インドから輸入しているホンダWR-Vが大ヒット! 日本市場の「常識」が変わるかもしれない

2024.05.29 06:20
この記事をまとめると
■ホンダWR-Vの受注が当初の4倍以上となる1万3000台になった
■発表では中間グレードが売れているとされるが現場では圧倒的に最廉価グレードが売れているというイメージ
■今後はさまざまな国で生産された日本車が日本で販売され走っている可能性がある
大ヒットと呼べぶに相応しいほどWR-Vが売れている
  ホンダが2024年4月22日に、「新型SUV『WR-V』受注状況について」というリリースを発信した。新規投入車種として2024年3月22日に正式発売となったのがWR-V。リリースによると、4月22日時点での累計受注台数が当初計画の4倍以上となる1万3000台になったとのこと。
  このリリースが発信される2、3日前に自宅最寄りのバス停で20分ほどバスを待っていたところ、立て続けにWR-Vが筆者の前を通り過ぎて行った。発売後約1カ月でたまたまなのかもしれないが、けっして大都会とは呼べない筆者自宅そばで見かけることに、どこか「勢い」を感じていたので、今回のリリースに裏付けを得た気分でいる。
  リリースによると、3つあるなかでのグレード構成比では、もっとも多いのが中間ともいえるZで55%とのこと、ついで最上級ともいえるZ+(プラス)で30%、そしてX(15%)となっていた。ところが、筆者が発売後に某ホンダカーズ店(ホンダ系正規ディーラー)でセールススタッフに聞いたところでは、「圧倒的にXグレードに集中しており、Xだけご注文をいただいてから半年ほど納車までお待ちいただくことになります」と聞いた。ちなみにXグレード以外では、2~3カ月ほどで納車できるのではないかとのことであった。
  WR-Vはそもそもヴェゼルとほぼ同サイズながら、Xグレードで車両本体価格が209万8000円というリーズナブルな価格設定が注目されていた。セールススタッフによると、支払総額でも300万円以下に収まるというのだから、トールタイプの軽自動車のカスタム系モデル並みかそれ以下の予算で購入することができる。
  しかも、Xグレードでもホンダセンシング、オートエアコンなど、基本装備はZやZ+グレードと変わらない内容となっている。それでは上位グレードとの違いはというと、アルミホイールやルーフレールなど、加飾装備が追加になる程度なので、そこもXグレードに受注が集中している理由という説明を受けた。
  リリースでは、人気ボディカラーはプラチナホワイトパールとなっている。これも販売現場で聞くと、「クリスタルブラックパールが圧倒的に多い」とのことであった。セールススタッフは、「じつはWR-Vには5色設定されていますが、クリスタルブラックパール以外はオプション、つまり有償色となります」と、クリスタルブラックパールが人気となっている背景を話してくれた。
  たまたま話を聞いたディーラーの売れ筋がXやブラックパールになっていたのかもしれないが、Xは昨今では稀に見る「お買い得グレード」である。WR-Vはインドから完成車を輸入して販売しており、インドでは「エレベイト」の車名で販売されている。そのエレベイトの最廉価グレードとなるSV(MT)の車両価格は116万9000ルピー(約216万円)となっている。ただし、このSVグレードではホンダセンシングが標準装着されていない。
  インドから完成車を輸入し、しかもホンダセンシングが標準装備となる日本でのWR-VのXグレードはCVTとなっており、それで209万8000円は破格な価格設定といえると同時に、定価で販売したとしても利益がそれほど望めないのは明らか。アルミホイールやルーフレールなど、アクセサリーを装備し、付加価値の増したZやZ+が販売の中心にならないと、たとえWR-Vがヒット車となっても、ホンダが満面の笑みを浮かべることは難しいように見える。
  Zグレードでカーナビ、ドラレコ、ETC、フロアマット、サイドバイザーを装着しても支払総額で325万円程度、ホンダN-BOXのカスタム系でも320万円ほどになるのも珍しくないということなので、断トツで買い得感が高いのは間違いない。
日本市場でも完成日本車を輸入する流れが加速するかもしれない
  ただ、筆者が見ていると、他メーカー車オーナーというよりは、ホンダ車ユーザーの乗り換えが目立っているようにも見えている。販売現場ではトヨタ・ライズと同サイズと期待していたそうなので、ライズサイズ、つまり5ナンバーサイズならばまた違った状況になっていたかもしれない。
  リリースでは、「軽自動車からの乗り換えも……」としているが、この軽自動車の多くはN-BOXとなっているようだ。たとえば、「仕事をリタイヤしたので軽自動車のN-BOXにマイカーをダウンサイズしたがやはりサイズを落としすぎた」といったN-BOXユーザーがWR-Vに注目したり、もともとN-BOXの購入を検討したが、WR-Vの存在を知って購入車種を変更したといったこともあるようだ。
  ハイブリッドも4WDもないという割り切りのよさと、開発の段階から徹底したコストダウンが施された結果がWR-Vのお値打ち価格となっているので、単純に「インド製だから……」というのが買い得感を高めているとは思わないほうがいい。
  いまや人件費などが安いから海外で生産して日本にもってくるということはまずない(タイあたりと比べれば日本のほうが人件費は安いこともある時代)。世界をひとつの市場と捉え、最適な場所で生産してもち込むというスタイルは世界的には珍しくない。
  ただ、日本の自動車ユーザーは原産国にこだわることもあるし、いままではやはり製造品質での見劣りは否定できない部分もあったが、ホンダ車ではすでに中国製のオデッセイも日本に入っているが、大きく見劣りする部分は確認できなくなっている。
  そもそも新車販売市場が最盛期の半分ほどまでに落ちこみ、今後もその流れが止まらない日本市場に向けた専売モデルのラインアップを続けるのが合理的ではなくなっている。世界で売っているモデルのなかから、日本市場にも適しているモデルを完成車輸入するという流れは、中長期的に見れば珍しいことではなくなってきそうである。
  WR-Vの販売計画は月販で3000台となっている。海外生産車でここまで台数を売ろうとするクルマはいままでなかなかなかった。ホンダでは過去にアメリカで生産したアコードワゴンを輸入販売して人気を博したが、そのアコードワゴンでも4代目アコードワゴンで月販目標500台、5代目で約1600台であったから、いままでの海外生産車の輸入販売とは異なる流れでWR-Vが発売になっている様子が伝わってくる。
  もちろん、メーカーそれぞれで生産計画は異なるので、今後ホンダのような流れがほかのメーカーに波及するかはなんともいえない。ただ、WR-Vは現状ではヒットモデルと呼ぶにふさわしい売れ行きになっている。今後はさまざまな国で生産された日本車が日本で販売され走っているかもしれない、WR-Vはそんなエポックメイキングなモデルになるかもしれない。

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