甲賀市の茶畑を新たな地元の名産へ ~産地がワンチームとなり生まれた「土山一晩ほうじ」に込めた想い~

2022.09.15 15:30
滋賀県甲賀市が1日に販売を開始した新ブランド「土山一晩ほうじ」は、県内の茶農家、茶匠、農協らのメンバーがワンチームとなり、4年の年月をかけて誕生しました。
滋賀県甲賀市は古くから日本茶と結びついた地で、平安初期に最澄が中国から茶の種を持ち帰り、滋賀の比叡山麓に植えたのが発祥と言われています。中でも土山地区は県内で約7割の茶葉を生産し、寒暖差が大きく雪が少ない気候のため良質な茶の生育に適した環境です。高品質でありながらも知名度が高い産地ではないために、かつて約300戸あった茶農家は現在約100戸に減少し苦しい状況が続いています。この現状を打破するために産地が一体となり、新たに誕生した「土山一晩ほうじ」に込めた想いを、甲賀市役所の甲賀市役所農業振興課 課長補佐 久保重徳や、茶農家らが語ります。




■「甲賀市の茶畑を守る!」4年をかけて取り組んだ産地一体の挑戦(甲賀市役所農業振興課課長補佐・久保重徳氏)
 このプロジェクト発足の経緯は、お茶の価格が5年前(平成29年度)を境にずっと低迷していることがきっかけです。「もうお茶の価格がこれ以上高くなることはないだろう、何か手を打たないと」と危機感を感じました。甲賀市は全国で約13~14番目のお茶の生産地ですが、全国では小さな産地です。何か目立つことしないと売れないし、お茶の生産時期も気候の影響により他県に比べて遅いので、有名な産地に負けてしまいます。新茶は収穫時期が早いと価格が高くなる傾向にあり、風味が良いから高いのではない点が課題です。全国だと京都や鹿児島、静岡など収穫の早い産地が高値で取引されています。また2018年(平成30年度)は茶畑が低温障害の被害で枯れてしまい、さらにコロナの影響でインバウンドや法事などの行事が減ったことで低迷が続いています。


 そこで今回、甲賀市の新たなブランドとして「土山一晩ほうじ」の開発に挑んだのですが、プロジェクトには様々な人がいるため色々な意見があり、商品化までの道のりは本当に大変でした。4年をかけてワンチームとなり、ようやく商品として世の中に出ていくことが出来ました。これからは、ほうじ茶と言えば「一晩ほうじ」・「土山」というイメージを徐々に持ってもらい、地域の特産品として「甲賀市に来たら、ほうじ茶を買う」という感じで親しまれて欲しいです。また個々の生産者によって茶葉も製造方法も異なるので、色々な味わいの「土山一晩ほうじ」を楽しんで欲しいです。まずは地元の人に飲んでもらい、ゆくゆくは世界ブランドを目指したいです。




■産地がワンチームとなり出来た「土山一晩ほうじ」をぜひ味わって欲しい(グリーンティ土山・竹田知裕氏)
 今回、産地がワンチームとなって「土山一晩ほうじ」を開発した背景には、関係者の仲の良さがありますね。甲賀市で何ができるかを皆で考えてアイディアを絞り込んだ結果、ここに辿り着きました。昔は茶農家の件数も多かったのですが今では、茶農家の高齢化・後継者不足で農家の数もかなり減りました。小さい産地だからこそ力を合わせてこのプロジェクトが出来たのだと思います。


 私の所属するグリーンティ土山では約15種の茶の品種を栽培しており、自社ブランドの「グリーンティ土山」として、煎茶や抹茶の他に和紅茶、フィナンシェ、ラテなども商品化し販売しています。安心安全なお茶を作るため環境に配慮しながら、農薬を極力減らして、この地でしか作れないお茶作りに力を入れています。栽培方法のこだわりは色々ありますが、常に日本のトップを目指したお茶作りに励んでいます。


 土山は寒暖差があり、空気や水が綺麗で土質も良いので、お茶の栽培には適した環境ですね。また今回グリーンティ土山が作った「土山一晩ほうじ」の特徴は、一番茶の初摘芽で作るため新茶の味と香り、さらに土山一晩ほうじの特徴のフルーティーで華やかな香りと焙煎の香ばしさのバランスの取れた仕上がりになっています。


 土山では各農家によって茶の品種やこだわりが異なるので、色々な味や香りの「土山一晩ほうじ」が生まれます。是非色々飲んで頂ければと思います。


 ゆくゆくは全国に知られて、長く愛されるブランドになって欲しいですね。幅広い年齢層や、お茶マニア、香りが好きな人、コーヒーが好きな人などにぜひ飲んでもらいたいです。


■お茶づくりは未知数の連続で難しいが、楽しい(土山町茶業協会前会長・立岡啓氏)
 滋賀県の農業はもともと京都の下請けが多く、お茶や京野菜も滋賀県で作っています。近年は日本の人口減少に伴うお茶農家の減少や、滋賀県産のお茶が安く取引されている現状があって、そこを何とかしたいという想いで今回の「土山一晩ほうじ」の企画ができました。


 今回のテーマは萎凋(いちょう=発酵を促す)を一晩(12時間以上)するということ。萎凋は中国茶ではよく用いられる手法で、これまで日本茶ではあまり好まれてきませんでしたが、萎凋をすることで花のような華やかな香りのお茶に仕上がります。いろいろと試行錯誤していますが、このテーマに沿ったお茶を作る工程はなかなか難しいですね。例えば、茶葉の品種によって今回はジャスミンの香りが出たけど、同じ香りを再現するのが難しい。全ての気象条件がバチと合った時に同じ香りは再現できるけど、納得する香りを追求するのは本当に悩ましいです。同じ茶葉でも萎凋の方法によって香りが違ってくるし、茶葉の品種によっても香りが出るものと出づらいものがある。茶葉は毎年味が変わるし、毎回未知数の連続で生産者の立場としては本当に難しいですよ。


 また、お茶の産地はもともと田んぼが出来なくて貧しい地域が多い。昔は米がお金になる作物だったが、この地ではたまたま気候や風土がお茶に合っていたのでお茶の産地になった。日本で最初に茶を伝えたのは約1200年前の平安初期に、最澄が中国から茶の種を持ち帰り、滋賀の比叡山麓に植えたのが日本茶の発祥と言われている。ここでは江戸時代中期頃から茶の生産が行われ、東海道の宿場町だったこともあり、換金作物としてお茶の栽培を始めて街道で名物として売られていました。お茶は土地が痩せた山間部で栽培すると、朝晩の寒暖差から良い品質に仕上がります。うちでは約10種類以上のお茶を栽培していますが、お茶の栽培は楽しいし、味も色々あって面白い。私は自分で美味しいと思うお茶を栽培していますね。土山のお茶は味わいが良いので、まずは地元の人飲んでもらって、そこから全国の百貨店などに広まってもらえたらいいですね。


■土山に訪れて、茶畑を見渡しながらお茶を楽しんで欲しい(土山町茶業協会会長・吉村忠夫氏)
 この地は高齢化と農家離れが進んで、茶畑が荒れてきてしまっている。もっと人が集まればもっと茶畑をきれいにしようと思うので、この広大な茶畑(頓宮大茶園)を見渡しながらお茶を飲んで楽しめる場所を作りたいです。特に5月の茶刈りが始まる頃だとすごく景色が良いので、まずは1回でも足を運んで欲しいですね。ここは星の観察も出来るくらい星が綺麗に見えるので、まずはベンチ1つから始めようと思っています。あとは屋根を作って、看板を置きたいですね。また、ここでは土山マラソンが有名で、全国から毎年フルマラソンのランナーが集まります。約2年後には道の駅のリニューアルも予定しているので、お茶に特化した道の駅を作って土山地区の茶産業をもっと盛り上げてゆきたいです。


 私は毎朝4時から茶畑で作業をしていますが、朝は霧が立ち込めて神秘的な光景が広がります。日の出の時間帯だと、朝日も見られますよ。この綺麗な景色を見ながら飲む“コーヒー”は最高ですね。笑 お茶もコーヒーと同じで、焙煎の方法が大事。焙じ方で味わいが変わるから、自分たちで美味しい味わいのお茶を作りたいと思っています。まずは今回の「土山一晩ほうじ」を飲んでもらって、そこから色々な土山茶も楽しんでもらいたいですね。


 また、お茶の生産は生葉を育て、収穫して、加工して、自分で販売までしないといけない。さらに毎日相場が変わるため、その日の相場に追いつくために販売をする作業は本当に大変な仕事です。これを毎年・毎日やっているが、夜遅くまでかかる仕事なので高齢者にとっては体力的にも難しい。今の専業農家は70歳以上が多いけど、70~75ぐらいで辞める人も多いのが現状です。もっと販売能力を上げて収益をあげることで、後継者や若い担い手を育ててゆきたい。 ここ10~15年で農業の担い手も減ってしまいましたが、他の産地に比べると土山地区はまだプロフェッショナルの農家が多く残っている方なので、これからもこの地を守ってゆきたいです。


【土山一晩ほうじブランドムービー】×

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