滋賀県高島市で創業51年を迎える有限会社グリーン藤栄。同社が大切にしてきたのは、単に「安心・安全なお米をつくる」ことだけではありません。田んぼに生きものが戻り、湖から魚が産卵に上がり、土や水が未来へ受け継がれていくこと。農業を通じて自然環境を守ることを、長年にわたり実践してきました。
近年は、自社栽培のお米を使った和菓子や調味料、本店としてCafeの運営にも取り組み、農業と消費者をつなぐ新たな場所づくりにも挑戦しています。
今回は、代表取締役社長の梅村光(うめむらこう)さんに、有機栽培を続けてきた背景、事業承継の転機、そして次の50年へ向けた想いを伺いました。
有機栽培は目的ではなく、自然環境を守るための手段だった
――グリーン藤栄では、長年にわたり有機栽培に取り組まれています。どのような想いから始まったのでしょうか。
私たちの感覚では「有機農法がやりたかった」というよりも、自然環境や生きものを守るために選んだのが有機農法でした。一番にあるのは、生きものや自然環境の保護です。それをお客さまに伝えるために、有機JASの認証も取得しています。
父が農業を始めた頃は、まだ「有機」という言葉自体が今ほど一般的ではありませんでした。飛行機で農薬をまく集団防除も行われていた時代です。その中で、父は昔に比べて田んぼの生きものが極端に減っていることに気づきました。そこから、環境に配慮した農業をしたいという想いが生まれ、農薬や化学肥料の使い方を見直し、使わない農法へと進んでいったのが始まりです。
――一般的な有機栽培とは少し違う取り組みもされているそうですね。
はい。私たちは、生きものの保護のために田んぼに魚道を設置したり、ビオトープや緩衝地帯を設けたりしています。それは、琵琶湖から魚が産卵のために田んぼへ上がってこられるようにするためです。そこで生まれた魚が大きくなって、また帰ってくる。そういう自然のサイクルを守ることも、私たちの農業の大切な役割だと考えています。
有機栽培で一番大変なのは、雑草との向き合い方
――有機栽培を続ける上で、大変なことは何ですか。
一番は除草作業です。農薬を使わない分、田んぼに入る回数も増えますし、代かき(※)も通常なら1回で済むところを、春先に1回行い、一度草を生やしてからもう一度行い、仕上げにまた行うなど、3回、4回と作業することもあります。当然、作業量もコストも増えます。収穫量も落ちますが、それでも続けているのは、やはり環境への想いがあるからです。
※代かき(しろかき)・・・田植えの前に田んぼに水を張り、土を細かく砕いて泥状にし、表面を平らに整える重要な農作業
――周囲からの理解を得る難しさもあったのでしょうか。
昔は、草が生えている田んぼがあると「作業が下手なんじゃないか」と見られることもあったと聞いています。また、有機米をつくっても、集荷業者に出すと慣行栽培(※)のお米と価格差がつかないこともありました。だからこそ、自分たちで販路を開拓する必要がありました。
自分たちで栽培し、加工し、販売する。今でいう6次産業化ですが、私たちはその言葉が広がる前から取り組んできました。
※慣行栽培(かんこうさいばい)・・・化学肥料や農薬を適切に使用して効率よく栽培する手法
東京での会社員経験から一転。2ヶ月の実家の手伝いが人生を変えた
――梅村社長ご自身は、どのような経緯で会社を継がれたのでしょうか。
私は高島で生まれ育ちましたが、もともとは服をつくる仕事がしたくて、大阪の学校に進み、その後、東京の大手アパレルメーカーで6年ほど働いていました。そこでは、デザイン関係の仕事や営業管理など、いろいろな経験をさせてもらいました。
その後、転職を考えて退職し、転職先も東京で決まっていました。その間2ヶ月ほど休暇をとり、実家のある高島に帰省しました。それが、ちょうど9月、10月の農業の繁忙期で、手伝いをしたのがきっかけです。
――その2ヶ月が転機になったのですね。
そうです。大きな会社にいると、どうしても歯車の一つというか、専門的な一部分を担う仕事になります。でも、農業では、自分でゼロから米を栽培して、和菓子に加工し、販売するところまで一連の流れに関われます。家業を手伝った2ヶ月間で「この仕事はいいな」と思いはじめました。
急に従業員(梅村さんご自身)が一人増えたので、売上を立てなければと思い、百貨店などに営業へ行き、大福を販売しました。アパレルメーカーではデザインや営業管理など幅広い仕事を経験し、商品の見せ方や売場づくり、販売するための考え方を学んでいたので、結果的に、その経験を活かすことができました。
対面販売で「滋賀から持ってきた大福です」と手渡した時のお客さまの反応を見て、この仕事を続けたいと改めて感じました。そして、そのまま東京で決まっていた仕事を断り、高島に戻ることを決めました。
「売りに行く」から「来てもらう」へ。農業を消費者につなぐ本店としてのCaféオープン
――2024年3月にCafeをオープンされています。どのような背景があったのでしょうか。
実は2019年に京都の大丸の地下に1号店を初出店し、和菓子を販売していました。しかし、コロナの影響を大きく受け、2023年に撤退した経緯があります。
それまでは、こちらから京都や大阪へ商品を持っていく商売でしたが、せっかく高島で栽培し、加工施設もあるのだから、お客さまに高島へ来てもらいたいと思うようになりました。私たちが普段どんな場所で農業をしているのか。高島の空気や風景も含めて伝えられる場所が欲しい。そう考えて、Cafeを始めました。
――Cafeでは、どのようなことを伝えたいと考えていますか。
味噌、醤油、お酢など、米からできる調味料はたくさんあります。それらを全部楽しんでもらえる店にしたいという想いがあります。
また、催事販売をしていた頃から「お店はどこですか」と聞いてくださるお客さまがいました。だからこそ、本店を持つ意味があると感じていました。ここでしか食べられないもの、この高島で味わうからこそ感動できるものを提供したいと思っています。
高島市に店を構えたことで、世界への可能性も見えてきた
――Cafeを始めて、印象に残っていることはありますか。
新規のお客さまが増えたことはもちろんですが、琵琶湖を一周するビワイチの自転車の方が多いこと、さらにその中に海外の方がいることを初めて知りました。
オープンしてすぐ、ヨーロッパ系のお客さまから「このお米はフランスで買えますか」と聞かれたことがありました。高島に店を出したことで、世界へ目が向きました。このお米を海外に出せば、今度はお米を通じて滋賀や高島に来てくれる人がいるかもしれない。そんな可能性を感じました。
――高島に来てもらう入口にもなっているのですね。
商品名にも「近江高島よもぎ大福餅」と入れて、全国で販売してきました。滋賀県の高島市から来ています、と伝えると「高島ってどこですか」と聞かれることも多くありました。高島を知ってもらうきっかけとしても、私たちの商品やCafeが役割を果たせるのではないかと思っています。
気候変動の影響。農業は自然の変化を最前線で受け止める仕事
――近年、自然環境の変化を感じることはありますか。
ここ10年ほどは、夏場の気温の高さを強く感じています。根本から見直していかないといけない状況になってきました。例えば「水くぐり」という地大豆があります。10年前までは普通に取れていたものが、高温の影響で全然取れなくなってきています。
これからは暑さに強い品種など、土地や気候に合ったものへ変えていく必要があります。農業は「適地適作」です。気候条件が合わないと、商売として成り立ちません。自然の変化は本当に感じています。
――魚道にも影響はありますか。
昨年は梅雨がほとんどなく、雨が降らなかったため、魚道に魚が上がらないくらいでした。田んぼに上がってくる魚は、近くの水路でお腹をパンパンにしながら、産卵の機会を待っています。親は卵を産んだあと、多くが死んでしまいます。その死んだ魚を鳥が食べに来る。生と死が田んぼの中にあります。そういう自然の一部になっているからこそ、しっかり自然環境を守っていかなければならないと思っています。
次世代へバトンを渡すために、農業の可能性を広げたい
――これから先、どのような未来を描いていますか。
一番大事にしたいのは、次世代へのバトンタッチです。せっかく父の代から築いてきた環境や田んぼがあります。やめてしまっては意味がありません。
だからこそ、次の世代がやりやすい形をつくっていくことが大切だと思っています。収益性ももちろん大事ですし、時代に合った形で展開していく必要があります。
――具体的には、どのような展開を考えていますか。
販売面もそうですし、新商品の開発もそうです。私たちの強みは、農産物だけでなく、和菓子、洋菓子、調味料、惣菜など、幅広く展開できることです。味噌や醤油、お酢もあり、甘酒を使ったアイスクリームやドーナツなども開発しています。
自分たちで原材料をつくり、加工し、販売できる。これは強みです。その分、農業だけでなく、和菓子職人のような知識も必要ですし、小売店としての販売スキルも必要です。難しさはありますが、可能性も大きいと感じています。農業以外の部分でも収益性を高め、次の世代が「やりたい」と思える仕事にしていきたいです。
生きものや自然環境を守ることを一番に置いた農家がいてもいい
――最後に、グリーン藤栄として、一番伝えたいメッセージは何でしょうか。
日本全国の農家さんに同じことをしてくださいと言っても、無理です。農業は多く取って販売することも大切な仕事です。ただ、私たちのように、生きものや自然環境を守ることを一番に置いた農家がいてもいいと思っています。
創業51年。グリーン藤栄は、これからも「農村環境を創造する農法で未来につなぐ」という理念のもと、土、水、生きもの、そして地域の風景を未来へ受け継ぐ挑戦を続けていきます。
【有限会社グリーン藤栄】
代表者 梅村 光
所在地 〒520-1234 滋賀県高島市安曇川四津川614
URL
Instagram https://www.instagram.com/greentouei/