花王が取り組む「心で感じるスキンケア研究‐心感研究‐」。新たな価値提案を追求する研究員の思いと、最新オキシトシン研究に迫る

2024.06.12 20:10
肌を美しくするのは、化粧品の成分や処方だけだろうか。スキンケア時に喚起される“幸福感”や“満足感”も、単に使用時の気分をよくするだけではなく、肌を美しくする力があるのではないか。
花王はそうした考えのもと、人の内面、いわゆる「心」にも着目し、心と肌の美しさの関係性を科学的に検証する「心で感じるスキンケア研究(以下、心感研究)」に取り組んでいる。
(写真左から小田島研究員、森河研究員、坂本研究員)




まだ研究手法が確立されていない2004年から、前身となる感性科学研究をスタート。2018年にはスキンケア時の触覚刺激によって喚起された「快感情」が肌によい影響を与えることを科学的に明らかにした。スキンケア時のハンドプレスにより、俗に「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンが増え、それにより肌の質感が向上する可能性を見出したのだ。


化粧品を使って感じた気持ちを明らかにするだけでなく、その気持ちをエッセンス(機能)に変え、さらに美しさを高めていく──。そこにはどのようなメカニズムがあるのか。そして現在進めているオキシトシン研究について、心感研究を牽引する花王研究員、小田島・森河・坂本の3人に話を聞いた。
心感研究‐心で感じるスキンケア研究とは
スキンケア時に感じる“心地よさ”や“満足感”などの「快感情」には、肌を美しくする力があるのではないか。心と肌には何かしらの関係性があるはずだと、多くの人が漠然と感じていたことを解明すべく、花王の心感研究はスタートした。
小田島「化粧品がもつ感性価値にはもっとすごいポテンシャルがあるのではないかと思っていました。配合成分や処方技術など、ダイレクトな効果ももちろん大切ですが、化粧品には使う人のシーンや気持ちにまで寄り添える、機能だけでは語り尽くせない魅力があり、そこが面白さでもあると思っています。」


化粧品を使うことによって得られる幸せな気持ちや満足感など、心に働きかける作用によって、より肌が綺麗になっているのではないか──。そう考える研究員は多かったものの、これまで科学的に検証した例はほとんどなかった。
森河「通常のダイレクトな肌効果を検証する試験とは違い、「気持ちの変化」にフォーカスしているため、どうしても外的要因、すなわち、スキンケア以外での感情変化の影響も少なからず受けてしまいます。そのため、もしスキンケア時の気持ちの変化による肌状態の向上という現象が実際にあったとしても、その効果が外的要因によりマスキングされてしまい、費用や労力をかけて試験をしたにもかかわらず、期待する結果が得られない──という可能性が考えられ、当初からハードルの高さを感じていました。」


森河「肌状態の計測方法についても確立する必要がありました。トラブル肌と健常肌を比べた場合、肌内の水分量や表面形状など、物理計測値によってその差を明確にとらえることが可能です。一方で「恋をするとキレイになる」などと言われる、健常な肌状態が「より」美しくなる、という現象において、どのような肌変化が生じているのか。それは、ツヤや透明感、うるおい感などが表れている肌、つまり感覚的な見た目の肌状態がよいことだと考えました。そこで我々は、快感情の喚起による肌状態の向上をとらえる手段として、トレーニングを受けた専門家による目視評価にて、肌の質感(見た目の肌状態)を評価することとしました。」


化粧品を使ったときに沸き起こる「快感情」とは何か。それをどう評価するのか。化粧品を使ったダイレクトな肌効果の先にある、「心を介した肌の変化」をどう測定するのか。また気持ちや心は、化粧品以外にも様々な事柄から影響を受ける。それを完全に排除することは困難であるため、その条件下で期待する結果を得ることは可能なのか。


ひとつひとつの課題に向き合い、模索しながら研究は進み、徐々にスキンケア時の触覚刺激と快感情の関係が明らかになっていく。
スキンケア時における「触覚刺激」により、快感情が高まる
スキンケアをすると、心地よい香り、テクスチャー、肌触り、パッケージデザインなど、様々な感覚刺激により「快感情」が喚起される。花王ではそれらの中でも、肌に触れる「触覚」の影響が大きいことを見出してきた。(図1)
坂本「触覚は原始的な感覚の1つで、穏やかに撫でられることや、やわらかいものに触れると、程度の差はあるが、総じて心地よいと感じる傾向があります。この特徴から、触覚に着目することで、多くのお客さまの心に響く感覚価値を提供できると考え、研究を深めました。」
ハンドプレスなどの化粧行為により、快感情がより高く喚起されると、肌の質感が向上する
触覚刺激によって効果的に気持ちが上がることがわかった。では、心地よい感触刺激を手段として用いた際に、肌状態はどのように変化するのか。朝と夜のスキンケア時にハンドプレスを行う1ヶ月の連用試験を実施した。
すると、日々のスキンケア時にハンドプレスを行い、快感情を感じた人ほど、ツヤ、うるおい、乾燥感(なさ)、黄み(なさ)、くすみ(なさ)、透明感といった肌の質感が向上することが判明した。(図2)
やはり、快感情によって肌は確実に美しくなっている──。世の中でなんとなく認識されていたことを科学的に検証できた瞬間だった。


森河「データを確認した時は、すごい結果に手が震えましたね。肌と心はつながっていて、快感情がより肌を良くしてくれる。その効果が検証でき、2018年の学会発表では大変高い評判をいただきました。」
スキンケア製剤の心地よい感触でも快感情を喚起。その喚起度合いに応じて、脳の前頭前野の活動が増加
さらに製剤のテクスチャーによっても、違いがあることも見えてきた。快感情を高めやすい感触とは何なのか、それを科学的に検証し、「コク」「しっとり感」「肌なじみ」が特に重要であることが判明。両立が難しいこの3つの感触要素を同時に高いレベルで満たすクリーム製剤を検討した。「コク」「しっとり感」「肌なじみ」の3つの感触要素を、すべて高いレベルで同時に満たすクリーム製剤を塗布することで、一般的な感触の製剤と比べ、実際に快感情が高まることを、感覚的なアンケートだけでなく脳血流変化量計測の結果からも確認した。(図3)主観的な気持ちだけでなく、実際に脳が反応していることが客観的に確認された。
スキンケア動作時の触覚刺激により、快感情が喚起され、オキシトシン分泌が増える。
オキシトシン分泌の上昇で肌の質感は向上し、中でも「キメ」「色むら(なさ)」「ツヤ」「肌表面のなめらかさ」のスコアが高くなる可能性。
では、脳を介し、快感情と肌をつなぐものは何なのか。それこそが幸せホルモンと呼ばれる「オキシトシン」だ。スキンケア動作時の触覚刺激による快感情の喚起度合いに応じて、オキシトシン量が上昇すること(図4)、そして、オキシトシン分泌が多い人は、「キメ」「色むら(なさ)」「ツヤ」「肌表面のなめらかさ」といった肌の質感スコアが高い傾向があることが分かった(図5)。幸せを感じているとき、人はいきいきと輝いて見える。そこには心が動かす肌の質感の向上も一因であることが示唆された。
最新の研究状況
心と肌の関係を科学的に検証してから数年、心感研究はさらに進化し、最新の研究では2つの新知見を得ている。これまでの心感研究では1種類の触覚刺激に着目した研究を進めてきたが、スキンケアを通じてより快感情を高めることはできないか。そこで、これまでに得た心感研究の知見から、製剤の感触、香り、塗布方法の3点から快感情を引き出すアプローチを考えた。


森河「化粧品はさまざまな感覚を通して、快感情を高めることができます。そこで、感触、香りにこだわった製剤を開発し、加えて、心地よく使える塗布方法も含め、トータルとしてより快感情を高めたいと考えました。
また、「成分などのダイレクトな肌効果」と、心感研究の知見を活かした「心を介した肌効果」が組み合わされば、より美しい肌に導けると考え、この両輪によるアプローチを用いました。」
「コク」「しっとり感」「肌なじみ」をもたらすクリーム状の剤形だけでなく、美容液のようなテクスチャーの製剤を検討。製剤の感触、香り、そしてハンドプレスを含めたオリジナルの塗布方法、この3つが掛け合わさった結果、単回使用時でも「快感情」がとても高く喚起されることがわかった。また、使用する前と後でオキシトシン量を測ったところ、使用後には「オキシトシン量」も有意に上昇するという結果が得られたのだ(図6)。これが1つ目の新知見だ。
坂本「驚きましたね。本当に?って。化粧品の単回使用でここまでオキシトシン量が上がるっていう事例は過去に見たことがなかったので、正直不安なところもあったんです。ハンドプレスのみの実験では5分間手技を実施しましたが、今回の実験は1分間。それでもオキシトシン量が上がり、なおかつその上昇率がハンドプレスのみの実験より高い傾向を示している。その時の嬉しさは今も覚えています。」
さらに近年では、オキシトシンの量が増えると心地よさを感じやすくなるという報告もある。スキンケアで快感情が喚起されオキシトシンの量が増えれば、心地よさを感じやすくなる、そしてその状態でスキンケアを行うと快感情がさらに高まり、オキシトシンが増える。そのようなスキンケアを日々行えば、オキシトシンを介して、より肌が美しくなるのではないか──。そう考え、今度は同じ製剤を用いた連用試験を1ヶ月行った。 
その結果、先ほど示した通り連用前の単回使用時でもオキシトシン量は上昇していたが、1ヶ月使い続けた時の方が、よりオキシトシン量が増加する傾向にあることがわかった(図7)。
また、同じ製剤を触っているにもかかわらず、1ヶ月使い続けた後の方が、心地よさの感度が有意に上昇することが分かった(図8)。
「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンは、愛着形成や情緒安定などの働きだけでなく、キメや色むら(なさ)、ツヤ、なめらかさといった肌の質感向上にも密接に結びついていた。化粧品にはダイレクトな肌効果だけでは語り尽くせない魅力がある──。その言葉を体現するかのように、心感研究は化粧品の新たな価値を追求し続けていく。


最後に、今後も「心」に着目した研究を進めていくことで、世の中や生活者にどのような価値を提供したいのかを聞いた。
小田島 秀樹 研究員
(2006年入社/スキンケアブランドの製剤開発グループリーダーを務める)


小田島「一人ひとりの人生や生活、行動を、そしてその人たちが関わり合う世界を、より豊かにできればと思っています。もちろんこの研究だけですべてを変えられるとは思っていません。ですが幸せな世界を創っていく一部になれると信じています。これからもお客さまの充実した生活に貢献できるものづくり、研究を続けていきたいです」
森河 朋彦 研究員
(2013年入社/皮膚科学研究所を経て現在はスキンケア研究所所属)


森河「幸せや心地よさを感じるスキンケアの時間を提供したいという気持ちが一番大きな部分です。日々の心地よさを感じる時間が、その人がもつ内なる力を呼び覚まし、それがより美しい肌に繋がっていきます。化粧の感性価値にはまだまだすごい力があると思うので、引き続きメンバーと協力しながら心と肌の研究を進めていきたいです」
坂本 考司 研究員
(2005年入社/感覚科学研究所所属、基礎研究に従事)


坂本「優しさや思いやりのある社会を実現するために自分の立場で何ができるのか、と考えたのが心感研究を始めたきっかけです。心感研究で着目した「オキシトシン」は絆や愛着に関わるホルモンで、行動にも関与すると言われています。肌だけでなく心にも響くようなスキンケア時間をお客様に届けることで、もう少しだけ、思いやりのある世の中になっていくのではないかと、心感研究はそういったことにつながる取り組みなのではないかと思っています」




人の心を介したスキンケアは人の行動を変え、世界を変えていく──。花王の心感研究は単なるスキンケアという枠を超えて、これからも人々の生活や社会に新たな価値を提供し続ける。

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