神戸市が女性起業家の支援に「本気」で取り組む訳とは。女性の起業環境整備事業「S-Wing!」プロジェクト 市職員×支援家インタビュー

2024.03.30 11:00
多様性が謳われる現代で、まだまだ少ない女性リーダーの存在。神戸市では、スタートアップから生み出される新しいアイデアやテクノロジーで未来の生活を豊かにする街「Life-Tech KOBE」をビジョンに掲げています。産官学連携のもと包括的なスタートアップ支援を行うことで、次世代のリーダーを支えたい、その心の内に迫ります。


 神戸市では、スタートアップエコシステムの構築に向けた取り組みの一環として、株式会社神戸新聞社、一般社団法人リベルタ学舎、株式会社ROUGHLABOとともに、女性起業家をサポートする環境整備事業「S-Wing!」を2023年10月から2024年3月にかけて実施。


 今回、神戸新聞社では、「S-Wing!」の実務担当であった神戸市 経済観光局 新産業創造課イノベーション専門官の織田さん、福田さん、先輩起業家として支援を担当したリベルタ学舎の湯川代表、ROUGHLABOの山本代表に、「女性起業家支援事業のスタートに至る背景や支援者側の思い」を聞きました。
織田 尭(おだ たかし)
・神戸市 新産業創造課 イノベーション専門官
・様々な事業の実施を通して、神戸市から、個性を発揮して“活き活き”と生きる人を増やしていきたいと思っています!
福田 志織(ふくだ しおり)
・神戸市 新産業創造課 イノベーション専門官
・起業家やスタートアップへのサポートを通して、神戸をより面白い地域にしたく、毎日奔走しています!
湯川 カナ(ゆかわ かな)
・一般社団法人リベルタ学舎代表理事/関西ベンチャー学会理事
・何か新しいことをしたい、それで社会をちょっと面白くしたい。そういう個人や組織に寄り添い続けています。
山本 宝(やまもと たから)
・株式会社ROUGHLABO 代表取締役
・神戸では「北野メディウム邸」「ティファニーの休日」という異人館を運営しています。北野異人館をチャレンジする女性達が集まる場にしたいです。




聞き手
神戸新聞社 メディアビジネス局営業部 メディアデザインチーム 青木 友紀菜






神戸経済の持続的成長を後押しすべく女性起業家のエコシステムを構築する
ーなぜ今、この事業に取り組むことになったのでしょうか?


―織田(神戸市)
実は当初、私自身「起業家の中でも”女性起業家”と分けるのはいいことなのか?その必要があるのか?」という疑問も少し持ちながら、この事業の構想を練っていました。実際に、事業構想のためのヒアリングを重ねる段階でも、そういった声をいただきました。
 でもその反面、ヒアリングのなかで、これまでの男性社会的な働き方の名残を実感することが多いという意見もありました。既存のビジネスとは少し違う発想から生まれた構想を相談できる場や、子育てをしながら相談できる場が欲しいという声や、いざ事業や起業に興味があってもそれを日頃生活の中で接している人に相談しづらく、近い関心がある仲間と出会える場所が少ないという意見もいただきました。
 重厚長大産業の歴史を持つ神戸市は、女性の就業率が全国的に見ても低い都市です。就業率が低いというのは悪いことではありませんが、「本当は他のキャリアも気になっているのに踏み出せない」のであれば、そういったチャレンジや環境にアクセスできる場を作ることで、個人として“活き活き”と働く人が増え、それが街の力になると思います。
 これからの時代、より多様な働き方や生き方の選択肢が求められます。その選択肢の一つとして起業に関心がある女性や、すでに起業して前に進んでいる女性が、仲間や先輩起業家と出会い、市内外の「自分に合う支援」と出会える、そうして街全体で支援できる環境を作ることが神戸の街にも必要と考え、S-Wing!事業を企画しました。


―湯川
私自身は、社会人のキャリアをヤフーの創業というベンチャーの現場から始め、その後自分で小さな会社をふたつ起業して現在に至ります。その経験から強く思うのは、「起業をして本当に良かった」ということと、「うかつに起業なんかするもんじゃない」というふたつです。って、めっちゃ矛盾していますが(笑)
前者についてはやはり、すべて自分が責任を持てるということ。すべて自分が納得できる生き方を選べるのは、そうしたい人にとってたまらない魅力です。一方で後者については、とはいえ自分の未熟さなどから、気づけば巨大な責任を負ってしまうことがあること。社員を雇ったり、投資や融資を受けたりというのはやはり、恐怖を感じることもあります。また、どうしても多くの時間をかけるので、家族との関係も変わりがちだったり。
いま世の中はスタートアップブームで、起業の明るい部分ばかりが語られます。しかし経験者としては、事業企画構築の支援をしながらも、起業の良い面とリスク面、両方のリアルを伝える場が必要だと感じています。覚悟を決めて経営しながら生きる者同士ならば、このあたりを共感しあうこともできるのですが、とくに女性の場合だと、そもそもまだまだ女性起業家の絶対数が少なく、織田さんがヒアリングで耳にされたように、経営面の失敗や家族との関係の変化などのリアルを語ってくれる仲間や先輩とは、なかなか出会うことができません。それならば、他ならぬ神戸で女性起業の当事者として倒産寸前の経営危機からシングルマザーになるまでを濃密に(笑)経験してきた私が、起業支援プログラムとともに、女性起業家コミュニティと支えるメンバーの集まる環境を提供すべきではないかと考えました。


 織田さんと湯川さんは、「女性起業家のための居場所」が少ないという共通の課題を感じていたのですね。「ひとりの先輩起業家として、自らの経験をシェアできれば。」「ひとりじゃなくてみんなで、気軽に相談し合えるコミュニティを作りたい。」そうした想いのある講師やメンターが集まって、今回の支援事業がスタートしたということですね。


【リリース】
各自の取り組み段階に応じた支援を展開
―起業関心層向けの伴走プログラムコース1と起業済みの方を対象とするコース2に分けて支援事業を展開した訳や狙いとは?参加メンバーの印象などはいかがでしたか?


―福田(神戸市)
神戸市には、ベンチャーキャピタル等からの資金調達や上場を目指すような女性起業家は多くありませんが、すでに独立・起業されてご自身で事業を営んでおり、さらにもう一段その事業を成長させたい、スケールアップさせたいと考えている方は一定数いらっしゃいます。一方で、いつかは起業してみたいと思っているものの、具体的にどうしたらいいか分からない、最初の一歩を踏み出す勇気がないという方も多く、両方の属性からたくさんの人がキックオフイベントに参加くださいました。
すでに起業されていて今後事業成長を目指す方と、一から事業計画を考える方とでは必要な知識や支援が異なるので、事業フェーズに合わせて2つのコースを設け、前者では事業戦略や財務戦略といった講義と個別メンタリング、後者では各自のアイデアを実際のビジネスに落とし込むための連続講座を中心とした内容にしました。


―湯川
私は大学で100名のビジネスプラン構築を支援する授業を担当した経験などから、「はじめの一歩」を形にするところをサポートする役割が得意です。自分の軸を見出し、それと世界を重ね合わせて社会に価値を生み出す仮説を見出す部分ですね。
今回私はコース1をメインに担当し、「私なんて起業とは程遠い」と思っていた方から、すでに10年ほど個人事業をしているけれど事業を再構築したい方まで、20名のサポートをしました。
毎月講義を聞き、自身のビジネスプランをブラッシュアップしてフィードバックを受ける、全6回のコース。まず最初に「私は、みなさんのビジネスが成功するかは分かりません。なぜなら新しいことをするのが起業だからです。そのかわり私は、ロジックの破綻を指摘したり、顧客は誰?などと質問することはできます。ただ、その答えはマーケットの中にあります」ということをお伝えしました。突拍子もないように思えるビジネスプランだって、顧客がひとりいれば、ビジネスになっちゃうんですよね。そんなビジネスそのものの自由さや可能性というのも、講義を通して感じていただければと思っていました。ビジネスを見出す「方法」を学び、一度形にしてみることで、人生の選択肢に「起業」が入るケースが増えればと考えていました。


―山本
私たちROUGHLABOは、事業を拡大させることが目的のコース2を担当させていただきました。月に1度のセミナー及びメンター制度を通して事業をスケールアップさせるプログラムです。受講された10名の女性起業家の皆様から事前に課題をお伺いし、今求められていることを把握することで、一人一人の状況に合わせたプログラムにカスタマイズしました。私自身も挑戦しているプレイヤーの1人として、「こんなプログラムがあったらいいな」という目線を意識してプログラム作りに携わりました。
走り出した起業家に見られる傾向として急に孤独になったり、周りからの期待で焦りを感じるといった特徴がありますが、本プログラムに参加された起業家の皆さんからは少し違った様子が見受けられたように感じます。方向は違っても、同じタイミングで挑戦する仲間と毎月顔を合わせて状況をシェアすることで安心して高めあい、それぞれの道に向かってより笑顔で力強く前に進んでいるように見えました。やっぱり人は笑顔でいる時に一番輝くんだと改めて実感しました。




約30人の参加者が事業計画を発表
参加者のうちオンラインピッチで選考を突破した10名は、3月20日アンカー神戸で成果を発表。海外旅行を模擬体験できるすごろく教材を利用した国際人材育成事業を発表したキャロル・ファンさんと、ダイバーシティ&インクルージョン研修を企業に提供する事業を発表した荻原佳音さんが優秀賞を受賞しました。


【リリース】
―受賞された2人をはじめ約30人の参加者を半年間支援してきて感じたことを教えてください。


―山本
みなさんそうですが、受賞をされたお二人はとくに、講師やメンターに積極的に相談をされていました。当初はいくつかある事業アイデアを絞り込むのに悩んでいらっしゃった印象でしたが、経営者の先輩方への相談を通して、最終的に事業計画が洗練されブラッシュアップされているように感じました。相談を受ける側も本気で親身になってアドバイスをしてくださっている様子を拝見して、双方に熱量を感じる場になっていたと感じます。


―湯川
参加者には、育休中の方もいれば、子どもを保育園に預けるワーママの方も、シングルマザーの方、専業主婦の方、結婚されていない方、子育てを卒業した方など、実に様々な方がいらっしゃいました。
最終的には、育児中の女性によるママのための保育士付きキッチンカーや、栄養士による有機野菜農家支援を視野に入れた料理教室など、たくさんの「現場で見つけた課題」に基づくビジネスプランが形になりました。最初は難民支援の案から始めた方が、自分がしたいこと・自分ができること・社会に価値を生むことを毎回懸命に考えて、妊娠・出産で仕事ができなくなった俳優に新たな仕事を提供する人材系事業にたどり着かれたケースもありました。
そして一番印象的深かったのは、コース1の参加者が、予選を兼ねたオンラインピッチに向けて合同練習会を自主的に開催しフィードバックをし合うなど、本当にお互いを高め合うコミュニティを築いていたことです。ファイナルピッチに進めなかった参加者も当日は会場に来て仲間を応援していましたし、ファイナルに残った参加者は「この場に来られたのはコース1のみんなのおかげ」と涙ぐんでいました。
 起業やビジネスというと競争と思われがちですが、実際にはスタートしたての弱者だからこそ、他者と力を合わせてビジネスをスケールさせていくことが必要となるケースが多くあります。最近流行のアントレプレナーシップ理論「エフェクチュエーション」でいう、「クレイジーキルト」(顧客、従業員、取引先だけでなく、競合他社等もパートナーとなって一体としてゴールを目指す関係性)ですね。自分だけが勝ち抜くのではなく、周囲の仲間と全体で勝ち抜こうとするから、社会に価値を生むところまで進むことができる。
起業家に「答え」を教えてくれる「先生」はいませんが、ともに歩む仲間がいて、たまに相談できる先輩やメンターがいれば、あとはマーケットと対話しながら「答え」を見出していけばいい。この日の参加者のみなさんが、講師がいることも忘れてお互いにフィードバックをしあい、初めて交流した人と情報交換をしてリソースを持ち寄り、ともに考える姿を見て、この自走する様子こそが、彼女たちの半年間の「成長」なのだと感じました。




―支援者として感じた課題を教えてください。次年度の支援事業の展開についてもお聞かせください。


―湯川
このプロジェクトは、地域の未来に危機感をもつ神戸市の職員さんの「異次元の支援をしたい」という熱い思いから始まりました。織田さんや福田さんはじめ神戸市の職員さんと毎週、あるいは週に2度も顔を合わせ続けました。そうして行政の「本気」をひしひしと感じながら、私たちも「本気」のサポートをしてきました。故に民間側の事業パートナーも、異次元の覚悟が求められます。まぁ、起業しようなんていうクレイジーなひとたちの熱量を受けるのですから、主催者側にもそのくらいの覚悟は必要ですよね。
次年度の支援については、よりマーケットに開かれた、想定クライアントからのフィードバックを気軽に受けられるようなものになると良いなあと思っています。ビジネスは、自分を愛してくれる人に出会う旅、ですから。私は、これからも神戸に新しい起業家が生まれ続ける支援とコミュニティづくりを続けたいと思っています。


―山本
先ほど湯川さんが仰っていたように、S-Wing!は6ヶ月という期間を経て、参加者の絆が深まり自然と助け合い、切磋琢磨し合えるコミュニティに育ったと私も感じています。時間が経つに連れて、市内での知名度も上がっていき、起業家育成の場として価値のある環境になったのではないかなと。実際にプログラムが開始して数ヶ月後に「私も知っていたら応募したかった」といったご連絡をいただくケースもあり、プログラムを募集・始動する段階での露出を増加できればと思います。神戸市全体で女性起業家を生み出す機運が高まっていることを、次年度はより広くアピールしていく必要があるのではないかと感じました。


―織田
湯川さんや山本さんが言うように、参加者が自主的にコミュニティの中で助け合ったり、事業の中で当初予定していなかった自主的な勉強会を自発的に開催するなど、講師陣・メンター、委託事業者さんを含むあたたかくて力強いコミュニティができたと感じています。本当に、関係者全員が熱量高く参加してくださいました!
 また、最初にお話ししたように、男性社会の名残りがまだある現代の社会で、行政として実施する事業であるからこそ安心して参加でき、仲間を見つけることができたという意見もいただきました。
支援事業を継続するなかで、起業に挑戦して経営に移るフェーズの方や事業拡大に取り組む方、マネタイズが難しい社会的な起業に挑戦する方からの参加が増えてくると思いますが、既存の支援の枠組みだけではサポートがまだ十分でないと感じています。
 起業家は、世の中の課題を自分ごとにし、誰に頼まれずとも進んで行い、世の中を良くしてくれる方々であると思っています。決して楽な道ではなく、最終的には自身で決定し・行動する必要があります。だからこそ行政として、とくに初期の段階でサポートをし、事業化が見えた段階で民間の支援者と連携して支援をしていくような、神戸の街全体で応援できる体制を作っていきたいと思っています。
アンカー神戸での対談の様子=神戸市中央区(撮影・なりわいカンパニー株式会社 フォトグラファー 川本まい)

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