この記事をまとめると
■アメリカのラリー選手権「ARA」で現行のWRXが活躍している
■スバルWRX ARA24はVB型WRXをベースにEJ20エンジンを搭載
■WRX ARA24はスバルのラリー史において歴代最速のラリー車両と呼べる存在である
アメリカで活躍する現行型のスバルWRX
2023年のシリーズ第7戦「ラリー北海道」にSUBARU TEAM ARAIの新井敏弘が投入して以来、全日本ラリー選手権のJN1クラスで進化を重ねるスバルWRX S4だが、アメリカの国内ラリー選手権、ARA(アメリカン・ラリー・アソシエーション)でも現行のWRXが活躍していることをご存じだろうか?
同シリーズにVB型のWRXを投入しているのは、スバル・オブ・アメリカのサポートを受けて活動する現地ワークスチーム、スバルモータースポーツUSAで、昨年8月のオジブワ・フォレスト・ラリーでVB型WRXの競技モデル「スバルWRX ARA24」を初投入。以来、実戦のなかで熟成を重ねてきたことにより、筆者が取材を行った6月6〜8日の第5戦「サウザン・オハイオ・フォレスト・ラリー」でも2台のWRX ARA24が素晴らしい走りを披露していた。
同マシンのステアリングを握るのはMTBのフリーライド&スロープスタイルで活躍してきたカナダ出身のブランドン・セメナック、そしてフリースタイルモトクロスを経てラリー競技やXゲーム、ラリークロスなどで活躍してきたアメリカ人ドライバーのトラビス・パストラーナで、両ドライバーは後続を大きく引き離しながら激しいタイム争いを展開。
その結果、昨年のチャンピオン、セメナックが今季4勝目を獲得したほか、パストラーナが2位入賞を果たしたことで、スバルモータースポーツUSAが1-2フィニッシュを達成したのだが、その原動力となったのが、主力モデルのスバルWRX ARA24で、徹底的なモディファイが実施されていた。
前述のとおり、スバルWRX ARA24はVB型WRXをベースにスバルモータースポーツUSAのテクニカルサプライヤー、バーモントスポーツカー(VSC)が開発したマシンで、エンジンはEJ20型を搭載。ARAの最高峰クラス、オープン4WDクラスに合わせてマシン開発が行われており、エンジンはもちろん、足まわりや駆動系、さらに空力デイバイスに至るまで大幅なアップデートを実施していることから、WRCで一世代前のトップモデルを務めていたWRカーを彷彿とさせる仕上がりとなっている。
まず、エンジンのベースはEJ20だが、エンジンブロック、シリンダーを含めてVSCのオリジナルパーツがインストールされるほか、ギャレットのタービンやコスワースのECU、VSCのエキゾーストシステムを採用。規定による最大出力は320馬力に抑えられてはいるが、ラリー競技に合わせたチューニングが行われている。
スバル史上最速と目されるWRX ARA24
ギヤボックスはWRCで定評のあるサデフ製の6速シーケンシャルで、足まわりの構造変更を実施。ダンパーおよびスプリングはイギリスの新興ブランドであるR53で、ブレンボ製のブレーキシステムが採用されている。
もちろん、前後のバンパーおよびフェンダー、リヤウイングを含めて、独自の空力デバイスが採用されていることは一目瞭然である。興味深いのは、サーキット競技のレーシングカーのように、アンダーガードもフラットボトムになっていることで、ARAはグラベルを主体とするシリーズながら、同モデルは床下の空力性能が追求されているのである。
ちなみにホイールはスパルコで、タイヤは全日本ラリーのグラベル戦でも使用されているヨコハマのADVAN A053を装着。車両規定における最低重量は2900kgとなっている。
ARAの規定により、同モデルはRally2と同等の性能になるようにデチューンされていることから、昨年まで投入されていたVA型のマシンと比べるとエアロダイナミクスはおとなしいフォルムとなったほか、リストリクター系も縮小されているが、いまだにそのパフォーマンスは高く、昨年の王者、セメナックは「昨年までのモデルに比べて、スバルWRX ARA24は大きなステップアップをしています。旧型モデルの10年間の経験がフィードバックされているので、すべてにおいて改善していると思います」とインプレッション。
さらに、ナイトロクロスやナスカーへの参戦により、2023年のARAを休止していたパストラーナも、「2022年のマシンはリストリクターが大きく、最高速度はいまもよりも速かったけれど、コーナリングがよくなったことで1マイルあたり0.5秒は速くなっている。非常に俊敏なマシンで、性能にエキサイティングしているよ」とのことだ。
事実、スバルWRX ARA24のパフォーマンスは高く、最新のヒュンダイi20 N Rally2を凌駕。ドライバーの実力を加味したとしても、圧倒的な戦力差があることは否めない。
同じVB型とはいえ、新井の駆る全日本ラリー選手権のWRX S4は、2400ccのFA24型エンジンが搭載されたことで開発に苦戦。さらに、比較的改造範囲の広いJAFのJP4規定で開発されているとはいえ、市販車両の延長に位置しているが、アメリカ・ラリー・アソシエーションのWRX ARA24は実績の豊富なEJ20型エンジンを搭載したことに加え、WRカーのように純レーシングカーとして開発されていることから、おそらく全日本ラリーのWRX S4とアメリカのWRX ARA24が同じ土俵で勝負したら、WRX ARA24に軍配が上がるに違いない。
アメリカで活躍中のWRX ARA24は、スバルのラリー史において歴代最速のラリー車両と呼べる存在である。日本で見られないのは極めて残念だが、今後もその動向に注目したい。