広告会社に勤める父親たちが、あえて日常の1シーンを届ける理由。子育てマンガ『俺はパパパン』誕生の裏側。

2022.12.26 08:00
都営バスで、パンの顔をしたキャラクターの漫画が流れている。SNSでも見た方から感想が度々投稿される、そのタイトルは『俺はパパパン』。主人公となるパパ役のパパパンが遭遇する、子育てにおける何気ない1シーンが描かれ、毎週更新されている。


『俺はパパパン』は、「父親と家族の子育て」を応援するマンガとして、パパラボが企画している。


「子育て」は少子化が進む日本にとっては重要なトピックスの一つであり、子育て支援策に関する議論は絶えない。それは出産に伴う費用面から、その後の生活に伴う環境の整備など様々である。その論点の一つは、男性の育児休業取得率だ。政府は「2025年までに、男性の育児休業取得率を30%に引き上げる」と具体的な目標を掲げているが、 厚生労働省の「令和3年度雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業取得率は13.97%にとどまる。2016年にこの数字が3.16%だったことを踏まえると10ポイント以上の伸長と大きく改善はしたが、まだまだ目標の半分を下回っている状況だ。


パパラボは、設立当初から「父親と家族の子育て」に正面から向き合っている。2016年に電通の社内プロジェクトとしてスタートし、父親の子育て実態や子育てマンガの発信を行っている。『俺はパパパン』もその一環だ。


子育て中の男性社員によって立ち上がり、運営されているパパラボの裏側や、『俺はパパパン』の誕生秘話について本ストーリーで紹介したい。
▼プロジェクト担当メンバー
服部嶺 パパラボ代表。パパパンを含めたラボ活動の推進を担当。
高島新平 アートディレクター。パパパンの作画やストーリー構成を担当。
柴田修志 コピーライター。パパパンのセリフやストーリー構成を担当。
「父親と家族の子育て」へ向き合うきっかけとなった、出発地点
6年前の、2016年10月20日にパパラボは結成。当時、世間では子育てといえば母親が主役、母親と父親が一緒に育児するような姿が実現できているとは言い難い状況だった。


「娘を幼稚園に迎えに行くと、パパは僕くらいで、大半はママなんです。もっとパパが増えてもいい気がする」と、『俺はパパパン』のコピーやフレーズを担当する柴田は当時の想いを話す。


電通が得意とするマーケティングやクリエイティブの側面から、父親の育児に対して何かインパクトを与えられないか。そのように設立から当時のメンバーで考え、アンケート調査やインタビュー調査で父親と家族の子育ての実態を把握し、その結果を企業のマーケティング支援に活用することを決めた。


実際に調査をする中でわかったことは、「パパのやる気だけでは子育ては変えられない」ということ。そもそも子育ては、父親と母親だけでなく、祖父母、会社、自治体、サービスや商品も活用して取り組むことが必要不可欠だ。特に父親へ目を向けると、その多くが働きながら子育てをすることになるため、会社の協力を得られるかどうかは重要なポイントともいえる。


「パパの育児は、パパのやる気と企業風土の両方がそろっていないとできません。意外と電通は子育てに寛容で、例えば『子どもの学校行事があるので撮影に行けない』みたいなことを言いやすい。実際にはそうではない会社が多いとしても、パパラボの活動が様々な企業の風土に影響を与えられたら嬉しい」と柴田は語る。


父親が子育てしやすい環境を作るには、まず『パパの子育てとはどんなものか』を知ってもらう必要がある。父親と母親がいっしょに子育てをすることが珍しいことではなく、当たり前のことだというメッセージを世の中に発信しなくてはいけない。そのため、設立時から様々な企業のマーケティング支援だけではなく、自分達でコンテンツの発信を行なってきた。
娘に好かれたい父親の子育てマンガ「俺はパパパン」誕生秘話
パパラボが発信しているコンテンツの中で、看板ともいえるのが子育てマンガ『俺はパパパン』である。チョココロネをモチーフにしたキャラクターで、父・母・2人の娘の4人家族という設定。愛娘とママとの何気ない日常が、父の目線から独自に切り取られている。
(都バスのサイネージ連載に合わせて、 Instagramでの更新が進んでいる。)


「俺はパパパン」の制作は、柴田と高島の2人が担当だ。パパラボが始動してから2年、企画を出すタイミングで偶然2人が意気投合したことがきっかけである。普段の仕事で広告のコピーを担当する柴田は、娘が発したおもしろい言葉をメモ帳に記録していた。現在7歳の娘が2歳の時からつけており、5年分の言葉を記録している。メモ帳には名前があり、『凪おもしろ語録』と次女の分は『かやおもしろ語録』となっている。


その内容をパパラボの活動で活かせないかと考えていた際、普段はアートディレクターとして働く高島に声をかけた。彼はプライベートな時間で、自身の子育てライフをすでに漫画で表現していた。アイディアと技術がマッチした瞬間である。


そのアイディアをパパラボ内で共有すると、メンバーからは好評だった。父親になることで違った視点が見え始め、世間話も子どもに関することが増えたメンバーが多かった背景もある。そんな共感を生むコンテンツを届けてみたい、と意見が合致し子育てマンガを作ることが決まった。


作品の方向性が決まると、まずは「何のためにやるのか」、すなわちプロジェクトの道しるべとなるパーパスを設定することにした。話し合った末、『自分の子どもに自慢できる仕事をする』に決定。子どもが大きくなったときに「私のことを描いてくれた」と振り返ってもらえるものを作る。それが一番素直な気持ち。自分の子どもに響くものが、結果として世の中にも響いてくれれば良いと思っていた。
幼い頃の甘い記憶から生まれたチョココロネのキャラクター
『俺はパパパン』の登場人物はチョココロネがモチーフだが、ここにはキャラクターをデザインした高島のパーソナルな部分が大切に紐づいている。


「子育てをしていると、自分の幼い頃の記憶がよみがえってくる瞬間があるんです。ある日、幼い頃に食べたチョココロネがふっと浮かんできたことがありました。甘くて大好きだった。あの感覚は、幸せの原体験だったと思う。それがデザインを決めた瞬間。」と高島は語る。もちろん、いくつか候補があった中、パパラボ内で好評だったこともありチョココロネがキャラクターデザインとして採用された。
(当時のパパパンイメージと、実現はしなかったキャラクター候補のイラスト群)


パパパンは、口が「父」の文字になっていることがポイントだ。口ひげを描くことにもこだわりがあった。高島と柴田がひげを生やしていることから、より自分たちの容姿に近いキャラクターのほうが、子どもが見たときに入り込みやすいと考えているのだ。このような細かな部分にも、子どもへの愛情を感じる。
(『父』という字で、うまく髭と口が表現されているデザイン。)


マンガのストーリーは、全て子育ての実話がベースになっている。ラボメンバーへのヒアリングや柴田と高島の実体験を通じ、最初にストーリーを2人で決める。その後、柴田がプロットを書き、それを高島が絵に描き起こして完成させる流れだ。フレーズは子どもならではの視点を活用するために、柴田の『凪おもしろ語録』『かやおもしろ語録』からもとっている。


制作中によく議論になるのは、現実とフィクションのバランスだ。100%作り話のような大胆なストーリーや、脚色を加えた漫画を作ることは容易だ。しかし、2人はノンフィクションにこだわる。


子育てには子どもならではの視点から生まれるエピソードが多くあり、大人が考えても思いつかないような出来事がたくさん起こる。だからこそ、リアリティを追求するのが柴田のこだわりだ。


加えて、マンガの最終コマには「ママパンのチョコっとひとこと」というコーナーが設けられている。ここでは、子育てに奮闘するパパパンを見たママパンの感想が一言で綴られている。パパ視点の育児マンガの場合、そのまま書けばパパと子どもの二者で物語が完結することが多い。しかし、それらはママとのチームワークがあって成り立っていることを忘れてはいけない。そうしたママという存在へのリスペクトが、最後の一コマで表現されているのだ。
(最後のコマでは、ママパンが全体を俯瞰しながら一言まとめを話す。)
パーパスは変わらずとも、考え続けることで表れた変化
最初にデザインしたコンセプトを元にマンガ作りを行ってきたが、もちろん紆余曲折はあった。現在まで一貫した作品に見えるのは、あくまで結果論である。


例えば、パパパンの発言やデザインを過去と現在で比べると変化が見えてくる。元々、自分達を投影したキャラクターではあったが、それとは別に裏設定も存在した。とある芸能人の言動が父親として参考になるため、若干の影響は受けていた。


柴田は当時を「味付けが濃かった」と表現するように、コンテンツとしてキャラが立っていることを目指した。しかし、現在は異なり、自分達を投影したようなマイルドなイメージになっている。マンガを描いていく中で、自然と変化していった。


作品を描き続ける中で感じた違和感が変更の理由だ。「自分達の子どもが大きくなった際、備忘録として見せて自慢ができるのか」と最初に設定したパーパスと照らし合わせながら、脚色しすぎず、等身大の子育て像を発信したいと考えた。


その他、高島の描くデザインにも変化が生まれている。今まではアートディレクターとして、企画やメイキングのためのコンテ・絵を描き続けてきた。しかし、自分の作った作品そのものが表へ出る一種の緊張感により、意識の変化が作品にも現れている。


また、高島は常に新しいパパパン像を模索し、キャラクターを理解しながら描くようになった。以前までは記号的な形での単純な表現(決まったパターンでの組み合わせ)だったが、回を重ねるごとに、喜怒哀楽以外の絶妙な表情も描き分けながら、人間味をうまく表現している。
(子育て中に感じる絶妙な表情の変化や心の機微も表現。)
子育てのネガティブをポジティブへ。実話をもとに発信を続ける
『俺はパパパン』の特徴といえば、都営バスの車内モニターでも上映されていることだ。一コマずつ紙芝居風にコマがめくられ、通勤や買い物などで移動中の人々を楽しませている。都営バスに乗って『俺はパパパン』に出合った人が、SNSで感想をコメントとして残す。


高島が絵を描いていると、柴田が「こんなコメントありましたよ」とSNSの好意的な声をシェアする。「ポジティブなコメントがあると、本当にうれしくて。泣きながらマンガを描いています。」と高島は語り、一般の方から届く温かいコメントがやる気に繋がっている様子だ。


もちろん、時にはネガティブなコメントをSNSで目にすることもある。しかし、『俺はパパパン』では普段の生活の中にある、宝物のような大切な一コマを公開している。


2人の実話をもとにしたストーリーは決して派手ではない。けれども、その平凡さが「自分にもこんなことあったな」と都営バスを利用する人々の共感を呼んでいる。


また、子育ての中に起きる、困らされる・泣かされる・理不尽を受けるといった一見ネガティブなシーンで終わらず、最後に起きるポジティブな部分も伝えることで子育てを行う当事者の応援にも繋がっている。


これからもパパラボ、また『俺はパパパン』は子育ての楽しみ方を見つける手助けや機会を作り続ける予定だ。子育ての大変さを感じる局面は様々なシーンであるが、その環境を変えるような社会や企業に対して今後も広告会社に勤める父親たちが働きかけていく。

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