【試乗】水に濡れると柔らかく! 温度が下がっても硬化しない! オールシーズンタイヤの常識を覆すダンロップの「アクティブトレッド技術」に乗ったら確かにスゴかった

2024.07.22 14:01
この記事をまとめると
■オールシーズンタイヤの雪道性能には限界がある
■そんな常識を打破し得るのがダンロップの新技術
■雪道、乾燥路で試作モデルを装着した車両に乗った
常識を打破し得る「アクティブトレッド技術」
  冬季の雪道だけでなく夏の乾燥舗装路も走れ、1年を通じて使用できる「オールシーズンタイヤ」が最近注目されている。夏用タイヤと冬用スタッドレスタイヤを季節ごとに履き替える作業はユーザーにとって負担が大きい。近年はタイヤショップやディーラーでの換装預かりサービスも増えているが、預かれるセット数には限りがあり費用もかかる。
  タイヤの保管や換装作業ができるガレージが自宅にあり、自分で交換する人も多いが、たとえばマツダCX-5用19インチサイズでもタイヤ/ホイール1本あたり重量は30kgほどもあり交換作業は大変だ。春先に苦労して夏タイヤへと交換した翌日に急な降雪に見舞われるなど天候不順が慢性化している近代ではオールシーズンタイヤが注目されるのも頷ける。
  しかし、タイヤに詳しい人ならば、そんな夢のようなタイヤが実現できるものかと懐疑的になるだろう。実際、現在販売されているオールシーズンタイヤのほとんどは「雪道も走れる」と紹介するのがはばかれるような中途半端な性能のものばかりだ。購入してみたものの雪山では坂道登坂で発進できないとか、下りのアイスバーンで止まれなかったという恐怖体験をしたユーザーも多いだろう。その状況はおそらくスタッドレスタイヤであったとしても厳しいといえるわけで、オールシーズンタイヤはおもに市街地で急な降雪に遭遇したときになんとか自宅まで帰れる程度の雪路性能だとメーカー各社は広報している。
  そんなオールシーズンタイヤの常識を打破すると期待されているのが、今回ダンロップが公表した「アクティブトレッド技術」だ。
  ゴムは低温になると硬化し、また水に対する親和性が低い。スタッドレスタイヤはコンパウンドゴムに工夫を凝らして低温下でも硬化しにくく、また細かなサイプや給水技術を盛り込んで氷雪路でもグリップが引き出せるように特化したもの。それだけに、そのまま高温の乾燥舗装路を走ってしまうと摩耗が激しく、またウエット性能も低く安全性を損なう。
  北海道など寒冷地のユーザーは短い夏季を見越して1年中スタッドレスタイヤのままクルマを走らせてしまう人も多いが、近年の気温上昇や大雨など異常気象の増加で危険性が高まっている。
  そこで登場したのがアクティブトレッド。低温時は「温度スイッチ」が入ってコンパウンドゴムの硬化を抑制し、またウエット路面では「水スイッチ」が機能してコンパウンドゴムが柔らかくなる。ダンロップはこれを「ウエザースイッチ」と呼び、オールシーズンカテゴリーをさらに「シンクロウエザー」と再定義して「アクティブトレッド搭載商品」として実現したというのだ。
  この新技術を採用したオールシーズンタイヤの試作モデルを冬の北海道旭川の氷上・圧雪テストコースと初夏のダンロップ岡山テストコースで試走することができた。
  車両はトヨタ・カローラスポーツのハイブリッド(FF)車とメルセデス・ベンツGLC 4マチック全輪駆動車だ。
氷上でのグリップ力の進化が感じられた
  圧雪路においては発進も制動もスタッドレレスタイヤと同等のグリップ性能を引き出せた。急勾配の登坂での発進性にはまだ課題があるといえるが、それも4WD車であればほとんど問題なく発進できる。100km/hでのスラロームにおける操縦性・安定性も常用レベルでは問題なく走破できる。最近の車両には優秀な電子制御が搭載されているので、こうした車両であれば平坦路はほとんど問題なく走行可能で、4WDであればなおさら安定性が高まる。
  問題は氷上路面。いわゆるミラーバーンの路面での走行性能だ。はっきりいえば現代のスタッドレスタイヤでも氷上性能は不足している。ブレーキを踏んでもABSが介入するだけで制動Gは引き出せず、制動距離は伸びる。FFでも4WDでも変わらず、電子制御も大きな助けにはならない。それだけにアクティブトレッド技術も劇的な変化を起こすことはできていない。ただ夏タイヤに比べればわずかにマシであり、スタッドレスタイヤにはわずかに及ばない、というレベルだった。従来のオールシーズンタイヤであれば、ほとんど夏タイヤと変わらない程度にグリップ力だったので、進化を果たしているのは間違いないのだ。
  岡山のテストコースには乾燥舗装路とウエット舗装路の路面コンディションが設定されていた。まずスタッドレスタイヤで走行を始めると、時にウエット路でのグリップの低さに改めて驚かされた。定常円旋回ではフルロックまでステアリングを切り込んでも旋回性は高まらず、車速が高ければコースアウトしかねない。ブレーキングも制動距離が伸び、安定性も損ないやすい。電子制御が作動してもグリップしないので効果が期待できないのは氷の上と同じ理屈だ。スタッドレスタイヤのウエット性能の低さは本当に危険なレベルだといえる。
  乾燥路においてはロードノイズが大きく、転がり抵抗も増え、快適な使用感は得られない。タイヤの摩耗は早く、スタッドレスタイヤで夏を過ごすのは危険で不経済だ。
  次にアクティブトレッド搭載タイヤを試す。ウエットグリップは段違いに向上して夏タイヤと遜色ないレベル。定常円旋回では高い車速が保て、ステアリング切り増しにも応答してくれる。水スイッチが機能したことで実用的なウエット性能が発揮できている。
  乾燥路では温度スイッチが機能しトレッドゴムが硬化する。その効果により転がり抵抗が軽減し、またタイヤトレッド面の変形が抑制されリニアリティの高い操舵特性となっていた。トレッドパターンによる高周波のパターンノイズが気になったが、これは車側の遮音性によって差が出てくるだろう。
  そのアクティブトレッド技術とはどんな内容なのか。「温度スイッチ」とか「水スイッチ」というワードが使われているが、ダンロップはこれらを「ウエザースイッチ」と称している。といっても物理的なスイッチがあってドライバーが操作することで作動させるような類のものではない。タイヤのトレッドゴムは高度な高分子化学により設計されている。アクティブトレッド用ゴムには特殊なポリマーを独自の方法で配列し、低温でも動きやすいポリマー配列として、また高温ではポリマーが硬くなる従来とは真逆の性質を持たせたのが「温度スイッチ」。一方、ゴム分子内のポリマー間結合をイオン結合に置き換え、水に濡れるとイオン結合をほどいてゴムの性質を柔らかく変化させるのが「水スイッチ」だ。
  言葉で表現するのは難しいが、目に見えないミクロの世界で物性を瞬時に変化させてタイヤの可能性を広げた革新的な技術なのだといえる。
  アクティブトレッド技術を搭載する新オースシーズンタイヤは2024年秋に登場する予定だが、この技術はM+Sや夏タイヤ、レース用タイヤなどにも応用がきく。トラックのリトレッド、航空機のタイヤとしても理論的に適合するはずだ。アクティブトレッド技術の今後の展開にも大いに注目していきたい。

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