『働き方改革で職人を増やす!』・・・「原田左官工業所」編

2020.04.29 00:00
J-WAVE(81.3FM)の人気モーニングワイド「J-WAVE TOKYO MORNING RADIO」内で、様々な企業が取り組んでいる「働き方」から、これからの変化や未来を考える「RECRUIT THE WORK SHIFT」。1日のスタートに「新しい働き方」のヒントをシェアしています。

3月30日~4月2日の放送では、働く社員と職場を盛り上げる取り組みに贈られる第6回「GOOD ACTIONアワード」にノミネートされた「原田左官工業所」が取り組む「働きかた改革」をご紹介しました。

文京区・千駄木にある「原田左官」は1949年創業。大型店舗の内装から一般住宅まで幅広く手掛け、特に店舗内装に関しては絶対の自信を持つという左官業の会社です。現在、従業員は49名で、そのうち女性が、職人さん11名を含む14名。
代表取締役社長・原田宗亮さんによると、ちょうど20年ほど前から左官業界もずいぶん変わってきたのだそうです。
「昔は、左官になる・・・という意識もなくてなんとなく毎日来ているうちにこの仕事にハマって職人になるという人が多かった。ですが最近は『左官になりたい!』という思いを持って入ってくるようになったんです」
そもそも左官業は手を動かしてやる仕事で、覚えるまでは非常に大変ですが、「自分が作った」「自分がこの仕事をした」という実感が持てる仕事だそうです。

自社のサイトなどでその部分をPRしていったことで、左官になりたいという人が徐々に来るようになったとのこと。昔は高卒の10代が圧倒的に多かったといいますが、現在は、高卒だけでなく、大卒・大学院卒・社会人経験のある人といろいろで、20~40代までと幅広く、女性も多いとか。
ちなみに、原田左官では1987年から女性職人さんを活躍させようと取り組んでいるとのことですが、業界的には珍しいようです。
さて、こんな風に、意識を持った人たちが業界に入ってくる中で、業界自体も変化していきました。
「職人の世界では『見て覚えろ!』というところが強く、これはある意味では正しいんですが、環境になじめなかったり、真面目なんだけど雰囲気になじめなくて辞めてしまうという子が多かった。だったら、会社の中で左官の入り口の部分を教えられないか?というのが改革のスタートです」と原田さん。
名人がやっているのを真似して塗り方を覚えていく「塗り壁トレーニング(モデリング)」を当時の左官組合の青年部長 中屋敷剛氏が考案。その方法を「東京左官育成協会」8社で活用しています。12年ほど前から、この育成システムによって新人を育てるようになっていきます。
2日目は、新人育成システム「モデリング」について詳しくうかがいました。
これは、べニヤ1枚(くらいの大きさ)の壁を名人が塗っているビデオを何回も見て、その動きを完全にコピーするようにして塗り方を覚えていく・・・というもの。
訓練する場所で、タブレットを繰り返し見て、見たものをすぐ実演する・・・というやり方で、1時間に20回できるように訓練するそうです。
このとき、本人はできているつもりでもズレがある可能性があるので、お手本と本人の動きがどう違うかを気づかせ、修正していくとのことで、「東京左官育成協会」8社で共同訓練しています。
「教える」ではなく「気づかせる」というのがポイントなのかもしれません。
原田さんは・・・
「当初は教えるほうも試行錯誤がありましたが、当時1か月かかっていたのが、いまでは2週間程度で男性も女性もできるようになっています。いままでの業界にはなかったことで、画期的なことです」と語ります。
この「モデリング」も含めて訓練期間はぜんぶで1か月ぐらい。
そのあと現場に出ると、はじめは、材料を運ぶ・こねる・先輩に渡す・・・という「見習い」の作業となりますが、自分でやった経験があるので、このぐらいの硬さ・・・とか、足りなくなりそうだったら練っておいたり・・・と、「気が利く見習いさん」になっていく。これが大きなメリットとなります。
3日目は、「見習い」のあと、どのような過程を経て「職人」になっていくのか・・・をうかがいました。
原田さんによると、昔は見習いが5年、いまは4年。ときに、どちらなのか曖昧なときもあったそうですが、いまでは、4年の見習いが終わったら職人だ、と明確にしたとのこと。
本来なら「一生修行」なのですが、例えば入ってきたばかりの高卒の子に「一生修行だ」といっても50年後は想像できません。なので、「まずは4年間頑張って職人になりなさい。ワンステップあがりなさい」と、キャリアパスを作ってあげている・・・とのこと。
これによって、「とにかくそこまで頑張る!」という目標ができます。区切りがついて一段階あがる・・・、そうすると、仕事を覚え、稼げるようになり仕事が面白くなってくるわけです。

さて、見習い期間を終わって職人になることを「年開け(ねんあけ)」といいますが、このときには、みんなで盛大なお祝いをします。
自社の社員や仲間の職人だけでなく、建材屋さん・取引業者さん、家族なども呼んで、90人ぐらいが集まっての盛大なお祝いで、この日ばかりはその人たちが主役! 4年間やってきたことをフォトブックにして、本人と家族にプレゼントします。
こうしたさまざまな工夫によって、定着率は大幅にアップ。以前は、「見習いは5人採用して一人残れば良い・・・」というほどだったそうですが、いまではほとんどが残り、定着率は90%以上となっています。
最終日は、今後の課題について伺いました。
原田さんは・・・
「『モデリング訓練』によって左官の初歩の初歩は教えられるようになりました。が、そこで本当に教えたいのは『見て覚えろ・・・って、本当はこういうことなんだ』ということです。『見て覚える』ことの本質を知ってもらいたい。それがわかっていれば、初めてやることでも、見て覚えていけるんです。それができる人が、いま、どんどん増えていて、3~4年目で活躍する人が出てきています。課題は、今後、次のステップにあがるとき、『これぐらいでいい』ではなく、もっとチャレンジするようになってほしいということですね」と語ります。
ある意味、使命感を持って職人を育てる原田さん。そこには左官業に対する熱い思いがありました。
「建設技能者(職人さん)は、いま、引退する人のほうが多く、どんどん減っています。左官の魅力を伝えながら業界を残していきたい! 左官業では60歳を超える職人さんがいちばん多く、何年後かに引退してしまいます。いまが技術を伝える最後のチャンスかもしれません。左官を将来に残していきたいんです!」

今週のお話から導き出す「WORK SHIFTのヒント」は・・・
『働き方改革で職人を増やす!』

昔ながらのやり方を革新して職人を増やさないと、業界自体がしぼんでしまう・・・
原田さんのお話からは、そんな切実な思いをひしひしと感じました。