運転代行サービスの「起源」は黒部ダム建設!? 誕生秘話と人手不足に悩む現状

2024.03.10 10:00
この記事をまとめると
■運転代行サービスはもともと黒部ダムの飲み屋街の独自サービスから始まった
■1970〜80年代に運転代行サービス業が全国に知れ渡るようになった
■飲酒運転の厳罰化などでニーズが拡大したが、運転手不足に悩まされている
運転代行誕生のキッカケはダム工事!?
  夜も更けて、時間はとうにてっぺんをまわり2時になろうとしている。店もそろそろ閉めたいのだろう、ママが「代行呼ぼうか?」と訊ねてくる。家まではクルマで20分の距離。いくら酔い覚ましとはいってもとても歩く気にはならない。明日は朝から営業先に直行だから、クルマを置いていくわけにもいかない。「ああ、頼むよ」と観念をにじませた声で告げる……。
  なんていうシチュエーションが、日本のあちこちで起きていることと思います。やや唐突ですが、みなさんは「運転代行サービス」を利用したことがあるでしょうか?
「運転代行サービス」とは、飲酒(または怪我や病気)で運転ができなくなった人のためのサービスです。利用者の元にクルマ(随伴車)1台とスタッフ2名で向かい、利用者のクルマの運転をスタッフが代行して送り届け、またクルマ1台にスタッフ2名が乗り込んで帰社するという仕組みです。
  電車やバスなどの公共機関が豊富にある都心に住んでいる人はあまり縁がないかもしれませんが、郊外や地方都市に住んでいる飲み好きの人にとって、いまや必需のサービスといっていいでしょう。
  ここではその「運転代行サービス」がいつから始まったのか? いまの状況はどうなのか、ということにフォーカスを当てて話してみたいと思います。
■サービスの始まりは1960年代まで遡る
  日本での「運転代行サービス」の起源は、1960年の半ばくらいといわれています。
「運転代行サービス」の業界を見守り、飲酒運転の抑止のためにさまざまな活動をおこなう「JDA(公益社団法人・全国運転代行協会)」の調べによれば、運転代行のサービスを初めておこなったのは、富山県にある黒部ダムの建設のときという説が濃厚のようです。ほかにも秋田県で古くからおこなわれていたという話や、早稲田大学の学生が自分たちのためにサービスを作ったという話もあるようですが、ここでは運転代行の保険を黎明期から取り扱う保険会社が持っている記録という裏付けがあるということで、この黒部説をメインとして紹介します。
  黒部ダムの建設は、1950年代に起こった深刻なエネルギー不足への対策としておこなわれた国家事業です。予算総額は500億円以上、就労人数はのべ1000万人という、当時の東京都の人口に匹敵する人数が関わっていました。
  それだけ多くの人たちが肉体労働に勤しむこの地域では、仕事終わりに一杯ひっかけようと、中心街の飲み屋に繰り出すのは必然の流れでしょう。送迎のバスなどがあったとしても、さすがに飲んだ後の遅い時間の帰りは自分の足で戻らねばなりません。次の日も当然仕事があるわけなので、飲酒運転を承知で飲み屋の行き帰りをクルマで行う人たちも少なくなかったでしょう。
  そこで問題になったのが飲酒運転での事故です。当局が大がかりな取り締まりをおこなうようになる前に、防衛策として飲食店側がお得意さんたちのために、帰り道のお客さんのクルマの運転を代行するサービスを始めました。
  これがいまに続く「運転代行サービス」の始まりといわれています。
■2004年の「適正化法」の施行で本格的な制度が浸透
  1960〜70年代にかけての高度成長期には日本のあちこちで黒部ダムのような大規模な建設がおこなわれていたので、それにともなって代行サービスの需要も増加して全国に広まりました。
  ざっくりですが、1970年代の後半には、日本各地の飲み屋さんに「運転代行サービス」の連絡先が書かれたカードが貼られていたという話もあり、一般の飲み客にも浸透していたようです。
  しかしまだその頃は、サービスの業者が個々の考えで業務をおこなっていた状況のため、お客さんのクルマを代行運転するのに普通の免許があればいいという考えのところも多かったと聞きます。なかには白タクに近いスタイルのところもあったとか。
  そのまま運行の頻度が上がれば、当然ながら事故やトラブルの数も増えていきます。そうなると警察当局も対策に動かざるを得なくなり、世の中の飲酒運転の摘発数の増加という背景もあって、2004年に「自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律」という、「運転代行サービス」に関する法律が施行されました。
  この法の施行により、認可がない業者は営業できなくなりました。認可にはいくつかの制度が定められていて、代行運転をおこなうドライバーは二種免許が必要になりました。乱暴にいうとタクシーに似た業務体系が求められるようになりました。
  サービスを行う会社側はハードルが上がりましたが、利用者側にとっては安心ですし、飲酒運転が厳罰化したことで利用数が増加し、サービス業者の数は伸びていったようです。
なかなかドライバーが集まらない実情とは
■コロナ禍で大ダメージを受けて数が激減
  いまでは「運転代行サービス」は、郊外や地方のアルコールを提供する飲食店では当たり前のサービスになっていますので、かなりの数の会社があるのだと推測できますが、実際はどれくらいあるのでしょうか?
  令和4年の時点では、日本全国で約7800社が営業をおこなっているそうです。8千弱というと、おおよそパチンコ店の数と同等なので「けっこう多いな」と感じましたが、それだけ全国各地の地域に浸透している証と見ることができます。
  しかし、その業者数は、コロナ禍の前と比べると約1割の700社くらいが廃業に追い込まれてしまったそうです。台数で見るともっと深刻で、コロナ禍前の令和元年時点では2万4000台が運用されていましたが、令和4年では1万7000台と3割も減ってしまっています。
  その数字からは、コロナ禍を乗りきればまた利用者数が戻ってくるという希望を胸に、台数を絞って生き残りを図ったことが窺えます。
■いまはドライバーの補充が最優先課題
  コロナ禍が明けて、それまで溜まったウップンを晴らすようにみんなが飲食店に繰り出し、街は以前の活気を取り戻したように思えますが、その一方で、「すいませーん、代行呼んでください!」>>>「ごめんなさい、いまの時間捕まらなくて……」というシーンもよく見かけます。
  コロナ禍の影響で減ってしまったドライバー要員が戻ってこないために、需要は戻りましたが、供給が追い付いていないという状況になってしまっているようなのです。
  先述のように代行サービスのドライバーは「二種免許」が必要です。これは新たにこの業務に就きたいと思う人には大きなハードルです。しかも代行サービスの営業は、時間が夜から朝にかけてと短く偏っていることから、副業を持っている人でないとバランスが取りづらいという側面もあります。それらの要件で、一度離れたドライバーがなかなか戻ってきてくれないそうなんです。
  それが遠因として関わっているかどうかを示すデータはありませんが、ここ数年で飲酒運転の検挙数が増えているという報告も聞こえてきます。
  いまや「運転代行サービス」は飲酒運転を減らすための重要なシステムのひとつとなっています。協会と「運転代行サービス」の会社の多くはドライバー募集のハードルを下げるようにと、免許取得支援や業務のサポート、講習会などの支援策を講じているそうです。もし「やってみたいけど不安があるし踏ん切りがつかなくて……」と考えている人は、JDAまたは近くの「運転代行サービス」会社に問い合わせしてみてください。

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