3列シートのSUV「CX-80」の室内は「CX-8」からどんな進化を遂げたのか? 開発担当者2名に直撃した!

2024.08.22 11:35
この記事をまとめると
■マツダCX-80の日本仕様が公開された
■車両を担当した柴田浩平さん、高橋達矢さんにインタビュー
■CX-80のパッケージングについてお話を伺った
8速ATの内製化により全長を5m以内に収めた
  マツダの新たな旗艦モデルとして2024年秋に発売を予定している、3列シートのミドルラージSUV「CX-80」。
  その開発を指揮した、マツダ商品開発本部の柴田浩平主査と、CX-80のパッケージング設計を担当した、マツダR&D戦略企画本部 企画設計部の高橋達矢主幹が語る、CX-80の前身となるCX-8や、CX-80のベースとなったCX-60から進化・変化したポイントとは……?
──お二人ともCX-60の開発も担当されているとのことですが、今回のCX-80はCX-60、CX-70、CX-90と併せて4車種一括で企画・開発されたのでしょうか?
 柴田 そうですね。基本骨格やレイアウトといったメカニズムは一括開発なので、今回のCX-80よりもかなり先行して、CX-60開発の時点でほぼできていました。その後各車種の開発で最後の詰めをやりきって、各車種を適切なタイミング発売する、という流れで進めていますね。
──そのなかで、フロントセクションは各車で共用し、リヤドア以降は各車で作りわけるという方針が決まったのでしょうか?
 柴田 はい。4車型でいうとワイドボディとナローボディがありますが、フロントはある程度共用しています。ですので、ベースを作ってから派生させていくというよりは、ワイドとナロー、ショートホイールベースとロングホイールベースがありますので、それらの組み合わせがすべて成り立つように考えています。
──各車種を作りわける上ではパッケージングが非常に大変だったと思います。とくに今回のCX-80に関しては、CX-8の後継車ということで、FF車だったものがFRになるという、室内空間を確保するうえでは非常に不利な条件になったと推察されます。CX-80を開発するうえで、その不利をどのように解消したのでしょうか?
 高橋 ポイントは大きくふたつあり、ひとつはエンジンルームです。マツダはトルクコンバーターレス8速ATを内製化していますが、CX-60の時はこれを「ペダルの正対配置のため」と一生懸命説明していましたが、じつはこれ、CX-80の全長を5m以内に収めるために必須のアイテムなんですよ。なぜならばエンジンルーム長、ペダルから前の長さは、同じ直列6気筒エンジンを縦に積んでいるメーカーのなかでも一番短い部類なんです。
  なおかつ、ペダルの正対配置もしている。ボンネットを開けていただいたら、ものすごく後ろにトランスミッションがあるのがわかると思うんですが、そうしないとやはりCX-80の全長が5m以内に収まらないんですね。
  もうひとつは、室内長に関して前後長だけではなく質の高さにもこだわりました。3列目では着座姿勢にも注目しつつ、より広く、より理想的な座り方をしていただきながら、広さを感じていただける空間作りをしています。
  前後方向だけではなく高さ方向も使っていますし、幅も大きく広げているので、全体的な広さ感を感じていただけるクルマ作りをしています。
──CX-80の3列目は身体をねじらなければ座れない印象を受けましたが、それはFRであることが不利に働いたのでしょうか?
 高橋 CX-80では3120mmという長大なホイールベースを取りましたが、それはマルチソリューション対応のためです。リチウムイオンバッテリーや燃料タンクといったエネルギーソースは全部フロア下に収めきりました。
  たとえばリチウムイオンバッテリーを荷室に置いたり、床下にリチウムイオンバッテリーをもってきて、その代わり燃料タンクをほかに追いやってみたりと、方法はいろいろあるんですが、そうすると室内が狭くなるなど、何か機能を諦めなければならないことがPHEVの場合は発生するので、それは絶対にしたくなかったんです。そのためじつは、フロアがCX-8より少しだけ上がっています。
  そのぶんが制約になっているので、ご指摘いただいた足もとの狭さは、縦置きエンジンだからというよりも、そのあたりが理由だと思います。
寸法以外の部分も含めて広さが感じられる空間に
──3120mmもホイールベースがあるなかで、5.8mという最小回転半径、しかも4WSを使わずに達成し、小まわりが利くようにしたのは凄いと思いますが、そのための工夫は?
 柴田 縦置きエンジンなのでフロントタイヤの切れ角はしっかり取りやすいですね。またCX-8のお客様から見て、CX-80が使いづらいということにならないよう、いろいろ工夫しています。
  先ほど高橋がご説明したとおり、床下にバッテリーも燃料タンクも収め、克つこのクルマを余裕をもって走らせるためのエンジン縦置きレイアウトや直列6気筒エンジンを搭載可能にしながら、全長を5m以内に収め、かつ取りまわしのよさをCX-8と遜色ないレベルにする、というのがクルマ全体としての難しいポイントでしたね。
  その結果3列目の床も少し上がっているんですが、視界の作り方や頭上空間にも広さ感があるので、乗っていただいた印象としては広くなったと感じていただけると思っています。不利な要素はいろいろありますが、その分寸法以外のところも含めて、いい空間を作ってきました。
──2列目も着座位置が上がって、かつまっすぐ座れるようになり、とくにヒール段差が大きく取られている印象を受けました。
 高橋 いや、ヒール段差は20cmくらいですね。床下にバッテリーや燃料タンクを詰め込んだ結果、床面が20cmくらい上がっているので、そのぶんお尻からかかとまでが20cmくらいになっています。ですから地面からのお尻の高さ自体はCX-8とほとんど一緒ですね。
──そうなんですか。お尻の収まりがいいように感じました。ですから逆に、小柄な人は足が浮いてしまうのではないかと。
 高橋 じつはCX-8ではそういう声があったので、シートの足もとの部分だけ床面を上げています。小柄な方はそのあたりに足がつくんですが、大柄な方がそのあたりに足をつけることはあまりないので、そういう工夫をしています。
──CX-80は日常的に3列目を使うユーザーをメインターゲットに位置付けているのでしょうか?
 柴田 頻度でいえば、毎日3列目まで使うことはなかなかないと思いますね。ですので、普段は畳んで、広大な荷室として使っていただくことを想定しています。
  ただ、だからといってエマージェンシー、子供だけが座れればいい、1時間程度乗れればいいという考え方ではないので、3列目を起こして使う時は、大人の方が長距離でも乗っていただけるよう考えています。
  人数だけではなくライフスタイルの広がりなど、いろんな可能性で自由に使っていただけることを狙っています。
──荷室の、バックドア開口部からもっとも手前側の床面が若干斜めになっていますが、その狙いは?
 高橋 長尺物を引きずる際に抵抗感ができるだけ少ないようにすることが狙いですね。0°がもっともいいのは確かですが、違和感がない角度は狙っています。一方で、バックドアを開けた瞬間に小さな荷物……ボールのようなものはさすがに無理ですが……が落ちてくることがないよう、角度は見極めています。
──エアコンの温度調節スイッチがアップ・ダウンとも上から下に押し下げるよう設計されているのは、御社としてのこだわりでしょうか? 設定温度を上げるボタンを、どうしても下から上に押し上げてしまいたくなりますが……。
 柴田 使いやすいとは思っていますが、それは貴重なご意見として頂戴したく思います。
 高橋 優先順位だとは思うのですが……。各ボタンの操作方法に統一性をもたせるためだとは思いますが、おっしゃるとおり直感的に操作できることも重要だということも理解していると思いますので、そこは勉強させていただきたいと思います。
──CX-60では後席の乗り心地が厳しいというなかで、3列シートのCX-80ではより一層厳しくなると思われますが、その対策は?
 柴田 パッケージ自体が悪さをしている、足まわりの骨格が多人数に不利、ということはないと思っていますが、やはりこのプラットフォームの特性に基づいて熟成を重ねる必要はもちろんあります。CX-80は3列目まで使うことを想定していますので、より進化させなければならないと点で苦労し、多くの時間をかけています。
 高橋 足まわりの設計自体に問題があるのではなく、セッティングの方向性でいかようにもてきる幅のあるプラットフォームだと思っています。
 柴田 乗員の皆さん全員にとって快適になるよう作り込んでいますね。
──公道で試乗できる日を楽しみにしています。ありがとうございました!

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