失意の中で辞めてしまっても“休むこと”が自信を取り戻すきっかけに

2019.12.20 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。12月20日の放送は、女子ホッケー選手の小野真由美さんが登場。現役引退から復帰までの道のり、東京オリンピックを控えた現在の心境などを明かした。
■期待に応えられず、自信を失ったまま引退を決意
現在、35歳の小野さんは日本代表の最年長選手としてチームを牽引。来年に迫った大舞台でも活躍が期待されている。普段は介護関係の会社に勤務し、広報誌を作る仕事に従事。小野さんは、「(広報誌で)私のホッケーの記事も取り上げてくださったんですよ。会社の方も応援してくれています」と笑顔を浮かべる。
初めて日の丸を背負ったのは、17歳の頃。最年少での代表入りが大きな話題になったものの、出場機会には恵まれなかった。小野さんは、「当時は、若いからということで取り上げていただくことも多かったんですけど、実力が伴っていなかったんですね。学生の時は自分が一番だと思ってやっていたんですけど、代表では期待に応えられませんでした」と言葉を絞り出す。結局、韓国・釜山で行われた2002年のアジア大会では、わずか3分間の出場にとどまった。
打ちのめされ、自信を喪失。小野さんは、「本当に自分が嫌いな時期でした。自信のなさをその後もずっと引きずってしまっていました」と振り返る。2008年の北京オリンピック、そして2016年のリオオリンピックでも日本代表に選出。しかし、リオでは1分4敗で予選敗退。大会終了後に引退を決意する。
32歳で現役を退いた小野さんは、ホッケーの指導法などを学ぶため、強豪国のオーストラリアに留学し、友人であるメリッサの家にホームステイ。「休んでよかったです。ホッケーのことはもちろん、ホッケー以外のこともたくさん学ばせてもらいました」と話す。
それまでホッケー漬けの日々だった小野さんは、「休日の過ごし方や、家族との過ごし方を知らなかったんですね。普通の女性は休みに何をしているんだろうって。私は、子どもの頃から土日もホッケーの練習をしていたし、社会人になってもお盆やお正月にしか実家に帰れなくて……」と述懐。「オーストラリアではメリッサの4人家族に私も加えてもらって、そこで初めて、家族との時間ってこんなに素敵なんだって思ったんです」。小野さんは、帰国してすぐに、両親と3人で初めての旅行に行ったという。
■ホッケーから離れた時間で得た経験がもたらした、復帰後の変化
その後、慶応義塾大学女子ホッケー部のコーチを経て、現在の会社に就職。そして、33歳で代表復帰を果たす。再びコートに舞い戻ってきた小野さんには、これまでにはなかった能力が身についていた。小野さんは、「自分の状態はもちろんですけど、監督が何を望んでいるのか、今のチームは勝てる雰囲気なのか、良い試合ができるのかという部分にフォーカスできるようになっていました。チームの状態を感じられるようになっていたんです」と語る。
インドネシア・ジャカルタで行われた2018年のアジア大会は念願の初優勝。小野さんは「戻ってきてよかったって思いました」と涙を流した。ケガをしたメンバーを休ませるため、急遽、代表に呼ばれた小野さんは、「若い頃だったら、レギュラーに選ばれていないなら行きたくないと思っていたかもしれないですけど、今は素直に、“一番に自分を選んでくれて、ありがとう”と思えました」と打ち明ける。
一度、ホッケーから離れ、留学や就職を経験したことで身についた、俯瞰の視点と深い感謝の心。小野さんは、会社の仲間から、メンタル面で大きな影響を受けていると明かす。「職場や事業所の方々は、どんな相手に対してもリスペクトを持って接していて。私もパーフェクトには程遠いのですが、皆さんを見習って、言葉遣いだったり、心配りの気持ちだったりを身につけていきたいと思っています」。
現在はチームの精神的な支柱として、後輩にも慕われる存在になった。東京オリンピックでは、アジア大会で獲得したものと同じ、金色のメダルを目指す。引退から復帰を経て、ついに自信を取り戻した小野さんは、「ホッケーをやってきて、幸せです」ときっぱり。そして、「一緒に頑張ってくれる仲間がいて、応援してくれる職場の人がいる。自分がまたここに戻ってこられたのは、支えてくれる人のおかげだということを、強く実感しています」と締めくくった。
次回、12月27日の放送は、12月に登場した八木沼純子さん、戸田和幸さん、小野真由美さんが再登場。3人の「美学」を再び掘り下げる。