「出る杭」は打たれるけれど「出過ぎる杭」は打たれない

2019.05.24 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。5月24日の放送は、日本初のプロラクロス選手・山田幸代さんが登場。大学入学後にラクロスを始め、翌年には日本代表入り。2017年にはオーストラリア代表としてワールドカップに出場した、日本ラクロス界のカリスマである山田さんの思いに迫った。
■出る杭は打たれるけれど、出過ぎる杭は打たれない
中学、高校とバスケットボール部に所属していた山田さんは、2001年に京都産業大学に入学後、ラクロスに転向。コートも、チームメイトも、コーチもイチから探さなければいけない状況に「マイナースポーツだからこその魅力」を感じたと、当時を振り返る。それからわずか1年で日本代表に選ばれ、2007年には日本人初のプロラクロス選手となった。山田さんの夢は、子どもたちに将来の夢を聞いた時に「ラクロス選手になりたい」と言ってもらえるくらい、ラクロスをメジャーなスポーツにすること。まずは自らが世界のトップを経験しようと、2008年にオーストラリアの強豪チームに加入。帰国後、チームメイトに世界トップクラスのラクロスを伝えようとしたが、プレーヤーひとりができることの限界を感じたという。そこで、山田さんは「世界のトップ選手になり経験したことを日本に持ち帰って、指揮官(指導者)として日本代表をメダルに導こう」と決意。山田さんの、オーストラリア代表への挑戦がはじまった。
単身、オーストラリアに渡った山田さんを待ち受けていたのは、言葉の壁だった。2013年の代表選考では、タイムアウトの30秒間に監督が伝えた言葉の意味を全て理解できず代表入りを逃す。その時、プロ入りの際に母親から掛けられた言葉「出る杭は打たれるけれど、出過ぎる杭は打たれない」を思い出した。「選ばれようと思ったのが間違い。出過ぎる杭になって、選ばせるようなプレーヤーになろう」と覚悟して練習に打ち込んだ結果、2017年に見事オーストラリア代表選手になり、ワールドゲームズ(第2のオリンピックとも言われる国際競技大会)ではアジア人初の銅メダルを獲得した。
現在、山田さんは、現役選手でありながら、台湾代表のヘッドコーチ兼監督、西武文理大学ラクロス部コーチも務める。プレーヤーと指導者、どちらの自分が好きかという問いに対し、「瞬間、瞬間で好きな度合いが異なるが、身体が動く間はプレーヤーとして続けたい。コーチとして専念しなければいけないと思う瞬間はあるけれど、伝えきれてないこともあるので、学び続ける意味でもプレーヤーでいたい」と語った。
■苦労の中で見えてくる“光”
山田さんを“強く美しくする言葉”は「苦労の中のハッピーゾーン」。オーストラリア代表として迎えた、2017年のラクロスワールドカップ。開催2週間前に足を負傷し、不安と焦りを抱えながらも、怪我を克服して出場を果たした。そして、いよいよ試合開始直前、目に飛び込んできたのは、母国・日本の国旗だった。「そのとき、隣の選手が私の肩をグッと抱いてくれて、その瞬間に涙が溢れ出して。“苦労の中でもこういう幸せってあるんだな”と思えたことが私を強くしてくれた」と山田さん。「苦労している中にも必ず光があり、楽しいと思う瞬間がある。それが人を強くするということを、もっと伝えていきたい」と、力強く語った。
山田さんは、西武文理大学で、ラクロス部コーチの他に、2018年4月からメンタルトレーニング論などの講義のため教壇にも立っている。日本ラクロス界にとって、プレーヤーとしても、指導者としても唯一無二の存在だが、他領域で挑戦を続けている人たちにとっても、その生き様と成果は“光”であり、学ぶことが多いのではないだろうか。
次回5月31日の放送は、元シンクロナイズドスイミング選手の奥野史子さん、全日本女子バレーボール選手の黒後愛さん、元競泳・平泳ぎ選手の田中雅美さん、プロラクロス選手・山田幸代さんのエピソードをプレーバック。未公開映像を含む総集編が放送される。