屋根に太陽光電池を載せて「ソーラー発電」だけで走るクルマ……は今の技術ならできる? マジメに計算してみた

2024.08.21 13:00
この記事をまとめると
■太陽光を利用して走行するソーラーカーは量産レベルでは実用化していない
■外部充電に頼らずソーラーパネルだけでクルマを走らせるためには課題が多い
■現状のソーラーパネルの発電能力ではリアルタイムに太陽光発電で走るソーラーカーは非現実的
プリウスPHEVは1年間の太陽光発電で1200km分を賄える
  国家としての国際公約「2050年カーボンニュートラル実現」に向けて、化石燃料の消費を減らし、再生可能エネルギーの活用を増やすことが進んでいる。そうしたなかで、身近な存在として目立っているのがソーラーパネルによる太陽光発電だろう。
  山や丘などの木々を伐採して多量のソーラーパネルを置いた「メガソーラー」と呼ばれる太陽光発電設備を見かけることは増えている。それによる悪影響(土砂災害など)を指摘する声もあるが、日本の発電における太陽光発電の比率はすでに10%を超えているという話もある。逆に火力発電は、直近5年で1割近く減っているという試算もあったりする。
  もはや再生可能エネルギー発電は欠かせない存在となっているのだ。そうしてソーラーパネルで発電した電力を、マイカーのEVやPHEVの充電に利用することで、エネルギー的に自立しているというオーナーも増えているのではないだろうか。
  しかしながら、車両単体で太陽光を利用して走行する「ソーラーカー」については、残念ながら量産レベルでは実用化していないのが現状だ。
  2023年に発売されたトヨタ・プリウス(PHEV)にはルーフをソーラーパネルに置き換え、それによって駆動用バッテリーなどを充電するという機能が設定されているが、そのポテンシャルは1年間で1200km走行相当となっている。
  量産されているソーラーパネルの発電能力は一定ではないが、最大出力としては200W/平方メートル以上が期待できる。ただし、固定される太陽光発電の場合は、常に最大出力が維持できるわけではない。季節によって日照時間も変われば、外気温や天候による影響も受ける。
  ちなみに高温になるとソーラーパネルは性能が落ちるので、太陽光がさんさんと降り注ぐ夏は太陽光発電のベストシーズンでなかったりするのだ。諸条件を織り込むと、200W/平方メートルのソーラーパネルは年間200kWh程度の発電量を見込むことができる。
  前述したプリウスPHEVの電力消費率は7.46km/kWh(参考値)となっている。ここから計算すると、1200km走行に相当する電力量は160kWhと導くことができる。つまり、1年間で160kWhの発電ができるということだ。プリウスPHEVのルーフサイズからすると、標準的な発電能力をもったソーラーパネルが使われているといえそうだ。
  こうしてプリウスPHEVのソーラーパネルによる走行性能を整理すると、ソーラーカーの実現が近づいているという印象も受ける。一般ユーザーの平均的な年間走行距離は5000~6000kmといわれているので、すべての走行をカバーできるほどではないにしても、年間走行距離の20~25%に相当する電力を、ルーフのソーラーパネルで賄えるのだ。
ソーラーカーを実現するために立ちはだかる壁
  ただし、まったく外部充電に頼らずソーラーパネルだけでクルマを走らせるためには課題が多い。
  仮にワンボックス形状にしてルーフ面積を広げるとしてみよう。ボディ形状が変われば空気抵抗にも影響するのでプリウスの数値をあてはめるのは適切ではないが、あえて7.5km/kWhの電力消費率を固定したまま試算してみよう。
  前述した一般ユーザーの平均的な年間走行距離6000km走行に必要な電力量は800kWhとなり、最大出力800W相当のソーラーパネルを使う必要がある。その場合のルーフ面積はおよそ8平方メートルとなる。
  ノーズなどをもたないカタチを想定したとして、全長4.5m×全幅1.8mの車体が必要となるのだ。その上で、空気抵抗を減らすために全高1.5m以下にすれば、計算上は一年間の走行に使う電力をルーフ部のソーラーパネルだけでカバーできそうだ。
  ただし、上記の計算はあくまで机上の空論でしかない。
  いうまでもなくソーラーパネルは天候などの諸条件によって発電能力が変化する。単純に夜間はほとんど発電できないので、ソーラーパネルによる電力をリアルタイムに消費した走行だけを想定するのはあり得ない。ある程度は走行用バッテリーをもち、そこに充電して走ることになる。
  年間6000kmしか走らないといっても毎日ちょっとずつ走っているわけではなく、平日はほとんどの時間が駐車場に置いてあって、週末に遠出するといった使われ方が多いだろう。仮に外部充電を使わずに、ソーラーパネルだけで消費電力をカバーしようとすると、週末に利用する電力相当のバッテリーを積んでおき、それを平日にソーラーパネルで充電する必要が出てくる。ソーラーパネルで発電できるようにしても、バッテリー搭載量を大幅に減らすことにはつながらない。結果として、ソーラーパネルによる発電機能をもったEVもしくはPHEVとなってしまう未来しか描けないのだ。
  欧州などでは外部充電に頼らず、太陽光発電だけで走行できるソーラーカーの実現を目指すスタートアップも出てきているが、上記の理由から走行用バッテリーをもたないソーラーカーを実現するのは不可能だろう。
  そもそも、現状のソーラーパネルに期待される最大出力からすると、バッテリーを使わずに走行するのは不可能といえる。
  前述したプリウスPHEVを市街地モードで走らせたときの消費電力は、カタログ値で113Wh/kmとなっている。最大出力800Wのソーラーパネルで、リアルタイム発電だけで走行する場合の距離を計算すると1時間で7kmにしかならない。また、電力ロスをゼロだと仮定しても、瞬間最大出力800Wの電力で1.5t前後の乗用車を走らせることは難しいといえる。
  すなわち、現状のソーラーパネル発電能力、車両重量や走行抵抗などからすると、リアルタイムに太陽光発電だけで走る量産ソーラーカーは非現実的といえる。ただし、ソーラーパネルで車載バッテリーを充電する機能を持つEVやPHEVを「新ソーラーカー」と定義するのであれば、ほとんど自然エネルギーで走ることのできるクルマを生み出すことは可能といえそうだ。

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