この記事をまとめると
■SUVフォルムの新型センチュリーが登場したがフォーマルな場でどうみられるかを考えた
■現在はまだショーファーとしてセダンが格式で1番という認識が強い
■クルマのドレスコードという観点ではボディカラーも重要
セダンタイプのセンチュリーを継続販売していることが答えのひとつ
トヨタが新型センチュリーを発表した。トヨタ自身は「乗降所作の美しさなども考慮したショーファーカーの新しいカタチ(パッケージ)」と主張しているが、その姿をみて「新型センチュリーはSUVフォルムになった」と感じた人は少なくないだろう。
筆者は、この点についてトヨタも自覚しているのだろうと思う。古典的なフォーマルを体現したスタイルのセンチュリーセダンを併売しているのが、その証拠だ。SUVフォルムであっても、従来からセンチュリーに求められる、あらゆるTPOにて問題ないのであれば、セダンを継続販売する必要はない。
やはり、まだまだSUVフォルムのセンチュリーではふさわしくないケースがあると、トヨタも考えているのではないだろうか。
たとえば、2022年7月にテロ行為により亡くなった安倍晋三氏の葬儀や、その後の国葬を思い出してみてほしい。検索すれば、当時の報道映像などを容易に見つけることができるので、あらためて車種について確認してみてほしい。
7月12日に行われた葬儀の最後、桐ケ谷斎場に向かったのはセンチュリーをベースにした霊きゅう車で、その後ろには黒塗りのミニバンがついて行っていた。
やはりVIPの霊きゅう車は最高級クラスが求められる一方で、親族などが乗るクルマについては、現在のショーファーカーにおける主流となっているミニバンでも問題ないというマナー感になっていることがわかる。
そして、9月27日には武道館にて国葬が行われたわけだが、その際に昭恵夫人が自宅から会場まで遺骨を持って移動する際には、旧型センチュリーが使われていたように記憶している。
おそらく、これがミニバンであったり、新型センチュリーのようなSUVフォルムであったりしたら、世間的には映像に違和感を覚えていたのではないだろうか。
国葬という格式に対する“ドレスコード”としては、まだまだセダンシルエットの最上級ショーファーカーが求められるというのが、2020年代のスタンダードといえる。
葬儀には明るい色のクルマがマナー違反と考える人が多い
ところで一般論になるが、葬儀については参列者についても、明るい色のクルマで馳せ参じるのはマナー違反という声は少なくない。
基本的には黒かグレー、ガンメタリックやホワイトは問題ないが、赤や黄、明るい青といったスポーツカーに多く使われるようなボディカラーで葬儀場に向かうのはNGと認識している人は多いだろう。そのためスポーツカーユーザーは、愛車で葬儀に向かったとしても、会場から離れたコインパーキングに入れるといった配慮が求められる。
一方、結婚式などお祝いの席については、そこまでボディカラーのよる是非について厳しい見方はないようだ。主役のふたりが会場入りするクルマにしても、黒いハイヤーが基本となりつつ、明るいホワイトの送迎車というのも自然だったりする。結婚式であれば、新郎新婦がオープンカーで乗りつけるといった演出もけっしてあり得ない話ではない。
そうした感覚からすると、結婚式と新型センチュリーという組み合わせにおいて、「白鶴(はっかく)」と名付けられたプレシャスホワイトパールとシルバーの新型センチュリーは、主役のふたりを運ぶショーファーカーとして、まったく問題なく受け入れられるだろう。
しかしながら、「紅蓮(ぐれん)」と呼ばれるグローリーレッドとシルバーのツートーンカラーの新型センチュリーが、披露宴会場に新郎新婦を乗せてくるというのは、まだ多くの人にとっては違和感があるのではないだろうか。
クルマのカタチや色にこだわらないという世代もいるだろうし、新しいスタイルを受け入れる柔軟な人も少なくないだろう。とはいえ、旧来からのTPOやマナーといった価値観を持っている人は、ドレスコードに合わないクルマを使うことに眉をひそめることだろう。
視点を変えると、新型センチュリーの登場によって、ショーファーカーのパラダイムシフトは起き始めているという見方もできる。将来的には、フォーマルな場にはセダンだけがマナー的に正解とはならず、新型センチュリーの姿が自然に溶け込み、ドレスコードとしての違和感もないといった状況になっているかもしれない。