ルノー4CV・オースチンA40・VWサンタナを日本で生産!? メーカーにとって諸刃の剣だった「ノックダウン生産」とは

2022.06.02 11:40
この記事をまとめると
■ノックダウン生産という生産方式を解説
■効率よく生産体制を整えてノウハウを吸収することが可能だった
■ノックダウン生産で得たノウハウがメーカーのその後の運命を左右する場合もある
「ノックダウン生産」で自国の自動車産業を効率よく強化できた
  自動車産業に関わっていると「ノックダウン生産」という言葉を目にすることは少なくない。昨今のノックダウン生産というのは、完成車の関税が高い国などにおいて、部品として輸出して、現地で組み立てるという生産方式を指すことが多い。
  このように単純な関税対策であることもあれば、将来的には完全な生産工場として成立させるための最初の段階としてノックダウン生産を利用することもある。規模によっては、完成車よりも部品単位にしたほうが輸送代を抑えることができるというメリットもある。
  たとえば、日本において最初期の自動車生産工場として1925年(大正14年)にフォードが横浜の東京湾沿いに建てた工場が知られているが、それはいわゆるT型フォードの部品を輸入して日本で組み立てるというノックダウン生産をするための工場だった。余談だが、その跡地は、後にフォード傘下となったマツダの土地となり、マツダR&Dセンター横浜となっている。
  さて、日本においてノックダウン生産が盛んに行われていたのが1950年代だ。欧米に対してかなり遅れていた日本の自動車産業を成長させるために、国策的に海外メーカーと提携し、ノックダウン生産を受託することで自動車生産のノウハウを得ようという動きがあった。
  名乗りを上げたのは、日産、日野、いすゞの3社だ。日産は英国系のオースチンA40を、日野はフランスのルノーと組んで4CVを、いすゞは英国系のヒルマン・ミンクスのノックダウン生産を開始した。
  直列OHV・748ccエンジンをリヤに搭載した4CVは「日野ルノー」という名前で販売され、タクシーなどフリートユーザーからも高く評価されたという。それほど信頼性のあるモデルであり、ノックダウン生産は日本で受け入れられたのだ。
ノウハウが手に入る代わりに自社の方向性が決まってしまう弊害も
  とはいえ、政府の狙いもあって各社はずっとノックダウン生産に留まるつもりはなかった。当初は部品を輸入して組み立てるだけの純粋なノックダウン生産といえる状況だったが、徐々に国産パーツの比率をあげていく。最終的には部品の国産調達率が100%になったということは、部品を輸入して組み立てるノックダウン生産から、設計図を基にしたライセンス生産へ移行したという風に捉えることもできる。
  その後、自動車産業は日本の基幹産業となったわけで、1950年代にノックダウン生産からスタートして、自動車メーカーやサプライヤーを育てようという政府の目論見は上手くいったように思える。
  そして、ノックダウン生産の影響は色濃く残ることになった。日野が初めて生み出したオリジナル乗用車である「コンテッサ」が、ルノー4CVと同じRR(リヤエンジン・リヤ駆動)となっていたのは、ノックダウン生産によって学んだノウハウを活用したことの象徴だ。
  とはいえ、コンテッサが思うように売れず、早々に日野が乗用車生産から撤退することになるのは、ルノー4CVのノックダウン生産から乗用車製造をはじめた影響で、RRレイアウトを選んだことにあることは要因として無視できない。ノックダウン生産は自動車産業の成長につながったが、そのパートナー選びは企業の方向性や将来性にも大きく影響してしまったといえる。
  ところで、1980年代には日本の自動車産業が成長したゆえに、再びノックダウン生産が注目されることになった。自動車の輸出による日本の貿易黒字が大きくなりすぎたことの対応として、ドイツ・フォルクスワーゲンの4ドアセダン「サンタナ」を日産・座間工場(1995年に閉鎖)でノックダウン生産をして、日産ディーラーで販売することになったのだ。
  わずか30年で「ノックダウン生産」は自動車製造を学ぶ手法から、貿易摩擦を解消するためのソリューションとなったのだ。これほどの速度で日本の自動車産業が成長するとは、日産がオースチンを作っていた頃には誰も想像していなかったはずだ。

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