コンパクトで安価でハイパワーな「2ストロークエンジン」! クルマもバイクからも消えたワケ

2024.01.14 17:20
この記事をまとめると
■SUBARU360やスズキ・フロンテクーペなど軽自動車に採用例が多かった2ストロークエンジン
■2ストロークエンジンは排ガス規制によって1980年代には四輪車から消滅した
■小排気量のバイクでは2000年代まで存在していたが、現在は量産車では完全に消滅
軽自動車と相性が良かった2ストエンジン
  昭和30~40年代には、日本のモータリゼーション史に残る数々の名車が誕生している。富士重工業の礎を築き、現在の「SUBARU」ブランドの元となったスバル360、ジウジアーロのデザインをベースとしたスポーツモデルのスズキ・フロンテクーペ、同じくスズキでは初代ジムニーも同時期に誕生している。
  いずれも360cc時代の軽自動車規格に則って生まれたモデルだが、この3台(のみならず、当時の軽自動車の多く)に共通しているのは、2ストロークエンジンを搭載していることだ。
  SUBARU360と初代ジムニー(LJ10型)は空冷2気筒の2ストロークエンジンを、フロンテクーペは水冷3気筒のハイパフォーマンスな2ストロークエンジンを積んでいた。
  バルブやカムといった複雑な機構を持たない2ストロークエンジンは、ピストンの往復運動1回で吸気・圧縮・燃焼・排気を完了するメカニズムが名前の由来。往路と復路のストロークが各1回なので、合わせて2ストロークというわけだ。2サイクルと呼ばれることもある。
  現在の量産車において主流となっている4ストロークエンジンは、吸気・圧縮・燃焼・排気のそれぞれにおいてピストンをストロークさせるため、単気筒エンジンで考えると、クランクシャフト2回転につき1回の燃焼しかできない。一方、2ストロークエンジンはクランクシャフト1回転につき1度の燃焼をするため、同じ回転数であれば、理論上は倍の出力を得ることができる。
  さらに、前述したようにバルブやカムシャフトといった部品が不要な構造であるため、コンパクトかつローコストに作ることができる。冒頭で記したような360cc規格の軽自動車と2ストロークエンジンの相性は非常によかったといえる。
  余談だが、N360で軽自動車市場を席捲したホンダは4ストロークエンジンを採用していた。2ストロークエンジンは排ガスにオイルが混ざってしまう構造のため、エミッション性能に不利なメカニズムである。このことをホンダが嫌ったからといわれている。
  そんなホンダであっても、原付スクーターでは2ストロークエンジンを採用していたし、250ccクラスのレーサーレプリカも2ストロークエンジンを積んでいた。小排気量カテゴリーにおいて、パフォーマンスを求めると4ストロークエンジンでは太刀打ちできないというのも歴史的な事実だ。
排ガス規制で消えた2ストと同様に4ストも消える?
  しかしながら、コンパクトかつローコストで、パワーも期待できる2ストロークエンジンは現在の新車ラインアップからは消滅している。
  四輪でいえば、1980年代半ばまで販売されていたスズキ・ジムニー(SJ30型)に搭載されていた539ccの水冷3気筒エンジンが、量産2ストロークエンジンとしては最後といえる。
  バイクの世界でも原付スクーターにおいては2000年代まで2ストロークエンジンを見かけたが、公道走行可のモデルとしては、少なくとも国内販売モデルからは姿を消した。
  小排気量ではメリットがあるはずの2ストロークエンジンが消えてしまった理由は何であろうか。
  ひとつにはドライバビリティに不利な特性があるからだ。同じ排気量であればハイパワーを出すことができるが、バイクの2ストロークエンジンに乗った経験があればわかるように、パワーが唐突に盛り上がる傾向がある。
  ドッカン的と表現できるパワー特性が2ストロークエンジンの特徴だ。趣味性の強いスポーツバイクや、そもそもアクセル全開で使うことの多い原付スクーターであれば気にならないかもしれないが、四輪においては運転しづらい特性と感じられるのは欠点といえる。
  ハイパワーであることの逆相関といえるかもしれないが、2ストロークエンジンは同等排気量の4ストロークエンジンと比べると燃費性能にも劣る傾向がある。この点においても、2ストロークエンジンを選ぶというインセンティブをユーザーから奪ってしまう。
  そして、2ストロークエンジン消滅の最大の理由といえるのが、環境対策=排ガス規制だろう。
  じつは軽自動車においても、1970年代から4ストロークエンジンへシフトする動きが活発化していた。その背景にはオイルショック(石油危機)による燃費性能ニーズの高まりもあるが、1973年から日本でも排ガス規制が始まったことが挙げられる。
  当時を生きていた人であれば、昭和48年規制、昭和50年規制、昭和51年規制、昭和53年規制と年を追うごとに厳しくなっていく排ガス規制のニュースを見聞きした記憶があるだろう。
  当然ながら、排ガス規制をクリアしなければ市販できないわけだから、排ガス浄化において不利な2ストロークエンジンにこだわっていては自動車ビジネスが成立しない。おのずと自動車のパワーソースは4ストロークエンジン一色となったのだ。
  余談だが、こうした時代をリアルタイムに知っている筆者からすると、昨今の電動化シフトによって内燃機関そのものが消えてしまいそうなトレンドについても、「歴史は繰り返す」という印象であり、CO2排出量削減への要求がますます高まるであろう情勢からすると、内燃機関を残すための研究開発というのは実を結ばないのでは? と思わざるを得ない。
  事実、2ストロークエンジンもあっさりと諦めたわけではない。内容までは紹介しないが、スズキが軽自動車に採用した「TCシステム」やホンダのオフロード系バイクに使われた「AR燃焼」などなど、2ストロークエンジンのメリットを活かそうとした画期的なメカニズムが量産車にも搭載されていた。
  それでも2ストロークエンジンは量産車からは消えてしまった。はたして、乗用車において内燃機関は未来永劫生き残れるのだろうか。

あわせて読みたい

悪路王者だけど速さとは無縁……と思ったら全然違う! ジムニーはモータースポーツでも活躍していた
WEB CARTOP
どの標識にどう従えばいい? ややこしすぎる電動キックボード
ドライバーWeb
世界最高峰のヨットレース「アメリカズカップ」が追い求める「人の可能性」
antenna*
ダイハツの不正があったのにN-BOXの数字が伸びていない! 1月の新車販売台数を分析して見えた意外な事実
WEB CARTOP
【世界が注目するスズキのバイク】非日常感を手軽に味わえる「GSX-S1000GX」「GSX-8R」がついに発売開始!
MonoMaxWEB
限界に挑戦し続ける姿勢とサステナブルな価値観。ヨットレース「アメリカズカップ」に世界が熱視線を送る理由
antenna*
原付免許で125ccに乗れる……と喜ぶのはちょっと待て! いま売ってる125ccには乗れない「新基準原付」はユーザーメリット「ほぼゼロ」の改正だった
WEB CARTOP
同じ排気量でもまったく違うエンジンになる! カタログに書いてある数字「ボア×ストローク」っていったい何?
WEB CARTOP
新TVCM「アニメとススメ!」篇放送開始
antenna
日本のバイクは「メグロ」なしには語れない! カワサキの手でその名が復活した「メグロ」の胸熱ストーリー
WEB CARTOP
もうすぐデビューから55年。人気衰えぬオールドジムニーの歴史を振り返る
&GP
「KAJITA 」新しい季節を彩る新作コレクション発表
PR TIMES Topics
ノッチは走るよいつまでも。「Yes We can」をスタイルにしてしまった男のマシン愛と、次にチェンジしたいバイクの話
smart
名車キャロルにR360クーペもあったのに撤退!! マツダの軽全車OEM作戦は結果的に正解だったのか!?
ベストカーWeb
“運動×栄養×睡眠で子どもの可能性を最大限に引き出す”がコンセプトのアイテムをリリース!
PR TIMES Topics
もうクルマというよりペットだろ! ウーパールーパー顔のフランス産のマイクロカー「シャンテクレール」が可愛すぎてヤバイ
WEB CARTOP
【バイク オブ・ザ・イヤー】大賞は「普通二輪MT免許で乗れる“憧れ”の一台」に決定!注目ベスト4選
MonoMaxWEB
糸のいらない不思議なミシン・縫わずに描く「ニードルパンチミシン」
PR TIMES Topics
【ホンダ】原付二種スポーツ「CB125R」一部改良!5インチフルカラー液晶メーター新採用
MADURO ONLINE
アルト ワゴンR ジムニー ミラ……スズキ・ダイハツの名モデルたちが最も売れた時代
ベストカーWeb
酒文化を醸していくプロジェクト「はじまりの学校」ブランド初の新商品4種を発売開始
PR TIMES Topics