イロモノみたいだけど4000台近くも売ったガチの水陸両用車! 日本でも5台が販売された「アンフィカー770」は水陸両用車に人生を捧げた男の傑作だった

2024.05.13 17:30
この記事をまとめると
■3878台も生産された水陸両用車「アンフィカー770」
■アメリカ市場を狙ったアンフィカー770だったが高価でありメンテナンスも大変だった
■アンフィカー770を作り上げたハンス・トリッペル氏は一生涯を水陸両用車の開発に捧げた
キュートな見た目の本格派水陸両用車
  水陸両用車と聞けば、たいていの方は軍用車両か観光地にときどきある乗り合いバスを改造したものを想像するかと。やはり特殊な目的で作られるだけあって、そうしたクルマの生産台数はさほど多くはありません。
  ところが、1961年に登場したアンフィカー770という水陸両用車は、なんと3878台もの生産台数を誇り、うち5台はヤナセ系列のウエスタン自動車が日本国内でも販売したという大ヒット作! フォード・サンダーバードの幼虫みたいなルックスですが、その秘めた歴史はずっしりと重く、密度の濃いものでした。
  まず、アンフィカーという車名の由来は水陸両用を意味する「アンフィビアス」(amphibious)と自動車を意味する「カー」(car)をくっつけたもの。770は陸上走行時の最高速度が約70km/hだったことが理由とされています。
  1961年から1968年まで、西ドイツ(当時)のカールスルーエにあったIWK(Industoriewerke Karlsruhe)の工場で製造されたとのことですが、このIWKはBMWの出資元であるクヴァント・グループが所有するメーカー。となると、アンフィカー770はBMWの従弟みたいな存在といってもさほどこじつけにもならないでしょう。
  オープンボディとフィンテールを装備したなんちゃってアメ車みたいなボディは、FRPではなく鋼板をプレスしたもの。それゆえ、水上走行したあとのメンテナンスを怠ると平気でボディが錆びると噂されています。ボンネットフードの下にエンジンはなく、トランクになっているのですが、これまた「しっかり閉めても荷物が濡れる」とのこと。
  ちなみに、こうしたコメントは現存する公式オーナーズクラブでも散見することができます。
  エンジンは直列4気筒のトライアンフ・ヘラルド、1147ccから43馬力を絞り出し、ボートと同じく車体後部に搭載されています。陸上では後輪駆動であり、水中に入るとギヤを使ってプロペラ駆動に切り替えます。
  ふたつのプロペラは6 1/2ノット(時速7マイル)の推進力を発揮しつつ、舵はなんとフロントタイヤが担うのだそうです。
  また、水中での後退、およびブレーキはプロペラを逆回転させることで可能。ウエスタン自動車による発表会では、水槽のなかを航行するデモンストレーションまで行ったといいますから、それなりに小まわりも効いたのかもしれません。
開発者の執念がアンフィカー770を誕生させた
  アメリカを主なターゲットとして、価格は2800~3300ドル(発売時期によって価格が変動した様子)と設定されていましたが、当時のシボレーやキャデラックよりも高価だったこと、前述のとおりメンテナンスが船舶なみに大変だったことから、販売は3000台程度に終わったとされています。が、実際はアメリカの法規(主に河川と環境系)が変わったことで、著しく航行範囲が狭められてしまったことだとされています。
  ところで、アンフィカー770の生みの親、ハンス・トリッペル氏は独学で自動車づくりを学んだ努力の人。第二次大戦後、一時メルセデス・ベンツに身を寄せた際、300SLのガルウイングを考案したことでも有名だそうです。
  もっとも、彼が一生をささげたのはなんといっても水陸両用車。戦時中はナチから資金援助を受けてSG6という水陸両用車をドイツ陸軍むけに開発し、20台の完成車を納めています。アンフィカー770がまがりなりにもクルマの形をしているのに対し、SG6はボートに車輪がくっついたスタイルで、フォルクスワーゲンでフェルディナンド・ポルシェ博士が作ったあまりにも有名な水陸両用車「シュビムヴァーゲン」にそっくり!
  ですが、トリッペル氏のほうがひと足早く開発・納入をしていたのは確かで、ポルシェ博士のほうが後追いなのです。が、トリッペル氏はナチス党内でどういうわけか評判が悪く(頑固な職人タイプだった?)水陸両用車のお手柄はポルシェ博士にもっていかれてしまったのでした。
  その後の数年も不遇な暮らしを続けていたのですが、1961年、前述のクヴァント・グループの総帥、ハラルド・クヴァントが救いの手を伸ばしアンフィカーの事業化にこぎつけることができたのです。
  一般向け水陸両用車としては破格の生産台数を誇ったアンフィカー770でしたが、トリッペル氏はさほど満足しておらず、事業を畳んだあとはドイツ連邦軍向け水陸両用車コンサルタント事業などを行いながら、引き続き水陸両用車の開発を続けていたそうです。
  ちなみに、最後の水陸両用車のプロトタイプを作り上げたとき、彼は81歳でした(2001年、93歳で逝去)
  ナチのくだりは承服しかねる方もいらっしゃるでしょうが、ポルシェ博士のように当時の売れっ子エンジニアはナチスに利用されがちでしたから仕方ないっちゃ仕方ありません。それよりもアンフィカー770によせられたトリッペル氏の執念や野望に思いを馳せてみれば、男としてなにかをやり遂げたくなる、といったらこじつけに聞こえてしまうでしょうか。
  昔もいまも、トリッペル氏のような一心居士に憧れる方は決して少なくないはずです。

あわせて読みたい

2台で5億円超えの空冷ポルシェ911を従えて日本上陸! 話題の「シンガー」がコーンズと手を組んだ
WEB CARTOP
三菱自動車、フィリピンで2023年度の販売台数大幅増加。新型トライトンの投入も後押し
ドライバーWeb
おしゃれしながら本格むくみケアができる着圧ソックスに新色登場!
PR TIMES Topics
ポルシェ911のレストアで“レストモッド” ブームを牽引する「シンガー」がコーンズと提携|Singer
OPENERS
初の代官山蔦屋書店での開催!|Ralph’s Coffee and Carsでポルシェ911ターボを祝う
octane.jp
【八屋】オリジナルかき氷第2弾「とうもろこしとほうじ茶のかき氷」発売
PR TIMES Topics
“911”への情熱が結実! もとロックミュージシャンが手掛けるポルシェ911レストア「シンガービークルデザイン」
&GP
コーンズ・モータースがシンガー・ヴィークル・デザインの正規代理店契約を新たに締結
octane.jp
【PAPABUBBLE】キャンディチャームカプセルトイに新作のフルーツ柄ラバーキーホルダーが登場
PR TIMES Topics
964型「ポルシェ911」のレストアを手がけるシンガーがコーンズとパートナーシップ契約を締結
webCG
1990年の日産マーチRが660万円! クルマの文化祭は今年も熱かった
GOETHE
乗ってみてわかった…!大阪万博の目玉「空飛ぶクルマ」の運行許可が遅れている「意外な理由」
現代ビジネス
連載:アナログ時代のクルマたち|Vol.24 ポルシェ356Aスピードスター&356Aカレラスピードスター
octane.jp
「フィヨルドルフト」、愛された時代に捧げるノルウェー・ポルシェの祭典
CARSMEET WEB
クルマの雑学面白すぎ 意外な意味が潜む自動車メーカー[ロゴ]の由来とは
ベストカーWeb
ポルシェを抜いた伝説のスカイライン! 「技術の日産」の源流はプリンス自動車にアリ? 日本中が夢中になったS50系スカイラインの軌跡
ベストカーWeb
連載:アナログ時代のクルマたち|Vol.26 フェラーリ512S
octane.jp