歯ブラシ用金型の製造で国内トップシェアを誇る町工場が、コロナ禍をきっかけにマスクフレームの開発へ 累計50万本超えの大ヒット商品「マスクのほね」誕生ストーリー

2024.05.21 10:30
1972年創業の株式会社武林製作所(所在地:大阪府八尾市、代表取締役:武林美孝)は、歯ブラシ用プラスチック金型で国内トップシェアを占める大阪・八尾の町工場です。コロナ禍に創業以来最大の危機に直面したことをきっかけに、スポーツジムに通うスタッフの困りごとから生まれた、マスク着用時のさまざまな問題を解決するマスクフレーム「マスクのほね®」を企画・開発しました。2020年末に手探りで立ち上げた自社オンラインショップでの発売から、わずか一年足らずで50万本以上を売り上げる大ヒット商品に。一本の「ほね」がいかにして会社最大の危機を救ったのか、そのストーリーを追いました。
歯ブラシ用金型の製造で国内トップシェア。品質を決める金型の精度に高い技術力
株式会社武林製作所は50年以上にわたり歯ブラシ用のプラスチック金型の製造で、国内トップシェアを占めている大阪の町工場です。あまり知られていませんが、本社がある八尾市が日本最大の歯ブラシの生産地であり、私たちが造る金型は地場産業である歯ブラシの生産に欠かすことのできないものとなっています。
日常的に使用される歯ブラシは、品質が使い心地に大きく影響することはご存じでしょうか。品質の低いものは口の中を傷つけることがあるため、歯ブラシの品質を決定する金型の精度が実はとても重要になります。歯ブラシの表側と裏側の形状をそれぞれ2枚の鉄板に彫り込んで、それが合わさった金型の空間に、高温で溶かしたプラスチック樹脂を流し込んで成形するため、金型の微妙なズレが歯ブラシのつなぎ目に段差を作り、使用時の不快感や口内が傷つくリスクを引き起こす原因になるのです。


この細かなズレを防ぐために武林製作所では「細部にわたる緻密な設計」「高精度の工作機械を用いた精密加工」「丁寧な鏡面ミガキ」にこだわり、高品質の金型を造り上げています。特に重要となる最終の手仕上げ工程においては、大阪府優秀技能者表彰「なにわの名工」を受賞した3名の金型職人が、その技術力をいかんなく発揮しています。
コロナ禍で歯ブラシ需要が低下。金型の注文が激減し創業以来最大の危機に直面
毎日の暮らしに欠かせない歯ブラシ。そんな歯ブラシ用金型の製造に長年携わってきた私たちですが、2020年に新型コロナウィルスが蔓延し日本国内がロックダウン状態に陥ったことから、創業以来最大の危機に直面することとなりました。インバウンド客が完全に消滅し、宿泊客はおろか街に出る人もまばらになり、ホテル業界やドラッグストアでの歯ブラシ需要が激減。さらに歯医者さんでの診療も急減、歯ブラシの需要も大きく減少し、歯ブラシ用金型の注文が急激に落ち込んだのです。
金型製造技術を活かして、今の世の中の役に立つことはできないか?社会の悩みを解消する社内アイデアを募集
2020年4月~10月
想像を超える社会の大きな変化と、後のない危機的な状況に直面し、社内では大きな発想の転換が求められました。「これまで培ってきた金型製造技術を活かして、今の世の中の役に立つことはできないか」と考え、新規事業への挑戦を決断。とは言え事業アイデアさえない状態だったので、まずは社員全員で必死に新規事業のアイデアを出すことから始まりました。100個以上のアイデアを出し合い、それぞれの案に対して、市場調査と分析を実施。結果的に絞られた数案の中で、「コロナ禍に直面している世の中で、沢山の方が悩んでいる悩みごとを解消できるのではないか?」という理由から、マスクに関するさまざまな問題を解決するマスクフレームのアイデアが選ばれました。


このアイデアを出してくれたのは、スポーツジムに通う社員でした。運動中のマスクの息苦しさをどうにかしたいという自身の思いから発案された様々な形のマスクフレームを3Dプリンターで試作。何度も検証と改良を重ねました。最終的に「シンプルな形状の方が装着時のストレスがないし、運動中も楽に呼吸ができるのではないか」という結論に至り、たった一本の「ほね」でマスクの内側を支え空間をつくる「マスクのほね」の原型となるマスクフレームの試作品ができあがりました。
実際にお客様の反応を見るために、試作品のテスト販売を行ったところ、購入された方から「マスク生活がとても快適になった」「こんなマスクフレームを探していた」といった評価の声が数多く寄せられました。なかでも当時いちばん大変な状況にあった医療従事者の方から「みんなマスクで大変な思いをしているので、同僚に分けたい」と、何度もまとまった数のご注文をいただくことがありました。さらにその同僚の方からもご注文をいただけたことは、不安の大きかった私たちにとって確かな手応えが得られたとともにとても励みになりました。
当時はコロナ禍で新しい生活様式に移行していく中で、マスクの着用が日常的なものとなっていましたが、その一方で息苦しさや話しづらさ、化粧が崩れるといったお困りの声も増えていました。この「マスクのほね」は医療従事者の方も含め、そんな人々に必ず貢献できるはずだと信じて、急ピッチで開発を進めていきました。
開発から製造、発売までに直面したさまざまな壁。緊迫した状況下での大きな挑戦
2020年11月~12月
この時期は新型コロナウィルスの第3波の緊迫した状況下だったため、発売まではまさに時間との闘いでした。通常なら金型製作に2ヵ月を要しますが、既存の金型を用いることで1ヵ月で金型を完成させました。プラスチック製品を大量に製造する「量産成形」も時間を考えると社内で行うしか方法がなく、これも初めての試みでした。


「マスクのほね」の最大の特徴は、そのシンプルでスマートな形状にあります。目立たないデザインでありながらも、快適な着用感と高い耐久性を兼ね備えています。
特に注力したのは、マスクにしっかり固定するための両端のフックの隙間設計です。この隙間が広いとフレームがずれたりマスクから外れやすくなるなど着け心地に直結するため、製造においても精密な調整を行いました。「マスクのほね」は、金型を精密に削って形成された空間に素材(プラスチック樹脂)を流し込んで成形します。1/1000ミリ単位で金型の削り具合を調整し最適な隙間を作ることは高度な技術が要求されるもっとも困難な課題の一つでしたが、これまで培ってきた金型製造技術により、最適な隙間設計を実現することができました。
さらに、マスク着用時に口周りに十分な空間を確保するためのフレームのカーブの設計は、何十回もの試作と改良を繰り返しました。また耐久性を高めるために、使用する素材(プラスチック樹脂)選びにおいても十数種類の原料でテスト成形を行い、最適なものを選び出しました。
商品を市場に出すにあたり、販売するための自社オンラインショップの立ち上げやプレスリリースの作成、包装資材の選定と調達、包装・梱包・出荷ラインの整備、顧客サポートスタッフの整備といった数多くの準備を、短期間で一気に進めなくてはなりませんでした。金型の企業間取引とはまったく勝手の違う一般消費者向け商品の企画開発をはじめ、発売のための準備や協力会社との調整、発売後の販売対応、金型の追加製造などを短期間でやり抜くことは、私たちにとってまさに前例のない大きな挑戦でした。
メディアで紹介され大きな話題に。メール通知が鳴りやまず社内はパニック状態
2020年12月下旬 発売開始!
自社オンラインショップも何とか立ち上げ、2020年12月23日に配信した
から数日後、想像もしていなかったことが起こりました。テレビや雑誌、ニュースサイトなど沢山のメディアに一斉に取り上げていただき、X(旧:Twitter)などのSNS上でも「マスクのほね」が大きな話題になったのです。


2021年の1月2日から注文メールの通知がスマートフォンから鳴り止まず、一時は3ヶ月待ちとなるほどの非常に大きな反響がありました。いま思えば嬉しい悲鳴なのですが、これまで経験したことのない事態に新年早々、社内はパニック状態に。社員やその家族、協力会社、さらには得意先の会社の方にもご協力をいただいて、全員で何とか乗り越えた、本当に忘れられない出来事となりました。


実際に購入いただいた方からも「会話中もマスクが口に当たらずとても快適」「マスクを一日中使っていても呼吸が楽なまま」「装着しているのを忘れるぐらい違和感がない」「運動中の激しい呼吸でもマスクが凹まない」「1本を3カ月使用しているが耐久性に問題なし」といった本当にたくさんの声をいただきました。これまで企業間取引ばかりで、エンドユーザーの声が届くことがなかったため、こうしたフィードバックには私たち自身とても多くの学びがありました。
お客様アンケート調査から、コロナ禍以降も「マスクのほね」が必要との嬉しいお声
2023年5月8日、新型コロナウィルス感染症がインフルエンザなどと同じ5類に引き下げられ、マスクの着用が個人の判断に委ねられるようになりました。コロナを取り巻く状況の変化とともに国民のマスク着用率も下がり、それに伴ってマスクのほねのニーズも大きく減少するという新たな局面を迎えました。


私たちはこの状況を新たな学びの機会と捉え、以前に製品をお買い上げいただいたお客様にアンケート調査を行いました。その結果、「今も毎日使い続けている」「電車や職場などのマスク着用が必須な場所で重宝している」「ほねの無いマスク生活は考えられない」「感染対策には不織布が一番よいが、呼吸しづらくなるためマスクのほねを使用している」といった150件以上のお客様の声から依然として「マスクのほね」が重宝されていること、特に公共の場や感染リスクの高い環境での利用価値が高いことがわかりました。
感染者の増減を繰り返す新型コロナウィルスや、毎年流行するインフルエンザ、咽頭結膜熱や溶連菌感染症といった様々な感染症の予防策として、また医療機関の屋内や通勤電車の車内、花粉症でお悩みの方など、日々の生活でマスクを着けることが望ましい場面はいくつも存在しています。


アンケートからの気づきをもとに「マスクのほね」でマスク着用時の不快感を解消することが世の中の公衆衛生向上の役に立つと考え、昨年12月に、様々な感染症の感染リスクの高い場面がひと目でわかるパッケージにリニューアルしました。通勤や通学で混みあった電車に乗ることや、病院をはじめとした医療施設や介護施設内で、また食べ物を扱う飲食店や食品工場、不特定多数の観客が大声を出すライブやフェス、旅行の移動中の新幹線や飛行機スポーツイベントなど、お客様アンケートから得られたリスクの高い場面を生活者の方にわかりやすく表示することで、日常生活での公衆衛生の向上に貢献したいと考えています(プレスリリースは
)。
「マスクのほね」で得た多くの経験。今後も時代のニーズをくみ取る商品を目指して
「マスクのほね」の開発では、予期せぬ困難に立ち向かい、乗り越えていく経験を通じて、柔軟な発想や対応力、目標達成のための強い意志、そして団結力を身に付けることができました。このことは私たちにとってとても大きな自信になりました。
これからも武林製作所では、長年培ってきたプラスチック金型の製造技術を活かして、変化し続ける時代のニーズをくみ取った「骨のある商品」を作っていきたいと考えています。


<参考URL>
【マスクのほね販売サイト】
 ・BASE
 ・Amazon
 ・Yahoo!ショッピング
【X(旧:Twitter)】
【Instagram】
【Facebook】
【YouTube】
【株式会社武林製作所】
<「マスクのほね」商品詳細>
材質:PBT(ポリブチレンテレフタレート)
色:白色
サイズ:175ミリ用、165ミリ用、145ミリ用、125ミリ用(4サイズ展開)
生産国:日本製

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