AIでヒトのクリエイティビティを最大化する / HMS株式会社の誕生ストーリー

2024.02.16 10:10
当社代表のJamesは、熊本大の大学院で画像処理分野の研究・開発をし、グローバル展開する画像処理ソフト・ハードメーカーで実務経験を経て、母校熊本大学大学院に戻り教鞭をとりました。当時の教え子との起業で事業拡大とバイアウトでの成功を経て、「これまでの研究成果と経営経験を活かしてAIを活用したまだ世にないものづくりをしたい」という想いのもと、2018年福岡市でHMS株式会社を創業しました。このストーリーでは、創業の背景とこれまでのHMSの歩みを紹介します。
起業・事業成長を支えてきた技術力の『原点』、自動制御やソフトウェアの知識を学ぶ
Jamesは、上海交通大学工学部で自動制御について学び、卒業後は、日中合弁のソフトウェア開発企業で2年、中国へ企業誘致を促進する企業で2年勤めました。
現在の事業と一見つながりがないように見えますが、Jamesはこの時の経験を、自動制御やソフトウェアの研究・開発経験は、今の仕事の土台となっています。それこそ、我々が提供をしているAIカメラは組み込み系で使用されるので、ソフトウェアの素養は必要ですし、自動制御への理解はSlerのニーズ理解に繋がっていると感じます。また、日本は当時から自動制御やロボットの分野で世界の最先端を走っており、この分野でチャレンジするには最適の国というイメージがありました 」と語っています。
このように語るものの、その当時は自分が日本で起業するなんて全く思っていなかったようでした。
熊本大学で画像処理について学び、博士号を取得。カナダでの生活を経て再び教師として母校へ
では、日本との関わりがあるものの中国で仕事をしていたJamesがなぜ日本で学び、働くことになったのでしょうか。当時のことをJamesに振り返ってもらいました。
James:父が教授であったことから、熊本大学の機械系の教授と話をする機会がありました。そこで、AIにつながる機械学習について聞き、未来を感じました。これがきっかけとなって、国費留学生として熊本大学大学院(以下熊大)にて、自動運転のための画像処理、車載カメラの研究の世界に進みました。車という限られた環境下で、安全性を担保しうるカメラとするためには、小型かつ低消費電力で、高速処理性能が必要でした。そのために必要な研究の一つとして、アルゴリズムの研究を行いました。このような研究により、熊大院では、修士号・博士号を取得しました。


大学院生活の最後はカナダにいたこともあり、卒業後はカナダに本社を置く、ビデオカード業界でNvidiaとともに一斉を風靡していたグローバル企業Matrox社に勤務しました。同社では研究開発と東アジア・東南アジア担当として従事し、日本マーケットも担当しました。数年働いていたところ突然、恩師から熊大で準教授として教鞭をとらないかと声をかけていただきました。非常に名誉なことであるし、ビジネスの世界にいてもマインドと思考は研究肌なので、嬉しいことでもありました。ただし、迷いもありました。私自身もカナダ国籍を取得していましたし、グローバルでやれる環境は楽しかったです。でも迷いよりも今までの実績を認めてもらったこと、さらに教育という場で自分の力を還元しながら、その力をより深められることへの期待感が数段大きかったです。こうして、熊大に教師として戻ることを決意しました。
悩んだ末に、アカデミックな世界から再び事業にチャレンジ。教え子とともに一度目の起業
James:熊大では、グローバル教育に力を入れていました。そのようなこともあり、教え子には海外メンバーも多くいました。ある日、教え子の一人が中国で車載カメラの部品メーカーを立ち上げました。私は当初テクニカルアドバイザーとして参画していましたが、大型の投資の話が入ってきました。そこで条件になったのが、事業・技術に詳しい内部人材を経営にコミットさせることであり、そこで白羽の矢が立ち、CEO就任を要請されました。


非常にチャレンジングで面白い話だと感じるとともに、大学に残るか新しい環境に飛び込むか悩みました。研究が好きだし、技術者として新しいものを生み出すことができ、アカデミックな環境が好きでしたし、15年近くかけて積み上げてきたものもありました。そして、この道を離れたら同じ立場で戻ってくることはできないだろうとも感じていました。
ただ、教え子と立ち上げから関わった会社をスケールアップしたいという意志とこのチャレンジの意義もあり、悩みに悩んだ結果、CEO就任を選びました。


CEO就任後、メンバーの頑張りもあって、年間130万台規模の売り上げまでスケールアップをしました。ちなみに、メイン顧客は日本の自動車Tier1メーカーで、顧客対応で日本と中国を行き来しながら、生産管理や徹底したコスト削減に取り組むという日々でした。3年をかけて出資者に対しては、量産・量販化で期待に応えられ、与えられたミッションをやり切ったと感じました。やりきったことで「自分でものをつくりたい」という技術者のDNAがうずきました。教育・研究と事業で駆け抜けたからこそ感じ得た『世の中にまだないものをつくりたい』という技術者としての原点回帰みたいなものです。
これまでのキャリアをAIカメラとAIソリューションの開発に生かすべく、日本で二度目の起業を決める
James:二度目の起業を決心した頃、loTやロボティクスへの機運も高まってきました。そして、Intel社の高性能プロセッサMyriad2の登場によって、エッジ(※1)における画像処理の未来がようやく拓けてきました。そこで、熊大での研究や前職での開発・事業経験、つまり車載カメラで培った小型軽量化、低消費電力、高速処理のノウハウをAIカメラ開発に生かそうと考えました。


AGV(自動無人搬送車)を始めとしたFA(工場自動化)関係のものをメインに、ARグラス、ロボット、ドローンへのニーズは高く、社会的な必要性と潜在市場性の高さからチャレンジしようと考えました。


また、これまでの事業経験で一番長く携わったマーケットは日本です。慣れ親しんだマーケットで、そこで求められる品質水準を実現するのが、将来のグローバル展開への最短ルートであると考え、二度目の起業の地を日本としました。そして、住み慣れた九州かつ創業支援に篤く、アジアとのアクセスの良さから福岡を拠点としました。


※1:エッジ・・・IoT端末などのデバイスそのものや、その近くに設置されたサーバ、端末側で収集したデータをネットワークに送り出すポイントのこと。センサなどが採取したデータをエッジに配置したコンピュータで解析し、遠隔地には必要なデータだけを送信することで、高速処理とネットワークの負担軽減が実現できる。
「世界一の製品でなければつくらない」という想いで開発した世界最速・最小・最軽量クラスのAIカメラの「SiNGRAYA」
このような背景から2018年の秋にHMSを創業し、2019年初めに世界最速・最小・最軽量クラスのAIカメラの「SiNGRAYA」シリーズをリリースしました。
「SiNGRAY A」シリーズは、世界最小・最速で自分の位置の推定、姿勢、周辺状況を把握することができる VSLAMカメラモジュールで、自律ロボットや無人搬送機の視覚センサーとして使用できる製品です。また、GPS信号が届きにくい倉庫・工場などの屋内空間や地下・トンネル内などでも応用できる、いわば『機械の目』として実用性を高めた製品としてリリースしました。
機能性の高さより、2019年に、ラスベガスで50年以上開催されている電子機器の展示会コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)にてロボティクス&ドローンイノベーション大賞を受賞しました。
James:Aシリーズのリリースにより、loTやロボティクスといったエッジコンピューティングの現場が待望していたものを世に出すことができたと感じています。創業からの約6年でSiNGRAY各種シリーズの累計販売は23,000台を超えました。なお、当社がグローバル約40人体制のうち、博士号のメンバーが10人在籍しており、この販売台数を裏打ちする技術を下支えしていると感じています。そして、開発体制や販売を支えてくれる方々の中には、熊大時代の教え子やMatorox時代のビジネスパートナーやユーザーも多くいて、今までの縁に非常に感謝をしています。
チームの開発力で動作温度の問題を乗り越え製品化された「SiNGRAY I・R」シリーズ
産業界のFA化やDXを推進するために、新たな製品の開発にも取り組んできました。ロボットの視覚センサーに活用できる「SiNGRAYA」に続き、外観検査用のカメラ「SiNGRAY I」、ロボットピッキング用のカメラ「SiNGRAY R」シリーズをリリースしました。


Iシリーズは高解像度のRGBセンサーを内蔵する産業検査用のAIスマートカメラです。主にものづくり業界の生産工場で表面検査等に応用されています。非常に解像度の高い画像を撮ることができるので、たとえばLEDの表面に気泡やキズがないか、異物が入っていないか等、人の目には見えないレベルの微細な欠陥まで見極めることが可能です。


また、Rシリーズは、RGB+ToFのデュアルセンサーを搭載した3Dカメラになっています。自らの位置や姿勢、対象物を認識することが可能で、工場や物流拠点のピックングマシーンに用いられています。


産業用カメラには、コンパクトでありながら、あらゆる現場環境で動作できる丈夫さが必要とされます。そのため、あらゆる環境を想定し、現場環境を再現してテストを繰り返すこともありました。I・Rシリーズの開発では、特に温度の問題にぶつかりました。Jamesは当時のことを次のように語っています。
James:開発に際してはカメラの温度上昇が大きな壁になりました。動作温度が高すぎると、カメラは長時間使用に耐えられません。ところが、プロトタイプの時点では、チップの温度が90℃にも達していました。カメラの表面温度にしても、70℃以上です。これは、人の手ではとても触れないレベルでした。


その状況をなんとかしようと、ハードとソフト、双方の開発部でチームとなって改善策を出し合ってくれました。そうして2か月くらい経ったころに、ようやく解決策が見えてきました。ハードウェア上はなるべく電力消費量が低い仕様に変更し、カメラ全体の構造も最適化してより放熱しやすいデザインに改めました。ボディに刻まれた深い溝も、表面積を増やすための工夫です。ソフトウェア上ではより効率的に動作するコードを設計しなおし、機能ユニットのスリープをより簡単に制御できるよう改めました。努力と創意工夫はやがて身を結び、常温環境で30-40℃にまで上げることに成功しました。


この開発では、上海メンバー6名、フランスメンバー3名の計9名が活躍してくれました。改善・改良が半年くらい続いたものの、着手して1年足らずでリリースまでこぎつけられたのは、彼らの力があってこそのものです。
開発の根底にある「無限の想像力をテクノロジーで解き放つ」というVISION
James:HMSは「無限の想像力をテクノロジーで解き放つ」というVISIONのもと、AIを手軽にリーズナブルに使える世界を目指しています。まずは、創業時からの強みである製造・物流・ロボット開発業界へのAIカメラを基点としたソリューション提供が原点だと思っています。そして、製造・物流業以外の業界でもAIを気軽に活用できる環境をつくりたいと思っています。つまり『AIの民主化』を、我々はしたいと思っています。


『AIの民主化』をそもそも何のためにやるのかといえば、作業から人を開放して、クリエイティブなことにシフトしたり、可処分時間を増やしたりするためです。それは、よりよく生きるというか、今よりいい未来をつくるためのイノベーションを起こすことだと、私は考えています。
つまり、「無限の想像力をテクノロジーで解き放つ」を私個人として答えると、仕事や生活における、人を幸せにする変化や世界の在り方の変化を、イノベーションを通じてつくり出すことだと思っています。そして、これは私の見解で、社員一人一人に自分としての「無限の想像力をテクノロジーで解き放つ」は何なのか、そのために何ができるのかを問いながら、自分の仕事に向き合って欲しいと思いながらともに仕事をしています。
AIを民主化し、ヒトだからこそできるクリエイティブな社会を実現していきたい
James:「SiNGRAY I・R」シリーズのAI処理はエッジのカメラ内で行いますが、そのために必要な学習環境には、AWS(Amazon Web Services)を活用しました。そのご縁から、当社のハードウェア、ソフトウェア、AIの開発力に興味をもっていただき、共同開発のチャンスを掴みました。


創業事業は産業用カメラで、製造業・物流業をメインに使われています。AIやFAへの設備投資が高くとも、無人化・省力化で投資対効果が比較的高い業界と言い換えられるかもしれません。一方で、小売業やサービス業など事業構造上AI・DXへの巨額投資が難しい業種や製造業・物流業でもAIやFAの優先順位が下げられる業務においてもAIが活用できる環境をつくりたいと創業時から感じていました。


 AIを手軽に使えるサービスを提供したい我々にとってAWSからの提案は、渡りに船でした。このような背景から、エッジAI機能とクラウドを組み合わせたAIサービスをAWSと一緒に3年をかけて共同開発しました。ここで生まれたサービス「エッジクラウディングAI(SiNGRAY NET)」は、既存のインターネットカメラをいかしてAI解析ができる、拡張性とカスタマイズ性が高いサービスです。
また、より導入を容易かつリーズナブルにするために機能をしぼったサービスも必要であると感じて、機能特化型SaaSの第一弾として、小売・サービス業向けのマーケティング系クラウドサービス「Store Sense」を2024年1月にリリースしました。
手軽にリーズナブルに使える、AIやIoTを活用した製品とサービスを社会の隅々に実装して、人がヒトにしかできないクリエイティブなことができる社会を実現していきたいと考えています。




●会社概要
社名:HMS株式会社(HMS Co., Ltd)
代表取締役社長:胡 振程(HU ZHENCHENG)
事業内容:スマートAIカメラ『SiNGRAY』シリーズの開発・提供
     AI画像処理プラットフォーム『SiNGRAY NET』の開発・運営
     エッジおよびクラウドAIソリューションサービスの提供
設立:2018年9月13日
本社:〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2丁目12-12 第5グリーンビル4F 
企業URL:https://www.hms-global.com
お問い合わせ:info@hms-global.com

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