オフローダーの元祖、ウイリスMBから80年以上。最新技術満載のレンジローバーはどれほどの進化を遂げたのか。悪路での比較で確かめました。
険しい場所を陸上で目指すための手段
人類は道具を手にする前から、自らの場所を求めて移動を続けてきた。最初は、自らの手や足が頼りだった。馬や牛を頼った時代が長く続き、産業革命を経て、自転車やバイク、自動車、電車、飛行機など、より有能な移動手段を獲得していった。
しかし整備された道のない、険しい場所を陸上で目指せる手段の基本は、ここ1世紀以上変わっていない。丸く成形された4本の金属を、4本のゴムで包んだ車輪が、人間の足の代わりになってきた。
【画像】オフローダーの進化 ランドローバー・レンジローバー ネカフ・ジープ 現行モデルも 全118枚
現実的な達成プロセスは、大きく進化している。ずっと安楽で快適に、困難な目的地まで辿り着けるようになっている。そこで、新旧2台のオフローダーを用意してみた。
早速、新しいモデルからご紹介しよう。ランドローバー・レンジローバーのプラグインハイブリッド、P440eで、最先端のオフロード技術が満載されている。とはいえ高級車でもあり、本当の意味で悪路に最適なモデルとまではいえないかもしれない。
ランドローバー・ディフェンダーの方が好適だ、と指摘する読者もいらっしゃるだろう。悪路の走破性を追求した、象徴的な完成形の1つであることは間違いない。
それでも、高度な技術と贅沢な車内に、容赦ない不整地、という組み合わせへ筆者は強く惹かれる。かなり気を使いそうではあるが。
オフローダーの起源へ非常に近いM38A1
もう1台は、元祖といえる大先輩。ウイリスMBの改良版に当たるM38A1型、いわゆるジープだ。ただし、この車両はネザーランド(オランダ)のネカフ社によって、1955年にライセンス生産されたものだけれど。
さかのぼれば、ネザーランドのスパイカーが世界初の四輪駆動車を開発したのは1900年代初頭。その後、第二次大戦時にアメリカのウイリス社が生産した1941年のMBが、現在のオフローダーの原型になったという認識は、一般的なものだといえる。
ネカフ・ジープ M38A1(1955年式/欧州仕様)
戦後の生産だとしても、M38A1型ジープはオフローダーの起源へ限りなく近い。実際に目の当たりにすると、極端に感じられるほど質実で質素。余計な飾りは一切ない。
サスペンションは前後ともリーフスプリング。フロアから非常に長いレバーが伸びていて、四輪駆動か後輪駆動、ハイかローを選べるトランスファーが備わる。トランスミッションは3速のマニュアルが載る。
エンジンは水冷式の2.2L直列4気筒、ハリケーン・ユニット。ボディにドアはなく、ヒーターもない。絶壁のダッシュボードに数枚のメーターが並ぶが、車載技術と呼べるものはその程度。惜しくも、一部のメーターは機能していない。
M38A1型の設計目的は、場所を選ばず走ること。その達成に必要なもの以外、装備されていない。しかも、ラインオフしてから68年が経っている。
贅沢さは有能さに影響を与えるのか
最新のレンジローバーへ乗り換えると、飛躍ぶりが面白い。これなら終始平穏で快適に、雪深いスキー場への往復もこなせるだろう。
サスペンションには車高を135mm高くできるエアスプリングが組まれ、リア側には同社初の5リンク式を採用。素晴らしい乗り心地を実現している。
ダークブルーのランドローバー・レンジローバー P440e オートバイオグラフィーと、ダークグリーンのネカフ・ジープ M38A1
路面状況に応じてドライブトレインを最適に制御する機能、テレインレスポンス2には6モードが用意され、センターデフとリアデフは電子制御でロック可能。後輪操舵システムも搭載され、最大7.3度までリアタイヤは向きを変える。ローレシオも備わる。
プラグイン・ハイブリッドのパワートレインは、オフロード向きとはいえない。燃費は13.0km/L前後で車格としては悪くないものの、38.2kWhと大きな駆動用バッテリーがシャシー底面に敷かれており、通常より最低地上高が11mm低い。
果たして、贅沢さは有能さに影響を与えるだろうか。使われなくなった採石場で確かめてみよう。
手始めに挑んだのは、急な下り坂。表面が滑らかに削られた岩と、角が残る岩が土の斜面に混在し、なかなか手強そうだ。
レンジローバーですぐに能力を発揮した技術が、4基内蔵されたカメラ。デザイナーのジェリー・マガバーン氏がまとめ上げたスタイリングは特別感を漂わせるが、前端や後端が先細りになっているため、車両四隅の感覚を掴みにくいのだ。
この続きは後編にて。
記事に関わった人々
執筆:ピアス・ワード
英国編集部ライター
撮影:ジョン・ブラッドショー
英国編集部フォトグラファー
翻訳:中嶋健治
1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。
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