環境型住宅を手掛ける建築設計事務所が電気を買わなくても暮らせる「オフグリッドハウス」事業を開始。モデルハウスと『みんなのオフグリッド研究所』を通じて実現したい新しい住宅の形とは

2024.06.04 08:40
株式会社カメプランは、自然エネルギーを利用した住宅システムのフランチャイズ本部に在籍していた大出 達弘が、2007年に個人事業として開設した建築設計事務所です。


木造住宅の設計を主軸とし、2011年にはパートナーの亀﨑 美智子が事業に参画。開設15周年を迎えた2022年法人化。2023年には、持続可能な自然エネルギーを最大限に活用する「都市生活者のためのオフグリッド住宅」※1 を東京都郊外の東村山市に建設しました。


※1 ここで言うオフグリッド住宅とは『電力会社と送電網(グリッド)で繋がっていない状態(オフ)、あるいは電力会社に頼らずとも電力を自給自足している住宅』を指します。


2023年11月に完成したオフグリッド住宅は、モデルハウスでありながら、設計者自身がそこに暮らして"電気を買わない" リアル・オフグリッドライフを実践している、新しい時代の住宅です。


本ストーリーでは、このたび当社が開始したオフグリッド住宅への取り組みと、この事業を通じて実現を目指す、持続可能な未来についてお話します。
オフグリッド住宅の外観 〜延床およそ24坪の小さな住宅
省エネルギー住宅から一足飛びにオフグリッド住宅へ
カメプランは創業以来「自然環境に負荷をかけない、居心地の良い暮らしの実現」を信条に、環境共生型住宅の設計に注力してきた建築設計事務所です。


私たちが住宅業界で仕事を始めた2000年頃、「地球環境に優しい」というワードは、耳馴染みがよいだけで実現の優先順位が低く、まるで政治家のマニフェストのように受け取る方が多かったように思います。


時を経て、世界的な環境悪化が顕著になる中、2014年に閣議決定された「エネルギー基本計画」では、ZEH ※2 が国の省エネルギー基準として示されました。2021年には「省エネ性能の説明義務化」、2025年「省エネ基準適合義務化」と、時代の流れは当社にとって追い風となりました。


※2 Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略語。太陽光発電による電力創出・省エネルギー設備の導入・外皮の高断熱利用などにより、(売買電を通じて)生活で消費するエネルギーよりも生み出すエネルギーが上回る住宅を指します。
オフグリッド住宅はそれを超える「リアルタイム・ゼロ・エネルギー・ハウス」です。


ハウスメーカーでも省エネルギー住宅が当たり前のように販売されるようになり、当社もクライアント(建て主さん)に、断熱性能が高くて消費エネルギーが少ない住宅設計を提供する際、その重要性を理解していただき易くなりました。


しかしその反面、環境悪化のスピードの方が圧倒的に早いため、もっと化石エネルギーの使用を抑えて、加速度的に脱炭素化を急がなければならないとも考えていました。


私たちのような小規模建築士事務所が、年間数棟の省エネ住宅を設計しているだけでは間に合わない。もっと最大限に効果を出すにはどうしたら?国の政策や大きなメーカー任せにせず、多くの人に広く訴えられる事が出来ないか?


そんな行き詰まりを感じている中、私たち自身の住宅転居がきっかけとなり「オフグリッド住宅」の建設に漕ぎ出すことになったのです。
オフグリッド住宅の内観 〜コンパクトで落ち着く空間
きっかけは、古い戸建借家住まいでの体調不良
私たち自身の住宅環境を振り返ってみましょう。
家庭や仕事の事情もあり、あちらこちらと引越しが必要だったので、賃貸マンションや借家住まいでしたが、その選択の際の優先順位といえば、生活の利便性、住居の広さと家賃のバランスなどでした。断熱性能が高くて省エネルギーな生活ができるに越した事は無いけれど、現実的には日々の生活にかかるエネルギーコストは二の次だったのですから、まるで紺屋の白袴状態です。


その考え方をガラリと変えて、本当の意味で省エネルギー住宅の重要性を腹落ちさせることになったきっかけは、東京オリンピック開催予定の直前の2019年、古い借家への転居でした。


そこは仕事場を兼用できる充分な部屋があり、駐車場も敷地内に確保できました。大きさや間取りでは条件を満たしていたものの、床・壁・屋根はほぼ無断熱、サッシもアルミ製で1枚ガラスの築40年木造住宅でした。


寒いのも暑いのも、ほぼ外気と変わらない環境になる事は、物件の内覧時点で充分理解していましたが、「劣化させないDIYなら自由にどうぞ」という条件を聞き、断熱改修をしながら実験的に暮らしてみようと言うことになりました。


「1年目は無断熱のまま暮らして室内の温度・湿度を計測しよう。そして電気やガスなどのエネルギーがどれだけ必要だったのかのコストデータを収集する。2年目以降に断熱改修をして、室温や光熱費がどの程度改善されるのか?これもデータを取り、費用対効果も含めてこれからの設計に生かす。という計画を立てました。」(大出)


「家はDIYで好きなようにアレンジ出来るなら、暮らし方の工夫で何とか出来そうだ。庭に断熱小屋を作って打合せ部屋にしたり、ソーラーカーで移動しながら仕事できたら楽しいかも!?」(亀﨑)


当時友人とSDGsの勉強会を開催していた亀﨑は、自由でお気楽な妄想を始めていました。
亀﨑のアイデアスケッチブック
最初は家ではなく、移動可能な小屋のような仕事部屋を妄想していました。


しかしながら、その改修を始める前に体調を崩すことが多くなったのです。
時はコロナ禍ど真ん中で在宅時間が長くなった時期。夏は暑くて1日中エアコンをかけているので手足が冷え、冬はエアコンの暖気では足りないので、ガスストーブやホットカーペットなどの局所暖房が各部屋で欠かせない寒さ。お風呂に入る時も出る時も、布団から出る時も寒さに震えながらの冬の日常でした。


家の影響だけではないと思いますが、寒さ厳しく免疫が落ちたのか、ついに亀﨑が帯状疱疹になりました。


「ちゃんと暖かい家を自分達で建てて住もう。省エネ住宅の設計してるのに、こんな家に暮らして身体壊してたら、何の説得力もない。」(亀﨑)
10年後、電気を買わない暮らしを普通にするための実験住宅
さて、本気出して自宅を設計するならどうするかを考えた時、今までの省エネ住宅設計で培った知識をフル動員しながらも、それまでの固定観念や、自身の世代のみをやり過ごすだけの短期的な考えを手放す努力をしました。


一般的な家では、電力を電力会社から常に買って使っています。太陽光パネルを載せている家なら、昼間は太陽光で発電して自分で使いますが、夜間は買って使っています。どちらにしても、非常時のためにポータブルバッテリーや電気自動車でバックアップ電源を持つことをおすすめされています。


その普通の電力供給の考え方を逆転させたらどうだろうか?
現在すでにある「太陽光発電」や「蓄電池」を採用して、それぞれが効果的に働くよう断熱性能を上げるなど、住宅自体の性能でカバーすることができたら、電気を自給自足して生活することが可能にならいか?


理論的には難しくないが、実際を考えるとそれほど簡単でもない。消費電力は家族構成やライフスタイルによって変化するし、蓄電池はまだまだ高価な設備なので、現時点で電気を100%買わないで暮らすのは採算が合わなそうだし、天候不良で発電が充分でない時などは、電気を少し買うことになるだろう。でも・・・


「10年後なら電気を買わない暮らしが普通に出来るかもしれない。私たちの住む家はそのための実験住宅にしよう。と思ったんです。」(大出)


電気は自給自足する。可能な限り電気を買わないで生活できる住宅を作って、持続可能な社会につなげよう。そう決意して「オフグリッド住宅」の設計に取り組み始めました。
我が家はいつでも「停電時運転中」2024年5月28日のリアルです
オフグリッドのためのシミュレーション開発は半年の試行錯誤〜試算では286時間の電欠必至
敷地の形状や建物に必要な条件をクリアしても、オフグリッドのためのシミュレーションで芳しくない結果が出れば、様々な部分を補正しながら、繰り返し設計内容に手直しを加えていきます。


温熱環境シミュレーションソフト ※3 を用いて、建物の断熱性能や日射による暖房効果、アメダスデータも加味した「暖冷房負荷計算」という手法を使って、365日24時間の1時間ごとの冷房・暖房にかかるエネルギーを算出します。


シミュレーションの結果、断熱性能が足りなかったり、上手く太陽の熱を室内に取り込めていない場合は、窓や壁、屋根の断熱性能を上げたり、窓の配置を繰り返し調整して良いバランスを探っていきます。
※3 当社では(株)インテグラル社の「
」を採用


何度も調整を繰り返して、夏の冷房エネルギーと冬の暖房エネルギーが同じぐらいになるレベルに建物の断熱性能を持っていくことで、最低限のエネルギーで快適室温を維持できる建物を計画し、その後から太陽光パネル、蓄電池の必要容量を算出します。
冷房や暖房にかかるエネルギーをできるだけ減らすことで、太陽光発電パネルや蓄電池の容量を現実的な大きさに収める、というところが最も大きなポイントです。


また、今回のプロジェクトの肝であり、最も苦労したのが温熱環境シミュレーションの先にある、オフグリッドシステムに関わる独自のシミュレーションプログラムの立ち上げでした。


「家庭内での電力消費量の推定はもちろんのこと、電力系統と切り離した状態で、太陽光発電や蓄電池がどのような振る舞いをするのか?相互の電気のやり取りはどのようになるのか?この辺りを明確にすることに一番苦労しました。」(大出)


太陽光発電メーカーや蓄電池メーカーが、一般的に開示している資料からは全てを読み取ることができず、それぞれの企業担当者にヒアリングを重ね、文献を紐解き、各専門家にアドバイスをいただきながら、落とし込んでいく作業を続ける事おおよそ半年。なんとか初期バージョンを立ち上げることができました。
開発中のオフグリッドシミュレーションVer0.1
今後AIなどを活用して、住み始めての空調や電力制御にもチャレンジする予定です。
1人の100歩より100人の1歩〜地域のビルダー・工務店・設計事務所との協働を
私たちが暮らす「オフグリッド住宅」は、現時点で完全に電力網と切り離されている訳ではありませんが、通常は電気を自給自足していて、電力会社からの電気は「非常用電力」となっています。


「全てを完璧にして、メンテナンスに大変な思いをする事なく、より多くの方が脱炭素社会の実現のために一歩を踏み出しやすいことが重要です。1人の100歩より、100人の1歩を大切に考えたいですね。」(亀﨑)


「その実現のためには、それぞれの地域の気象や住居文化を知り抜いている地域ビルダー、地域工務店、設計事務所さんと協力、協働する必要があると思っています。」(大出)


省エネルギー住宅の実態をZEHだけで計れる訳ではないのですが、新築注文住宅のZEH化率を見てみると、ハウスメーカーが60%超なのに対して、一般工務店では10%程と大きく水をあけられています。(2021年度)
新築注文住宅のZEH化率の推移
経済産業省・資源エネルギー庁出典


一般工務店の扱う新築件数はハウスメーカーの倍近くありますので、このZEH化率の乖離を埋めることができれば、日本の住宅の省エネルギー化は大きく進むのではないかと考えています。
地域ビルダー、地域工務店、設計事務所さんと協働して、私たちのオフグリッドシミュレーションという「エビデンス」を加えた住宅設計を提供することで、より地域に馴染み、自然な形での家づくりが早く広がっていくことを願っています。
実際のオフグリッド率は97%
オフグリッド住宅完成以降、私たちがモデルハウスで実際に暮らしながらエネルギーの需給、温度などをリアルタイムでモニターし、シミュレーション結果とどの程度の違いが発生するかを検証しています。


事前のシミュレーションでは、年間を通じたオフグリッド率(電力自給率)は96.6%。


2023年12月からモニターを開始していますが、2024年4月のオフグリッド率(電力自給率)は97%をマーク。予想をわずかですが上回っています。
足りなくて買った電気料金の平均は1ヶ月あたり430円/月(基本料金除く)程度に抑えられています。


そして肝心な室内の温度環境ですが、真冬でも日中発電時にエアコンで室内を暖めておけば、翌朝まで最低でも17度を下回るようなことはなく、2月の平均外気温8.4℃に対して室温平均は22.3℃。今まで住んだどの家よりも快適に過ごすことができました。


「冬の朝でも布団から出るのが辛くないし、入浴の前後に寒い思いをしなくて済む。ヒートショックの起きづらい、健康的に暮らせる家になっていると実感できます。」(亀﨑)
雪の日に足りない電力をEVからいただきました。V2Hも一つのやり方です。


そして、これから初めての夏を迎えます。
シミュレーションでは、高い断熱性能によって夏も快適な温度帯で生活しながら、オフグリッド率はほぼ100%(電気代ゼロ)であると算出されていますが、冷房は冷えればそれでOKではないため、どんな制御や暮らし方をしたら心地よい室内環境に整えられるのかを引き続き検証していきます。


1年間の実績データを集計し、また次のシミュレーションに反映する。そしてこの技術をより多くの人たちと共に育て、広めながら開発を進めていきたいと考えています。
電気を買わない生活が当たり前になる日まで。


オフグリッド住宅プロジェクトの立ち上げから現在の検証までは
で発信しています。


株式会社カメプランのホームページ
みんなのオフグリッド研究所のホームページ
プロフィール
みんなのオフグリッド研究所・所長大出 達弘(おおいで たつひろ)
株式会社カメプラン 取締役/株式会社カメプラン一級建築士事務所 管理建築士/
一級建築士
みんなのオフグリッド研究所・所員1号亀﨑 美智子(かめざき みちこ)
株式会社カメプラン 代表取締役/株式会社カメプラン一級建築士事務所 所属建築士/
一級建築士

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