どこへでも向える自信 ランドローバー・シリーズ1 着想はジープ 1948年のゲームチェンジャー(4) 

2023.06.01 00:00
公開 : 2023.05.06
戦後の開放的な雰囲気のなか、ゲームチェンジャーといえる傑作モデルが誕生した1948年。その最たる6台を、英国編集部がご紹介します。
ジープから着想を得たランドローバー
コカ・コーラやチョコレートだけでなく、数え切れないほどのジープをアメリカは第二次大戦時の欧州へ持ち込んだ。平和が訪れると、歓迎されない遺物としてジープを邪魔者扱いする人も少なくなかったが、復興の移動手段として役立てる人も多かった。

ローバーの技術者だったモーリス・ウィルクス氏にとって、ジープは農場で有用な道具になった。それから転じて、ランドローバーのアイデアが生まれた。
【画像】1948年のゲームチェンジャー ジャガーXK120とランドローバー ディフェンダーとMkVIIも 全110枚
同社の経営責任者を務めていた、兄弟のスペンサー・ウィルクス氏との何気ない会話を発端にアイデアは温められ、堅牢な商用車としての方向性が決定。最初のプロトタイプは、1947年に作られている。

ホイールベースを80インチ(約2032mm)としたジープのシャシーに、48psのローバー10型エンジンを搭載。トランスミッションはローとハイの2レンジを備えた専用品が組まれ、簡素な形のボディには入手しやすいアルミニウムが用いられた。

堅牢なジープに着想を得たモデルではあったが、ランドローバー・プロジェクトでは独自に過酷な走行実験が繰り返された。48台のプロトタイプには、様々な改良や変更が加えられたという。その初期の1台は、英国自動車博物館に展示されている。

デザインスケッチは、生産初期には重要な製作資料として役立てられた。ローバー社の職人は、簡素なプレス機とハンマーでアルミのシートを叩き、ボディを作っていた。
世界中で必要とされた多目的なクルマ
ランドローバー・シリーズ1が発表されたのは、1948年4月のオランダ・アムステルダム・モーターショー。展示ブースに飾られたのは最初にラインオフした2台で、3台目はGWD 431のナンバーで登録され、数日後に工場を旅立っている。

半年後、スペイン・バルセロナで開かれた国際トレードフェアでは、不満のないオフロード性能を披露。イベント終了後はモーリスの兄弟、ジェフリー・ウィルクス氏がGWD 431のオーナーになった。その間に、右ハンドルへ変更を受けている。
ランドローバー・シリーズ1 80インチ(1948〜1951年/欧州仕様)
1950年までに、ローバーの工場ではP3サルーンよりランドローバーの方が多く生産されるようになっていた。1951年に4万台へ達し、1952年には海外の工場でもライセンス生産がスタートしている。

戦後の暮らしを支えるべく生まれた多目的なクルマは、世界中で必要とされることが証明された。ランドローバーという、新しい自動車メーカーを生み出すことにもなった。

現在、GWD 431のランドローバー・シリーズ1を所有するのは、ティム・ダインズ氏。グレートブリテン島の南西部、デヴォン州をドライブしているときに発見したという。

「16歳の頃から、ホイールベースが80インチのランドローバーを所有したいと願ってきました。ドロゴ城の近くに住む農夫の倉庫に、それが眠っていたんです」

当時のオーナーと交渉を重ね、購入資金を借りたティムは、自宅のある南東部のケント州まで持ち帰ることに成功。生涯大切にすると誓う、ランドローバーのオーナーになった。
快適とはいいにくい運転環境
1997年に自身でレストアへ着手。作業終了後は本来の目的通り、様々な用途に役立てているという。「トレーラーを引っ張ることもありますし、不整地も走ります。2018年には、バルセロナまで自走もしました」

「乗り心地はどうですか?」。ジャガーXK120のオーナー、デイブ・ナーシー氏が尋ねる。「まったく問題ないですよ」。ティムが答える。
ランドローバー・シリーズ1 80インチ(1948〜1951年/欧州仕様)
「妻はシートの背もたれにブランケットを挟んで、クッション代わりにしています。わたしは気にしません。快適です」。と、初期のランドローバー・オーナーに共通する、明るくタフな考えを言葉にする。

実際のところ、3番目に完成したランドローバー・シリーズ1の運転環境は、快適だとはいいにくい。とはいえ、我慢が必要なほどではない。

軽くアクセルペダルを踏みながら、プッシュボタンでスターターを回すと、4気筒エンジンが勢いよく目覚める。古い商用車に共通するが、ドライビングポジションは直立気味で、運転席からの視界は良好。ペダルやステアリングホイールの位置も丁度いい。

1.6Lエンジンは粘り強く回り、2速での発進もいとわない。通常、ティムはそうしているという。

ステアリングとシフトレバーに遊びが多いのは、製造品質が低いわけではなく、オフロード走行が前提だから。深いワダチやコブを越えても、シリーズ1は動じることなく進んでいく。
どこへでも向えそうな自信を与える
英国のクラシックカー・イベントでは、移動手段として頑張るランドローバー・ディフェンダーを目にすることも多い。このグッドウッド・サーキットでも、シリーズ1は走る場所を選ばない。むしろ、困難な悪路を探したい気分になってくる。

最大トルクは11.0kg-mと限られるものの、軽量なボディのおかげで、舗装された道では驚くほど活発に走る。ステアリングの反応は曖昧で、車線中央を維持するには多少の慣れも必要だが、運転する時間が長くなるほど信頼感も大きくなる。
ランドローバー・シリーズ1 80インチ(1948〜1951年/欧州仕様)
不思議なことに、シリーズ1のランドローバーは、ドライバーへどこへでも向えそうな自信を与えてくれる。実際、そのために設計されている。戦後の新しい経済を根っこで支えた、最前線にあるクルマといえた。

英国のオフローダーの代名詞として、世界中で認識されるに至った、ディフェンダーの原形となるランドローバー・シリーズ1。オリジナルの姿勢はそのままに、快適性を高めた新型へ世代交代を果たしたことは、ご存知のとおりだ。
ランドローバー・シリーズ1 80インチ(1948〜1951年/欧州仕様)のスペック
英国価格:450ポンド(新車時)/5万ポンド(約805万円)以下(現在)
販売台数:約1万8700台
全長:3353mm
全幅:1549mm
全高:1867mm
最高速度:93km/h
0-97km/h加速:−
燃費:6.4km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1264kg
パワートレイン:直列4気筒1595cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:50ps/4000rpm
最大トルク:11.0kg-m/2000rpm
ギアボックス:4速マニュアル
記事に関わった人々
執筆:チャーリー・カルダーウッド
英国編集部ライター

撮影:リュク・レーシー
英国編集部フォトグラファー

翻訳:中嶋健治
1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。
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