アシロでは、「関わる人を誰よりも深く幸せにすることで、よりよい社会の実現に貢献する」という企業理念のもと、法律問題にお悩みを抱える方と弁護士の最適なマッチングを図るリーガルメディア「ベンナビ」を主要事業として運営しており、2021年7月20日にマザーズ市場(現東証グロース市場)に新規上場を果たしました。
アシロの主要サービスである「ベンナビ」の中でも、刑事事件を取り扱う「ベンナビ刑事事件」について、今回は取り上げます。
「ベンナビ刑事事件」により弁護士に相談される法律トラブルで「性犯罪」は数多く寄せられる相談カテゴリーです。そんな「性犯罪」の中でも、2023年7月13日付で「強制性交等罪」から改正された「不同意性交等罪」について、今回は取り上げたいと思います。
改正前の強制性交等罪は実は2017年に改正されており、それまで110年もの間「強姦罪」と呼ばれていた過去があります。
110年ぶりに改正された法律が、どのような経緯でたった5年にして改正されたのか、刑事事件に注力する弁護士、須賀法律事務所の須賀翔紀先生にお話を伺いました。
不同意性交等罪に巻き込まれてしまわないためのポイントや、万が一被害にあった際に泣き寝入りをしないためにも、是非本ストーリーをご参照ください。
Q,強姦罪から強制性交等罪になった経緯や違いを教えてください
かつて強姦罪に対しては、現在の価値観や性犯罪の実体に合致していないとの批判が多くありました。
そこで現代の価値観や性犯罪の実体に即した内容にすべく、法改正が行われることになりました。
強姦罪と強制性交等罪の違いとして、強姦罪では女性を被害者として膣性交を処罰対象としていましたが、強制性交等罪は男女両方を被害者として口腔性交や肛門性交も処罰対象とするようになりました。
強姦罪の条文(刑法第177条 2017年改正前)
暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。
強制性交等罪の条文(刑法第177条 2017年改正後)
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
また、強姦罪では法定刑が3年以上20年以下の有期懲役となるのに対し、強制性交等罪では5年以上の有期懲役となり、刑の下限が上がっています。
Q,強制性交等罪に改正されるきっかけとなった事件などはあるのでしょうか?
男性に対する性的な暴行が問題視されるようになったことと、それに関連して口腔性交や肛門性交などが、膣性交と比する程度の重大性、悪質性を有していると考えられるようになりました。
例として、男児間での「いじめ」として口腔性交を強要するケースなどが挙げられます。
Q,2023年に改正された不同意性交等罪とそれまでの強制性交等罪の違いを教えてください
強制性交等罪では「暴行または脅迫」のみが要件とされていたのに対し、不同意性交等では「暴行または脅迫」を含む8つの要件が追加されました。
また性交同意年齢が13歳から16歳(年齢差要件あり)に引き上げられました。
刑法第177条 不同意性交等
前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
引用元:
Q,なぜたった5年で強制性交等罪から不同意性交等罪に改正されたのでしょうか?
前のQで解説した通り、強制性交等罪では「暴行または脅迫」のみが要件とされていたので、同意があったとは言い難い事案でも処罰されない場合がありました。
また、性交に比すべき重大性・悪質性を有する行為類型として口腔性交・肛門性交以外にも異物挿入や身体の一部を挿入する行為なども含めるべきだと考えられるところ、強制性交等罪ではカバーされておりませんでした。
それでは成立範囲が限定的すぎるとの批判も多くあり、5年で改正されるに至ります。
Q,性的同意アプリがリリースされるなど、法改正に伴いWEBサービスも立ち上がっていますが、この件について先生のご所感をお伺い出来ますでしょうか
性的同意を記録に残して事後のトラブルを予防するという狙いそのものは非常に興味深いです。
他方で、同意を取ろうとするあまり性的同意アプリの利用を強要したり、同意アプリを利用したから多少強引に性行為をしてもよいだろうとの誤解が広がってしまわないかという懸念もあります。
「これさえあれば安心」であると過信しすぎないようにしたいところです。
Q,法改正の効果・期待できることを教えてください
不同意性交等罪によって要件が類型化され、異物挿入など処罰対象も拡大されるなどにより、これまでは泣き寝入りを強いられていた被害者の救済とともに、性犯罪に対する一般予防の実質化につながるのではないでしょうか。
他方で、処罰範囲拡大と表裏の関係にはあるのですが、性行為自体が通常は密室で行われるものである特性上、虚偽の被害申告がなされるなどによる冤罪リスクが上昇してしまう可能性があります。
とりわけ、いわゆる美人局や示談金ビジネスの温床になりかねない点は注意が必要かもしれません。
Q,もしも被害にあってしまった場合はどうすべきですか?
すぐに弁護士及び警察に相談するべきです。
警察への被害申告は、なるべく弁護士を通じて刑事告訴の形式で行うことをおすすめします。
被害届と異なり、刑事告訴であれば捜査義務が発生し速やかに送検しなければなりませんから、警察としても優先的に捜査を進めてくれます。
また、捜査をスムーズに進めるためにも被害当時着用していた衣服などは洗濯せずに保管しておきましょう。
被害者が女性の場合、男性の刑事に性犯罪の被害申告をするのは心理的に抵抗があり難しいという方もいらっしゃると思いますので、その際は女性の刑事に対応してもらうようにお願いするとよいです。
最近では女性が被害者の場合、事情聴取を担当するのは女性の刑事である場合が多いです。
当然ながら性犯罪は民事上も不法行為となるため、警察対応とは別に、弁護士を通じて民事上の慰謝料を請求することも可能です。
Q,実際に被害届を出すとどう話が進むのでしょうか?
まずは警察に対し、被害者が事件当時のことについて詳細に供述します。
防犯カメラを確認したり、事件現場に行って実況見分を行うなど、裏付けのための捜査が続きます。
被疑者の氏名や住所が特定出来れば、警察が被疑者を逮捕し、あるいは任意出頭を求めるなどして取調べに進みます。
警察での取調べが終われば送検され、検察調べに移り、最終的に起訴不起訴の判断がなされることになります。
Q,被害に遭わないためにできることを教えてください
初対面の人との飲酒には気を付けましょう。特にアルコール耐性がない方の場合は注意が必要です。
また人気の少ない場所も、なるべく避けた方が良いです。
Q,今回の改正から新たに罪に問われ得るケースにはどんなものがありますか?
いくつか例を挙げますと、「同意しない意思を表明する暇がない」といった場合も、処罰の対象となりました。
明示的な同意を得ず、その場の雰囲気のみで性行為をしてしまうと、罪に問われる可能性があります。
また、社会的、経済的地位を利用した場合も処罰の対象となりました。
会社の上司と部下、あるいは学校の教師や生徒、サークルの先輩後輩の関係など、組織内での力関係に差があるような間柄での性行為は不同意性交等罪に該当し、罪に問われる可能性があります。
Q,「同意」とはどのような形でとるべきなのでしょうか?
行為をすることに対し「いいよ」など明示的な同意を得るのがベストです。
ただ、改正法が施行されて間もない状況であり、裁判所が具体的に「この意思表示は明示的だ」と判断を示した判例は現時点では存在しません。
しかし、性行為が不同意性交等罪に該当する状況のもとで行われたことが、検察官による立証のゴールとなるところ、刑事事実認定の構造上、冷静な状況下で性行為の相手方から明示的な同意を得たということは、不同意類型に該当する状況であったことに対する極めて強い“消極的間接事実(※)”になります。
※消極的間接事実…ある事実が存在しないであろうことを推認させる事実
すなわち、捜査段階においても公判段階においても、明示的な同意を得ることで、検察官の立証に対する有効な弾劾が可能となるわけです。
「嫌と言わなかったから」
「なんかいい感じの雰囲気だったから」
「付き合ってるんだから普通エッチするでしょ」
「家まで着いてきたんだからOKだよね」
などと軽率な判断のもと性行為に及ぶことなく、相手方が冷静に判断できる状況のもとで、「いいよ」「嫌じゃないよ」など、はっきりと明示的な形で同意を得ることがベストになります。
加害者になってしまわないためにも、まずは同意をはっきりと明示的な形で得ることが重要です。なるべく同意があったことを、なんらかの形で記録できるとよいでしょう。
Q,もしも被害届を出され罪を問われた場合はどうすべきでしょうか?
いち早く弁護士に相談して下さい。
罪を認める場合は早急に謝罪や示談といった、賠償の必要がありますし、身に覚えがない場合には争うための準備をする必要があります。
また、不同意性交等罪に当てはまるか不安な場合があると思いますが、そういった時もまずは性犯罪に詳しい弁護士に相談するべきです。
初回相談のみ無料で受けている事務所も多いのでいくつかの事務所に相談してみるとよいと思います。
Q,「被害届は出されてないけど不同意性交等罪をしてしまったかも」というときはどうすべきですか?
弁護士に一度相談することをおすすめします。
弁護士には守秘義務がありますので、あなたの相談した情報が警察といった捜査機関を含む外部に伝わることはありません。
安心して弁護士にご相談下さい。
■最後に
刑法第177条 不同意性交等罪への法改正によって、多くの人が泣き寝入りをせずに済むようになりましたが、同時に正確な情報や正しい対応が求められるようになりました。
刑事事件に関する正確な情報を得ることは、被害者になることを防ぐだけではなく、加害者として罪に問われるリスクから身を守ることにもつながるでしょう。
もしも刑事事件に関する情報を収集したい、または刑事事件に注力している弁護士を探したいという場合には、「ベンナビ刑事事件」をご活用ください。
コラムでの情報収集、お住まいのエリアでの頼れる弁護士探しなど、多くの役立つコンテンツを配信しています。
刑事事件の弁護を得意とする弁護士とユーザーの架け橋となる、国内最大級の法律相談サイトです。詐欺や窃盗、性犯罪・暴行など、さまざまな刑事事件に対応する弁護士を探して電話・メールで相談が可能。東京/大阪/福岡など全国に対応し、土日/祝日/夜間対応の弁護士も掲載しています。
代表者:須賀 翔紀(すが ひろき)
所在地:東京都港区西麻布1-2-12 デュオ・スカーラ西麻布タワー EAST801
所属:東京弁護士会
ベンナビ事務所紹介ページ:
・代表者 : 代表取締役 中山 博登
・所在地 : 東京都新宿区西新宿6丁目3番1号 新宿アイランドウイング4F
・資本金 : 608百万円(2023年7月末現在)
・設立 : 2016年4月
・従業員数: 81名(2023年7月末時点)
・事業内容:
―インターネット上で法律情報や弁護士情報等を提供する「リーガルメディア関連事業」
―弁護士等の士業や管理部門に特化した人材紹介サービスを提供する「HR 事業」
・サイトURL:https://asiro.co.jp