アルピーヌ初のBEVモデル「A290」の実車を確認! 手の内に入りそうなスペックはまさに次世代ホットハッチ!!

2024.06.23 17:00
この記事をまとめると
■アルピーヌA290がワールドプレミア
■ル・マン24時間レースの場でお披露目された
■現地で確認した車両の詳細を解説する
アルピーヌ初のフル電動モデル!
  β版でその姿を見せていた「アルピーヌA290」が、ついにその市販バージョンを、ル・マン・ウィーク中の本国フランスでワールドプレミアした。カテゴリーわけとしてはいわゆる欧州Bセグメントのプレミアム、つまりサイズ的にはプジョー208やトヨタ・ヤリスと同じぐらいのハッチバックながら、スポーツ・プレミアムとして既存車種を見渡せばアウディS1やVWポロGTIが挙げられるだろう。
  が、何せA290は100%BEV。アルピーヌとしても初のフル電動モデルだが、ユーロ・ホットハッチという従来なら「1980~90年代ヤングタイマー的」だったジャンルの最新鋭の解釈といえる。しかも欧州発表値によれば、外寸は全長3990×全幅1820×全高1520mmと、なんと全長4mを切るコンパクトさだ。
  ちなみに欧州ではエントリー価格で3万8000ユーロ~(約646万円~)と発表されている。参考までにBEVでこそないが、GRヤリスが欧州で4万6300ユーロ~(約787万円)という値札を下げていることを思えば、円安下の日本ではピンとこない感覚だが、コンパクトなプレミアムEVとしてかなり戦略的な価格なのだ。
  角張った2BOXスタイルで前後オーバーハングが短く、コンパクトなのに地面にどっしり踏ん張った少しこしゃくな雰囲気および姿勢は、往年のR5アルピーヌ、もしくはシュペール5のGTターボを踏襲する。じつはルノー・グループの最新にしてBEVネイティブの「AmpRスモール・プラットフォーム」を共有するルノー5 E-テックよりトレッドは60mmも拡大されており、見た目の重心高ごと下がっているのだ。
  実物と対面すると、公団ルノーのころの大衆車ながら、故マルチェロ・ガンディーニのスーパーカー・タッチを受け継いだ、それこそあの時代のホットハッチに通じる躍動感すら漂ってくる。一方、前後フェンダーのエッジの立て方やフローティングルーフといったディテールは現代的。5ドア・ハッチバックでCピラー上部にはA110と同じく青白赤のトリコロールの装飾が入るところにも注目だ。
  アルピーヌのフィリップ・クリエフCEOはハッチバック以外にもレガシーとして、1950年代のA106と直近のベルリネットA110を挙げる。A106 がそもそも、ルノー4CVという大衆車のコンポーネンツを多々継いだクルマであり、A110は新生アルピーヌ流のドライビング・プレジャーやモダンさを代表する存在ということだ。
  角目4灯の新たなライトシグネイチャーは昔のラリーカーがテープを貼っていた姿にインスパイアされたとか。リヤの縦長のコンビネーションランプは、まさしくR5&シュペール5を彷彿させるところだ。
  52kWhのバッテリーを2530mmのホイールベース内フロア下に最適化搭載することで、FFレイアウトながら前後車軸の重量配分は57:43、車両重量は1479kg(欧州発表値)とアナウンスされている。最大出力とトルクは2種類の仕様が用意され、A290 GTSと同GTパフォーマンスが300Nm・160kW(220馬力)、A290 GTと同GTプレミアムが285Nm・130kW(180馬力)で、0-100km/h加速はそれぞれ6.4秒と7.4秒を発揮するという。欧州でも最終的な型式認証前ではあるが、いまのところWLTPモードでいずれも最大航続距離380kmを掲げ、トランク容量は300~326リットルを確保している。
ホットハッチらしい「音」も楽しめる
  また、インテリアはさすがプレミアムを標榜するだけあって、質感は上々。ランバーサポートの張ったスポーツシート形状でありながら、GTSに用意されるナッパレザーのネイビー&アイボリーホワイトの仕上げはシックそのものだ。シフトコンソールにはA110と同じようにDNRがボタンで配され、スノーフレーク柄のトレイも備わる。横長に角張ったメータークラスタも往年のR5アルピーヌ風だが、10.25インチの液晶モニター表示で、ややドライバー側にチルトされた10.1インチのタッチスクリーンと巧みに配置されている。
  スリースポーク・ステアリングの内側にも注目だ。右上の親指部分には赤いOV(オーバーテイク)ボタンがあり、長押しすると10秒間フルパワーを解き放つ。また、左下にはRCH(リチャージ)コントローラーがあり、回生ブレーキの強さを0・1・2・3の4段階で選べる。採用されるブレンボのブレーキはバイ・ワイヤで、モーター回生と油圧ピストンによる制動の境目を巧みにコントロールする。右下にはドライブモード選択ボタンで、セーブ/ノーマル/スポーツ/パーソナライズの4種類が用意される。
  もうひとつ、A290のインテリアで忘れてならないのは、ドゥヴィアレというフランスの音響メーカーと協業して、足かけ15年にわたって約250件もの特許取得の上で開発された音響システムだ。これは20cm径サブウーファーを含む9つのスピーカーシステムで、あらゆる音源を「忠実/スピーチ/ダイナミック/ヘビー」の各モードに応じて動的にプロセッシング&コントロールして再生する。
  のみならずこのオーディオシステムには、ホットハッチらしい走りに没頭できるよう、「アルピーヌ・ドライブ・サウンド」が組み合わされている。これはエンジンのエキゾーストめいたフェイク音ではなく、電動モーターの信号や駆動する音を拾って増幅し、アクセルの踏み込み具合や加速、クルマの挙動に応じて駆動ソースの音を奏でるような仕組みだ。
  ワークショップでデモを聴いた限りでは、ICEの排気音とジェットエンジン音の中間的なニュアンスのサウンドで、加速するにつれ低くくぐもった音から伸びのある艶やかなトーンへと変わっていく。バンプなどでタイヤが一瞬スリップすると、回転音がそのぶん上ずったりもするほど、リアルな体感に沿った「走行音」を作り出す機能なのだ。
  もち上げたい領域とトーンをある程度のところまで増幅してよりリッチな再生音を出力する点では、考え方は音楽の音源をデジタル>アナログ変換するのと同じ。モーターの駆動音を音楽のように扱うことで、ICEのエンジンで感じられるような、ドライビング操作に呼応するビート感を創り出しているのだ。これは体感できる「装飾的な」機能どころか、耳から入ってくる精度の高い情報が、シリアスなスポーツドライビングには不可欠という考え方なのだ。
  そしてお待ちかね、足まわりや走りに関しての概要だが、オーバーハング重量を軽減してマスを車体中央に集めるため、前後サブフレームやサスアームにはアルミニウムをふんだんに用いている。ダンパーにはハイドロリック・バンプ・ストップを採用し、フロントサスがマクファーソン・ストラット式、リヤサスはマルチリンク式だ。タイヤもミシュランによる専用開発で、厳冬のスウェーデンで氷雪路テストを重ねて完成されているという。トルクマネージメントシステムを採用しているが、これはあくまで駆動力を最適化するためのもので、ブレーキの片側をつまむブレーキベクタリングに留まっている。
  むしろこの「アルピーヌ・トルク・プレコントロール」の特徴的な点は、即座に駆動トルクを吐き出せるBEVだからこそ、日常的に扱いやすく、いざスポーティに走らせた際もトリッキーなハンドリングにならないよう、最適なトルクのかけ方と自然なアクセルペダル・フィーリングを、アルゴリズム化していることだ。当然これは、バッテリーを無駄に消費しないためでもある。
  ところでインフォテイメントはグーグル・ネイティブなので、ナビ案内では充電ステーションの場所や充電時間も配慮した最短ルートをはじき出す。充電速度はDCの急速充電なら100kW、ACなら11kWまで対応しており、15分の急速充電で約150km分のバッテリー電力を取り戻すことが可能だとか。CHAdeMO規格でも同等の充電速度は確保できる見込みとのことだが、加えてA290 はV2G(グリッド)、V2Lといった外部機器への給電にも対応できる。
  さらに、走りの楽しさを高めるデバイスとして、車載テレメトリーは旋回や加速などアジリティにまつわるGセンサーや出力の状態をリアルタイムで見られるライブモード機能や、ドライビングを評価するコーチング機能、またはドライバーにあれこれクリアすべきエクササイズを課すチャレンジ機能もある。チャレンジ機能は無論、ゲームの発想で生まれたものだが、クローズドコース限定でこなすような、本気のものも含まれるとか。
  A290はアルピーヌが数年前から予告していた3台の電動化モデルによる「ドリームガレージ・コンセプト」の先鋒で、第2弾、第3弾はSUVクロスオーバーGT、A110の後継となるピュアBEVのベルリネットが予定されている。以前のルーテシアR.S.もしくはメガーヌR.S.のようなサーキット志向のホットハッチでこそないが、日常的に乗りやすくて走りの純度は高いという、アルピーヌの伝統に根ざすBEVといえる。
  欧州では年末にデリバリー開始、日本導入は2026年以降となる見込みだ。なお、この発表の場にはアルピーヌのエンデュランス&F1チームのドライバー&チーム監督が勢揃いし、先日離脱の決まったエステバン・オコンも姿を見せた。

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