「まちの物語を纏い、都市の未来をひらく」。トークイベント「文化人類学者 中村 寛氏と語る まちから生まれたLigaretta(リガレッタ)」 開催レポート

2026.10.19 10:00
大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)が2023年に立ち上げた、丸の内のまち発祥アップサイクルブランド「Ligaretta(リガレッタ)」は、2026年4月29日(水)から7月21日(火)まで、東京駅に隣接する大丸東京店9階の複合型体験ストア「明日見世」に初出品しました。


出品期間中の7月11日(土)には、大丸東京店10階 カルチャースクールにて「文化人類学者 中村 寛氏と語る、まちから生まれた〈Ligaretta〉」と題したトークイベントを実施し、アップサイクルやまちづくり、デザイン人類学に関する活動やファッション関係の方など、多くのお客様にお越しいただきました。
「Ligaretta」は、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアでまちでの役割を終えたバナーフラッグ等の素材を「まちの物語が沁み込んだ素材」と捉え直し、新たにファッションプロダクトとして循環させるブランド。


「明日見世」の店頭には、バナーフラッグ等をアップサイクルしたトートバッグ、ミニトートバッグ、ネクタイ、名刺入れを展開し、多くのお客様に手に取っていただきました。出店期間中は、Ligarettaオンラインストアにてコートやスカート、スニーカーの受注販売商品予約も受け付け、「都市型サーキュラー」の可能性を体感いただく貴重な機会となりました。
7月11日(土)には、「文化人類学者 中村 寛氏と語る、まちから生まれた〈Ligaretta〉」と題したトークイベントを開催しました。


文化人類学者の中村 寛(ゆたか)さんをモデレーターに迎え、「Ligaretta」企画者である、大丸有エリアマネジメント協会の長谷川春奈さん、ブランドのクリエイティブディレクター守田篤史(株式会社ペーパーパレード共同代表)が登壇。


ブランド「Ligaretta」が生まれた背景や、まちで役割を終えた素材が「もう一度身につけたくなるもの」へ変わっていく過程をたどりながら、「素材に残るまちの記憶をどう捉え、どのような工夫で新たな価値へつなげているのか」を、作り手の実践と、文化人類学者の視点から紐解くひとときとなりました。
まちから生まれ、物語をつなぐ。「Ligaretta」の歩み
冒頭ではイベントを企画された株式会社 大丸松坂屋百貨店の未来定番研究所に所属する榎さんから同所の活動概要と、イベントの開催趣旨についてお話がありました。


「未来定番研究所は、大丸松坂屋百貨店の創造型マーケティング組織で、5年先の未来に定番となるモノやコトのタネを発見し育てるために発足しました。従来の百貨店の枠を超えてさまざまな方とコラボレーションし、これからの定番生活を探求しています。今回のイベントは、『Ligaretta』の取り組みを通してアップサイクルそのものだけでなく、役割を終えた素材に新たな価値が生まれる過程を知り、ものを選ぶことがまちとの関係にどうつながるのかを考える機会になればと企画しました(榎)」


続いて、長谷川さんから「Ligaretta」のコンセプトや立ち上げの背景が紹介されました。
「Ligaretta」は、丸の内仲通りに掲出したバナーフラッグ等をアップサイクルする、まち起点のファッションブランド。まちの中に存在する未活用な素材を採取し、それらに沁み込んだ物語をつなぎ、循環させる。まちの物語が沁み込んだファッションを纏う。そんなライフスタイルを提案しています。


「Ligaretta」の主な素材であるバナーフラッグは、丸の内仲通りの街路灯に2週間ほど掲出される広告媒体ですが、素材自体は6年〜10年以上持つ耐久性を備えています。この「素材寿命ギャップ」に対するもったいないという想いと、丸の内の景観を彩ってきた美しいデザインを活かしたいという発想からブランドが誕生しました。


バナーフラッグをファッションプロダクトへ生まれ変わらせるにあたり、最大の障壁となったのが著作権や肖像権、商標権といった「知的財産権」の問題でした。広告業界において廃棄が常識とされている中、「Ligaretta」は、独自の印刷技術「シークレット地紋」を開発。元の色彩やグラフィックの美しさを活かしつつ、特定の企業名やロゴ等の知財情報をカモフラージュして認知できなくすることで、都市ならではの法的な壁を乗り越えることに成功しました。
さらに、プロダクトの製造過程においても、型紙設計の工夫によって一般的には約30%と言われる製造ロスを10%以下に抑え、残った端材もワークショップ等で使い切る徹底した循環システムを採用。そして、単に「廃棄物を減らす」だけでなく、国内の熟練職人による手作業にこだわり、手に取る人が誇りを持って身につけられる「高品質・高付加価値なハイブランド路線」を貫いています。


また、大量生産・大量廃棄のループに陥らないよう、受注生産や適量生産を徹底しながらも、日常的に使いやすいピンズやスマホストラップ等も「本来廃棄される端材」を価値化して開発し、ブランド価値を維持しています。


「まち」というコミュニティを起点とする「Ligaretta」は、アップサイクルした商品開発やブランドのデザインだけでなく、地域資源を活用しながら “賑わいの創出” “環境改善” “コミュニティの形成”をテーマに「まち」と「人」を結び、「物語」がつながる「まちづくり」にも積極的に取り組んでいます。
丸の内の「エリアマネジメント」の一端を担う「Ligaretta」は雑談スタート
ここからは、中村さん、守田が加わってのトークセッション。まずは、「Ligaretta」もその役割を担う「エリアマネジメント」や、ブランドのはじまりについて。「エリアマネジメント」とは賑わいやコミュニティを創出するソフト面のまちづくり手法です。


「ニューヨークだと、『エリアマネジメント』が40年ほど前から行われている感覚があります。日本の都市の場合、ハード面の整備をしておけば自然と人が集まってきていましたが、人口減少、消費行動の変化、ショッピングのオンライン化などで、現在は東京都心部を除いて都市が衰退するフェーズにありますよね。丸の内としては、どんなゴールを描いて『エリアマネジメント』に取り組まれていますか?(中村)」


「丸の内は、ビジネス街でありながら、アートや文化に触れられるという魅力があります。目指すゴールは『ビジネスだけでなく、新たな発見やインスピレーションが得られるエリア』と言えます。また、大手町・丸の内・有楽町は少しずつ違う表情を持っていて、特に有楽町は今『アートのまちづくり』を進めています。『エリアマネジメント』の一環として、まちがブランド(Ligaretta)を立ち上げるというのは無謀な取り組みではあったのですが、丸の内のバナーフラッグを見て純粋に『この素敵な素材を何かに活用できないかな』と感じたんですよね。そのことを、守田さんたちと雑談したことが『Ligaretta』の始まりでした(長谷川)」
雑談からのクイックな動きとプロトタイプで周囲を動かし、突破口を開く
「バナーフラッグ捨てるのもったいないね」といった会話がなされたわずか1、2日後、ペーパーパレード共同代表の和田由里子が、まちの素材を使った試作品を作ってくれたというエピソードが長谷川さんから明かされました。


「素敵なプロダクトが1つ目の前に実在するだけで、社内や周囲の人の心が動かされ、プロジェクトが一気に動き出した。デザインの持つ熱量と、スピード感がプロジェクト成功の鍵だと実感しました(長谷川)」


「リニア経済(サーキュラーエコノミーと対照的な一方通行型の経済)がダメになった理由として、商品寿命の短さといった『スピードが速すぎる点』が挙げられるのですが、実は、これまでを上回るくらいのスピード感で小さく試したり、クイックに動いたりすることこそ新たな創造には必要で、そこから、よりスローな経済に転換できるのではと考えています。スピード感を持って試作品を作り、周囲の人にイメージを掴んでもらったことで、『Ligaretta』が長く息づく製品になったことは興味深いです(中村)」
「ひらめき」が前進させた「本気の都市型サーキュラー」
中村さんは「シークレット地紋」誕生にまつわる、守田の「ひらめきのモーメント」にも関心を持ったそう。


「広告出稿主である企業さまに『バナーフラッグを再活用させてもらえないか』と打診したら、当たり前ですが結構怒られて(苦笑)。悩みながら家に帰ったら、銀行か自治体から「支払い通知のDM」が届いていたんです。情報が判別できないよう地紋が施されたDMを見て、元のグラフィックのデザインを残しながら知財を隠せるんじゃないかと思いついて(守田)」
このひらめきを機に、企業との交渉が劇的に進んだと守田。当初、難色を示していた企業側も、広告物の廃棄に感じていた課題をブレイクスルーできる「Ligaretta」の味方になってくれたそうです。


「まさに『アハモーメント』というか、支払いを滞納してみるもんだなと(笑)。それは冗談として、これまで、サーキュラーエコノミー(循環型経済)は、合意形成が比較的容易な地方や里山といった文脈で語られがちで、「ステークホルダーや権利関係が複雑な都市での実現は難しい」とされてきました。そんな中、『Ligaretta』は職人さんの手による縫製だったり、廃棄量を極力削減することに注力したりと『ブランドをつくって終わり』ではなく、『都市での循環型経済』を真剣に考えた取り組みという印象があります。この先、都市の土着性みたいなものを解体して見ていくと面白いと思うし、都市だからできることがまだまだあると感じます。『都市でのサーキュラリティ』は、もっと大々的に謳っていいコンセプトではないでしょうか(中村)」


「おっしゃる通りで、都市特有の知財課題と素材を逆手に取った「都市型サーキュラー」の取り組みは、日本のサーキュラリティの流れに一石を投じられたのではないかと感じています(守田)」
ハイブランド路線は、まちの佇まいと纏う人を描き切ったことでの自然な流れ
次に、中村さんから問いかけられたのは「Ligaretta」を「ハイブランド」として位置づけるに至った考え方について。


「ハイブランド店が軒を連ねる丸の内仲通りの佇まいを可視化して、このまちを象徴するブランドになりたい、このまちの方々に使ってほしいと思うと、ハイブランド化の方向はすんなり決まりました。まちの雰囲気からかけ離れた安価なプロダクトや、単なるノベルティみたいなものを出すのは違うなと(守田)」


「『ブランド』という言葉が今独り歩きしているような気がしているのですが、本当は、どこからどういう素材を採ってきて、どういう人たちを一緒につくっていて、何を守るために、どんな仕組みを構築しているのかみたいなことも含む活動の全体を言語化したものなのかなと。そう思うと、丸の内の歴史や物語の染み込んだ素材を、職人さんの手で形にした『Ligaretta』のハイブランド化というのは一貫性がありますよね(中村)」


「守田さんとも『仲通りの風景に合う佇まいを描ききることに徹すると、おのずとハイブランド路線になるよね』と話しました。ちなみに、千鳥格子の柄がかかったプロダクトは、某ハイブランドのバナーフラッグでできています。世界的ハイブランドに共感いただいたことで、自分たちの方向性が間違っていなかったのかなと感じています(長谷川)」


「エルメスなどは、職人の暮らしと技術を守るためと明言し、限られた量を高価格で販売していますよね。都市でも国内の職人さんと接続して、似た仕組みを取り入れられるというのが面白いですね(中村)」
現代のブリコラージュ「Ligaretta」の購入は、まちづくりへの参画に
続いて、中村さんから提示されたのは、生活圏内にある「あり合わせの素材」を組み合わせて新たな価値を生み出す「ブリコラージュ」という文化人類学の概念。


「『ブリコラージュ』は、クロード・レヴィ=ストロースという人類学者の造語で、つくるものが定まっていて、世界中から素材を持ってきてつくる近代のエンジニアリングと対比されるのですが、『Ligaretta』は「現代都市におけるブリコラージュの実践」ではないかと見立てています。その都市ならではの『ブリコラージュ』みたいなものが、もっと広がっていくといいなと率直に思います(中村)」


「そうですね。もうひとつ、まちづくり・サーキュラリティ・ハイブランドという文脈を持つ『Ligaretta』のような製品を購入し、身につけること自体が『まちづくりへの参画』につながるというのも、都市ならではだなと考えています(守田)」


「まちづくりへの参画」につながる製品の購入を促進するため、「Ligaretta」はハイブランド路線を維持しながらもピンズやスマホストラップといった比較的安価で身につけやすいアイテムも拡充しているそう。価格を下げるために、バッグやコートなどのハイエンド商品の端切れを再利用するなど、工夫を重ねています。


「そういった工夫されている部分、見えないプロセスを開示していくのも、ひとつのブランド化かなと考えています。社会に実直であろうとする姿勢を極めていくことも、有効だと思います(中村)」
「Ligaretta」を未来へつながるために、「サードアクション」を呼び起こす
中村さんからは、生産でも消費でもない、自らの意志で、文化や考え抜かれた循環を選び取る行為を「サードアクション」と再定義する提案もなされました。


「『サードアクション』を呼び起こし、10年、15年とブランドを継続・発展させていくためには、裏側にある綿密な製造プロセスやストーリーを丁寧に言語化すること、言葉の刷新みたいなことをしないといけないかなと思います。多言語化して国内外へ開示するなど、タッチポイントを増やしていくことも重要だと感じます(中村)」


「『Ligaretta』の文化というかストーリー性は「まちを纏う」だったり「まちの物語が染み込んだ素材」といったところにあります。『サードアクション』を促すためには、感性に響く美しさやストーリーを一層言語化しないといけないよねという話は出ています。少し話が飛びますが、僕が意識している「New European Bauhaus」の中核コンセプトは「Beautiful」「Sustainable」「Together」で、サステナブルは前提として、美しさ、かっこよさ、ストーリー性が、社会とコミュニケーションをとる上で不可欠だと考えています。現在も、公式オンラインストアに3分程度の工程紹介ムービーを掲載していますが、今後さらに深いストーリーを発信していくことが、ブランドの継続につながると考えています(守田)」


ブランド設立から4年目を迎えた「Ligaretta」。今後に向けた展望として、長谷川さんからはビジネス街である丸の内の特性を活かした「企業連携の拡大」という構想が提示されました。
「自社単独ではサステナブルな取り組みへ踏み出しにくい企業の方々にも『Ligaretta』の仕組みを活用していただき、丸の内のまち全体として循環型社会を構築していく。そんなまちぐるみでのBtoBパートナーシップを展開していきたいです(長谷川)」


最後に、「Ligaretta」の成功要因だった「スピード感と熱量」を保つため、今後もブランドのビジョンに共感したり、波長が合うクリエイターや企業、研究者を交えた「雑談風の作戦会議」を意識的に行い、即座に動くスタンスを維持することの重要性を確認し合い、イベントは終了。「Ligaretta」を起点とした「都市型サーキュラー」への期待を感じさせる時間となりました。

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