イチロー選手、3000本安打達成を支えた 女性下着のノウハウとは

2017.02.24 00:00
ワコールと言えば、まっさきに思い浮かべるのは女性用下着。実は「スポーツタイツのパイオニア」でもあるということを知る人は少ないのではないだろうか?

イチロー選手をはじめとするトップアスリートから、ランニングやサイクリング、さらにはヨガなど、さまざまなスポーツの愛好家まで幅広く愛される、コンディショニングウェアという意味を持つ「CW-X」は、ワコールが展開するスポーツウェアブランド。なかでも、テーピング原理を応用した『スポーツタイツ』はブランド当初からのベストセラー商品でもある。
“なぜスポーツタイツを?”。真っ先に浮かんだそんな疑問CW-Xの開発チームに在籍後、現在は同ブランドの事業企画課長を務める清家 望さんに伺いました。
■ゼロからスタートしたスポーツタイツ開発
「誕生のきっかけは、社員の家族が経験した些細なケガでした。スキー中に足を痛めてしまい、その場でテーピングを施した結果、なんとか無事に下りてくることができた。そんなエピソードがヒントとなり“タイツにテーピング機能を落とし込めないか”という発想が生まれたんです。」

1980年代後半。まだこの世にスポーツタイツという概念すらなかった時代です。そんな、まったくの新しいジャンルに挑戦するために、大いに力となったのが、これまで培ってきたガードル(補整下着)作りの技術でした。

「人間の体の形を整え、美しく見せるためのガードルを、体の動きを整える方向に持って行けないかと考えたんですね。それがCW-Xの始まりです。」

タイツにテーピング機能を落とし込むためには、衣服圧のコントロールが不可欠。保護したい部分には、パワーの強い生地を使うことで衣服圧を高くし、他の部分と区別しなければ効果が期待できません。

「それには、ガードル作りのノウハウが大いに役立ちました。お尻の一部分だけを持ち上げたりということを長年やってきていたので、伸縮性のある異素材を組み合わせるのは得意分野だったんです。」
CW-Xの縫製はほとんどが手仕事。ワコールの知財でもある補正下着の技術が詰まっている。
つまり、女性用下着メーカーだから実現できた商品。

ワコールがスポーツタイツのパイオニアになったのは、必然だったとも言えます。とはいえ、どこにも前例がないものづくりへの挑戦です。最初は衣服圧を計りながらの開発。効く、効かない以前に、そもそもどういう計測方法をすれば良いのか、それすらも手探りの状態。パイオニアゆえの苦労がありました。
高品質を支える徹底した評価研究。
「ワコールには1964年に発足した“人間科学研究所”という研究機関があります。カラダにあった下着を開発するために、4万人以上のカラダを計測している他にも、カラダの動きの研究も行っています。その中で培われた分析ノウハウが大いに役立ちました。」

数値上だけでは終わらない。運動に効くということを証明するために、実際に社員自らが運動をし、筋電図を見るなどの実験を繰り返していたそうです。
■イチロー選手にとって欠かせない存在へ
こうしてパイオニア特有の苦労を伴って誕生したCW-Xは世界中に広まっていきます。その人気ゆえ、いまでは他社からも似たコンセプトの商品が発売されるようになりましたが、その違いは『フィット感』とのこと。

「2種類の素材を組み合わせるというようなことは、下着メーカーだから元々得意なんです。部位によってどれだけ伸縮性を持たせるのかで『フィット感』は大きく変わってきます。縫い目もできるだけ抑えることで、着用感も良くしています。そのための素材選びのノウハウ、そして縫製技術が、女性下着を作り続けてきた弊社と、他社との決定的な違いだと考えています。」

それを裏付けるエピソードとして、メジャーリーガーであるイチロー選手が愛用しているという事実があります。2002年からCW-Xとイチロー選手はアドバイザリー契約を結んでいますが、実はそれ以前からイチロー選手は自らCW-Xを選び着用していたのだそうです。いまでは、トレーニング中も試合中も常にCW-Xを着用しています。

「イチロー選手に言われてうれしかったのが、『自分のパフォーマンスを最高の状態で発揮するために必要なもの』 という言葉でした。」
■進化を続けるCW-X
スポーツタイツのパイオニアとしてスタートし、25年目を迎えたCW-X。現在はどのような進化を遂げているのでしょうか?

「最新モデルのジェネレーター モデル レボリューション タイプは、特殊な製法によってサポートラインの縫い目をなくした商品。関節や筋肉の保護、運動時の筋肉疲労の軽減といった機能だけでなく、軽量性や快適性の追求によって、さらなるユーザーのパフォーマンス向上に繋げられるウェアを目指しています。」

テーピング原理をタイツに組み込むという発想のコンディショニングウェアを提案し、スポーツスタイルに新たな風を起こしたCW-X。誕生から四半世紀を経た今もなお、進化を続けているようです。

「25周年を記念して、ブランド設立当初のデザインを最新機能モデルに復刻した限定商品も販売しているんですよ。CW-Xの象徴でもあるテーピングラインを鮮やかなカラーで表現した1993年発売商品の復刻版です。“身に着けるもの”によってコンディションを整える、という変わらない理念のもと、年月を経て洗練された機能・着ごこちを体感してもらえるとうれしいです。」
25周年を記念して、設立当初のデザインを最新モデルで復刻した限定商品。イチロー選手が着用する男性用商品は鮮やかなブルー×イエロー。
取材の中で清家さんはとても楽しそうにCW-Xについて語ってくれました。きっとそれはワコールという会社の社風でもあるのでしょう。

パイオニアだから凄いのではない。継続する力、進歩を諦めない姿勢。そここそが、イチロー選手のような一流アスリートから、一般ユーザーまで幅広い支持を得られている源なのかもしれません。

ワコールの経営理念にこんな言葉があります。
「失敗を恐れず成功を自惚れません」
CW-Xは、そんなワコールの理念の結晶のひとつなのです。