ヤンマーパワーソリューション様の水素燃料電池システム実証試験艇輸送プロジェクト

2026.10.14 10:00
―次世代エネルギーの実証事業を支える日本・オーストラリア間の往復国際輸送―


脱炭素社会の実現に向け、太陽光発電や風力発電などによる再生可能エネルギー由来のグリーン水素への注目が高まる中、2025年、舶用水素燃料電池システムを搭載した実証試験艇の輸送プロジェクトが日本とオーストラリアを舞台に始まりました。実証試験艇は、日本政府の事業⁽*¹⁾の一環としてオーストラリア・ブリスベンで航行試験が予定されており、水素を活用する社会の実現に向けた重要な役割を担っていました。水素燃料電池システムを搭載した船舶の輸送は前例が少ない中、郵船ロジスティクスグループが持つ豊富なプロジェクトカーゴの輸送経験とグローバルネットワークを生かし、数多くの課題に直面しながらも、実証試験艇の輸送に挑んだプロジェクトの裏側をご紹介します。
⁽*¹⁾
プロジェクト概要
本案件の貨物は、ヤンマーパワーソリューション株式会社様(以下、ヤンマーパワーソリューション様)が開発した水素燃料電池システムを搭載した実証試験艇でした。約9トンの特殊船舶を日本からオーストラリアへ輸送し、現地での実証試験終了後に再び日本へ返送する往復の複合一貫輸送手配が求められました。


郵船ロジスティクスグループは、オーストラリアに法人を有し、同国内ではシドニー、メルボルン、ブリスベン、パースに拠点を展開しています。長年にわたり、海上・航空貨物輸送、コントラクト・ロジスティクス、サプライチェーン・ソリューションなどの高品質なサービスを提供してきました。また、当社は本案件の輸送以前にも、北米発日本向けのボート輸送において、米国東海岸から西海岸へ陸上輸送した後、西海岸で貨物をコンテナ船へ積み替え日本まで海上貨物輸送を手配し、無事に輸送を完遂した実績がありました。これまでに郵船ロジスティクスグループが提供したサービスの実績やプロジェクトカーゴの輸送における豊富な知見を評価いただき、本案件も当社に依頼いただきました。


当社は、船会社ごとの貨物受託条件の確認や、オーストラリアにおける規制対応、輸送スケジュールの調整を行いながら、日本側での搬入・荷役から、オーストラリアの造船所への陸上輸送までを手配しました。また、実証試験終了後の復路においても、現地での引き取りから日本での引き渡しまで、往復輸送を一貫して担いました。今回は、往復での国際輸送である特性上、物品の一時輸入のための通関手帳(ATAカルネ)を利用した通関対応を行い、円滑な一時輸出入を実現したほか、日本・オーストラリア双方において当社従業員が現場での作業に立ち会い、輸送品質の確保を徹底しました。


最大の課題:前例が少ない貨物の複合一貫輸送
水素関連貨物特有のレギュレーション対応と大型貨物の積載
本案件では、水素燃料電池システムを搭載した貨物ならではの輸送上の検討事項がありました。水素は次世代エネルギーとして注目を集める一方、水素関連貨物は海上貨物輸送においてまだ前例が少なかったため、統一されたレギュレーションが確立されておらず、船会社ごとに受託条件が異なっていました。そのため、輸出入における通関上の確認事項のほか、実証試験艇の輸送可否を確認するために、各船会社に対して事前に貨物の詳細に関する説明を行うなど、多岐にわたる調整が必要でした。


当社は輸送に支障をきたさないようにお客さまと連携して、通関や輸送に必要な貨物の仕様、船舶への積載に必要な設備の情報を一つひとつ整理していきました。船会社一社ずつに対して丁寧に説明しながら、安全性や貨物の特性について何度も確認と協議を重ね、最適な輸送パートナーの選定を進めていきました。さらに、本案件のように自走できない大型貨物を船舶へ積載する際には、マーフィートレーラーなどの特殊な台車が必要です。
            マーフィートレーラーに積み付ける様子
輸送中における安全確保の観点から、マーフィートレーラーへの積み付け方法も重要な検討課題でした。当社の担当者は、すぐさま実証試験艇をマーフィートレーラーへ積み付ける際の注意点をヤンマーパワーソリューション様と共に洗い出しました。お客さまからは、実証試験艇の積み付けに適した専用の吊り具(スプレッダー)や固定用のベルト類をご提供いただき、船会社とも事前に手配方法のすり合わせを行うことで、より適切な作業工程の確立に努めました。実際に船舶へ積載する際には、計画通りに各工程が進んでいるか、当社の担当者が現場で一つひとつの作業を見守りながら手配を進めていきました。


輸送延期と環境変化への対応
2024年、ヤンマーパワーソリューション様から最初に実証試験艇輸送のご依頼があった際は、コンテナ船でのブレイクバルク⁽*²⁾輸送を前提として検討を進めていました。しかし、出荷スケジュールが約1年後ろ倒しとなったことで、国際物流を取り巻く環境の変化に伴い、コンテナ船の航路におけるスペース逼迫やターミナル混雑が深刻化したほか、水素関連貨物に対するレギュレーションや要求事項の変更があり、最適な輸送手段の見直しが必要となりました。


当社の担当者は、お客さまと変更後の出荷スケジュールを確認しながら、各船会社が提供しているサービスの内容をはじめ、スケジュールやレギュレーション、輸送コストなどを再度精査しました。オーストラリア向けの海上貨物輸送サービスは、選択肢が限られている中、RORO船およびコンテナ船での輸送を比較検討した結果、貨物特性とスケジュールの確実性を踏まえ、RORO船での輸送へと方針転換する判断となりました。また、実証試験のスケジュール変更にも対応できるよう、往路・復路それぞれで異なる船会社を起用し、柔軟な輸送計画を構築しました。
               本船への積み込みの様子


さらに、船会社の選定が完了しブリスベン港向けに輸送準備を進める中、当初船積みを予定していた神戸港が、本船のスケジュール調整で急遽抜港⁽*³⁾となり、船積み港が名古屋港へ変更となる事態も発生しました。当社はお客さまのご協力の下、関係各所との調整を速やかに実施し、船積みスケジュールや国内輸送手配を見直すことで、船積み港の変更に伴うプロジェクト全体への影響を最小限に抑えました。
⁽*²⁾コンテナに収まらない大型貨物を、コンテナを使用せずに船舶へ積載し輸送する方法。
⁽*³⁾船舶が予定している港への寄港を取りやめ、通過すること。


日本・オーストラリア間の緊密な連携
往路、復路それぞれの輸送条件や日本・オーストラリアで通関、輸送に関する規制が異なる中、実証試験のスケジュールに合わせた集荷、輸出入手続き、船積み手配など、各工程を両国間で綿密に連携させる必要がありました。特に、RORO船の運航スケジュールに合わせながら、日本・オーストラリアでプロジェクトに関わる多くの関係者と入念に確認を行い、刻々と変化する状況に応じて最適なタイミングでの輸送を実現したことが、本プロジェクト成功の鍵となりました。


オーストラリアでは、水素関連貨物の輸入に関する法令や規制が存在しないかを事細かに確認するとともに、輸入通関や現地での配送時に支障が生じないよう、オーストラリア法人と連携しながら必要な情報を収集し、輸送体制を整備していきました。また、大型で特殊な貨物であったことから、陸上輸送のルートや納品時の搬入条件についても事前調査を入念に実施しました。特にオーストラリアでの道路通行規制や搬入時の条件は、輸送を無事に遂行する上で成否に直結する重要な要素であり、慎重に確認を進めました。
              造船所での荷役作業の様子        


他にも、港湾作業やATAカルネを利用した通関対応、国内輸送などさまざまな工程が存在し、オーストラリア法人の担当者と協議を重ねながら、双方で円滑な受け入れ体制を構築しました。その結果、日本とオーストラリアを結ぶ往復輸送を安全かつ滞りなく完遂し、次世代エネルギーの社会実装に向けた重要な実証事業を物流の側面から支える重要な役割を果たしました。


お客さまの声
今回のようなプロジェクトカーゴの取り扱いにおいて、安心してお任せできるフォワーダーの1社と認識しています。また今回の輸送先であるオーストラリアには日系物流企業として早くから進出されていて、現地側での対応力にも期待しました。今回のプロジェクトは、関係する企業が多くありましたが、日本・オーストラリア双方での堅実な対応のお陰で 無事に完了できたと感じています。ありがとうございました。
当社は、プロジェクトカーゴの輸送で培った知見と実行力を強みに、RORO船での輸送をはじめ、さまざまな特殊貨物や大型貨物において求められる高度な輸送要件にも適切に対応し、グローバルで最適なロジスティクスサービスを提供しています。また、船舶海事産業においても、船舶の輸送や部品の調達物流などを支援しています。
ヤンマーパワーソリューション様の舶用水素燃料電池システム「GH-FCシリーズ」は、2026年9月に国際的な船級協会から型式承認を取得しており、次世代船舶の実用化や船舶海事産業における脱炭素化実現への取り組みが進む中で、当社は今後もお客さまの技術や事業の発展を物流面から支えてまいります。


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