国交省主導で路線バスの「完全キャッシュレス化」に道筋! 使いこなせれば便利だが「高齢者」や「利用頻度の低い人」はどうなる?

2024.06.20 06:20
この記事をまとめると
■国交省は路線バスの運賃支払いをキャッシュレス決済のみにすることを認める方針を明らかにした
■キャッシュレス決済はバス事業者の業務効率を図るのための措置
■誰でも安価で手軽に利用できるという公共交通機関の使命だけは忘れないでほしい
日本でも公共交通機関にキャッシュレスが普及している
  報道によると、国交省(国土交通省)は路線バスの運賃支払いについて、キャッシュレス決済のみに限定して運行することを認める方針を明らかにしたとのこと。実現には国交省の標準運送約款の改正が必要となる。
  バス愛好家を自称する筆者は、海外出張に出かけると、訪れた街の路線バスに「乗りバス」して楽しむことがあるが、海外では交通系ICカードなどによりキャッシュレス決済のみが当たり前であり、現金収受を行っているのは、筆者の経験ではアメリカ(ロサンゼルスとラスベガス)ぐらいであった。
  アメリカで現金収受が残っていることへの考察は後述することとして、諸外国では治安がそれほどよくないこともあり、現金の取り扱いに慎重なこともキャッシュレス化を推し進めているのは間違いない。
  かれこれ10年ぐらい前になるかもしれないが、中国・北京市内で路線バスに乗ったら、基本的にICカード決済だったのだが、現金もOKということだった。そして、車内中央部に現金収受を担当する専門の女性がいたことには驚かされた。いまはキャッシュレスが当たり前の中国だが、現金払いが当たり前であったころには、食堂や商店に入っても、レジも含め現金を扱えるスタッフは責任者クラスに限定されていた(従業員が着服するケースも目立っていたようだ)。
  国交省の今回の判断は、働き手不足のなか、バス事業者の業務効率のための措置とのこと。ただ、昨今の政治の様子を見ていると、国民から強い要望も目立っていないのに、国交省が突然キャッシュレス決済のみとすることを認めると表明している状況をみると、「新たな利権創出か」と疑ってしまうのだが、それは考えすぎであってもらいたい。
  完全キャッシュレスではないものの、タクシーもキャッシュレス決済を積極的に導入している。クレジットカード決済がはじまったころは、場所によって電波状況が悪く決済できずに現金払いとなったこともあったが、いまやクレジットカードだけではなく、QRコード、交通系ICカード、配車アプリ決済などなど、多種多様なキャッシュレス決済が可能となっている。
  報道を見ていると、Suicaなどの交通系ICカード決済に統一すれば利便性が上がるとしているが、それは鉄道での移動をひんぱんに行う都市部の人間の発想ともいえる。鉄道が1時間や2時間に1本しか通らず、生活移動のほぼすべてを自家用車に頼る地方部では、鉄道事業者のICカードを持つ必要はない。生活において鉄道をほぼ利用しない人が多い地域では、イオンモールなどの大型ショッピングモールがあって広く利用されていることが多い。
  そうなると、交通系ICカードよりもたとえば近所にイオンモールがあれば「WAONカード」をもっている人が多いので、そのそばを通る路線バスはWAONカード決済端末を搭載していたりするそうだ。さらに、インバンド(訪日外国人観光客)を考えれば、「VISAタッチ」のようなグローバルなクレジットカードに対応させる必要もあるだろう(すでにVISAタッチ端末に切り替えている事業者もあるそうだ)。「QRコード決済にも対応してほしい」という声も出てくるだろう。
  現状でも乗車時(前払い方式)に交通系ICカードの残額不足でエラーが出て、その場でチャージする人も目だち、スムースな乗車ができないことが多い。また、コンビニやスーパーのレジなどでは、QRコード決済操作に手間取る人も目立つように筆者は感じている。スーパーなどのレジでは並んで待っていればいいが、これが路線バスとなると積もり積もれば運行遅延を助長するということにもなりかねない。
いまでもバス運賃を現金で払う人は意外なほど多い
  また、現状でも全国津々浦々の路線バスに交通系IC決済端末機などのついている運賃収受箱が搭載されているわけではない。となると、キャッシュレス限定を進めるための「導入補助金政策」というものが思い浮かび、前述した利権が脳裏をよぎってしまう。もちろん補助金の原資は税金となる。
  そこでアメリカの路線バスの話。筆者は、ラスベガスではバスを複数回利用するので、停留所にある販売機で時間限定の乗り放題パスを買って乗車している。最近は専用アプリでの支払い及び乗車も可能となっているようだ。2023年に筆者が乗車したときにはまだ現金決済が可能であった。最新の運賃は把握していないが、意外なほど高く、紙幣を1枚ずつ投入するタイプになっていた。ロサンゼルスの路線バスも同様であった。
  ラスベガスの場合は全米や世界から訪れた観光客も利用するのでかなり特別であり、アメリカ国内だけを見れば、圧倒的にバスや鉄道を利用した生活をしたことがない人が多いので、現金決済を残さざるを得ないようにも見える。
  また、一般的な都市部の路線バスは、一定収入以上の人は治安が悪いとのことでまずバスを利用せず、自家用車で移動する。そのほかの人でヘビーリピーターは、もちろんバスカードでの(いまはアプリもあるかも)決済がメインだが、利用層がかなり限定的で、カードを必要としないほどめったに利用しない人もいるので、アメリカであっても現金決済が残されているのかなと考えている(クレジットカードはバスを利用する層では持っていても利用限度額がかなり低いので有効とはいえない)。
  いまどきのお年寄りはスマホも巧みに使いこなしているので、キャッシュレスには抵抗はないようにも見えるが、筆者もお年寄りに近い年齢なので、長年の習慣というものはなかなか変えることはできない。事業者がお願いして現金払いをフェードアウトさせるのは難しいだろう。
  その意味では、国交省主導でキャッシュレス限定にするのは正しい方向なのかもしれない。以前ある運賃収受箱メーカーで聞いたときには、メーカーとしては完全キャッシュレス機というものはすでに対応できる体制は整っているとして、「完全キャッシュレスにするかどうかはバス事業者の判断となるので、実現は難しいかも」と話してくれた。
  ただし、年齢も性別もさまざまだが、いまでもバス運賃を現金で払う人は意外なほど多い。なかには運転士さんに「1万円両替できますか」と詰め寄るマダムもときおり見かける。中国では国際的なイベントを開催するときなど、開催都市では開催期間に限り地下鉄やバスを無料にすることもあると聞くが、そのときには利用者が殺到して大パニックになることが過去にあった。
  普段はバスの利用すら控えている、シビアな環境で生活している人や、普段は交通費がかかるので広域移動を控えるお年寄りなどが多い現れともいわれ、今後、日本でもそのような層は見過ごせない状況になってくるのではないかともいわれており、その点では「たまにしか利用しない人」を無視して全面キャッシュレスを進めることにはリスクが残るともいえよう。新しい紙幣が発行されるとメディアが声高に報じるなか、「全面キャッシュレス」ということにどこかチグハグさを感じるのは筆者だけではないはずだ。
  キャッシュレス決済限定が時の流れに沿ったものなのかもしれないが、誰でも安価で安易に利用できるという公共交通機関の使命だけは忘れないでほしい。

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