「蒐集もまた創造」時価100億円のコレクションを故郷に寄贈、稀代の蒐集家・浦上敏朗著『執念と欲望と。ある美術蒐集家の追憶』が復刊!

2024.03.06 12:50
河出書房新社
昭和30年代以降のアートシーンをめぐる数々の逸話、岸信介元総理、キャバレー王・福富太郎、画家・ジャスパー・ジョーンズなど各界名士との美術愛を介した華麗なる交流、鮮明な筆致で描かれる度外れた記録。
鉱山会社の経営等実業家として辣腕を振るうかたわら、美術品蒐集に奔走し、ついには浮世絵、陶磁器の世界的コレクションを築き上げた浦上敏朗氏。その自らのコレクター人生を辿った傑作エッセイ『執念と欲望と。ある美術蒐集家の追憶』が、株式会社河出書房新社(東京都渋谷区/代表取締役小野寺優)より復刊されました。

■『執念と欲望と。ある美術蒐集家の追憶』について
現在のようなアートオークション、アート市場も存在しない、美術品が一部の限られた人々のみに愛好されていた昭和30年代。その頃出会った1枚の西洋画をきっかけに浦上敏朗氏の美術蒐集の日々は始まり、その後、古美術品の魅力に心を奪われ、浮世絵、陶磁器へと深く傾倒していきます。

本書は、著者の作品購入記録や作品の来歴、購入価格、資金繰り、美術品の見方と選び方、美術品とカネ、真贋鑑定の裏話など、美術品業界の内幕を市井のコレクターならではの視点から淡々と一切のタブーなく綴られた実録記です。

当事者のみぞ知る度外れたエピソード、細部までがありありと記される描写の妙はもちろん、美術品を介して知遇を得た岸信介元総理、キャバレー王・福富太郎、画家・ジャスパー・ジョーンズなど各界名士との交遊、逸話から滲み出る、著者の熱意と慈愛に満ちた人柄、真剣な眼差しが、さらに本書を魅力的なものにしています。
『執念と欲望と。ある美術蒐集家の追憶』口絵より/山口県立萩美術館・浦上記念館蔵
第二章最終節では、自身の学徒動員、入隊した特攻隊の過酷な戦争体験を振り返り、続く第三章では、故郷・山口県への全コレクション寄贈、萩市に浦上記念館設立へと至った経緯、その決意と葛藤が赤裸々に語られ、異色の美術コレクターとしての自画像を浮かびあがらせます。

近年、現代アートブームに牽引される形で、富裕層から一般の美術好きまで多くの方々が作品収集を楽しみ、コレクション、投資等様々な視点からアート市場が注目を集めています。
本書に描かれた、自分の眼に忠実に心血を注ぎ蒐集を続けるコレクター気質、「集めても集めても、また次が欲しくなる」抑えきれない衝動、社会的地位や立場を超えて無限に拡がる同好の士と交わる喜びとその悲哀――、その全ては、時代や作品を問わず、アートコレクターたちが日々心に抱き、味わう感情そのものです。

「蒐集もまた創造」であることを示し、飽くなき探求の道程を辿る本書は、読者にとっての道標となり、温かいエールともなる珠玉の一冊です。

※本書は1996年に平凡社より刊行された『或る美術コレクターの生活』を改題し、一部修正した新装版です。
『執念と欲望と。ある美術蒐集家の追憶』口絵より/山口県立萩美術館・浦上記念館蔵
『執念と欲望と。ある美術蒐集家の追憶』口絵より/山口県立萩美術館・浦上記念館蔵

■本書目次
復刊に寄せて
第一章
或るコレクターの生活/浮世絵蒐集事始め/コレクター気質/チコチン・コクレクション綾模様/真贋問答/不尽の山・富士山/ゴッホ礼讃/日本浮世絵商協同組合の設立
第二章
先客万来/画家・中村正義のこと/川端康成と岩崎勝平/金泥の写経/故郷・山口と香月泰男/初年兵哀歌
第三章
コレクション寄贈

■山口県立萩美術館・浦上記念館について
浮世絵版画と東洋陶磁器、近現代の陶芸・工芸作品を所蔵
萩市出身の実業家、浦上敏朗氏(1926-2020)が収集した浮世絵、東洋陶磁などの寄贈を契機に1996年に開館する。2010年に、400年の歴史を有する萩焼をはじめとする陶芸の振興を目的に新たに陶芸館を増築。歌川広重、葛飾北斎、歌川国芳らの浮世絵版画約5,500点のほか、中国・朝鮮などの東洋陶磁約600点、近現代の陶芸・工芸作品約800点(2022年現在)を収蔵し、外国人観光客向旅行ガイド「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」では、日本三名橋のひとつ「錦帯橋」と並び、山口県内最高ランクの二つ星の観光施設として紹介されている。

日本の美術館運営に一石を投じる――。
全コレクションを故郷の山口県に寄贈するにあたって、著者が出した条件は美術館を新設すること。
また、日本を代表する特色ある美術館とするため、自身が寄贈する個人コレクションを核に、以後は公的な予算で作品を新規購入し、作品の充実を図り、管理運営を行うという構想を提示したところ、県側は快諾。時価100億円ともいわれるコレクション全ての寄贈、山口県立萩美術館・浦上記念館の設立が実現しました。

相応の施設はあるものの、収蔵作品だけでは集客が見込めず、巡回展等に頼らざるを得ない公営美術館が日本各地に存在するともいわれる現在、著者が構想し、実現させたプライベートコレクションを公共の文化資産に変えるという手法は、これからの日本の美術館運営に一石を投じる試みなのかもしれません。

山口県立萩美術館・浦上記念館
【著者紹介】
浦上敏朗(うらがみ としろう)
1926年(大正15年)山口県萩市生まれ。県立萩中学校を経て、山口経済専門学校(現・山口大学経済学部)卒。この間、陸軍船舶兵暁部隊(特攻隊)に入隊。
清久鉱業社長、日本非鉄鉱業社長を経て清久鉱業管財人、またジャパンアートコンサルタンツ社長を歴任。
日本浮世絵商協同組合理事長、日本浮世絵協会(現・国際浮世絵学会)常任理事、東洋陶磁学会監事などを務め、山口県立美術館美術品収集審査会委員のほか、多くの美術館の審査委員となる。
1991年、第10回内山晋米寿記念浮世絵奨励賞受賞。1994年、紺綬褒章受章、萩市名誉市民称号受贈。1996年、山口県立萩美術館・浦上記念館名誉館長に就任。2020年、逝去。


【書誌情報】
書名: 執念と欲望と。或る美術蒐集家の追憶
著者: 浦上敏朗
仕様:四六判/上製/240ページ
発売日:2024年2月27日
税込定価:3,190円(本体2,900円)
ISBN:978-4-309-25743-3
装丁・本文デザイン:水上英子
書誌URL:

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