業界のご意見番「清水和夫」が「ダイハツ問題」を斬る! 「かつてのダイハツは安全の追求に燃えていた」【短期連載その1】

2023.12.31 13:00
この記事をまとめると
■第三者委員会の調査で数々の不正が明らかになったダイハツ
■ダイハツは1998年の車両規定変更の際には衝突安全でトップレベルの技術を持っていた
■筆者は最近のダイハツから安全性を熱く語るエンジニアが減っていたことを感じていた
ダイハツの不正のファクトを整理して今後を考える
  2023年は自動車業界にとって厄年となったようだ。長年続いていた数々の問題が浮上し、該当企業は謝罪会見に明け暮れた。なかでもダイハツの不正問題は言葉を失うほどの驚きだった。ここではすでに発表されているファクトを整理しながら、なぜ不正を行ったのか、またなぜ不正を未然に防ぐことができなかったのか、そして実際のユーザーはどうなるのか、ダイハツのこれからの行方について、筆者の個人的な意見を述べたいと思う。
■衝突安全ではトップレベルの技術を持つダイハツ
  まずはファクトの整理だが、ダイハツは1998年にトヨタが51.2%の株式を取得し、完全にトヨタグループの一員となった。1998年というと、軽自動車(以後軽カー)の車両規定が大きく変わった年だった。それまでの軽カーは貧しかった戦後の国民に安いクルマを提供するために作られた国民車であり、そのためエンジンの排気量や車体の大きさが規定され、その枠のなかで各メーカーが凌ぎを削りながら競争してきた。やがてエンジンの排気量は改定され、ついに車体の大きさも拡大されたのであった。
  ダイハツは安くて安心して使える軽カーを専門に作るメーカーとして、その名を馳せてきた。軽カーの衝突安全の保安基準を小型車(登録車)と同じレベルにするという法改正では、ダイハツはどの軽カーメーカーよりも先んじて最高の安全技術を開発することに燃えていた。もちろんGOAボディを推し進めていたトヨタの技術協力があったことはいうまでもない。
  新基準では軽カーのボディサイズも拡大されたが、小型車よりもコンパクトなボディでも、十分な安全基準をクリアすることができたのだ。
  しかし、軽カーの衝突安全がトピックスとなっていた1998年に厳しいオフセット衝突に初めて対応できたのはダイハツではなくホンダだった。1998年10月に発表したホンダライフはクラストップレベルの正面衝突50km/h、オフセット衝突64km/hをクリアし、前席エアバッグに前席3点式ロードリミッター付きプリテンショナーシートベルトを標準化し、ABS&ブレーキアシストをオプションとするなど安全装備は充実していたのである。これを受けてダイハツの安全技術の責任者だった瀬尾役員もオフセット対応すると私とのインタビューで明らかにしていた。
気がつけば熱く安全を語るエンジニアが減っていたダイハツ
■2023年に起きた衝突安全の不正問題
  しかし、令和5年4月28日にダイハツはタイで生産する小型車の側面衝突の認証試験の不正があったと発表した。安全技術では定評があったので、なぜ不正を働いたのか疑問だった。いろいろと取材するとコトの真相が見えてくるが、決して悪質な不正ではないことがわかってきた。複雑な認証試験の実態を理解することも必要だろう。
※写真はイメージ
  不正を働いた試験は、タイで生産されるダイハツとトヨタの小型車であるが、このプラットフォームはダイハツが開発し、タイの工場で生産していたモデルだった。ルール的にはタイ政府の認定試験なので、滋賀県にあるラボでタイ政府の検査官が立会のもと認証試験がおこなわれた。
  不正を行ったのはUN-R95という側面衝突の国際基準。時速50Km/hでクルマの真横(乗員が座る場所)に総重量約900Kgのバリア台車がつっこむ。リアルワールドで致死率が高い側面衝突の安全性を評価する重要な試験であり、ダミー人形を座らせ頭部や胸部の傷害値を計測する。ところが、今回は新たに改正されたUN-R95では「ドアの内側に鋭利なモノが乗員への傷害の危険性の有無を確認・記録すること」という項目が加わった。
※写真はイメージ
  そこで鋭利なモノが飛び出ないようにと、現場の担当者は不正な細工を施してしまたのだ。この問題は内部告発で発覚したがその後の再試験では市販モデルは安全基準を満たしていることが判明した。基準をよく読めば、鋭利なモノは「記録報告」義務だったので細工の必要はなかった。
  さらにダイハツは社内調査を続けると、5月には新たな不正が見つかった。二度目となる不正は日本で市販されてきたダイハツ・ロッキーとトヨタ・ライズのHEV車なので他人事ではない。今度の基準はUN-R135というポール側面衝突試験。電信柱などに側面から衝突する事故では重症・死亡率が高いことが事故調査で明らかになっており、ポールに見立てた直径254ミリの鉄の支柱に、台車に載せた被験車を時速32Km/hで75度(真横を90度とする)方向から衝突させ、そのときのダミー人形の傷害値を測定する。
  認証試験は助手席側(左)は検査官が立会うが、運転席側(右)は社内試験データを提出すればよいというルールだ。ところが、左側のダミー人形のデータを右側として提出してしまった。社内では左側の衝突試験だけを実施し、右側の社内試験を省いていたのだ。
  これは明らかに不正試験である。だが、筆者の推測であるが、同じプラットフォームのエンジン車の右側のデータが取得されていたので、エンジン車とハイブリッド車の車体構造に大きな違いはないと判断し、右側の衝突試験を省いたのではないだろうか。
  そもそもこのテストはなんのために制定されたのか、社内で知る人は少ないだろう。ポール衝突から命を守るために開発されたのが、カーテン式エアバック。この保護装置の安全性を確認するためのテストだったのだ。ところが現場ではメールで指示された仕事をすることが使命だと勘違いしていたのではないだろうか。
  リアルワールドの事故で人命を救うという本来の役割をどれだけの社員が、どのくらの情熱を持って、安全技術を開発・評価していたのか。軽カーの枠を拡大した20数年前のダイハツとは別の会社になってしまったようだった。近年のダイハツのエンジニアと会話しても、口にするのは「電動化や燃費」の話ばかり。熱く安全を語るエンジニアはいなくなっていた。

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