衝撃の「銀ピカ」アウディに東京モーターショーは騒然! のちのR8に繋がるアブス・クワトロの衝撃

2024.03.03 17:20
この記事をまとめると
■1991年の東京モーターショーでアウディはコンセプトモデル「アブス・クワトロ」を発表
■クワトロはもちろん、アルミボディやW12エンジンなどはその後のVWグループの礎となった
■「アブス・クワトロ」は世界中から市販の要望が集まったが販売されることはなかった
アウディが東京モーターショーで発表したコンセプトかー
  1991年の東京モーターショーで発表されたアウディのコンセプトカー「アブス・クワトロ」は、年配のクルマ好きならすぐさま「ああ、アレか」とピンとくるくらい、強烈な印象を胸に刻んでくれたものでしょう。
  活きのいい太刀魚かのように磨き上げられたアルミボディや、当時としては斬新だったコンポーネントコンシャスなエアロボディ、そして耳慣れないW型12気筒エンジンを搭載予定とくれば、ショーの期間中ずっと黒山の人だかりだったこといまでもまぶたに浮かびます。
  その後、アウディが、そしてフォルクスワーゲングループが辿った高級車、ハイパーカー路線は、まさにアブス・クワトロが先駆けとなったこと疑いようもありません。
  1980年代のアウディといえば、80/90/100それぞれクワトロという全輪駆動システムこそ目新しかったものの、さしてスポットライトを浴びるほど華のあるラインアップではなかったかと。むろん、WRCにおけるクワトロの快進撃は一部のマニアの胸を熱くしていたものの、マーケットにおける確固たるポジションを得るには至りませんでした。
  そこで、1988年に同社の会長に就任したフェルディナント・ピエヒが陣頭指揮を執り、いまでいうハイパーカーを作って人々の度肝を抜く計画がスタートしたとされています。
  ご承知のとおり、ピエヒはポルシェ一族の出身であり、また生粋のエンジニア。ポルシェ時代には908や917といった伝説的なレーシングカーの設計に携わっただけでなく、アウディに移籍してからは、当のクワトロシステムや5気筒エンジンに偏執的なまでにこだわるなど、自動車業界に与えたインパクトは最大級といっても過言ではありません。
  ピエヒが開発陣にリクエストしたのは、当然アウディの強みをアピールできるモデルとすること。すなわち、次世代クワトロシステム、アルミを利用した軽量かつ強靭なコンストラクション、そして開発途上にあったW12エンジンを用いることで、アウディの先進性や高い技術力を見せつけることを目論んだわけです。
  そして、1991年、東京モーターショーの前に開催されたフランクフルトモーターショーで発表されたのが「クワトロ・スパイダー」でした。2.8リッターのV6エンジンをミッドに縦置き、3つのデフを装備したクワトロシステム、そしてスパイダーの名が表すとおり脱着式ルーフを備えたアルミボディと、それまでのアウディとはまったく異なった路線に人々は驚きを隠せなかったものです。
  が、ピエヒとしては「驚くのはまだ早い」とほくそ笑んでいたのかと。なにしろ、クワトロ・スパイダーには、自らがのめり込んだW12エンジンに関する情報は一切仕込まれておらず、人々はまさか東京でアブスが発表されることなど夢にも思っていなかったのですから。
先進性という近年のアウディのブランドイメージを創造
  それにしても、フランクフルトショーと東京モーターショーの時間差は半年あるかないかですから、スパイダー完成時点で、アブスも完成していたことは容易に想像がつきます。となると、アウディがアブスの発表を本拠地ドイツでなく東京にしたのはどういうわけでしょう。
  その理由を考えてみると、ピエヒのいささか子どもじみた意地のようなものではないかと。じつは1989年、ピエヒはこっそり来日していて、ホンダが市販した直列5気筒エンジンを搭載したインスパイアに試乗していたとのこと。さらには、その振動の少なさや縦置き搭載のメリットを活かした運動性能にいたく驚いていたのだそうです。
  で、ピエヒはそんなホンダに対し、自ら肝いりのアブスを見せつけることでマウントを取り返そうと思いついたのではないでしょうか。大人気ないとにわかに笑える話ですが、漏れ伝わるピエヒの人物像にはマッチしているかと(笑)。
  さて、アブスはスパイダーと同じく、アルミニウムのスペースフレームを採用しており、これにはフォードのエンジニアだったジェイ・メイズが携わったことが公表されています。全長:4470mm、全幅:2006mmと先のスパイダーよりも大型ながら、車重は1250kgとアルミボディらしいライトウェイトといえそうです。というのも、コンセプトカーにはW12エンジンのモックアップしか搭載されておらず、車重はあくまでアウディの「予想値」とされていたのです。
  ピエヒが我が子のように携わってきたW12はアブス搭載には間に合わず、運転席背後のグラスエリアから覗くエアインテークや大仰なヘッドカバーはすべて木製だったのですが、筆者はまんまと騙され、「ドイツの秘密兵器」感にドキドキさせられた記憶があります(公式資料にはモックアップと記されていたので、早とちりもいいところ)。
  なお、予想値でいえば、アブスは6リッターW12エンジンが502馬力を発生し、0-62mphは3秒フラット、最高速は334km/hとされていました。アブスは1930年代にアウディが大活躍したサーキットの名前にちなんだものですから、速さについては特に譲れないパフォーマンスだったに違いありません(この意志は、次のコンセプトカー「ローズマイヤー」にも表れていましたね)。
  で、ピカピカに磨き抜かれたアルミボディは1.5mm厚のアルミ板を職人が叩き出したもの。アルミの品番は未公表ですが、地肌むきだしなので現在でも週に一度は磨いてやらないと酸化してくすんでしまうのだそうです。
  また、クワトロ・スパイダーはわりとコンベンショナルなデザインだったことに比べ、アブスはシザーズドア(片側40kgもの重さだったとか)や、当時としては珍しかった全輪20インチという破格なタイヤ&ホイールで、とにかく「映える」モデル。
  当然、「これ欲しいから、売ってよ」という申し出があったものの、もとよりアウディに市販予定はなく「ならば15億円でどうですか」と嫌がらせのような返答をしていたとのこと。それでも12人のミリオネアから確注が入ったといいますから、アブスのインパクトは相当なものだったことがよくわかります(確注があっても市販は一切しませんでした)。
  この後、フォルクスワーゲンはランボルギーニやブガッティ、ベントレーといったブランドを買収し、アブスで培われたさまざまなノウハウを存分に活かすことに成功。また、クワトロ・スパイダーとアブス・クワトロがR8の基礎となったことはいうまでもありません。
  近年のアウディの先進性やスーパーテクノロジーを彷彿とさせるブランドイメージは、まさにアブス・クワトロが築いたといっていいでしょう。

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