合成燃料もバイオ燃料も水素も性能はもはや十分! カーボンニュートラルへの壁は「いくらで作れるのか」のコスト問題だけだった

2024.01.04 10:00
この記事をまとめると
■現在は合成燃料の登場によってカーボンニュートラルは可能だという結論に至っている
■水素燃料もバイオ燃料も理論的には不満のないレベルで活用できる新燃料だ
■問題は燃料のコストであり、普及するには現状の石油製品並みの価格帯に落ち着かないと市場が目を向けない
合成燃料であればカーボンニュートラルを実現できる
  自動車界における2023年の大きなニュースは、EU圏で合成燃料(e-fuel)が認められたことだろう。それまでは、地球温暖化を防止する意味から、2030年をひとつのメドに、二酸化炭素を排出する内燃機関車の製造、販売をいっさい認めないという姿勢だったもののが、合成燃料の登場によってカーボンニュートラルは可能だという結論に達し、合成燃料を使用する車両に限り、2030年以降も製造、販売を認可するという状況に変わったからだ。
  大きく影響したのはドイツ国内の動きで、自動車メーカーが政府に強く働きかけ、合成燃料のカーボンニュートラル性を認めさせるといういきさつだった。
  さて、この合成燃料だが、燃料名が意味するように、「合成」した燃料を指している。では、何と何を合成したのかといえば、それは水素と二酸化炭素のことである。元素記号で表せばCO2とH、つまり炭素(酸素)と水素の組み合わせによる燃料成分は化石燃料と同じであり、CとHを合成すれば、ガソリンや軽油と同等・同質の燃料が作り出させることを意味している。
  燃料成分が同じなら、これまでどおり化石燃料から作られたガソリンや軽油でいいじゃないか、という話になるが、現実のロジックは少々異なっている。新たに採掘した化石燃料を燃やすと、その分だけ二酸化炭素は発生するが、合成燃料は、水素と大気中の二酸化炭素を使って作るため、燃焼後に排出される二酸化炭素はもともと大気中にあったものだけに、大気中の二酸化炭素の総量を増やすことはない(減ることもない)、という考え方が成立する。大気中から取り込んだ二酸化炭素を再び大気中に排出するだけなので、二酸化炭素の総量は、プラスマイナスゼロという相殺勘定が成り立つことになるからだ。
  気になるのは、燃料が変わることによる性能の変動だ。じつはガソリン、軽油といった化石燃料は、熱エネルギー的にじつに優れた燃料で、自動車のように比較的小型な乗り物のエンジン用燃料としては、理想的な特性を備えている。問題は、燃料成分に含まれる炭素分で、燃焼すると酸素と結び付き二酸化炭素となって大気中に排出されることだ。
  ガソリン、軽油に代わる燃料として注目される合成燃料だが、これは燃料成分(水素/炭素)の結び付き方でガソリン、軽油に相当する燃料として活用することができることを意味している。ただ、まだ実用化途上の燃料であり、現状のガソリンや軽油に対してどれほどの性能を持っているかは公表されていない。理屈の上では、現状の化石燃料と同レベルの燃料になり得るということだが……。
新燃料は不満ないレベルで活用できるがまだまだ高価すぎる
  一方の水素燃料、水素は単位質量あたりの発熱量はもっとも大きいのだが、単位体積あたりの発熱量は相当に小さくなってしまう。密度が約0.09と非常に小さいためだ。このため、内燃機関のシリンダー内に、どれほど多く(重量的に)の水素を送り込めるかが性能確保のカギとなるようだ。
  もちろん、空燃比の問題もあり、現状、最先端の開発レベルにあるトヨタの開発エンジニアにどれほどなのかを尋ねたこともあったが、残念ながら開発途上の機関であり、企業秘ということで明かしてもらうことはできなかった。
  これは、よく知られているスーパー耐久で実験参戦を繰り返す水素燃料カローラのことだが、最新の状態では、ラップタイムを見るとガソリン車に近い性能水準に達していることが確認されている。
  バイオ燃料は、生物資源を原料とした燃料のことで、バイオマス(動植物から作られる有機資源のこと)燃料と呼ばれることもある。有機資源(炭素を含む)であるため、燃焼させると二酸化炭素を排出することになるのだが、燃料の元となる植物が育つ過程の光合成の作用により、燃焼で排出する際の二酸化炭素と植物が育つ過程で吸収する二酸化炭素が相殺勘定となり、カーボンニュートラルになる、という考え方が成立している。
  バイオ燃料車も水素燃料車同様、サーキットレースで試験的に使われ、段階的に進化を遂げている最中だ。先駆けとなったのは、バイオディーゼルで参戦したマツダだったが、2023年の富士24時間では、軽油にバイオ燃料を混入して使う混合燃料ではなく、100%バイオ燃料による「マツダ3バイオコンセプト」仕様車を投入。ガソリン車との混走でもあり、また軽油100%の車両と走り較べたわけでもないため、バイオ燃料車の性能水準を測ることはできなかったが、24時間で529周、2414kmを走って完走を果たしている。
  メーカーの研究室レベルでは、合成燃料(製品化の情報は未確認)、水素燃料、バイオ燃料の対ガソリン、対軽油の性能比較が行われ、現状でどの程度の動力性能が確保されているかは不明だが、これらは理論的に不満のないレベルで活用できる新燃料だと判断してよいだろう。むしろ、現状考えられる大きな問題は、燃料のコストである。普及するには、現状の石油製品並の価格帯に落ち着かないと、市場が目を向けることはないように思える。
  いずれにしても、石油燃料を使う自動車の製造、販売が2030年をメドに禁止されることに変わりはなく、EVの動力源となる充電電気の発電方法まで含め、また新たな変革が起きる可能性も十分ある。二酸化炭素が大気中にとどまる期間は、最長1000年と言われるだけに、なんとしても削減目標値は達成しなければならない状況で、これから10年先の自動車がどんな形態になっているのか、怖くもあり、楽しみでもある。

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