「同じ部品の交換でも、どういった経緯で交換したのかによって、記録の意味は変わってきます」
そう話すのは、株式会社ブロードリーフでシステムサポートグループのグループ長を務める杉浦亮二だ。
点検や整備、修理の過程では、車種や年式、走行距離、点検結果、作業内容、交換した部品など、さまざまなデータが生まれる。
一台の車について記録が蓄積されれば、過去の整備や修理を振り返り、次の対応に生かすことができる。多くの記録をまとめて見ることで、個別の車だけでは分からなかった傾向を捉えることもできる。
ただし、こうした記録は、もともと分析のために作られているわけではない。お客様の日々の業務を進める中で記録されるため、活用するには、どのような業務の中で、何のために記録された情報なのかを理解する必要がある。
ブロードリーフは、モビリティ産業のお客様にシステムやサービスを提供する一方、必要な情報を入手し、お客様の業務で使えるデータとして届けている。
データを作って届ける側と、お客様がそのデータを使う過程を支える側。その両方を統括する杉浦に、整備データから新たな価値を生み出すために必要なことを聞いた。
故障コードだけでは、必要な整備は分からない
データを読み解く例として、杉浦が挙げるのが車両の故障コードだ。
車の電子化が進み、不具合が発生すると故障コードとして情報を取得できるようになった。しかし、コードが示す情報だけで、原因や必要な整備が一つに定まるわけではない。
杉浦は、それを人の体に例える。
「人間でいえば、『頭が痛い』という症状が出ているようなものです。でも、その原因が脳なのか、骨なのか、内臓なのか、一つではないですよね。車も同じです。
この車でこの故障コードが出たときに、実際にどんな整備が行われたのか。そこまで結び付けられると、データとしての価値が出てきます」
故障コードと、実際に行われた整備を結び付けることで、原因や必要な対応を考える手がかりになる。
「何を掛け合わせるかが、一番重要だと思っています」
単にデータを並べるのではなく、目的に応じて必要な情報を結び付ける。それが、杉浦が考えるデータ活用の出発点だ。
「件数が多い=故障しやすい」ではない。数字の背景まで読み解く
多くのデータから傾向を捉えるためには、まず比較できる状態に整える必要がある。
たとえば、同じ部品でも記録上の名称や表記が異なることがある。コード番号が付与されているものもあれば、手入力されたものもある。
表記の異なるデータをそのまま集計すれば、本来同じものが別の部品として扱われる可能性もある。
「全体の母数を大きくしようと思えば、データを共通化しなくてはいけません。ただ、集約した結果が本当に正しいのかは、常に疑わなくてはいけないと思っています」
さらに、数字の大きさだけで意味を判断することもできない。
ある部品の交換件数が多かったとしても、それだけで「故障しやすい部品」とは言えない。車両の保有台数が多ければ、その部品の交換件数も増える。走行距離や点検の機会、記録の仕方によっても数字は変わる。
そのため、データを読み解くには、車の構造だけでなく、モビリティ産業やお客様の業務への理解が欠かせない。
杉浦は、そうした理解を深めるうえで重要なのは、単に経験した年数ではなく、お客様との接点を増やし、多くの情報を得ることだと話す。
数字が何を示しているのかを判断するには、その数字が生まれた業務まで理解する必要がある。
部品価格の変化から見える、データ活用の広がり
データを継続して見ることで、一つひとつの数字だけでは分からない変化が見えてくることもある。
杉浦がその一例として挙げるのが、部品価格だ。
日々データを見る中で、近年は価格の上昇だけでなく下落も含め、部品価格の変動が大きくなっていると感じているという。
部品価格が変われば、整備事業者が作成する見積りにも影響する。その先では、修理費を負担するカーオーナーにも関わってくる。
そのため、整備事業者にとっては、最新の価格情報を正確に把握し、業務に反映することがこれまで以上に重要になる。
部品価格のように、継続して見ることで初めて変化が見えてくるデータもある。
一つひとつの数字を見るだけではなく、時間の経過やお客様の業務と結び付けて考えることで、データから読み取れることは広がっていく。
データを作る側と、使われ方を知る側をつなぐ
こうしたデータ活用を支えているのが、杉浦が統括するシステムサポートグループだ。
グループには、データ運用部とシステムサポート部がある。
データ運用部は、必要な情報を入手し、整備事業者の業務に必要な車両や部品などのデータを作り、システムを通じて提供する。データの品質を維持するほか、情報の入手に関する調整や、データを生かした新たなサービスの企画も担っている。
一方、システムサポート部は、導入時のデータ移行や稼働準備、稼働後のお問い合わせへの対応などを通じて、お客様がシステムを安定して使い続けられるよう支えている。
問い合わせに対応する際には、データの状態だけでなく、お客様が実際の業務でどのように使っているのかも踏まえて調査する。
二つの部門を通じて、ブロードリーフには「どのようなデータを届けるか」と「そのデータがどのように使われているか」という両方の情報が集まる。
「情報を入手し、業務で使えるデータにして届け、その使われ方から新しい課題を見つける。この一連の流れを担えることが、ブロードリーフの強みだと考えています」
お客様から寄せられる声をデータやシステムの改善に生かし、新たな情報が必要になれば、入手方法や関係先との連携も含めて検討する。
こうした情報の往復が、次の改善や新たなサービスを考える起点になっている。
サポート、営業、データ。立場が変わるたびに、見える範囲が広がった
現在の杉浦の視点は、これまで経験してきた仕事ともつながっている。
営業所でお客様へのサポートを担当した後、営業所長として営業とサポートの両方に携わった。
「サポートは、お客様から依頼されたことに対応する仕事が中心です。でも営業になると、どうすればお客様の業務や経営を改善できるのかを考えて、提案し、納得していただかなければいけない。そこで、また違った目線でお客様を見るようになりました」
その後、本部で全国のサポートを担当し、開発部門の中にシステムサポート部を立ち上げた。
全国のお客様を支える立場になったことで、さまざまなお客様から意見を聞く機会が増え、モビリティ産業やお客様の業務について得られる情報も広がったという。
さらに、データを扱う部門も担当するようになった。
それまで主にお客様側から見ていたモビリティ産業を、データを作る側からも見るようになったことで、杉浦の視野はさらに広がった。
サポート、営業、全国のお客様への対応、そしてデータ。それぞれの立場を経験する中で、同じ情報でも、使う人や業務によって必要な形が異なることを実感してきた。
現在、杉浦がグループを率いるうえで大切にしているのが、次の視点だ。
「誰が、どの業務で、何を判断するために使うデータなのか」
データそのものではなく、その先にある業務や判断まで見る。この考え方が、杉浦の仕事の軸になっている。
AI活用が進むほど、「判断に使えるデータ」が重要になる
杉浦は今後、モビリティ産業でデータの重要性がさらに高まると考えている。
「人がどんどん足りなくなっていく中で、省力化やAIの活用はすごく重要です。ただ、それを実現するためにもデータが必要です。AIの活用が進むほど、データの価値はもっと高まっていくと思います」
将来的には、整備に必要な情報を結び付け、判断に使える形で提供することで、経験の浅い人が難しい修理に対応する際の支援につながる可能性もある。
人が限られる中で、どの情報を、どの判断に使える形で整えるのか。
AIなどの技術を活用していくうえでも、その重要性は高まっていく。
異なる立場をつなぎ、モビリティ産業の課題解決へ
杉浦がこれから実現したいと考えているのは、一つの企業や一つの業務だけでは解決しにくい課題にも、情報をつなぐことで向き合うことだ。
メーカー、整備事業者、業界団体、行政。モビリティ産業には、それぞれ異なる役割を持つ企業や組織が関わっている。
立場が異なれば、持っている情報や、直面している課題も異なる。
一方で、さまざまな立場の人と話す中で、杉浦は一見異なる課題にも共通する部分があると感じている。
「いろいろな人が、いろいろな課題を抱えています。複雑に見えるんですけど、ひもといていくと、問題は結構共通していると思っています。でも、お互いが同じ問題を抱えていることを意外と知らないんですよね」
そこで杉浦が目指しているのが、異なる立場の間をつなぐことだ。
「 私たちは、システムという少し違う立ち位置から話ができます。それぞれが抱えている課題を理解して橋渡しをし、問題を共通認識にして、解決につなげていく。そういうことに携わっていきたいと思っています」
杉浦は今後、それぞれの立場が抱える課題や必要とする情報を捉え、データやシステムを通じて課題解決につなげていきたいと考えている。
そして、その先にはカーオーナーがいる。
「データを通じて、カーオーナーのカーライフをより豊かにする。そういうことにつながるデータの提供やシステムの活用を実現できたらと思っています」
お客様の日々の業務から生まれるデータを、次の判断や課題解決に生かす。
その可能性を、モビリティ産業に関わるさまざまな立場へ広げていくことが、杉浦の目指すデータ活用だ。
編集後記
今回の取材から見えてきたのは、杉浦さんが一貫して「データそのもの」ではなく、その先にあるお客様の業務や判断を見ていることでした。
サポート、営業、全国のお客様への対応、そしてデータ。それぞれ異なる立場を経験してきたからこそ、同じ情報でも、使う人や業務によって必要な形が変わることを実感してきたのだと思います。
杉浦さんが大切にしているのは、「誰が、どの業務で、何を判断するために使うデータなのか」という視点です。
ブロードリーフには、データを作って届ける仕事と、お客様がそのデータをどのように使っているのかを知る仕事があります。
その二つをつなぎ、お客様の業務から見えてきた課題を、次のデータやシステムの改善へつなげていく。
杉浦さんの仕事を通して見えてきたのは、そうしたブロードリーフのデータとの向き合い方でした。
取材・文:尾崎真弓(株式会社ブロードリーフ 広報)