この記事をまとめると
■グループ・ロータスのアジア太平洋・中東・アフリカ担当社長兼CEOのダン・バーマー氏にインタビュー
■ロータスのラインアップは拡大してもコアバリューが「走り」であることは変わらない
■ロータスの今後の展開に期待
ロータスのアジア太平洋地区CEOにブランド戦略を直撃
2017年に中国のジーリーホールディングスグループ傘下となって以降、ラインアップの拡大や電動化などの技術革新、そしてグローバルでの市場拡大を急速に進めているロータス。一方で、2021年に発表した「エミーラ」を最後の内燃機関スポーツカーと宣言するなど、日本のロータスファン、ピュアスポーツカー好きにとっては寂しい状況が続いている。
グループ・ロータスのアジア太平洋・中東・アフリカ担当社長兼CEO、ダン・バーマー氏が来日し本誌に語った、ロータスのこれからとは…?
──2017年にジーリー傘下となって以降、どのようなシナジー効果が得られたとお考えですか?
バーマー:ジーリー社がロータス社の最大の株主となりましたが、ジーリー社はロータス社のブランド、歴史、伝統を保ちたいという自立性をよく理解してくれています。同時にロータスとしては、ジーリーの技術や投資、リソースを活用できるような関係性となっています。
ジーリーはボルボやポールスターもそうですが、それぞれのブランドのアイデンティティを損なうことなく成長させることに成功しています。我々としてもブランドとしていままでの伝統、歴史を損なうことなく、継続的な成長が達成できると確信しています。
そしてロータスとして、経営面だけではなく事業全体でグローバルな体制を整えており、ルーツはイギリスですが、現在は真のグローバルブランドとして成長しています。
──ロータスが電動化へと大きく舵を切った理由を改めて説明していただけますでしょうか?
バーマー:我々としては、世界中で起きている電動化の動きを十分に認識しています。たとえばテスラやルシッド、リヴィアンなど、中国でもNEV(新エネルギー車)を含めて多くのスタートアップが起業しています。
ですが、ロータスとしては、我々の伝統や歴史、ストーリー性を絶対に失いたくありません。そこで何ができるかというと、大きいクルマ、SUVやGT=スポーツセダンが、パッケージ的にも車格的にも電動化にふさわしいと考えています。
とくにここ5年間ほどはSUVの電動化が進んでいるので、我々としては成長がもっとも大きいその市場において、マーケット性があるクルマを作りたいということで、エレトレを開発してきました。
──エミーラの販売動向は?
バーマー:エミーラは7月21日にグローバルローンチを行いましたが、それ以降販売も非常に安定していて、とくにアジア太平洋地域では大きな反響がありました。
エミーラはやはりロータスブランドの中心になるクルマで、ロータスに求められるハンドリング、走行性能、ダイナミクスを提供できるクルマだと考えています。
それと、エミーラに関してひとつ特徴的なのは、従来のスポーツカーユーザーだけではなく、いままではスーパーカーにお乗りになっていたお客さまがエミーラに乗り換えられていることがあります。
ですのでエミーラは、スーパーカーも購入できる富裕層のお客さまに対しても十分にアピールできる真のスポーツカーとして受け入れられていると、我々は考えています。
そしてアジア太平洋・中東地域では、販売全体の35%をエミーラが占めています。
──日本市場のユーザーやファン層がロータスに求めるものは、他の市場とどのように異なるのでしょうか?
バーマー:日本のお客さまはイギリスのお客さまと似ていて、ドライビングを楽しみたいという方が多いですね。道路も似ていて、たとえば箱根のような非常に運転が楽しめる道が多くあります。ですから走行性能やドライビングプレジャーを重視しているお客さまが多いと思います。
一方、我々の新しいBEVはコネクティビティ、オンラインナビ、リモート機能をふんだんに装備していますので、日本のユーザーにも技術的アピールができると思います。過去のロータス車にはそれらがありませんでしたので、最新の技術に魅力を感じてロータス車をご検討いただけるお客さまが今後、増えていくと考えています。
日本のファンはライトウエイトスポーツの登場を期待しているが?
──今回ここにあるエメヤが近々日本へ導入されるようですが、日本においてエメヤがどのようなものになるか、差し支えない範囲内で教えていただけますか?
バーマー:我々はエメヤを「ハイパーGT」と呼んでおりますが、リムジンのように十分な室内空間を提供できますし、日本においては4ドアセダンが非常に強いセグメントでもあるので、日本市場に大いに期待をもっています。
SUVは世界中どこでも近年非常に人気がありますが、日本では同時にセダンもまだまだ人気があるので、エメヤのようにフルサイズの、非常に豪華で広いスペースがあり、と同時にちょっと尖ったところがある、それはやはり走行性能、ダイナミクスですね。運転していただければお分かりになると思いますが、ドライバー中心の、走りが楽しめるクルマです。
──現行ラインアップはひと昔前のモデルと比べ、先進的になる一方、大きく重くなったというのが率直な印象ですが、それでもやはりロータス車のコアバリューは走りである、という点に変わりはないのでしょうか?
バーマー:そうですね。我々としてはやはり、ドライビングが重要であると考えています。どのロータス車でもそうですが、ドライビング、ダイナミクスがもっとも重要だと考えています。そして、すべての設計において、ドライビングとダイナミクスを中心に据えています。
ジーリーも、傘下にある自動車メーカーのプラットフォームを共有させることなく、ロータス独自のプラットフォームをゼロから開発することを許可してくれましたので、我々の空力、ドライビング、ダイナミクス中心の哲学を、独自のプラットフォームで実践できていると考えています。
ハイパーカーでエアロダイナミクスを導入することもそうですし、技術に関しても最近のお客さまはスマートフォンと同様に非常に高いレベルの技術を求めていますので、我々としてはそれに応えていかなければならないという義務もあると考え、最先端の技術を導入しています。
──昨今はBEVの販売競争が激化し、BEVの新モデルの開発・発売やBEVへのラインアップ一本化を撤回する自動車メーカーが出てきていますが、エミーラが最後の内燃機関搭載モデルとなる方針に変わりはないのでしょうか?
バーマー:各国の法規制もありますし、全体の市場環境も変わってきていることを意識したうえで、ロータスが今後どのような方針を採るかは、ある程度の柔軟性をもって考えています。
とくにエミーラに関しては、まだローンチして間もないので、長年提供していく考えをもっていますが、今後5〜10年後にどうなるかについては、まわりの変化に応じて柔軟に進めていく考えをもっています。
──日本のロータスファンは走りを重視するというお話がありましたが、そうしたユーザーからは、かつてのセブンやエリーゼのような、軽量コンパクトでシンプル、レーシーなスポーツカーを期待されていると思われます。今後そういった、エミーラよりもさらにピュアなスポーツカーを開発・販売する計画はあるのでしょうか?
バーマー:スポーツカーを開発する計画はありますが、その前に2年後、エレトレよりも小型のSUVを登場させる予定があり、スポーツカーはその後となります。ただ、その新しいスポーツカーの定義、車格、価格などはまったく決まっていません。
しかし、セブンやエリーゼのように小型軽量なスポーツカーだけでは、事業を継続できないことだけは確かです。それを考慮したうえで、次期スポーツカーを開発したいと考えています。
──今後のロータスブランドが目指す方向性は、ドライビングとダイナミクスを核としたフルラインアップメーカーになることでしょうか? それとも、まったく異なるものでしょうか?
バーマー:やはり先頭に立つのは高性能なスポーツカーやスーパーカーですね。今後フルラインアップメーカーになるかといえばそうではなく、我々はファミリカー、日常的に使える合理性のあるクルマを作ることに関心はありません。創業者のコーリン・チャップマンが重要視していた走行性能、ダイナミクスを常に提供できるクルマのみ作ることを考えています。
──今後の展開に期待しています。ありがとうございました!