52年分・419冊の経済系書籍を分析した元記者・現役国語辞書編集者が「変な日本語」と向き合うのに役立つ出張授業を企画、シェア型書店ほんまるにて「選書棚」も開設

2024.06.27 11:00
新語・造語ウォッチャー 神戸郁人
朝日新書『うさんくさい「啓発」の言葉 人“財”って誰のことですか?』著者

 元新聞記者・現国語辞書編集者で、朝日新書『うさんくさい「啓発」の言葉 人“財”って誰のことですか?』(2024年4月12日刊行・朝日新聞出版)著者の神戸郁人は、学生向けの出張授業を実践女子学園中学校高等学校(東京都渋谷区)などで実施いたします。「人財(人材)」といった造語の起源を巡り、52年分・419冊に上る経済系書籍の分析によって調べた本書の内容を踏まえ、人々の心に影響を及ぼす言葉の本質について考えます。
 また2024年6月より、シェア型書店「ほんまる」(東京都千代田区)に書棚を開設。本書執筆用の参考資料を中心に、言葉への感度向上に役立つ書籍を選び、月替りで陳列・販売する予定です。SNSが当たり前に使われ、誰もが自分の言葉を世界中に届けられる現代社会において、日本語の使い方を深く考えるきっかけになるような活動に、今後も地道に取り組んでまいります。
シェア型書店「ほんまる」:「新語・造語ウォッチャー 神戸郁人」の書棚
 元共同通信社・朝日新聞社記者で、「新語・造語ウォッチャー」を名乗って活動する著者の神戸は、街中にあふれる当て字や造語の起源に関心を持ってまいりました。特に「人財(人材)」「志事(仕事)」「最幸(最高)」など、本来の表記を書き換え、労働の価値やポジティブな感情を強調するような語句に注目。いずれも求人票やビジネス本などで多用され、見聞きする者に前向きな印象を与える一方、ある種の「うさんくささ」を伴うと指摘されています。
 そこで本書では、経済誌における用例の採集や、各界の有識者に対するインタビューを通じて、一連の語句が引き起こす違和感の正体に迫りました。50代以上の男性を中心に、幅広い年齢層の人々に読まれており、SNS等では「これまでに抱いてきた、当て字に対する割り切れない感情の根源に関して、的確に言い当てている」「『自分は至らない存在なのだ』と、様々な言葉によって思わされてしまうことがあると気付けた」といった感想が飛び交っています。


■書籍ご紹介 ~バブル崩壊後に目立った「人財」と「人罪」の対立軸
 『うさんくさい「啓発」の言葉』は、朝日新聞社のウェブメディア「withnews」(
)の連載企画「啓発ことばディクショナリー」(
)の記事を加筆・修正し、再構成したものです。前掲した各種造語を「啓発ことば」と総称し、社会の中でどのように用いられているのかについて探究しています。2020年に構想を始め、準備に約1年、調査・取材に約3年、書籍化まで足掛け4年ほどの時間をかけました。
 第一章で取り上げた、企業の採用情報等に登場する「人財」は、本書を象徴する一語です。著者が地下鉄内で偶然見かけた広告に躍っており、「なぜ『材』を『財』と書き換えるのか」と疑問に思い、取材に着手しました。新型コロナウイルス禍で入館制限がかかっていた国立国会図書館を、半年にわたって訪問。本文や企画記事等で、働き手を「人財」と表現している経済系書籍を読み込み、その使われ方の軌跡をたどりました。
 計419冊・52年分(1968~2020年)の資料を分析する中で、著者の目を引いたのが、景気の変化と「人財」の使われ方の関係性です。例えば経済各誌は、自主的に実務能力を磨き、就労先を開拓できる労働者を「人財」と表現しています。特にバブル経済が崩壊した1990年代前半以降は、会社任せになりがちだった、従来的なキャリア形成のあり方を批判する文脈で頻用。「人財」の対義語として、昔ながらの働き方を変えられない労働者を「人罪」「人在」と定義する傾向が強まりました。このように、人事権や情報拡散力を持つ企業とメディアが、働き手への人格評価を強めるための媒体として、「人財」という言葉を流布してきたことが読み取れます。
 また、「啓発ことば」の用例を調べる中で、本来の表記を書き換えることの効用も分かってきました。一定の権力を持つ使い手が、何らかの意図をもって、自らに都合の良い意味合いを語句に伴わせるという点です。こうした特徴は、政治的なプロパガンダや、教育を通じた思想統制など、言葉巧みに他者を煽動・支配する営みにも通じます。そのため本書においては、歴史学や労働学、教育社会学といった領域の専門家に、「啓発ことば」の影響力について取材。「『意識高め』な造語への違和感」の本質を、分野横断的に検証しました。その結果、自己責任論の高まりや労働問題といった、様々な社会課題との接点を描き出すことができました。
「人財」関連書籍の年間発行冊数推移
■言葉を教える現役教師から好評、出張授業の企画進行中
 刊行から2ヶ月が過ぎ、上述した本書のアプローチにまつわる好意的なコメントを、読者の方々より寄せていただく機会も増えています。特に現役教師の皆様からは、「複数のものの見方を知っていることで、言葉に対する感度が高められる」「学生の進路選択の際にも『好きを志事に』といった惹句が使われる。力の強い者たちが使う言葉に潜む、搾取の影に気付くきっかけをくれる」など、若年世代の指導に資するとの声が届きました。
 「啓発ことば」は、いわゆる小中高校のスクールカースト(クラスなど同質的な学校集団内における序列)に悩んだり、就職活動などで「コミュニケーション力」の程度を問われて戸惑ったりする機会が多い学生にとって、より切実なテーマとなり得ます。そこで複数の学校を対象に、『うさんくさい「啓発」の言葉』の内容を下敷きとして、著者が講師役を担う出張授業を計画中です。「日常的に親しみ、きらびやかな字面だと感じられるのに、実は私たちを振り回している言葉」「それと分かりづらいけれど、私たちの心を揺さぶり、自己変容を促そうとする言葉」といったテーマを掲げ、そうした語句と適切な距離を取る方法について、児童・生徒の皆さんとワークショップ形式で考えるスタイルを想定しています。
 実施予定先の一つ、実践女子学園中学校高等学校の小川貴也さん(同校国語科教諭)は、本書を「複数の視点を持つことで言葉や社会に対する感度を上昇させ、私たちに『言葉の暴力性』への自覚を促し、立ち向かう方法を示す一冊」と評価。また「日頃から『市民として必要なリテラシー能力』をどう育むか、試行錯誤しています。本書を活用して何か授業を構想できないかと、ちょうど考えていたところでした。出張授業を通じて、生徒と共に『言葉』や『社会』について考えを深める機会にしていきたいです」との意向を示しておられます。
 同校での出張授業は今年11月、そのほかの学校については今夏以降の実施を目指しています。それ以外にも、時期や地域、学年、学校の種別を問わず行っていきたい考えです。開講を希望される学校があれば、ぜひとも積極的にお伺いできれば思っています。
【出張授業お問い合せ先:kambe.ikuto@gmail.com(神戸宛)】


■「変な日本語」への違和感に効く書棚を開設 ~夏休みの一冊としておすすめ
 更に今回、『うさんくさい「啓発」の言葉』を直接手に取っていただくため、東京・神保町のシェア型書店「ほんまる」の書棚を一区画拝借しました。書棚の位置と名称は、同店1階・25章3節「新語・造語ウォッチャー 神戸郁人」です(詳細は
)。本書に加え、同書の執筆にあたって参照した資料や、人々の価値観を左右する様々な言葉にまつわる本を精選し、陳列・販売いたします。今後、月ごとに書名を入れ替え、「変な日本語」への違和感に効く一冊を紹介していく想定です。学期末・夏休みを控え、読書課題用の書籍を探しておられる学生の方々や親御様、日頃から言葉を駆使して働く企業の広報・PR担当者・経営者の皆様など、様々な層に届くことを期待しています。
シェア型書店「ほんまる」:「新語・造語ウォッチャー 神戸郁人」の書棚
■書籍概要
・書名:うさんくさい「啓発」の言葉 人”財”って誰のことですか?
・著者名:神戸郁人
・ISBN:9784022952639
・定価:957円(税込)
・発売日:2024年4月12日
・判型 ページ数:新書判並製 256ページ
・販売先:
朝日新聞出版公式サイト(

アマゾン販売サイト(

全国各地の書店、ASA(朝日新聞販売所) など
うさんくさい「啓発」の言葉_表紙
うさんくさい「啓発」の言葉_裏表紙
■著者略歴
神戸郁人(かんべいくと)
 1988年、東京都生まれ。上智大学文学部哲学科卒業後、記者枠で一般社団法人共同通信社に入社。福岡支社、札幌支社、山形支局で勤務し、東日本大震災関連報道などに取り組む。2018年から2023年まで、朝日新聞社のウェブメディア「withnews」にて記者・編集者の職務を担い、宗教や障害、オタク文化、自己啓発本といったテーマについて取材。「人間が生きるための糧とは何か」との問題意識を持ち、記事を執筆した。その後、生きた日本語を記録したいとの思いから出版社へと移り、現在は国語辞書編集者。また「新語・造語ウォッチャー」の肩書きで、人々の心を揺さぶろうとする言葉についてSNS等で発信しつつ、ライフワークとしてのライター活動も続けている。うさぎとカレーが好き。
神戸郁人

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