はじめまして。
株式会社フジサワ三代目、代表取締役の藤澤 星(ふじさわ せい)と申します。
フジサワは1923年に創業し、今年で103年目を迎えた群馬県前橋市の「建物・設備メンテナンス」を行っている建設会社です。平たく言うと「塗装・防水工事の専門工事業」なのですが、建物や設備の「不具合を修理」してただ元に戻すだけでなく、遮熱塗装などで「より良く、長持ちさせる」ためのお手伝いをしています。建物メンテナンスの専業会社であることを明確にするために、敢えて「建物・設備メンテナンス業」としています。
さて、フジサワは2026年10月、JA鹿児島県経済連様、株式会社Linkhola様と共同で、肉用牛のゲップや排せつ物由来の温室効果ガス(GHG)削減を環境価値化した「世界のボランタリークレジット」を応援購入するプレスリリースを発表しました(1)。これにより、フジサワは2026年度の自社排出量をオフセットし、「実質カーボンニュートラルな会社」となる見込みです。
「なぜ群馬の塗装会社が、鹿児島牛のクレジットを買うのか?」「そもそも従業員13名の中小企業が、どうやって実質カーボンニュートラルを実現できるのか?」と疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。このストーリーでは、藤澤が2013年から10年以上かけて進めてきたCO2排出削減の試行錯誤と、その裏にある狙い、そして日本の中小企業にお伝えしたい「CO2排出削減のフレームワーク」についてまとめていきます。
2013年、「エコアクション21」によるCO2の見える化からスタート
藤澤が実家である株式会社フジサワに専務取締役として入社したのは、東日本大震災の1年後、2012年4月のことでした。前職ではエネルギーや環境に関わる分野に携わっていたこともあり、入社直後から「これからの時代、中小企業であっても環境経営や省エネに正面から取り組む必要がある」と考えていました。また、民間工場や施設のお客様に遮熱塗装などの省エネ提案をする以上、まずは自分たちが実践者であるべきだとも感じていました。
そこで2013年度から取り組み始めたのが、環境省が策定した中小企業向けの環境経営システム「エコアクション21」です。 脱炭素やカーボンニュートラルと聞くと、「何から手を付けて良いか分からない」という声もよく耳にしますが、すべての出発点は「自社のCO2排出量を正確に知ること(可視化)」にあります。エコアクション21は、CO2排出量、廃棄物排出量、総排水量を必ず算出・把握する必要があり、業種別ガイドラインや地域審査員の方に相談できる仕組みも整っているため、中小企業が具体的な対策を考えるきっかけとして最適でした。
実際に自社のデータを算出してみると、フジサワのCO2排出源は大きく「オフィスの電力(空調や照明)」と「社有車のガソリン」の2つに集約されることが分かりました。CO2排出源が明確になれば、あとは一つずつ対策を実行していくのみです。
排出削減には「フレームワーク」がある。10年間で約74%削減を実現した3つのアプローチ
2013年から排出削減を進めていくにあたり、藤澤には最初から意識していた明確な「フレームワーク」がありました。環境経済学における「茅(かや)恒等式」(2)という考え方に基づいているのですが、企業活動におけるCO2排出量を減らすには、実は以下の3つの要素に働きかけるしかありません。
1. 省エネルギー(エネルギー効率UP):高効率な機器へ入れ替えるなど
2. エネルギー需要削減(エネルギー消費量DOWN):工程や稼働そのものを減らすなど
3. 再生可能エネルギー活用(CO2排出原単位DOWN):電力へのエネルギー転換・再エネ導入を進める
フジサワでは、機器の入れ替えといった投資判断はトップダウンで決定し、日々の業務スタイルに関わる戦術的な取り組みは、時間をかけて社内に浸透させていきました。
1.省エネルギー(エネルギー効率UP)
まず2013年度に、社内の高効率エアコンへの機器更新と、LED照明への切り替えを実施しました。普通のオフィスでできる高効率機器への入れ替えはこの照明と空調機器ぐらいしかないため、フジサワではこの機器を早めに更新することができました。さらに大きな投資ウェイトを占めたのが、社有車の更新です。営業車両を段階的にEV(電気自動車:2台)、PHEV(プラグインハイブリッド:1台)、コンパクトハイブリッド車(2台)へと入れ替えました。特にEVの導入は、車両自体のエネルギー効率を上げると同時に、再エネ電力で充電することでCO2排出原単位も下げられる、非常に合理的な施策です。2026年度以降は、床断熱材の敷き込みや窓ガラス遮熱フィルム貼付けの検討も進めています。特に断熱材の後付け工事は、工事の難易度的にもコスト的にも難易度の高い案件となりますが、既にフジサワではそういう難易度の高い案件しか残っていないこともあり、それが最終的にクレジット活用に繋がります。
2.エネルギー需要削減(エネルギー消費量DOWN)
どれだけ機器の効率を上げても、使いすぎていては意味がありません。フジサワでは、2フロアに分かれていた執務フロアを1フロアに集約・縮小し、エアコンの稼働台数を当初の8台から4台、最終的には2台へと段階的に減らしました。多少強引に見えるかもしれませんが、扇風機・サーキュレーター等を併用して空気を循環させれば、2台でも十分に業務環境を維持できることが分かりました。また、営業エリアを見直すこと、従業員数が減少したことなどで車両台数と総走行距離も削減・最適化し、ガソリン消費量を大幅に削減することに成功しています。詳しくは、エコアクション21環境報告レポート(3)をご参照下さい。
3.再生可能エネルギー活用(CO2排出原単位DOWN)
そして排出量削減を大きく前進させたのが、2024年9月からの「非化石証書付き再エネ由来電力プラン(東京電力EP)」への契約変更です。電力をカーボンフリー化しただけで、年間のCO2排出量を約19%削減することができました。本来は太陽光パネルをフジサワ内に設置して自家消費したいのですが、設置するための土地を所有していないこともあり、太陽光パネルの自家消費は現時点では実施出来ていません。
これら3つの「フレームワーク」に沿って10年間対策を積み重ねた結果、2014年度と2024年度を比較すると、年間のCO2排出量は約74%の削減(ガソリン削減で約44%、電力削減・再エネ化で約30%)を達成しました。エコアクション21で最も重要視されている「単位売上あたりCO2排出量」についても、2021年以降は着実な減少トレンドに入ってきています。詳しくは、エコアクション21環境報告レポート(3)をご参照下さい。
最後に残った「ガソリン由来の排出」をどうするか。鹿児島の現場を訪ねて考えたこと
10年間の取り組みで、電力由来の排出(Scope2)は実質ゼロになりましたが、どうしても自社の努力だけではゼロにできない領域が残りました。それが、建設業の現場移動や運搬に不可欠な「社有車のガソリン消費に伴う排出(Scope1)」です。
「徹底的に排出削減をやり切った上で、現時点でどうしても残ってしまう排出量については、カーボンクレジットを適切に活用してオフセット(相殺)することは、最も現実的な選択肢である」
藤澤は大学院在学時からそう教え込まれていたため、2025年に大学院の同じ研究室出身の株式会社Linkhola野村氏と、ボランタリークレジット応援購入に関する基本合意を締結しました。2025年度には、沖縄県宮古島の住宅系太陽光発電事業から創出されたクレジットを購入し、ガソリン由来排出量の一部オフセットを実践しました。ガソリン消費由来CO2排出量を「完全ゼロ」にするためには、全ての社有車をEVに切り替える必要がありますが、全ての社有車をいきなりEVに切り替えることはコスト的・設備的・運用的にも現実的ではないことは、これを読んでいる皆さんも同意して頂けるかと思います。専門的には「限界削減コスト」が低い施策から実施するのが基本的なので、この状況ではクレジットを購入する方が限界削減コストが低くなるのであれば、クレジット購入は非常にポジティブな施策となります。
そして「2026年度はいよいよ自社排出量の完全オフセット(実質カーボンニュートラル)を実現しよう」と考えた際に出会ったのが、JA鹿児島県経済連様の「肉用牛GHG削減クレジット」でした。肉用牛に専用の補助飼料を給餌することで、牛のゲップ(消化管内発酵)や排せつ物から発生するメタンや一酸化二窒素を削減し、それを環境価値化した世界初の実測型ボランタリークレジットです。クレジットは書類上の手続きだけでも購入できますが、藤澤は「オフセットするなら、単なる『CO2の数字』として買うのではなく、その背景にある現場まで理解した方が良い」と考えました。そこで2026年10月7日、実際に鹿児島県の実証農場である「田代肥育牛センター」を訪問しました。現地では防護服を着て牛舎に入り、197頭の若齢牛が飼育されている環境や補助飼料の給餌現場を視察させていただくとともに、JA鹿児島県経済連の皆様と意見交換を行いました。現在、日本の畜産の現場は、飼料や燃料・資材価格の高騰、さらには気候変動に伴う猛暑など、非常に厳しい経営環境に直面しています。そうした中でも「持続可能な畜産」を目指してGHG削減に挑む現場の皆様の姿に直接触れ、私たちがクレジットを購入する資金が生産現場へと還元され、日本の一次産業を支える力になることの意義を強く実感しました。
今回JA鹿児島県経済連から購入したクレジットは2026年度のガソリン消費由来CO2排出量の見込み量となりますので、最終的にこのクレジットは2026年度ガソリン消費由来 CO2排出量に対して利用・オフセットする予定です。
この「フレームワーク」を広め、日本の中小企業の脱炭素化を加速したい
フジサワが2013年からの取り組みを通じて実感しているのは、「人的・金銭的リソースが限られている中小企業であっても、正しい『フレームワーク』に沿って一歩ずつ進めば、カーボンニュートラル化は十分可能である」ということです。
現在、サプライチェーン全体でのCO2排出削減目標やSBT認証などが、かつてのISO認証と同じように「取引条件」となる時代へと切り替わりつつあります。「中小企業だから関係ない」のではなく、地域の中小企業だからこそ、早く取り組むことが他社との明確な差別化要因になり、企業価値の向上や新しいビジネスチャンスに繋がります。
フジサワでは現在、遮熱塗料「ミラクール」による省エネルギー工事やその削減効果をクレジット化するプロジェクト、次世代空調制御システム「クールインテリジェンス」、そしてLinkhola様の「EARTHSTORY」(4)などを組み合わせ、お客様のScope1〜3の脱炭素活動を総合的に支援するソリューションを展開しています。 自らが10年間実践して築き上げた「省エネ・需要削減・再エネ活用+クレジットによるオフセット」という脱炭素の「フレームワーク」を、今後は群馬・北関東、そして日本中の中小企業へと横展開し、地域全体のGXと経済活性化に貢献していきたいと考えています。
創業100年を超えて事業を継続できているのは、これまでフジサワを支えてきた先輩方のチャレンジの積み重ねがあったからです。これからもフジサワは様々なチャレンジを諦めずに積み重ね、社会課題の解決に貢献する企業として、ミッション「すべての人にハッピーを。(GENERATE YOUR HAPPINESS.)」の実現に向けて進み続けます。
(4)「EARTHSTORY」は株式会社Linkholaの登録商標です