子どもに届けるのは、選べる体験。企業と産地をつなぐ「ごちペイ」という次の手

2026.10.20 07:50
400年以上の歴史を持つ高岡のものづくり産業。その未来を考え、「あの手・この手・つぎの手」で新たな共創の形を生み出そうと活動するのが「ツギノテ」です。


2026年10月24日(土)・25日(日)には、高岡駅直結の立体駐車場を会場に「産地の勧業博覧会 ツギノテ」を開催します。


ツギノテでは「ベビーファーストこどもごちめし高岡」プロジェクトと連携し、「ごちペイ」を展開しています。「ごちペイ」は、企業から集まった協賛金を、子ども自身が選べる地域の文化体験へとつなぐ仕組みです。子どもたちに新しい体験の機会を届けるだけでなく、企業にとっては地域やものづくりと関わる入口となり、産地にとっては新たな応援者と出会うきっかけにもなります。


今回お話を伺ったのは、「ごちペイ」の協賛企業でもあるvisionドリブンホールディングス株式会社 代表取締役CEO 花田将司氏と、株式会社YSB 副社長 大坪洋輔氏です。それぞれの立場から地域や子どもたちの未来を考えてきた二人は、なぜものづくりのイベントに共感し、協賛という形で関わるのでしょうか。ツギノテ実行委員長の羽田純氏とともに、ごちペイが生み出す新しいつながりと、高岡の未来に向けた「次の手」について語り合いました。
子どもを支える仕組みを、食事から体験へ
―花田さんが取り組む事業や、「ベビーファーストこどもごちめし高岡」について教えてください。
花田:僕たちは、農業を支える資材をつくる事業をしています。農業を支えることは、地域に住む人たちの暮らしや命を支えること。そう考えると、地域の若い人たちがいきいきと働き、暮らしていける環境をどうつくるかが大切な一つのテーマです。


地域に人が住み続けていくには、仕事だけでなく、子育てや日々の暮らしを含めて「ここで暮らしたい」と思える環境も必要です。そうした思いから、2021年に「ベビーファースト運動」を立ち上げました。企業・行政・個人が一体となって子育て世代を支える取り組みで、これまで「子どもを産み育てやすい空気感をつくる」ことを大切にしてきました。


その一つの形が、この高岡おとぎの森公園にオープンしたタリーズコーヒーです。公園と「農業と食」を掛け合わせ、地域の人たちが集まり、親子で過ごせる場所を目指しました。内装には高岡の伝統産業の技術も取り入れています。
インタビュー会場はタリーズコーヒー 高岡おとぎの森公園店


花田:さらに、子育てしやすい雰囲気をつくるだけでなく、子どもたちが直面している困りごとにも、もっと具体的に向き合う必要があると考えました。そこで2024年に始めたのが、「ベビーファーストこどもごちめし高岡」(※1)です。


(※1)ベビーファーストこどもごちめし高岡とは:高岡市内の企業などの支援を受け、子育て世帯にデジタル食事チケットを届けて地域の飲食店で食事ができる取り組み。高岡市母子寡婦福祉会に登録されている18歳以下(高校3年生まで)のお子さんを対象に、月2,000円分のデジタル食事チケットが提供されます。


民間からの寄付を地域の飲食店を通じて子どもたちに直接届けることができます。例えば、親が仕事に出ている夏休みの食事など、子ども自身が抱える困りごとにも対応できます。


地域の飲食店で使える仕組みにすることで、食事を支えるだけでなく、子どもたちが地域の人とつながり、見守られる機会にもなります。現在は70人ほどの子どもたちが定期的に利用しています。


本質は、単に食事を提供することではなく、地域全体で子どもたちを支える仕組みをつくることだと思っています。
―その仕組みを、ツギノテでは「ごちペイ」として文化体験へと広げているのですね。
羽田:食事を入口に子どもたちと地域をつないできた「こどもごちめし」の仕組みを、ツギノテではものづくりや文化に触れる体験へと広げていきたいと考えています。


子どもたちにとって、地域の伝統産業や文化に触れることは、新しい世界を知るきっかけになります。一方で、企業にとっても、これまで接点のなかった子どもたちや地域、ものづくりと関わる入口になる。


ごちペイは、子どもたちに体験の機会を届けるだけでなく、企業と子ども、そして産地をつなぐ仕組みでもあると思っています。
ツギノテが「ベビーファーストこどもごちめし高岡」とコラボした「ごちペイ」リーフレット
「事業のため」だけではない。子どもたちの未来への共感
―大坪さんは、今回の「ごちペイ」にどのような思いで協賛されたのでしょうか。
大坪:僕自身はこれまでものづくりにはほとんど関わってこなかったので、最初は「どう関わればいいんだろう」という感覚がありました。


ただ、僕は2年間、高岡市PTA連絡協議会の会長を務め、子どもたちの教育や環境について考えてきました。その活動を通して感じていたことと、ツギノテやごちペイの話に重なる部分がたくさんあったんです。


だから今回の協賛も、自分の事業と絡めるというより、一人の父親として共感した部分が大きいです。
―PTA活動では、どのようなことを大切にされていたのでしょうか。
大坪:活動の着地点は、当然、子どもたちのためです。でも、僕は直接子どもたちに何かをするよりも、「大人の学び」を軸にしました。


今の子どもたちを取り巻く環境は、ものすごいスピードで変化しています。僕たちが持っている知識や常識だけでは対応できないこともある。だからこそ、子どもたちに何かを教える前に、まず大人が学び続ける必要があると思ったんです。


その考えから、親学びやSNS、いじめなどをテーマにした学びの場をつくりました。1年かけて高岡市内すべての小中学校を訪ね、市PTAの役割を伝えながら、約700名に学びの機会に参加してもらいました。


子どもたちの未来を考えることは、子どもたちだけに何かをすることではない。周りにいる大人が学び、行動することも大切なんですよね。
―不動産業でも、地域の未来につながる取り組みをされているのでしょうか。
大坪:不動産業では、土地や建物を単なる「場所」ではなく、「ここから何が生まれるだろう」という可能性として見ることを大切にしています。


空き家や空きテナントも、視点を変えれば、若い職人さんの工房になったり、人が集まる場所になったりするかもしれない。誰かが挑戦できる場所をつくり、周りの人やもの、ことをつなげることで、まちづくりにつなげていきたいと思っています。


今回のごちペイも、子どもたちに新しい体験の可能性を届ける取り組みですよね。ものづくりに直接関わっていなくても、子どもたちや地域の未来を応援する形で参加できる。そこに意義を感じています。
400年続くものづくりを支えてきた「変化する力」
―大坪さんがツギノテへの協賛に共感した背景には、高岡のものづくりへの思いもあるのでしょうか。
大坪:高岡には400年以上のものづくりの文化があります。でも、その400年以上がずっと同じ形で続いてきたわけではありません。それぞれの時代に、人々が学び、工夫し、変化し、挑戦してきたからこそ、今がある。


今あるものを大切にしながらも、その先へつなげていこうとするツギノテの姿勢に、すごく近いものを感じました。


羽田:まさにそうだと思います。高岡の産業には、何度も厳しい時期がありました。


例えば、昔は一人ひとつ必要なくらい手あぶり火鉢が使われていて、それをたくさんつくっていました。でも、暖房器具が登場すると、火鉢の価値は変わってしまう。仏具も、暮らしの変化によって求められる形が変わってきています。


その時代に必要とされたものをつくっていた産業が、時代の変化に合わせて新しいものを考えてきた。だから、ものづくりの産地はずっと変化し続けてきたんですよね。


今も、生活雑貨やライフスタイルのアイテムなど、新しい形を模索しながら未来につなげようとしています。


産地を支える方法も、時代に合わせて変わっていいはずです。商品を買う、寄付をするという関わり方に加えて、子どもたちの体験を応援することから、ものづくりとの接点が生まれてもいい。ごちペイも、産地に関わる新しい入口の一つだと思っています。
イベントの2日間ではなく、「残り363日の景色」を変える
―ツギノテが目指す「ものづくり関係人口を増やす」という考え方も、ごちペイにつながっていますね。
羽田:ものづくりが一方的に何かを与えるだけではなく、産地自身が人と出会い、学んでいく。そういう関係をツギノテの中でつくっていきたいと思っています。


だから、ツギノテは当日の2日間だけではありません。例えば高岡龍谷高校とは、毎年6月頃から授業を行い、今年は120人の高校生と、ツギノテで発表する課題に取り組んでいます。


先日は高校生と市内の伝統工芸の工場を訪ね、ものづくりの現場から出る廃材を集めました。単に材料を集めるだけではなく、このまちにどんな仕事や技術があるのかを知ってもらうことも大切にしています。


当日のコンテンツ以上に、そこに至るまでに誰を巻き込み、どんな人たちと一緒に当日を迎えるかを大切にしたい。イベントは「2日間で何人来たか」だけではなく、その2日間が「残り363日の景色をどう変えるか」が大事だと思っています。


ごちペイも同じです。体験を通して子どもたちが地域のものづくりを知る。協賛した企業も、子どもたちや産地とのつながりを持つ。その関係がイベントの後も続いていくことに意味があると思います。
「ものづくり関係人口」から、「ものづくり応援人口」へ
―異業種の企業が関わることで、ツギノテにはどのような可能性が生まれると思いますか。
花田:僕は、地域にどれだけ「ブリッジ役」がいるかが大事だと思っています。


羽田くんが伝統産業を通じて人をつなぐなら、そこから別の産業につなげる役割は僕たちにもできるかもしれない。例えば、タリーズコーヒーの内装に高岡の伝統産業の技術を取り入れることも、その一つです。


「異業種だから関係ない」ではなく、異業種だからこそつなげられるものがある。ごちペイも、ものづくりに直接関わっていなかった企業が、子どもたちの体験を入口に産地とつながる仕組みになればいいと思っています。


ツギノテが続いていくためには、県外から人を呼ぶだけでなく、市内や県内の、これまで関わりのなかった人たちが「自分たちも関係している」と思えることが大切です。


「ものづくり関係人口」なのか「ものづくり応援人口」なのかは分かりませんが、そういう人たちが増えていけば面白いですよね。いつか他県の人から「なぜツギノテはこんなに広がっているの?」と聞かれたときに、「高岡には、ものづくりを応援する人がたくさんいるから」と言えるようになったらいいなと思います。
店内には高岡のものづくりに触れられる展示も


大坪:僕が「なぜツギノテに協賛するの?」と聞かれたときに、「高岡の未来、次の世代への応援です」と答えているのも同じです。


僕はものづくりとは違うジャンルの人間ですが、高岡全体の未来を応援する気持ちで関わっています。自分で何かを主導するだけでなく、共感したものを一人でも多くの人に伝え、ファンを増やしていく。それも、自分にできる大切な「次の手」だと思っています。


羽田:ものづくりや伝統産業を応援したいと思っても、異業種の人たちからすると、どう関わればいいのか分からないこともあると思うんです。


だからこそ、お金を出す、人を出す、体験を応援するなど、さまざまな関わり方ができる場所をつくりたい。協賛する企業にとっても、地域や子ども、ものづくりとつながる機会になれば、一方的な支援ではなく、お互いに新しい価値が生まれる関係になります。


ツギノテを通して、これまで交わることのなかった人たちが同じ目標に向かって協力できるようになってきたことは、僕自身、とてもうれしいことです。
次の世代へ、受け継いだものと新しい希望を
―最後に、みなさんが考える高岡の未来について聞かせてください。
花田:自分の故郷は、やっぱり良い場所であってほしい。子どもたちが「また高岡に住みたい」「ここが故郷だ」と思えることは大切だと思います。


会社をやっていると、先代が頑張ってくれたから今の自分があると実感します。だからこそ、自分の代で止めてはいけない。子どもたちのためにも、受け取ったものを次の世代へ恩送りしていきたいですね。


大坪:僕も同じです。先代から受け取ったものを、今度は次の世代へ返していく。その中で、「この会社が高岡にあってよかった」と思ってもらえる存在になりたい。


高岡の魅力は、歴史や文化、ものづくりだけではなく、受け継いだものを大切にしながら、工夫して変化させてきた「人の力」そのものだと思います。


仕事、まちづくり、ものづくり、教育。立場は違っても、子どもたちが「このまちに住みたい」「一度外に出ても、また戻ってきたい」と思えるまちをつくりたいという気持ちは、共通していると思います。


それぞれができることを持ち寄って、次の世代に残していく。それが僕らにとっての「次の手」なのかなと思います。


羽田:僕には4人の子どもがいて、一番下が3歳です。この子はたぶん2100年まで生きるんだと思うと、その時代にどんな未来を渡せるんだろうと、真剣に考えることがあります。


持続可能な未来をつくることは大切です。でも、今あるものをただ維持して、そのまま次の世代に渡すだけでは続かないと思うんです。


その先にある「楽しみ」や「新しい希望」まで、僕らの世代でつくっておきたい。ものづくりも、ただ残すのではなく、新しい可能性を生み出し続けられるものにしたいと思っています。


ごちペイも、そうした未来につながる一つの取り組みだと思います。子どもたちが自分で体験を選び、地域の文化やものづくりに出会う。その体験を企業が応援し、企業自身も地域との新しいつながりを得る。そうやって関わる人が増えていけば、産地の未来も少しずつ変わっていくはずです。
産地を支える方法は、ものを買うことや、ものづくりに直接関わることだけではない。


子どもたちが体験を選ぶこと。企業が地域との新しい接点をつくること。異なる業種の人が、それぞれの場所から高岡の未来に関わること。そんな一つひとつの小さな関わりが、産地を応援する力になっていきます。


「自分には関係がない」と思っていた人も、ほんの少し視点を変えれば、産地の未来に参加できる。ツギノテがつくろうとしているのは、そんな新しい入口なのかもしれません。(ツギノテ実行委員会 一同)

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