カローラの名を使ってもダメだった! 格下の「シエンタ」に食われた「スパシオ」という「なんちゃってミニバン」の悲劇

2024.03.15 17:20
この記事をまとめると
■カローラシリーズ初のミニバンがトヨタ・カローラスパシオだった
■カローラがベースのため、ミニバンとして使用するには窮屈だった
■2代目カローラスパシオは、1、2列目席の快適性を重視したパッケージに変更された
2代で消えたカローラスパシオを振り返る
  1990年代は日本のファミリーカーの変革時期だった。そう、1994年に初代ホンダ・オデッセイ、1996年に初代ホンダ・ステップワゴンが登場し、当時としては斬新だったFFレイアウトの多人数乗用車=乗用ミニバンという新しいカテゴリーが誕生したのである。もちろん、オデッセイ、ステップワゴンともに大ヒット。それをほかの自動車メーカーが黙って見ているはずもなく、急遽、3列シートの乗用ミニバンを続々と登場させたのだ。
  その1台が、ステップワゴンの対抗馬としてトヨタが2001年に発売したトヨタ・ノアに先駆けること4年、1997年にデビューしたカローラスパシオだ。初代は、もちろん当時のカローラがベースで、もっこりとした曲面を生かしたリヤセクションが特徴のエクステリアに2列シート4人乗り、3列シート6人乗りが設定され、パワーユニットは1.6リッターと1.8リッターを用意。
  しかし、当時のカローラベースのボディサイズ(全長4185~4210×全幅1690×全高1620mm、ホイールベース2465mm)ゆえの2、3列目席の中途半端な狭さから、ミニバンブームの最中とはいえ、ヒット作とはならなかった。
  そこで、2代目スパシオを、初代ノアのデビュー年と同じ2001年に登場させる。
  エクステリアデザインはドシリとした重厚さあるもので、リヤにいくほど切れ上がったショルダーラインを特徴としたエクステリアデザインの進化は著しかった。しかも、普段あまり使われない3列目をハンモック状の簡易シートとして割り切り、1・2列目席の快適性を重視したパッケージに変更。モデルバリエーションは品のいい標準車、エアロパーツを纏ったスタイリッシュなエアロツアラーを揃える。エンジンは1.5リッター、1.8リッターの2本立てである。
  基本シートレイアウトは2列。オマケ程度の3列シートを備えるものの、3列まで使うと荷物はまるで載らず、3列目席は一体式かつどう見ても緊急席でしかないのハンモック状だけに、大人の乗車は厳しいものだった。
  シートアレンジも限られ、まずは3列目を畳んだ荷室拡大モード。このとき3列目席がフロアに完全に格納されるので、いかにも畳んでますといったカッコ悪さはない。2列目はじつは3分割式。中央部分を倒すとひじかけに。タンブルして倒せば広大な荷室になるが、ロープで固定する手間が面倒だった。よって、スパシオを買った人は、基本的に3列目席を畳んで、荷室を拡大、というか、使えるようにしていたのである。
  荷室部分を具体的に説明すると、開口部地上高600mmは低くていいとしても、3列目席使用時はないに等しい。しかし、3列目席を畳むとフロアはほぼフラットになり、幅、奥行きともにたっぷり。4人分の小旅行用荷物やスーツケースも無理なく積める容量になる。左壁面にはデッキサイドポケット、右壁面にはDC12V電源ソケットも備え、あくまで2列シートで使う場合には、なかなか使い勝手のいいコンパクトミニバン、いや、コンパクトトールワゴンといえたのだ。
追い打ちを掛けるようにシエンタ、パッソ・セッテが登場
  とはいえ、ミニバンのカテゴリーにいながら、繰り返すけれど、2列5人乗りの背高ワゴンというのが実際のところで、とりあえずこんなものもあります……という感じのカローラをベースとした3列シートミニバン風の1台でしかなかったのも事実。1代目よりはマシだった2代目が2007年に生産を終え、たった2代で消滅した理由は、しかしそれだけではない。
  2003年には当時のミニバンブームに乗ってトヨタはシエンタ=コンパクトミニバンを華やかに登場させ、スパシオのウィークポイントでもあったシートアレンジの簡便さを「片手でポン」のアレンジで実現。エクステリアデザイン的にもキュートで、若い女性が飛びついたことはいうまでもなく大ヒット。スパシオと違い、2024年のいまでも人気の3代目が存在する長寿モデルとなっている。
  そんなシエンタがあったから、スパシオはたまらない。何しろ車格的には下のシエンタのほうがホイールベースは長く、3列目席の空間もずっと広く使えて、例のシートアレンジもより簡単。しかも、1.5リッター同士のエンジンもシエンタ用のほうが新しく燃費もいい。それでシエンタより高価なのだからもはや立場なし。スパシオが優位なのは小まわり性ぐらいだったのである。
  さらにスパシオの存亡に追い打ちをかけたのが、2004年登場の、ダイハツと共同開発した初代パッソ(ダイハツ版はブーン)の存在だ。当初は主に女性向けのハッチバックコンパクトカーでしかなかったものの、2008年末には無理矢理3列シートのパッソ・セッテを追加(ダイハツ版はブーン・ルミナス)。
  そのハイライトは2列目席にあり、シートは150mmスライドするベンチタイプのみでフロア中央にはトンネルの出っ張りがあったものの、身長172cmの筆者のドライビングポジション基準で、頭上に185mmはともかく、膝まわり方向には最大240mmもの、当時のノア&ヴォクシーを凌ぐスペースがあるのだから凄かった。
  3列目席はさすがに緊急席的であり、2列目席ウォークインによる乗降性はまずまずだが、シートが平板で体育座りの姿勢を強要されるのは致し方ないところ(クッションが前下がりに感じられた)。膝まわりスペースはゆとりたっぷりの2列目席を前出しすればなんとか座れる膝まわり空間が出現するものの、座り心地、居心地は決して褒められたものではい……という印象だった。が、ハンモック的シートのスパシオよりはマシだったのだ。
  荷室は床下収納があり、シエンタの反省もあって3列目席の格納操作がベルトを引くだけと圧倒的に楽で簡単なところが魅力ではあった。シエンタの存在はもちろん、価格的にもリーズナブルで、「とりあえず3列目席があり最大7人が乗れないでもない」パッソ・セッテの登場も、同門のスパシオの寿命を縮めた原因と言えるのではないか。
  1994年のホンダ・オデッセイ、1996年のホンダ・ステップワゴンから始まった第一次ミニバンブームの後期には、そうしたなんちゃって3列シートの即席ミニバンが、他社からも続々と登場した時代であった。それは自動車メーカーだけの責任ではなく、需要と供給の関係で、ミニバンブームに乗っかりすぎた、とりあえず3列シートを買ってみよう……という発想に盛り上がったユーザーサイドにも責任はあるように思える。

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