経営者と向き合う、ということ エグゼクティブ・コーチングを支える信頼とコーチのあり方

2026.10.02 16:00
経営者の成長や組織の変革を支える手法の一つとして、日本でもエグゼクティブ・コーチングへの関心が広がっています。経営者は、なぜエグゼクティブコーチをつけるのでしょうか。


エグゼクティブコーチは、経営課題に対する答えや解決策を示す存在ではありません。経営者と継続的に対話し、経営者が抱える問いにともに向き合っていきます。そして、その対話を支えるのが、経営者とコーチとの信頼関係です。では、その信頼はどのように築かれ、コーチ自身には何が求められるのでしょうか。


本記事では、コーチ・エィのエグゼクティブコーチである栗本さんと根本さんへのインタビューをもとに、経営者がエグゼクティブコーチをつける意義と、その根底にある信頼関係、そしてエグゼクティブコーチ自身のあり方について考えます。
(左から栗本さん、根本さん)
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栗本 渉(Wataru KURIMOTO)
早稲田大学法学部卒業 
ITコンサルティング会社でエンジニアリング・プロジェクトを経験した後、CEO補佐、総務、人材開発、法務などの経営機能を担う。2004年にコーチ・エィへ入社。15年以上にわたり、大規模組織のCEOや経営幹部、海外拠点長など、200名以上の組織リーダーにエグゼクティブ・コーチングを行っている。 
世界展開する日系大手企業へのシステミック・コーチングや、クロスボーダーM&Aに伴う組織統合(PMI)におけるコーチング・プロジェクトなど、組織全体の変革を支援している。 


根本 健二郎(Kenjiro NEMOTO)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業 
米国クレアモント大学院大学 P.F.ドラッカー経営大学院にてMBAを取得。メガバンクで15年以上にわたり、国内外の営業・企画業務などに従事する。さまざまな企業の経営・事業課題に向き合う中で、経営層を起点とした組織開発の重要性を実感。リーダーの変化を通じて組織変革を実現するアプローチに可能性を感じ、2023年にコーチ・エィへ入社。現在は、製造業、金融機関、医薬業などの組織変革プロジェクトに携わるほか、経営層・リーダー層へのコーチングを行っている。 
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|コーチは、ものを見るレイヤーを変える「外部装置」 
―経営者がエグゼクティブコーチをつけることには、どのような意味があるのでしょうか。 
栗本 
コーチと話すことによって、一人で考えているときとは違うところにたどり着くことがあると思うんです。 
目の前の課題について話しているうちに、「この問題をどうするか」だけではなく、「自分はなぜこの問題をこう見ているのか」というところまで話が深まっていくことがあります。私は、それを「ものを見るレイヤーが少し深いところに移る」という感覚で捉えています。 

根本 
自分一人で考えていると、どうしても自分がすでに持っている認識の中で考えることになりますよね。そこに自分とは違う他者がいることで、初めて「自分はそう見ていたんだ」と気づけることがある。コーチが別の見方を正解として渡すのではなく、自分とは違う視点が入ることで、それまで見えていなかったものが見えてくるんだと思います。 

栗本 
実際、ある経営者とのコーチングでも、他者の視点に触れたことで、それまで見えていなかった自分の関わり方に気づいたことがありました。その方は非常に戦略的で、自分で考えて物事を進められる方でした。 
そこで、「目指す状態を実現するために、誰と一緒に進めていくのか」と問いかけました。また、ご自身でステークホルダーにインタビューし、周囲が自分に何を期待しているのか、組織をより良くするために何が必要だと考えているのかを聞いていただきました。 

実際に話を聞いていくと、周囲が自分に何を期待しているのか、組織をより良くするために何が必要だと考えているのかが見えてきます。その過程でその方は、自分が限られた人しか信頼していなかった、限られた人しか受け入れていなかったことに気づかれていきました。大きな組織を動かしていくうえで、それでは難しいと自分自身で認識されたんです。 

根本 
大事なのは、誰かがその方を分析して、「あなたはこういう人です」と教えたわけではないことですよね。周囲の人が自分をどう見ているのかを知ることで、それまで当たり前だと思っていた自分自身の関わり方を、初めて捉え直すことができた。 
自分の中では問いになっていなかったことが、他者とのやり取りを通じて問いになる。自分一人では気づけなかったことに気づけるのが、他者の視点が入る意味なんだと思います。 
栗本 
コーチも、そういう他者の一人なんだと思います。本人とは別の人間がそこにいて、その人が物事をどう見ているのか、世の中とどう向き合っているのかにチューニングしながら話していく。そうすると、本人がそれまでとは少し違うレイヤーから物事を考え始めることがあるんです。 
他者と話すことで、自分一人ではたどり着きにくいところにたどり着くことがある。そういう変化を生む「外部装置」が、コーチなんじゃないかと思っています。 
|組織の課題から、「自分はどう関わるか」へ 
―エグゼクティブ・コーチングでは、実際にどのようなことが話されているのでしょうか。 
栗本 
エグゼクティブ・コーチングでは、自分自身のことやリーダーシップ、組織について話します。 
ただ、私たちが焦点を当てていくのは、その先にある「自分はどう変われるのか」というところです。とはいっても、最初から「あなたは変わる必要があります」と話すわけではありません。 

会社や組織をうまく動かしたいのに、なぜかうまくいかない。そういう本人の中にあるモヤモヤを話していると、だんだん自分自身がそこに投影されてくるんです。たとえば、「自分はこうしたいと思って発信しているのに、なぜ人が動かないんだろう」という話があったとします。最初は組織やチームの問題として話していても、対話を重ねるうちに、「では、自分は相手にどう関わっているのか」と、自分自身に目が向いていきます。 

根本 
そのとき、自分が認識している自分と、他者から見えている自分との間にギャップがあることに気づくことがあります。 
「自分ではこうしているつもりだったけれど、相手にはそう伝わっていなかった」と分かると、自分の見方を捉え直すきっかけになる。最初は「なぜ相手が動かないのか」と考えていたものが、「自分は相手にどう見えているのか」「自分の関わり方に変えられるところはないか」という問いに変わっていくんです。 
栗本 
そうやって自分自身について気づくことには、大きな価値があると思っています。組織の課題に対する答えを外から与えられるのではなく、話していく中で、それまでとは少し違う角度から自分を見るようになる。すると、「相手が変わらない」「組織が動かない」と見ていた状況の中に、自分自身もいることが見えてくるんですよね。 

ただ、コーチングは気づいて終わりではありません。 
そこで気づいたことをもとに、クライアント自身が実際に行動を変えていきます。たとえば、これまで十分に話せていなかった相手に自分から話しかけてみる。相手が何を考えているのかを聞いてみる。そうやって、自分の関わり方を少しずつ変えていくんです。 

根本
実際に自分の関わり方を変えてみると、相手の反応にも変化が生まれます。その反応を通じて、それまで自分が気づいていなかったことが見えてくることもある。行動したことで、あとから「そういうことだったのか」と気づくこともあるんです。 
意識が変わってから行動が変わるとは限りません。先に行動が変わることもあるし、そのあとで気づくこともある。必ずしも一方向に進んでいくものではないんだと思います。 

栗本
経営者自身も、組織をつくっている一人です。だから、自分の関わり方が変われば、周囲との関係や対話にも変化が生まれる。組織をどうするかという話から始まっても、最後には「自分はどう関わるのか」に戻ってくるんだと思います。 
|クライアントの自己開示を支える「信頼」 
―自分自身について話してもらうためには、何が大切なのでしょうか。 
栗本
コーチングでは、どんな問いを投げかけるかはもちろん大事です。でも、その前に、そもそも信頼関係がないと人は話さないと思うんです。どれだけ良い問いを投げかけても、「この人になら話せる」と思えなければ、自分のことを本当に話すところまではいかない。


エグゼクティブ・コーチングは、一度のセッションで完結するものではなく、一定の期間、コーチが伴走します。その中でお互いの関係ができてくると、「ここに来れば、こういう話ができる」という安心や信頼も生まれてくる。


そうすると、それまで話していなかったことも、少しずつセッションに持ち込まれるようになるんです。気づいたら、いろいろなテーマを相談するようになっていた。そうやって話すことが広がっていくのも、コーチとの関係から生まれるものだと思っています。


根本
実際、ある経営者とのコーチングでも、関係ができていくことで自己開示が大きく進んだことがありました。


その方は最初、コーチングがどんなものなのか、まだ半信半疑だったんです。でも、2回、3回とセッションを重ねるうちに、お互いの理解が少しずつ深まっていった。そこから自己開示が一気に進んでいきました。その方自身も、もっと早く自己開示しておけばよかった、という趣旨のことをおっしゃっていました。


その後、同じ組織のほかの方々がコーチングを受けることになったときには、ご本人から「何でも相談する、何でも自己開示する」ということを最初に伝えてくださっていました。それだけ、ご自身の経験から、最初からコーチに自分のことを話すことの大切さを感じていたのだと思います。
栗本 
コーチングというと、どんな質問をするのか、どんな技法を使うのかに目が向きやすい。でも、問いだけを切り取っても、それが機能するとは限りません。同じ問いでも、誰から聞かれるか、その人との間にどんな関係があるかによって、受け取り方は変わると思うんです。 

結局のところ、信頼関係がベースにないと、人は本当のところを話さないと思っています。エグゼクティブ・コーチングでクライアントが自分自身のことまで話せるのは、「この人になら話せる」「ここではこういう話をしていい」と思える関係があるからです。問いが先にあるのではなく、その問いを受け止められる関係が先にあるんだと思います。 
|信頼を生むのは、コーチ自身の「等身大」 
―エグゼクティブコーチには、どのような資質が求められるのでしょうか。
 栗本 
エグゼクティブコーチにとって、コーチングのスキルはもちろん必要です。ただ、私はその前に土台になるものがあると思っています。実際、コーチ・エィでコーチを採用するときにも、相手によって自分のあり方が大きく変わらないか、その人自身が安定した状態で向き合えるか、というところを見ています。 

相手が社長だからといって過度に緊張してしまったら、もうコーチングスキルどころではないですよね。逆に、相手が若いからといって上から目線になってしまうのも違う。 
相手の肩書や年齢によって過度に構えたり、態度を変えたりせずに話せる。そういう安定性も、コーチに求められる力量の一つだと思っています。 
根本 
私は、それを「等身大でいられるかどうか」という言葉で捉えています。自分を大きく見せようとしても、この世界ではすぐに分かってしまいます。大きく見せる必要もなければ、小さく見せる必要もない。自分を飾らず、正直な状態で相手と向き合えるかどうかが大事なんだと思います。 

ただ、経営者を前にして等身大でいることは、簡単ではありません。相手に必要以上に構えたり、迎合したりせず、一人の人間として向き合う。そのためには、「対峙力」や「胆力」のようなものも必要だと思っています。 
私自身、銀行に入った1年目から、経営者と1対1で向き合う機会がありました。若い頃から、経営者と一人の人間として向き合う経験を重ねてきました。 

栗本 
私も、正直でいられることは本当に大事だと思います。問いをどうつくるか、相手の話をどう聴くかといったコーチングのスキルも、そうした土台があってこそ生きるものです。その人自身が相手の前で安定していられなければ、どれだけ技術があっても十分には機能しないと思っています。 
|エグゼクティブコーチであり続けるということ
―エグゼクティブコーチとして仕事を続けていくうえで、必要なことは何だと考えていますか。 
栗本 
私は、エグゼクティブコーチ自身も、経営の前線に立っているほうがいいと思っています。自分自身も経営の当事者として、会社をどうするのかを考え続ける。経営者と向き合う仕事だからこそ、それは大事なんじゃないかと思うんです。 

クライアントが直面している経営課題についても、「自分だったらどう考えるか」と考えます。自分自身も会社を経営している以上、「会社を何とかしなければならない」という状況に日々向き合っている。その状態で相手の話を聞いていると、聞けるものが何か違う気がするんですよね。 

経営者が何に悩んでいるのかを、外から眺めているだけではなく、自分自身も経営について悩み、考え続けている。私は、そういう状態で経営者と向き合っていたいと思っています。 

根本 
私が最初に栗本さんとカジュアル面接をしたとき、印象に残った言葉があります。「いまだにコーチングは分からないですよ」と言ったんです。二十年、三十年とこの仕事をやってきた人が、それでも「分からない」と言う。そのとき私は、「二十年、三十年やっていても分からないんだ」と思いました。でも、それを聞いて、だからこそ面白そうだなと思ったんです。 

実際にこの仕事をするようになって、学ぶべきことは本当に無限にあると感じています。コーチングについてもそうですし、経営者と向き合う以上、ビジネスについても学び続けなければならない。経験を重ねても、分かった気にならず、常に自分をアップデートしていく。エグゼクティブコーチとして、その姿勢は大切にしています。 

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