私が考える時間とモノの嗜み方 〜 vol.2 靴職人・五宝賢太郎氏 〜

2018.06.22 17:00
取材中、「○○って面白いですよね」という言葉を何度も口にしたのは、世界中のメゾンブランドの靴を製作・修理するほか、六本木と埼玉県蕨市の2つの拠点で『GRENSTOCK』というアトリエを構え、オーダーメイドの靴作りや修理も請け負っている靴職人・五宝賢太郎さん。ドラマ『陸王』で足袋型のシューズ開発におけるアドバイザーも務めた、日本を代表する靴職人の一人です。靴職人という仕事を通して、彼の考える時間やモノの嗜み方を紐解いていきます。
この1秒の密度をいかに高めるか
“なぜなぜ君”と称するほど好奇心旺盛。徳島県で生まれ育った五宝さんは小学生の頃、自由研究で靴の造形に惹かれ、自己流で靴を作ったことが今の仕事に就く最初のきっかけになったと話します。
ーそもそも靴作りに興味を持ったきっかけは、なんですか?
「小学5年生の時に、自由研究で父親のレザージャケットを勝手に使って靴を作ったのが最初ですね。当然怒られましたね、小さい頃からそんなことばっかりやってました(笑)」
ー今の仕事に就くことを決めた経緯はなんだったのでしょうか?
「靴の世界に入ることを決めたのは、高校生の時です。バスケットで足首を骨折してしまい、人工関節を入れることになりました。その時に足の骨や関節など、足そのものの構造にも興味を持って。そのまま、茨城大学の生活デザイン科でプロダクトデザインを学ぶことにしたんです」
自分の怪我をきっかけに、足の造形に興味を持ち、靴というプロダクトへの関心が増していったと言います。
ー大学在学中から職人さんに師事していたんですよね?
「はい。大学に進学を決意すると同時に、埼玉県蕨市の靴工房「時代屋」を営む稲村有好氏に師事しました。稲村さんは天才肌で、誰かに左右されることはほとんど無い人でした。具体的な言葉で教えるようなことは、ほとんどなかったです。それでも仕事に取り組む姿勢には大きく影響を受け、勉強させていただきました。例えば、たいていの人は気候や体調によって、多かれ少なかれ仕事に影響を及ぼされます。でも、稲村さんはどんな時も〝靴作りにおける間とリズム”が変わらない人でしたね。その“時間の作り方”は学ぶところがたくさんありました。なぜなら靴職人の仕事は、一度仕事に取り掛かると、秒単位で複数の工程を進めなければいけないんです。例えば、接着剤が固まる30秒間で、どれだけ他の工程を同時に進められるか。1秒の密度をいかに高いものにするかが、靴作りの鍵になると考えています」

『良い未来は健全な正しい今を紡いだ先にやってくるもの』と考えている五宝さん。だからこそ、過去に対する後悔も未来に対する不安も一旦全部忘れ、『“今”をいかに意味のある時間にするか』を大事にしていると言います。
伝統的な技術も新しいテクノロジーもすべて飲み込んで、アウトプットする
25歳の若さで先代の店を継いだのが2007年。それから11年余りの月日の中でメキメキと実績をあげてきた五宝さん。私たち取材班に相対する物腰は、とても柔らかですが、その言葉尻には誰にも揺るがされず、自分の仕事に打ち込んできた人ならではの強さが垣間見えました。
ー仕事中、時計を見ることはあるのでしょうか?
「実は普段、作業する時はあまり時計を見ないんです。自分の時間を時計が規定する概念に当てはめないんですよね。なぜなら、同時に多くのお客様から靴のオーダーメイドや修理のご依頼をいただくので、いくつもの時間軸で物事を捉えていなければいけない。1つの時間だけを考えていると、安定して高いクオリティのものを出し続けることはできません。だから、独自の時間感覚を大切にして、一瞬一瞬を丁寧に積み重ねるからこそ、お客様に納得していただける靴を提供できていると考えています」
ーでは、五宝さんが腕時計を身につけるのは、どんな場面なのでしょうか?
「クライアントへお伺いする時やオフで自然観察する時など、時間を1つの規律・ルールとして認識する場面ですね。基本的には、存在感があるスタンダードなものを好みます。宝飾品としてではなく、あくまでも生活用品として馴染むかどうかが重要だと考えています。今回、Seiko Presage(プレザージュ)の時計を着けさせてもらいましたが、WEBで見るより存在感がありますね。腕時計のケースからブレスレットに向かってのソリッドなデザインが気に入っています。何より、機械式時計なのが良い。靴と同じで、修理すれば、長く愛用できるところに惹かれます。デザインも普遍的・王道なものなので、尚更良いです」
そう語る五宝さんの牛革エプロンや無骨な手には、真摯に仕事に取り組む本物の職人にしか出せない風格がありました。
ー今後、靴を含めてどのようなモノに触れていきたいでしょうか?
「僕が靴に興味を持ったのは、靴が宝飾品ではなく、あくまでも生活用品として実用性を考えたデザインになっているからなんです。靴以外でも、同じような考えから生まれたミシンや自転車、家具や調度品も好きで集めてしまいますね。その考えがあれば、新旧は問いません。新しいウェアラブルデバイスや3Dプリンターで作るシューズブランドなどにも興味があります。古いから良いとか、新しいから良いとかではないですね。本当に良いものというのは、“今”から始まって未来へも続いていくものだと思います」
靴職人として、長年愛用された靴を修理して蘇らせたり、これから先ずっと持ち主に寄り添う靴をオーダーメイドで作ったり。自然と普段から「時の流れ」を感じている五宝さんならではのモノに対するこだわりが垣間見えました。
単なる宝飾品ではなく、あくまで生活用品として生活に馴染むものを選ぶ。実用性を考え、こだわりをもったモノの選び方を今後の参考にしてみてはいかがでしょうか。
■Seiko Presage
Seiko Presage(プレザージュ)はSeikoの100年を超える腕時計づくりの伝統と技術に現代の感性を融合させたMade in Japanのメカニカルウオッチブランドです。その中でも、本モデルは軽量で肌に優しいチタン素材を採用した実用性の高いモデルです。上質感のある風合いは、ビジネスシーンはもちろんカジュアルシーンでもスタイリングを格段に引き締めてくれます。
SARX057 130,000円+税
光の反射を抑えるマット塗装を施したブラックダイヤルモデル

SARX055 130,000円+税
ダイヤルの繊細なパターンが和紙を彷彿とさせるシルバーダイヤルモデル
ケースサイズ    :径40.8mm x 厚さ11.0mm
駆動方式      :自動巻(手巻つき)
防水性能      :10気圧防水
ケース・ブレスレット:チタン(ダイヤシールド)
問い合わせ先:セイコーウオッチ株式会社 お客様相談室
0120-061-012(9:30~17:30、土日祝日を除く)