需要の減ったアイロンパーマを、悩みに応える技術へ。二代目が受け継いだもの、変えたもの

2026.10.06 10:30
「その髪では難しい」




と他店で言われ、希望する髪型を諦めていたお客様が、私たちの店を訪れることがあります。


私たちが向き合ってきたのは、かつて流行したアイロンパーマの形を守ることではありません。
先代から受け継いだ技術を、一人ひとりの髪質や骨格、なりたい姿に合わせて変え続けることでした。


有限会社寿の二代目である三島裕和が、父の「職人の感覚」を、スタッフとお客様が共有できる設計図へ変えてきた歩みを振り返ります。
三島裕和代表(有限会社寿 二代目)が、
OTOKO DESIGN新座本店でアイロンパーマを施術する様子。
父から受け継ぎ、応用を重ねてきた技術。2024年撮影
1. 父の背中と、「感覚を言葉にしたい」という思い
父は理容師として、名古屋のコンテストサロンで技術を磨いた後、店を移りながら腕を広げていきました。神田ではビジネスマンのスタイル、麻布ではフォーマル、浅草では職人のスタイル。場所が変われば求められる髪型も変わります。父はそのたびに、新しい技術を自分のものにしていきました。
1982年、父は埼玉県新座市に理容室「KOTOBUKI(寿)」を創業します。「寿」は、祖母の名前・寿美子から一文字をもらったものです。当時の新座は東京のベッドタウンとして発展し、ファミリー層で賑わう「街の理容室」でした。ちょうどその頃、直径3〜6mmのアイロンコテで巻くパンチパーマが流行しており、父が最も得意とする技術でした。父はいまも現役で、1.7mmの細いコテによる全頭巻きを1時間台で仕上げます(通常は2時間以上かかります)。
物心ついた頃から、私は店を手伝っていました。正直に言えば、当時は理容という仕事に特別な思いがあったわけではありません。生活の一部でした。ただ、実際にお客様に手を加えて、目の前で喜んでもらえる父の姿は、純粋にかっこよく見えた。手に職をつける仕事として、これ以上のものはないと思ったのです。
父のカットとパーマは、毛質と毛流れに沿って手法を変えていたため、帰宅してセットした後の"収まり"がまるで違いました。ただ、修業を始めてすぐに気づいたことがあります。父や先輩たちの技術は、長年の経験が生んだ「職人の感覚」でした。そして、その教え方もまた感覚的だったのです。見て盗め、というやり方では、技術は限られた人にしか渡りません。
この技術を感覚のまま終わらせるのではなく、なぜそうするのかを一つひとつ言葉にして、誰もが理解し、再現できる形にできたら——もっと多くの人に喜んでもらえるのではないか。
私にとっての承継は、父の店をそのまま引き継ぐことではありませんでした。父が各地で身につけた技術と経験を受け継ぎ、それを自分の代でロジック化し、次の世代へ渡していく。それが、私の考える「技術の承継」です。
2003年、埼玉県新座市の本店にて。創業者である父(写真左)と、当時チーフだった三島代表。父の「職人の感覚」を、どう受け継ぐかを模索していた頃。
2. 「自分の髪でも、できるんですね」
時代が変わり、一世を風靡したパンチパーマも、アイロンパーマ(毛流れを後ろへ流す、いわゆる任俠スタイル)も、需要は目に見えて減っていきました。この技術を手放すという選択肢もありました。
そんな頃、新規で来店されたお客様がいました。「本当はこんな髪型にしたい」という理想を持ちながら、髪質や骨格を理由に、ずっと諦めてきた方です。何度お願いしても思い通りにならないうちに、「自分の髪では、やっぱりできないんだ」と考えるようになった。最終的には髪型へのこだわりそのものを手放し、低価格のカット専門店に通っていました。
けれど私たちは、「できない」で終わらせません。髪質や骨格を見極め、カットだけで解決できなければ、アイロンやパーマ、さまざまな道具や薬剤を組み合わせながら、その人の「なりたい姿」に近づける方法を考えます。父から受け継いだ技術を、現代の道具や薬剤と掛け合わせ、一人ひとりに合わせて応用していく。
そのお客様も、長く諦めていたスタイルを実現することができました。






「自分の髪でも、できるんですね」






その反応を見たとき、改めて感じたことがあります。技術とは、流行のスタイルをつくるためだけのものではない。その人が諦めていたことを、可能にするためのものでもあるのだと。
需要の減っていた技術は、こうして「他店で叶わない髪を可能にする技術」へと姿を変えていきました。ここが、私たちの店の心臓です。
アイロンパーマの施術中の手元。新座本店2015年撮影。
髪質や骨格に合わせてコテの太さや巻き方を変え、一人ひとりの「なりたい姿」に近づけていく。
3. 切る前に、設計する
父の見立ては優れていましたが、感覚的なものでした。本人にしか分からない。それでは技術は受け継げませんし、何よりお客様に伝わりません。「なぜこの髪型なのか」を納得していただけなければ、仕上がりへの信頼も生まれない——そう考えて、見立てを"見える形"に変えることにしました。
本店では、タブレットで撮影した写真に直接書き込みながら、カットを設計します。ビフォーアフターを一緒に見て、「このミリ数・この角度でハチ張りを抑えましょう」「普段のセットで再現できるように」と、一手ずつ線を引き、確認しながら切っていく。さらにマイクロスコープで頭皮・毛根の状態を捉え、根拠を重ねます。
私たちが大切にしてきたのは、「会話」ではなく「対話」です。人と人として向き合い、悩みや希望を打ち明けてもらい、その奥にある本当の願いを理解する。これも父の代からやってきたことを、私が言語化したものでした。「なぜこの髪型なのか」を、お客様自身が画面で確認しながら進めていく。感覚の技術を、共有できる設計図に変える試みです。
本店でのカウンセリング。三島代表がタブレットに撮影した写真へ直接書き込みながら、カットを設計する。感覚的だった見立てを、お客様と共有できる設計図に変えた。2026年撮影
4. もう一つの、カリフォルニア
2000年代に入り、店の周辺は変わっていきました。新規の転入者が減り、半径500メートルの男性平均年齢は50歳を超える。業績は下がり続け、2008年のリーマンショックで決定的になりました。父は「もう辞めたい」と考えていたようです。私は「畳む前に、一度やらせてもらえないか」と頼み、経営に参画しました。
同じ頃、私は海外に目を向けていました。2015年、アメリカ・ハリウッズ(HAWLEYWOOD'S)の整髪料ブランド「LAYRITE(レイライト)」が日本のバーバーと組み、バーバーバトルが日本で初開催されます。タトゥー、キャバレー、アメリカンバイク——熱量あるカルチャーとともに"バーバースタイル"が日本に定着しました。理容室が「かっこいい場所」として若い世代に届き、下火になっていた日本のバーバーが息を吹き返した。その功績は、彼らが切り拓いたものです。私たちはその流れに、心から敬意を持っています。
私は同じ時期、同じカリフォルニアの、違う扉を叩いていました。舞台で競う技術の高さに惹かれる人がいる一方、私が求めたのは、日常のなかで大人の男を仕上げ続ける技術だったからです。


アメリカで見たもの。その扉のひとつが、ウエストハリウッドにあった Baxter Finley Barber & Shop でした。ハイクラス層を顧客に持つこの店で親しくなった2人の理容師から、「バーバーか、IT業界か」と進路に迷い、「一生モノの技術が得られて安定できる」という理由で理容の道を選んだと聞き、その社会的価値の高さに衝撃を受けます。訪れた先々のサロンでも、雇われの立場でありながらポルシェに乗り、週休3日で働く理容師の姿を目にしました。


日本との違い。日本で見ていた景色とは、まるで違いました。理容師が、憧れの職業として成立している。その事実そのものが驚きでした。(2人とはいまも交友が続いており、いまではロサンゼルスでフェードを教わる仲です。この視察の様子は、アメリカンカルチャー誌『Lightning』の取材でも紹介されました。)
2015年、ロサンゼルスウエストハリウッドで出会った理容師と。
「バーバーか、IT業界か」と迷ったうえで理容の道を選んだと聞き、
その社会的価値の高さに衝撃を受けた。
2025年ロサンゼルスにて。現地で親しくなった理容師が自身のサロンを貸し切り、
OTOKO DESIGNのスタッフ向けに技術研修会を開いてくれた。
個人の腕ではなく、チームで技術を共有するという方針を体現した一日。


感じた違和感。一方で、憧れだけでは終わりませんでした。あちらは業務委託・面貸しが中心。一人ひとりの技術も個性も際立っている反面、店として理念を共有する仕組みは見当たりませんでした。


帰国後の決断。ならば、高い技術と、日本ならではのチーム力を両立できるはずだ。個人の腕に依存せず、店全体で理念と技術を共有する。スタッフも空間も含めた表現をつくる。


ブランドを掲げる。現地で仕入れたスタイルを日本人の骨格に合わせて調整し、アイロンパーマの技術と掛け合わせる。ターゲットも「美意識の高い男性」へ絞り込みました。そして2019年、ブランドネーム「OTOKO DESIGN」を掲げます。「KOTOBUKI」は法人名と店舗ロゴに生き続けています。祖母の名前から取った、私たちのアイデンティティですから。
日常を仕上げること。そして、チームで理念を共有すること。私が選んだのは、その2つでした。結果として、商圏は半径500メートルから5キロ圏外へと広がりました。売上は5倍(2015〜2025年 年間売上)へと伸び、2022年には一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会「ブランディング事例コンテスト(現・BRAND MANAGEMENT AWARD)」において、ブランディング大賞および日本弁理士会会長賞をダブル受賞いたしました。
2022年11月、一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会「ブランディング事例コンテスト」授賞式。「OTOKO DESIGN」のブランディング事例が、ブランディング大賞および日本弁理士会会長賞をダブル受賞した。
定期的にブランディングのアップデートをスタッフ全員でおこない、
朝礼でブランド理念の共有をしている。2025年撮影
5. 技術は、独占するより、渡す
技術を磨く目的は、うまく切ることではありません。お客様が店を出たあと、どう感じるか。そこに尽きます。
事情があって通えなくなった方が、何年も経ってから戻ってきてくださることがあります。「他の店を何軒も試したけれど、ここが一番合っていた」と。そう言っていただけるのは、施術そのものよりも、その後の日常が変わるからだと思っています。毎朝のセットに苦労していた方が、何もしなくても自然にまとまるようになる。その積み重ねが、遠いけどまた来ようという気持ちにつながっていく。
もうひとつ、私たちが大切にしてきたことがあります。久しぶりに来店された方の髪質も、前回どんな話をしたかも、覚えていること。カルテに残すこと。「まだ覚えていてくれたんですね」という一言のために、日々の対話を積み重ねています。
期待に応えるのではなく、その一歩先で驚いていただく。10年以上前にご来店いただき、いまも通い続けてくださるお客様は、381名にのぼります(2026年8月時点/10年以上前にカルテ登録があり、直近1年以内に来店された方)。


私には娘と息子がいますが、二人とも家業を継いでいません。理由は単純です。当時の経営状態では、継げるような状態ではなかったからです。利益も出ていない、満足な給料も払えない、業界全体もそんな状況でした。手伝いたいという気持ちを持ってくれていたのに、受け入れられなかった。それが、悔しかった。
だから思ったのです。業界自体を変えなければいけない、と。理容師という仕事の価値は、一軒の店だけでは上がりません。業界全体の水準が上がってこそ、社会からの評価も変わる。アメリカで見た景色を、日本でも当たり前にしたい。
技術を自分たちだけのものにする選択肢もありました。それでも共有する道を選んだのは、そのためです。メーカーとは製品開発のアドバイザーとして"次の道具"を生む現場に立ち会い、業界大手からの依頼で、全国各地で技術セミナーの講師を務めてきました。2026年7月29日には、TBS『水曜日のダウンタウン』の企画でパンチパーマの施術を担当しています。
労働環境も変えました。営業時間を見直し、シフト制を敷き、終礼後は早く帰るよう指導しています。理容技術の価値だけでなく、理容師という職業の価値を上げることも、目標として掲げています。
2022TWBCin東京ビックサイトで開催されたセミナー。
三島代表が講師を務め、参加した理容師へ顧客感動体験のあり方を公開した。
培ったノウハウを業界へ渡す取り組みのひとつ。
6. 髪から、頭皮と肌へ
領域を広げたのは、お客様の声がきっかけでした。「頭皮が気になる」「肌の調子が悪い」「髪が満足だから眉も整えたいが、眉毛サロンに行くのは億劫」——髪の相談に来られた方から、そうした話を伺うことが増えていったのです。特にパーマをメインの施術とする当店では、髪の健康状態と施術の限界を常に照らし合わせながら提案することが欠かせません。男性の悩みは、ヘアスタイルだけでは完結しない。そう実感しました。
シャンプーやクレンジング剤の選定、栄養剤やトリートメントを届けるためのナノスチームの導入。かつては頭皮ケアの取り組みについて、皮膚科の医師が視察に訪れたこともありました。髪を切るだけでは届かない領域にまで、手を伸ばし続けてきた——その積み重ねが、ひとつの形になったのが池袋店です。
7. いま、ここにある答え
池袋店で形にしたのは、機器を並べることではありません。見立ての根拠を、お客様と共有する姿勢です。
髪や頭皮、肌の状態を確認し、そこに理容師の経験を重ねて提案する。AIミラーによる骨格の分析も、マイクロスコープで捉えた頭皮の状態も、肌の診断も、すべては「なぜこの提案なのか」をお客様と一緒に見るためのものです。必要に応じて、提携する自由が丘クリニックの医師へご相談いただける体制も整えました(処方・治療は同院医師が行います)。
道具は変わっても、目の前の一人に向き合うという姿勢は、父の代から変わっていません。
根拠を持ち、本質を追う姿勢は、空間にも表れています。石壁や床材には本物の石とタイルを用い、光と影の陰翳で見せる完全個室を設えました。そして、根拠をどれだけ丁寧に積み上げても、それを確かめる光が歪んでいては意味がありません。
全個室のメイン照明に選んだのは、京セラのLED照明「CERAPHIC®」(セラフィック)。もとはサンゴの育成のために開発され、美術館や手術用照明など、色の再現性が求められる場所で使われてきた光です。太陽光に近い光で、髪色も肌も仕上がりも"あるがまま"に映します。
池袋店(OTOKO DESIGN ZENITH TOKYO)の個室。全個室のメイン照明に京セラのLED照明「CERAPHIC®」を採用し、太陽光に近い光で仕上がりを確認できる。一般的な白色LEDに見られる青色光の急激なピークがないことも、一日の大半をこの光の下で過ごす私たちにとって大きな利点だった。※「CERAPHIC」は京セラ株式会社の登録商標


光は、ただ明るければいいわけではありません。当店では施術の内容に合わせて色温度を変えています。髪の細部を見極めるカット時は明るい光を、シェービングのときは夕方のような穏やかな光を。色の再現性が高いほど、私たちは髪や肌の状態を見誤らずに済みます。
同じ個室を、施術内容に合わせて色温度を変えた3パターン。左からカウンセリング時【3000K】、シェービング/スパ時【2700K】、カット時【5500K】。光そのものを、施術の一部として設計している。




開発者である織田一男様とお会いする機会があり、その本質を追求する思いに強く共感しました。照明の採用は、当然の流れでした。




<京セラ株式会社 LED照明 開発者 織田一男様よりコメント>


CERAPHICの光は髪や肌の色を忠実に映し出し、お客様の理想の仕上がりをサポートします。
CERAPHICの価値をご実感いただけていることを大変嬉しく思います。




根拠を示すための道具と、その根拠を確かめるための光。どちらも、私たち施術者の見立ての精度を上げるためのものです。歪みのない光の下で状態を正しく捉えられれば、仕上がりは変わる。店を出て、家に帰ってからも「オトコが上がった」と実感していただく——そのために、光まで選びました。
技術を受け継ぐということ
最新の道具は、補助線にすぎません。
同じ機材を導入しても、同じ仕上がりが生まれるわけではない。40年以上の見立てがあって初めて、画面上の数値も線も"正しい一手"に変わります。私がしたのは、先代から受け継いだ感覚を、お客様と共有できる設計図に翻訳することでした。
また、父から受け継いだのは、技術そのものだけではありません。目の前の一人に本気で向き合い、本質を追求し続けるという姿勢です。
需要の減ったパーマ技術を悩みに応える道具へ変えたのも、感覚的な見立てを設計図に翻訳したのも、髪から眉、頭皮や肌へ領域を広げ、根拠を持って提案し続けてきたのも、根っこは同じでした。技術を受け継ぐとは、昔の形をそのまま守ることではなく、目の前の人に役立つ形へ変え続けることなのだと思います。
オトコの価値を上げる。そのために、私たちはこれからも変わり続けます。
三島 裕和(みしま ひろかず)
有限会社寿 OTOKO DESIGN CDO(Chief Design Officer)


1982年創業の理容室「KOTOBUKI(寿)」の二代目。2008年に経営へ参画し、2019年にブランド「OTOKO DESIGN」を掲げる。父から受け継いだアイロンパーマの技術を、一人ひとりの髪質や骨格に合わせて応用する技術へと発展させてきた。
■ 開発アドバイザー
・パナソニック株式会社/プロリニアバリカン モニター契約(2019〜2020)
・株式会社タカラベルモント/アドバイザリーサロン契約 マルチスパヘッドプロ(2025〜2026)、新製品を共同開発中(2025〜)
■ セミナー講師
(技術指導のほか、顧客感動体験・ロイヤルカスタマー育成をテーマに全国で開催)
・滝川株式会社/ビューティーカレッジ アイロンマスターセミナー(2018〜2021)
・株式会社タカラベルモント/TWBC 顧客満足を感動に変える!ビジネスセミナー(2022)、Lebelアイロンセミナー(2024)、アドバイザリーサロンセミナー(2024)、メンズサロン進化の3ステップセミナー(2025〜/大阪・名古屋・宮城・長野・北海道・栃木・新潟・石川・神奈川・東京)
・アイロンセミナー、トレンドパーマセミナー各種(2025〜/各社主催)
■ 掲載・出版
・『メンズアイロンパーマ攻略本』(2023)
・『ribiyo.』(2023〜)/『THE BEAUTREC』(2023〜)/『Men's PREPPY』(2023~)/『女性モード』(2025)/『Lightning』(2023・2025)ほか

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