構想から13年!汗腺を「眠らせる」次世代の制汗技術の実現に向けたマンダム研究員の挑戦

2024.05.29 15:41
コーポレートスローガンに“BE ANYTHING, BE EVERYTHING.”(意味:なりたい自分に、全部なろう。)を掲げ、ウェルビーイング(well-being)の実現を目指している株式会社マンダムでは、男性から女性まで様々な化粧品を届けてきました。また、商品開発のベースとなる研究にも力を入れており、汗とにおいに関する研究知見を蓄積しながら、におい対策ができるデオドラント剤を開発してきました。


また、2010年から自社内に留まらず大阪大学との共同研究も開始し、生活者の日常に寄り添い、汗やにおいの悩みを解決したい、という思いの元、人の健康から清潔感まで幅広く影響する汗のメカニズムを解明しています。そして、従来のような、汗腺に蓋をして汗やにおいを防ぐメカニズムだけでなく、「汗腺自体を眠らせる次世代の制汗技術の実現」に取り組んできました。この取り組みは、2023年9月、スペイン・バルセロナで開催された「第33回国際化粧品技術者会連盟バルセロナ大会2023」(The 33rd IFSCC Congress 2023 Barcelona)において、ポスター部門の最優秀賞を受賞したことにもつながっています。そして、構想から13年の時を経て、汗腺を眠らせる次世代の制汗技術を開発しました。


前例の少ない汗腺研究の中でも、最新技術を開発するという偉大な成果に貢献したのは、ユニークで時には自ら体を張るような熱意のある社員たちでした。入社から19年間デオドラント開発に関する基礎研究に携わってきた先端技術研究所の原と、2018年ごろから自ら制汗成分を試し、評価を担当してきた久加。2人は他のメンバーと共に、汗腺のメカニズム解明と成分の探索から、人による効果性の実証、効果実感の検証まで一連の取り組みをリードしてきました。


本ストーリーでは、この研究の挑戦の舞台裏についてお伝えします。
左から、先端技術研究所の久加と原
スタートは「汗腺のメカニズム」解明から。前例が少ない中で研究の土台を築いた。
従来の制汗技術は、汗腺に蓋をする成分が汗、においを抑える発想で開発されています。しかし、いくら蓋をしても多量の汗をかくとその成分が流れてしまうことが長年の課題としてありました。そこで今回、マンダムが目指したのは、汗を生み出す根本となる汗腺そのものに働きかけ、汗腺を眠らせることで汗とにおいを抑える技術の開発です。


そもそも、なぜこれまで汗腺そのものに作用する薬剤が存在しなかったのか。その理由は、人の汗腺に関する研究がそこまで進められてこなかったという事情がありました。マウスやラットの手や足の裏には汗腺はありますが、小動物ゆえに汗腺を取り出すことは難しく、また、医薬品以外の分野で研究に動物実験を行うことへの難しさも高まっていることから、人だけでなく汗腺そのものを直接研究する技術もノウハウも蓄積されてきませんでした。


このような業界の背景もありましたが、マンダムでは人の汗腺研究における課題を解決し、少しでも汗に悩みを持つ生活者にお役立ちできる制汗技術の開発を行いたいという強い思いを持ち続けていました。そのため、汗腺の基盤研究に着手したのです。プロジェクトが立ち上がったのは2010年。今から14年前のことです。


「様々な事情から、人の汗腺を使った研究は世界的にも行われていませんでした。しかし、いざ研究を行うとなった際には、まず人の皮膚から汗腺を取ってこなければなりません。そこをどうするのかが1つ目の壁でした。我々は大阪大学に研究講座を持ち、社会課題を解決する研究に対して協力をいただける関係性を築いてきました。そのため、大阪大学や提携先の個人病院から手術の際に出る余剰皮膚をご提供いただき、皮膚断片から汗腺を取り出せる環境を整えることができたのです」(原)
当時の様子を振り返る原
研究チームは、文献も紐解きながら研究を進め、入手した皮膚断面から汗腺を取り出し、その動きを確認します。ただ、どのような仕組みで汗腺が活動しているのかがわかりません。考えを巡らせながら研究を進めていった原がヒントとしたのは、汗腺以外の体の部位の収縮でした。


「例えば血管は、暑いときには拡張させて血流を増やし、逆に冷えると収縮して血流を抑え、体温の低下を防ぎます。それと同じような収縮運動があるのではないかと思ったんです」(原)


そうして突き止めたのが、「汗腺の下の部分(分泌部)が収縮し、皮膚表面に汗を押し出すことで、人は汗をかく」という発汗の実態でした。無事に一つの真実にたどり着いたものの、提供いただく皮膚の状態によって結果が異なることから、行き着いたメカニズムで本当に間違いないのか、再現性を確認することに大変さがあったと原は振り返ります。


次に進められたのは、汗腺の分泌部を眠らせるための成分探しです。メカニズムがある程度わかった時点で、一定の目星は付けていたと語る原。これも血管など、他の拡張・収縮する部位の動きを抑制する薬剤をヒントに、近しい作用を持っていそうな薬剤、さらにはヒトに対する安全性が客観的に確認されているものという観点で何万種もある薬剤から候補を絞り込んでいきました。


最終的には数十個にまで絞り、そこから効果性の観点で数種類にまで絞り込みます。その後、原は取り出した汗腺にその候補成分をかけたときに動きが止まるのかを確かめることで進めていったと振り返ります。


メカニズム解明にかかった期間は6~7年。成分の探索にかかったのは、1、2年ほど。成分の探索は、途中、メカニズム解明と同時並行で進められたものの多くの時間を要しました。
汗腺の分泌部を眠らせる成分 GMA(グリチルリチン酸モノアンモニウム)
正しい研究結果を取得するため、自らにルーティンを徹底させた生活を課す。人を通じた実証実験の裏側。
発汗のメカニズムを発見し、汗腺の分泌部を眠らせられる成分を絞り込んだあとに行われたのは、実際に人で効果が出るかを実証することでした。担当したのは原と同じく先端技術研究所に属する久加。開始したのは2018年でしたが、彼女の挑戦はその前から行われていたといいます。


「これまで脇汗の評価は、ろ紙などを当て、活動前後の重さでどれぐらい汗をかいたのかを調べる方法で行われてきました。この方法では、発汗量はわかるものの、人が生活する際にリアルタイムでどのように発汗量が増えているのか、その時間帯や活動状況をつかむことはできません。今回のプロジェクトが立ち上がる前から、リアルタイムで脇汗を評価できるようになりたいという個人的な思いを持っており、その仕組みの構築に取り組んできました」(久加)


既存の発汗計はリアルタイムで汗を測定できるものの、通常動きの少ない腕などの部位に用いられていたため、脇のような伸縮が大きい部位では精度よく汗が測定できないという課題がありました。そのため、脇汗をリアルタイムで計れなかったのです。そこで、久加は通常は商品の容器などの開発に関わる包材開発のチームにも知恵をもらいながら、脇汗をリアルタイムで計れる形状の発汗計のカプセルを2年かけて開発。この取り組みが功を奏し、今回のプロジェクトにも活かされることになりました。
別のチームとも協力して完成した、実際の発汗計のカプセル 
左:従来のもの 右:開発したもの


担当者だからこそ実感していた課題から取り組んでいた研究が次世代制汗技術の開発に繋がったものの、人による効果性の実証を進めるには苦労がありました。


「片脇に複数の発汗計のカプセルを取り付けた測定では、カプセルが影響し合って上手く汗の量を計れないことが、何度も実験する中で分かりました。じゃあ、左右で分けて計ればいいのかとも思ったのですが、同じ人でも脇汗の左右差がそもそも大きく、安定したデータが取れないということもわかっていました。どうすれば効果性の実証として相応しい安定したデータが取れるのか、方法を見つけるまでに1年の時間を要しました」(久加)


同じ部位を使い、同じ試験を繰り返せば安定したデータが取れる。ただ、同じであるべきはそれだけではありません。その日の温度や体調、精神状態によっても発汗量は変わります。そのため、久加は試験を行った1年近く、試験の日のルーティンを細かく決めて過ごしました。


「試験を行うのは午前10時。その日は7時に起床し、朝食は食パン1枚とコーヒー1杯。ジャムだけは自由としました。そして出社したら決めたマグカップでお茶を1杯飲み、トイレを済ませてから試験に臨む。脇は精神性発汗をしやすいため、身体だけではなく心も整えることが重要で、前日からいかに心を整えるかに苦心しました。同じ汗をかける状態を作るのが本当に大変でしたね。当時のスマホのカレンダーをお見せしたいくらいです(笑)」(久加)
当時の様子を話す久加。ピーク時は日本で一番汗を測定していた自負があると笑いながら話してくれた


まずは評価しやすい腕で行い、脇にステップアップして試験を継続。しかし、腕に比べて脇は突発的に汗が出るため、サンプルの制汗効果が腕に比べて持続しないといった苦労もあったといいます。自転車をこいだり、会社に用意されているお風呂で足湯を行ったりと、「かなり体を張りました!」と久加は笑顔で振り返ります。


自身で試験を行った後、被験者でも効果性の実証を行います。試験1つに対し、被験者は5~6人。暑い環境で自転車をこいでもらうなどして、試験結果を積み重ねていきました。ただ、中には汗のかきやすさに対する自認とデータで見る量とにギャップがあるケースや、発汗量が少なくて被験者に適性がないことの発覚、左右差が思っていたよりも大きい結果が出るなど研究を進めるにあたっては一筋縄ではいかないことも多かったといいます。
実際に汗を計測している際の様子。社内に温湿度を調整できる施設がある


こうして自身や被験者での試験を繰り返した久加。制汗効果のある成分に行き着いたときについて、次のように振り返ります。


「最初、腕で試したとき、明らかに塗った部分だけ汗をかかないという体験をして、『制汗している!』と大興奮したんです。でも、脇ではそこまで効果が出ず、想定の3倍ぐらいの時間を要しました。最終的に、その成分と近しい別の成分で評価をし、効果が認められたんです。長い挑戦でした」(久加)


発汗メカニズムと新たな制汗技術について×
汗悩みは、多いことを抑えるだけではない。今回の研究をきっかけに、より広い分野へ。
各領域のプロフェッショナルが力を合わせ、実現した汗腺を眠らせる次世代の制汗技術。今回の取り組みを、あらためて2人に振り返ってもらいました。


「次世代の制汗技術は、国内のみならず、弊社が事業展開している東南アジアなど海外の暑い地域にも展開もできるのではないかと思っています。また、汗腺の研究は、汗をかく悩みだけではなく、汗をかけない無汗症の方の悩みにも活かせるものだと思います。デオドラント剤だけではなく、医療分野も含め、もっと視野を広げて研究を発展させていきたいですね」(原)


「原と重なりますが、私も汗を抑えるほうだけではなく、汗をかきたいニーズにも向き合っていきたいです。今回の新しい制汗技術は従来と一線を画す技術だと自信を持って言えます。暑さが厳しい夏に、汗で不快な思いをする人が減ることを期待しています」(久加)




2010年から始まった前例の少ない研究から、13年を経て「IFSCC Congress」での最優秀賞を受賞した次世代の制汗技術は、商品化などを通じて国内外で多くの人にお役立ちできる余地がまだまだたくさんあります。
また、培ってきた技術を元に、汗を出すという分野にも応用が可能なことが見えてきました。受賞を機に、より一層の注目が集まるマンダムの汗の研究開発に今後ともご注目ください。

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