思います。だからこそ、作った道をしっかり広げていきたいと考えています。
次にオリジナル企画をやるなら『蒸気街のアポリア』と同じく、音の強みを活かせる世界観・ストーリーにしたいですね。ですが、自社オリジナルのみ展開するのではなく『蒸気街のアポリア』をきっかけに彩という会社に興味を持っていただいたメーカーさんと一緒に、オーディオシネマの企画を立ち上げる機会ができたら嬉しいと思っています。
オーディオシネマは映像やゲームなどのコンテンツに比べると小規模ですが、世界観の表現力が高いという強みがあります。弊社で作るオリジナル作品のみでなく、様々なキャラコンテンツ・IPを活かすひとつの手段として定着できたら面白いのではないでしょうか。原作IPをお持ちのメーカーさん、ぜひお声がけください。
──今後の展望についてお聞かせください。
オーディオシネマ『蒸気街のアポリア』を世の中にリリースしたことで彩という会社はどんなコンテンツを作りたいのか? という具体的な例を示すことができたと思います。元々私はゲーム業界で活動してきたのでゲーム企画も考えたいと思っていますし、弊社と関わるクリエイターには映像に強い方もいらっしゃるので映像や小説など、さまざまな表現媒体においてもチャレンジしていきたいと考えています。
オーディオシネマ・ゲーム・映像……どんなコンテンツであっても私たちが大事にしたいのは「なぜその作品をそのジャンル・媒体でやるのか」というコンセプトを明確にすることです。オーディオシネマの場合は「音を活かす意義と必然性」という軸で制作しましたが、それと同じように他のジャンルにおいても明確なコンセプトのもと活動してまいります。
コンセプトの柱を立てた上で真面目な作品からコメディ色が強めな路線まで、クリエイターの色を活かしたバラエティ色豊かなものづくりを行うことこそ彩の目指す在り方です。みなさんに楽しんでいただける様々なコンテンツをお届けできるよう、チャレンジを続けていきます。
▼彩 公式X
▼蒸気街のアポリア 販売プラットフォーム
DLsite:
ハイレゾ音源(wav・flac 48kHz/24Bit)、mp3音源(48kHz/320kbps)を同梱