ベビーカー選びを支援するソフトウェア「どれナビ」の開発と、意思決定のメカニズム解明を目指す「選び方学」誕生のストーリー

2024.07.25 10:00
2001年、私とベビーカーとの出会いから始まった「選び方」研究の旅。
どれナビの特許取得後もその不完全さに気付き、「選び方」は「意思決定」であるとの前提で、そのメカニズム解明に挑み続ける。


鹿児島県長島町のアムザス株式会社は、東京のベビーブランド会社(ニューウェルブランズ・ジャパン合同会社 旧:アップリカ葛西株式会社)を退職し、ふるさとである鹿児島県長島町に帰還移住した大戸宏章(私)によって、2012年9月に設立された地域商社だ。2016年9月に政府に「働き方改革実現会議」が設立される以前から「長島から、働き方の常識を変える。」をテーマに掲げ、農業や獣害対策事業のほか、大手ベビーブランドであるアップリカの「公認オンラインショップ」運営を手掛けるなど、様々な事業を展開している。
今回は、様々な事業の中でも2016年10月に特許登録された ベビーカーの選び方ソフトウェア「どれナビ」について、その誕生秘話と現在地、そしてこれから始まる果てしない挑戦についてご説明します。
ベビーカー選びのナビゲーションシステム「どれナビ」誕生のきっかけは店頭での接客経験
ベビーカー選びのナビゲーション「どれナビ」が誕生したきっかけは、
私が2001年12月アップリカ葛西株式会社(現:ニューウェルブランズ・ジャパン合同会社)に入社した時までさかのぼる。そう、私とベビーカーとの出会いのときである。


中途採用だった私は、当時の本社である大阪で一通りの業務研修を終えたのち、
先輩営業マンやアップリカ販売スタッフの指導のもと、取引先の小売店店頭での接客販売研修を受け、やがて一人で店頭での接客販売を行うこととなった。そして、販売の経験を繰り返すうちに、私はあることに気付く。それは、自分がお客様に対して毎回ほぼ同じことを繰り返し説明して販売しているということと、お客様のベビーカー選びに対する困惑感だった。


2001年当時は今ほどインターネットや動画サイトも普及しておらず、お客様が商品情報を獲得するのはメーカーのカタログと店頭の販売員からの情報がほとんどであった時代の話だ。ぼんやりと「ベビーカーの販売員の代わりをしてくれるサービスがあれば、この店頭販売業務は効率化できそう。
それは、お客様のためにも役立つ。」そう思った私は、「同じ説明の繰り返し」については紙ベースのカタログでは限界があるものの商品情報をデータベース化すればネット上で運用が可能であることはすぐにイメージできた。(その意味では、2009年の著作権法の改正は私の考えを後押しした社会の動きであった。自分のやりたいことが合法となったのだ、たまたま同じタイミングで。

個々のお客様のニーズを反映したベビーカーランキングを瞬時に作成できるソフトウェアを作るという挑戦
問題は「お客様のベビーカー選びに対する困惑感の解決」だった。商品情報は固定された情報で工夫すれば数値化が可能だと考えていたが、お客様のベビーカー選びに対する困惑感をどう解決すればいいのだろう?店頭で接客しながらよく耳にしたお客様の言葉「どうやって選べばいいの?」「どれがいいか全然わからない。」そんなお声だった。


確かにベビーカーの数が多かった。2001年当時、主力のベビー専門店のベビーカー売場には、およそ50台程度のベビーカーが並んでいた。せめて、これらのベビーカーがランキング形式に並んでいれば、選ぶ目安になるのでは?そう考えたが、問題は、個別のお客様のニーズをそのランキングにどう反映するかだった。
つまりお客様の商品の様々な機能に対するニーズの強弱をどのように数値化すべきか?
例えば、ベビーカーの重量(軽いほうを好まれるお客様が多い)に対するニーズの強さは、1戸建てにお住いのAさんとエレベータの無いマンションの3階にお住いのBさんとでは同一ではないということは、これまでに接客で学んできたこと。ということは、売上数量のランキングなどではなく、そのお客様だけのランキングを作る必要がある。それができれば、お客様は、そのランキングの1位から順に検討していけば、概ね1位~5位くらいの中のベビーカーが、そのお客様のニーズに合っていると考えることができる。当然だが、ニーズの異なる別のお客様のランキングは異なるランキングになるということだ。お客様ごとにベビーカーの順位が入れ替わるのだ。
そんなことが可能なのか?
この「個別ランキング表の作成」はまさしく、私が店頭でお客様と話しながら50台のベビーカーの中から、そのお客様の要望(ニーズ)に合っているベビーカーを見つける作業の数式化に他ならない。
①機能の程度、価格、装備機能の数等仕様が異なるベビーカー50台のデータベース
②住宅環境、所得、価値観、ライフスタイル等の異なる個別のお客様のニーズ
③特定の演算方法
この3つを組み合わせて、「お客様ごとに、そのお客様のニーズに適したベビーカーランキング表を瞬時に作ること」、取り組むべき課題の整理は出来た。これがソフトウェアで実現できれば、店頭での販売業務をサポートすることができるし、お客様のベビーカー選びの効率化も図れる。さらにメーカーは入力データの解析によりお客様の機能に対するニーズの様態を知ることができ新商品の開発に役立てることができる。
小売店、消費者、メーカーの全てに対して効果を発揮し、社会の生産性を向上できる(三方よし)ではないか!!!
これは、特許の可能性さえあるのではないか?
そこから、どれナビの開発は長く深い思考の局面へと移った。
50台を超えるベビーカーの中から個々のお客様ごとのニーズを満たすベビーカーを割り出すためのシステム設計
2001年のアップリカ葛西株式会社への転職により独身時代にベビーカーと出会い、店頭で多数のベビーカー選びの現場を経験し、その後結婚し、父となり、まだ在職中ではあったものの帰還移住を自分の中で決意していた2009年ごろの話だ。自分自身は、わが子をベビーカーに乗せて押すという経験値を獲得していた。
①については、機能比較表、スペック表の類だ。個別のベビーカーのデータを同一機能ごとにWEB上で拾い上げれば何とかなる。作業量の問題で、初期作業は大変だがそこを乗り切ればその後は新商品についてだけ作業していけばよい。新たな機能が開発されれば、その機能項目を追加していく。数値化の方法を独自に設定し、公平性や客観性を可能な限り担保すればデータベース化できる。商品固有の数値情報を項目別、ベビーカー別に相対値化していく。
これは、店頭で接客する自分の頭の中にあるベビーカーに関する情報のデータベースを活用して行っている作業に等しい。軽さで一番なのは、これ、シートの通気性で一番なのは、これ、といった具合だ。自分の頭の中の作業から変化させたのは、ある項目での一番のベビーカーに、その項目について100点を付与したことである。これで、各ベビーカーについて項目ごとに100点満点評価の相対値を付与することができた。
次は、②だ。
お客様のベビーカーに対するニーズをどう数値化するのか?
これも、店頭での販売経験がヒントとなる。あるお客様からベビーカーを紹介しながらコメントを頂く。親身になってお客様のベビーカー選びのサポートをするのだ。その接客の中で引き出すのは、お客様がベビーカーのどの項目(機能)に関心があり、それらの優先順位はどうであるかだ。徹底的な価格優先のお客様もいれば、軽量重視のお客様もいる。初孫だからと、価格の高いベビーカー(高機能)のベビーカーを希望する祖父母の方だっている。ただ、多くの場合関心のある項目(機能)は一つではなく複数存在し、それらには優先順位があるのだ。この接客経験が、②の課題解決へとつながる。つまり、こうだ。お客様の複数のニーズを百分率で表現し、その合計を100%とする。


<お客様のニーズの合計100%>=
<項目(機能)A50%> + <項目(機能)B30%> + <項目(機能)C20%>


といった具合だ。百分率が高いほうがお客様のニーズとしての優先順位が高いことを表す。出来た!
最後に③。
数学は好きだが、得意ではない。ましてやソフトウェア開発なんて無理だ。そこで、同僚の紹介でコンピュータソフトウェア開発会社へ頼み込んだ。自分の頭の中に既に存在していて、店頭での接客時に使用している独自の接客術を数式化した演算方法としてプログラム化する。アルゴリズム化するのである。インプットするお客様のニーズの様態によって順位変動が起きるベビーカーランキング表をアウトプットするソフトウェアの開発だ。
私が自分の頭の中で常に実行している演算方法の仕組みは、データベースに格納されたベビーカーのスペックを項目(機能)別、ベビーカー別に相対値化し、お客様のニーズ百分率と項目ごとに掛け合わせることによって算出された数値の和をそのベビーカーの点数とみなす仕組。その点数こそ、特定のお客様に対する「ベビーカーの適格度」を示すこととなる。理論上の最高点は100点で、データべースに格納された全ベビーカーを、特定のお客様のニーズに合わせて網羅的にランキング化する。出来た!
こうしてソフトウェア開発会社の担当者に、アルゴリズム化できるよう詳細に伝え開発を依頼すると同時に、自身は特許出願という未知の世界への扉を開くこととなる。
ベビーカーの選び方ソフトウェア「どれナビ」の完成。その後、特許登録への長い道のりが…
 ソフトウェアの開発は順調に進んだ。時折、プログラマーから特殊なベビーカーが発売された時の相対値の算出方法や入力エラーの出し方などのヒアリングがあったが、概ね順調に進み2012年に完成した。
ただ、特許登録の壁の高さは想像をはるかに超えていた。
特許庁へ通い閲覧ルームで類似の特許がないかの調査。普通なら弁理士事務所に依頼するのだが、特許として認められるかもわからない案件に高額の出願費用を個人として払える余裕はなかったため、独学での出願を試みようと決めていた。多くの類似の出願資料を読み込み、自分で出願したのはソフトウェア完成前の2011年12月、完成後の2013年にはこのベビーカーの選び方ソフトウェアの名前を「どれナビ」と名付け、商標登録出願(2014年登録)するに至る。特許登録の困難はここから始まる。出願から3年間弱の考察の結果、特許と認められる可能性が0ではないと判断し、無効期限ぎりぎりの2014年10月に調査請求して、その後に1回目の拒絶理由通知書が届いたのは2015年8月のこと、そこにはこう記されていた。
「あなたが特許出願したソフトウェアの発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」と。
つまり、どれナビには発明として必須の進歩性がないということである。
出願前に特許庁の閲覧ルームで幾度となく調べた。類似のものは見つけられなかった。だから出願した。
ここが独学の限界なのか?
そこから進歩性がないと判断した審査官が提示した引用文献(特許願や論文)を読み込み、それらとどれナビとの違いについて考える日々が続いた。自分の考えた特許の仕組みは自分の頭の中に詰まってるから細部まで理解できているが、審査官の提示した引用文献の解読作業は、他人の頭の中の思考経過とその蓄積の分解作業のようなもの。コンピュータプログラムの設計書を素人が読み込むようなもので苦痛と困難を極めた。
提示された4つの引用文献は、
・特開2002-304555号公報(出願人:東陶機器株式会社)A4資料21枚
・特開20029-187294号公報(出願人:株式会社日立製作所)A4資料27枚
・特開2003-108824号公報(出願人:個人)A4資料21枚
・商品推奨システムに関する研究(社団法人日本経営工学会平成22年度秋季研究大会予稿集 著:東京都市大学大学院 鈴木大介)A4資料4枚
資料の量もさることながら資料中身を読む前に出願人の項目を見ただけで、「あー、無理だな…」と感じたのを記憶している。競合相手が巨大すぎる。一見するだけでわかる大企業や大学の先生。店頭でベビーカーを接客販売していた自分とは、絶対的な特許分野の専門知識差がある。もちろんいずれも弁理士を代理人としての特許出願。正直、資料の中身を読み始めるまでには相当の時間を要した。
でも読んでみると明らかに違うのだ。明らかに私が出願したアルゴリズムと拒絶理由として示された引用文献にある演算方法は異なる。各引用文献とどれナビとの明確な違いを記載した意見書を提出したのは2015年10月、これも期限ぎりぎり。そして、その意見書に対して2度目の拒絶理由通知書が届いたのは2016年4月、心が折れそうになる。でもよく見ると拒絶理由が変わっていた。「進歩性がない」という記述は消え、「明確でない」との理由に変化していた。
曰く「このどれナビの特許出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」と。
言い換えれば「進歩性」は認められるので、特許請求の範囲の記載を明確にすれば特許として認められると受け止められた。この頃には過去の多くの拒絶理由通知の記載文献を目にしていたので、拒絶理由から「進歩性」の文言が消えた変化は大きな希望の光に見えた。
そして、2回目の意見書を提出したのは2016年4月末。その後2016年9月特許査定(特許として認められる)を受け、特許料を支払い、どれナビが晴れて特許登録されたのは2016年11月。
2011年12月の特許出願後、東京からふるさと鹿児島県長島町へ帰還移住して2012年9月にアムザス株式会社を創業し、5回目の冬を迎えようとしていた。さらに、2001年のベビーカーとの出会いから既に16年が経過しようとしていた。
これで、商品になる!
百貨店でのオンラインショップでの運用や鹿児島県発明くふう展での受賞。輝かしい実績を上げるもサービス終了へ
晴れてどれナビが特許登録されたものの、販売・PRするアイデアもお金もなく、ふるさと鹿児島県長島町での変わらぬ日常が過ぎていった。
そんな中、長女の小学校の運動会の日に前職でお世話になった百貨店のベビーカー担当バイヤーから数年ぶりに電話があった。私がご一緒した当時はアシスタントバイヤーだったが、バイヤーへと昇格されていた。
曰く、「以前、大戸さんがこんなの作りたいっておっしゃってたベビーカー選びのソフトウェアって、その後どうなったんですか?」
瞬時に自分の心臓の鼓動が高まるのを感じた。世の中がスマホ時代に移行するに従い、商品選びは掌の中で行われるようになった。ベビーカー選びも例外ではない。打ち合わせの結果、その百貨店のオンラインショップ内のベビーカーコーナーでどれナビが運用されることとなった。(運用期間2017年7月1日~2018年12月31日)その百貨店のオンラインショップでベビーカー選びをされるお客様が、リンクボタンを経由してどれナビを利用されるというサービスだ。当時の百貨店のベビーカー売場では海外ブランドのベビーカーも続々登場し、ベビーカーの情報量が増大していく中で、販売員は増員できないというビジネス環境があり、「オンラインショップ×どれナビ」は最適解であって、お問い合わせ頂いたバイヤーは数年前の私の話を思い出したということだった。
その後、どれナビの実用性が評価され2017年12月には第65回鹿児島県発明くふう展において「鹿児島市長賞」の栄誉に輝いた。表彰会場の展示ブースに掲示された審査員のコメントには、こうあった。
「様々なベビーカーが製造されているが、価格、大きさ、デザインなど様々であり初めて購入する人を中心にどのベビーカーが自分に最適か判断することは非常に難しい。本発明品は、購入者が、重さ・価格・機能性などの各ポイントについてどの程度重視するかを合計100%になるように入力することで、最適な商品を提案するシステムである。既に某国内大手デパートのオンラインストア上で採用されており、また特許も取得済みであり、今後普及が図られることにより子育て支援にも繋がることが期待される発明品である。」
しかし、その外部評価に反して百貨店での運用は終了を迎えることとなる。何故なのか?ベビーカーの店頭での接客販売を継続しながら、どれナビが普及しない根源的な理由を探し求めていた私は、経験値の有無により「選べる選択」と「選べない選択」があることに気付く。どれナビを開発し始めたころベビーカーメーカーに所属していた私は、2012年の退職、独立、創業後は、メーカーの営業職感覚が薄れ、小売店の販売員の感覚に近づき、この頃にはお客様と一緒にベビーカーを選んでいる感覚で接客していた。つまり、立ち位置がベビーカーメーカー→ベビーカー販売者→ベビーカー購入者へと変化していった。それは、実は選ばれる側から選ぶ側への劇的な変化であった。自分の立ち位置の変化による気付き、それは、「選べない」と「選びにくい」のとてつもない違いといっても過言ではない。2018年7月5日のこと。これが、どれナビ設計当初私が気付けなかった未解決の課題だったということだ。
経験値の無い物事に関する意思決定の難しさ、どれナビ開発の経験から生まれた「選び方学」
特許の登録まで最終的に16年間の開発期間を要したどれナビのサービスは、わずか1年半で終了。その根源的な理由を探しながら、アップリカ退職後もベビーカーの店頭販売の仕事を継続していた。そうした中で発見したどれナビの未解決の課題、それは概ね「ベビーカーは選べない」という逆説的な命題だった。つまり、ベビーカーを選んだ経験値のないお客様は、そもそも自分に合ったベビーカーに必要な機能を把握することができないのだ。どれナビへ「お客様のニーズ」を入力することができない。(正確には、「適切な」ニーズの入力ができない。)思い出した!私の第一子のランドセル選びの時と同じだ。それはどれナビを開発し始めた2011年のこと、妻が発した「ランドセルって、どうやって選べばいいの?」、あの言葉だ。長年選ばれる側(ベビーカーメーカー、ベビーカー小売業)に身を置いたから見えなかった真実、それは経験値の無い物事に関する意思決定は、経験値のある物事に関する意思決定とは明確に異なるということだ。誰に相談しなくてもコンビニで50種類以上ある飲み物の中から一つの飲み物を選ぶことができる。翻って、ベビーカー、ランドセルは自分で選ぶことができない。お客様の意思決定を、「選ばれたい側」からしか考察していなかった自分が開発したどれナビが普及しなかった根源的な理由にたどりついた。
ベビーカー選びから始まった「選択」についての深い思考は、2024年現在「選び方学」というフィールドを獲得し、「選び方」=「意思決定」という前提に立ち、選ぶ側、選ばれる側の立ち位置の違いを明確に踏まえたうえで、情報(ベビーカー選びの場合は、価格を含めた商品スペックやライフスタイルなどの情報)をとらえるに至る。


意思決定 = 情報 × 経験値 × 価値観


「選び方学」での「意思決定」とは、複数の選択肢の中からその時点で最適と思える一つの選択肢に決めることもしくは決めないことと定義している。「情報」とは、意思決定の時点で入手可能な客観的事実ととらえていいだろう。もちろん膨大な量だ。意思決定に関連するが重要度の差がある様々な情報、意思決定に関連ありそうで実は関連の無い情報、そしてフェイクニュースも含まれる。「経験値」とは、意思決定に関連する体験そのものとその体験に対する直感的自己評価のセットだ。そして、重要なのはこの「経験値」の機能にある。「経験値」は、前項の「情報」を評価する機能を果たす。つまり、この機能がなければ「情報」は意思決定に対して意味すら持たない文字と画像、映像の塊でしかない。ただの存在するモノでしかありえないのだ。最後に「価値観」。これは単なる食べ物の好き嫌いから命や時間に関する哲学的な解釈までその階層は幾重にも重なり、その集合体が意思決定者の生きる指針となっている。その意思決定者の個性、人格そのものといっても過言ではない。意思決定を最終的につかさどる要素である。私が悩み続けた、そしてどれナビが普及しなかった根源的な理由は、この選び方学の方程式にこそ、その答えがある。そう、「経験値」だ。経験値がないがゆえにあふれる情報を評価することができず、最適なベビーカーを選ぶことができない。経験値が「0」であれば方程式は、意思決定=情報×経験値「0」×価値観=0となり、右辺の積によって構成される意思決定はできないことが導き出されるのだ。選び方学上できないという答えの出ている意思決定をするとどうなるか、「こんなはずではなかった。」となると同時にこの意思決定に関する「初めての」経験値を獲得するのである。そう、「こんなはずではなかった。」これこそ意思決定に関連する体験に対する直感的自己評価なのだ。ここで有名なことわざを少し参照してみる。「失敗は成功のもと」「百聞は一見に如かず」「時は金なり」「二兎を追う者は一兎をも得ず」「知らぬが仏」「灯台下暗し」「後悔先に立たず」。お気づきだろう。先人たちは、「ことわざ」として過去の経験値を未来の私たちの意思決定のために残してくれている。今もなお残る「ことわざ」は、先人の経験値が長い時を経て結晶化したものといえるし、意思決定の参考として不変性を持つ。日々新しい言葉は生まれるが、新しいことわざが生まれたことを「選び方学」は寡聞にして知らない。
2012年11月から現在に至るまで、宮崎県内のベビー用品店で実践し続けてきた「選び方学」の理論をベースした私の店頭でのベビーカーの接客方法は周囲の注目を集め、今ではこの方程式を「選び方学」の中心に据えて、宮崎国際大学で春に開催される「グローバルリーダーシップセミナー」にて2022年から3年間で計3回の「選び方学」の講義を提供している。
このセミナーでは、フェイクニュースや広告を含む、大きく「情報」とくくられるものを合理的に評価する能力としての「経験値」を持たない限り、「意思決定」などできはしない、もししたとしても後悔する結果に陥ることがあることをここ数年の研究成果をもとに説いている。スマホ上の氾濫する情報の扱いに戸惑う若者から、広義の中で多くの質問を得ていることは望外の喜びであり、これはどれナビの普及の失敗の上に立ち、思考の歩みを止めなかった結果だと受け止めている。これが、当時のどれナビ開発における意思決定(選択)の失敗から獲得した、私の「経験値」だ。
「ベビーカーの選び方」のナビゲーションシステムとして生まれた「どれナビ」は、特許として認められるも、その後の研究による課題(弱点)の発見から「選び方学」を誕生させ、世の中で無限に起こる意思決定を一つのシンプルな方程式で表現することで様々な意思決定のプロセスを客観的に分析することを可能にするかもしれない。生まれてから死ぬまでに人類が繰り返す意思決定に「選び方学」を、バージョンアップした「どれナビ」を活用することで選択(意思決定)結果の妥当性を高め、その反射として時間(人生)の投資の優先順位を誤らない可能性が極めて高まる。情報が氾濫した現代社会の中で、「行動経済学」を最大限活用した「選ばれたい側」(企業等)のマーケティング手法で誘引されるタップ(クリック)は、人類の思考の時間を奪っている。「選び方学」や「どれナビ」の普及は、その時間を人類がスマホ(GAFA)から取り戻す戦いともいえる。
選び方学が導いた代表的な解の一つは、「おそらく10年間程度の特定分野の経験値持った誰かが、その分野で解決する価値のある課題を発見し、そこに深く長い思考と課題解決に向けた情熱を傾けることでしか、イノベーション(発明)は生まれない。」ということ。これからも、意思決定のメカニズムを解明し、あらゆる分野でその人に適した究極の「選び方」(意思決定)を提案する私の旅は終わらない。




大戸 宏章(おおと ひろあき)
アムザス株式会社(
) 創業者 営業 発明家 農家 猟師
どれナビ開発者
特定非営利活動法人あたたかいcocoro長島 理事長 
一般社団法人日本選び方学会 理事長
「選び方学」研究者。「行動経済学」の対極に位置する「選び方学」の体系化に成功。選択(意思決定)のプロセスを解析し、選択者と被選択者の視点から選択の前提要素となる「情報」の特別な仕分け方を提唱する。また。特許3件を取得することで「選び方学」的思考法がイノベーション(発明)を生み出すことを実証。

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