広島のフレンチ中土(NAKADO)の一皿ができるまで。生産者と向き合うオーナーシェフ、中土征爾が届けたい時間

2026.10.01 16:52
広島市中区堀川町にあるフレンチレストラン「中土(NAKADO)」。オーナーシェフの中土征爾は、広島の食材を中心に、生産者のもとへ足を運び料理を考えています。
安芸高田市の鹿の舌(タン)、農家と共同開発したマイクロリーフ。生産者の想いと食材の特徴を、料理で表現するNAKADOの活動は、地域の食材と向き合う料理人とのコラボレーションや、フランスでの日仏交流にも広がっています。
一方でシェフとしての中土は、自分の料理を人に勧めることに、ためらいを感じていた時期もあったといいます。その悩みを解消してくれたのが、他でもない、お客様の言葉でした。
中土に、料理を好きになった原点、生産者や料理人との仕事、そしてレストランで過ごすお客様に届けたい時間について語ってもらいました。
――まず、料理を好きになったきっかけを教えてください。
中土征爾(以下、中土): 生まれ育ったのは、広島県の北広島町です。子どもの頃は祖父母と過ごすことが多く、祖母の農作業を手伝いながら、野菜の端材を切って遊んでいました。料理は、その頃から身近にありましたね。
よく覚えているのは、休日の朝に両親へ料理をつくったことです。自分のつくったものを食べて、喜んでくれる。それがうれしかったんです。
自分が何かをつくることで、人を喜ばせられる。その楽しさを知った経験が料理の原点です。
――最初から、フランス料理の道を考えていたのでしょうか。
中土: 最初に入ったのは和食の世界です。魚をさばけるようになりたいという気持ちもあって、専門学校を卒業してから東京で働きました。
その後、洋食やイタリア料理も経験しましたが、フランス料理への憧れはずっとありました。料理書を読んで、仕事が終わってからソースをつくってみる。そうやって自分で学んでいた時期もあります。
ワインを好きになったことも大きかったですね。ソムリエの資格を取り、買い付けに関わるようになり、その縁でブルゴーニュのレストランでも経験を積むことができました。いろいろな料理の現場を通って、今の料理につながっています。
――地元の食材に、より深く向き合うようになった転機はありましたか。
中土: NAKADOを開いたのは2020年1月です。その後すぐにコロナ禍になって、料理人になって初めて、自分の仕事についてゆっくり考える時間ができました。
食材が入ってこなくなるかもしれない。そう考えたときに、生産者さんたちの顔が浮かんだんです。食材を届けてくれる人がいるから、僕は料理をつくれている。そのことを改めて感じました。
感謝を伝えようと現場へ行って、話をしてみると、それまで知らなかった食材がたくさんありました。地元のことを知っているつもりで、まだ見ていないものがあったんですね。
――その一つが、NAKADOの料理として知られる鹿の舌(タン)だったのですね。
中土: はい。安芸高田市で出会いました。鹿肉ではフィレやロースなどが使われますが、舌は食材として流通せずに捨てられていたんです。
僕には、料理に使える可能性があるように見えました。食べてもらえる料理になれば、施設の方たちにとっても収入になります。そこから地域の仕事につながっていけば、という思いもありました。
調理では、低温で火を入れた後に、炭火に藁を加えて香りをつけています。ソースにも、鹿のだしを煮詰めたものを合わせる。食材に出会ったところから、火の入れ方、香り、ソースまで考えて、一皿にしていきます。
――食材を料理にするとき、何を大切にしていますか。
中土: 食べたときに、その食材の持ち味が分かることです。
香りや食感をのこすにはどうすればいいか。アクを取りすぎていないか、火を入れすぎていないか。食材ごとに温度や調理法を試して、記録も取りますし、肌感覚としても覚えていきます。
手をかけたことで、その食材のよさを消してしまってはもったいない。どこまで手を加えるかを考えながら、調理しています。
――生産者とは、食材を仕入れる以外に、どのような仕事をしてきたのでしょうか。
中土: 故郷の農家さんとは、レストランの料理に使うマイクロリーフを一緒に開発してきました。味や栽培方法を考えながら、料理に合うものを育ててもらう取り組みです。
料理人が、どんな食材を必要としているのかを伝える。生産者さんが、それを栽培の仕事にしていく。実際に、この取り組みが農家さんの所得や雇用の増加にもつながりました。
鹿の舌やナマズを使った料理も、継続して取引することで、生産者さんの仕事につながっていきます。こうした活動を評価していただき、2023年度に「料理マスターズ」のブロンズ賞をいただきました。
食材をどう育て、どう届けるかは、生産者さんの仕事です。僕は、その食材をおいしく料理して、お客様に知ってもらう。その両方があって、NAKADOの料理ができていると思っています。
――地域の食材を大切にする料理人との交流もありますね。奥田政行シェフとのコラボレーションは、どのような企画だったのでしょうか。
中土: 「アル・ケッチァーノ」の奥田政行さんをNAKADOにお迎えして、一夜限りのコースをつくる企画です。2026年8月30日の日程でお客様をご案内しました。
奥田さんは、山形県庄内地方の食材や生産者と長く向き合ってこられた方です。山形と広島、それぞれの土地で料理をしてきた二人が、互いの経験を持ち寄ることを考えました。
コースには、瀬戸内の白身魚に黒瀬のじゅんさいと発酵トマトを合わせた料理や、鮑と狩留家茄子、鹿の舌などを盛り込みました。普段から向き合っている食材を、別の料理人の発想や技術と組み合わせる企画でした。
――そうしたコラボレーションで、大切にしたいことは何ですか。
中土: それぞれの料理人が、どんな食材を使い、どう料理にしているのか。そこを知り合える機会にしたいですね。
同じ食材でも、組み合わせや調理の考え方は違います。自分が慣れている食材にも、まだ試していない食べ方があるかもしれない。ほかの料理人と仕事をすることで、自分の料理も見直していきたいと思っています。
お客様には、その日、その組み合わせだからこそ味わえるコースを楽しんでいただきたいです。そこから食材や産地にも興味を持ってもらえたら、次につながっていくと思います。
――2026年9月には、フランスでも料理を提供されました。どのような交流だったのでしょうか。
中土: 宮島のある廿日市市と、フランスのモン・サン=ミッシェル市の交流に関わる機会をいただきました。9月7日にパリで開かれたレセプションで、広島県産の食材を使った料理を提供しました。
ノルマンディー地方では、エスコフィエ協会の現地シェフたちとの共同ディナーにも参加し、コースの一部を担当しました。
両市は2009年から観光友好都市として交流を続けています。2026年は厳島神社の世界遺産登録30周年に当たり、食や文化を通じた交流も進められています。広島の料理人として参加しました。
――修業したフランスで、今度は広島の料理人として料理をする。どんなことを伝えたいと考えましたか。
中土: フランスで学んだことを、広島の食材を料理する仕事に生かしてきました。その料理をフランスの方に食べていただく機会でした。
僕が広島で使っている食材には、それを育てたり、届けたりしてくれる人がいます。料理を知ってもらうときには、その人たちや産地のことも伝えていきたいと思っています。
広島を訪れたことのない方にも、食事を通じて興味を持っていただける。そういう機会を増やしていきたいですね。料理人同士の交流も続けながら、広島での仕事につなげていきたいと考えています。
――食材や料理の魅力を伝える活動を続けるなかで、ご自身の店を人に勧めることには、ためらいもあったそうですね。
中土: そうなんです。どこかで「高いコースだから、人に勧めにくい」と思っていました。こちらから来てほしいと言うのも、何か違うような気がしていたんです。
コースの価格は、食材や手間、料理に向き合う時間、スタッフの力を考えたうえで決めています。それでも、自分の中には「高くなってしまった」という気持ちが残っていたんだと思います。
そんなとき、あるお客様に言われました。
「食べ終わった後、客は笑顔になっとるじゃろ。幸せにさせとるじゃろ。」
そして、「わしは中土君の料理を食べた後は物凄く幸せな気持ちになるよ」と。
その言葉で、はっとしました。客足が安定しないなかで、僕は値段のことばかり気にしていたんですね。食事を終えたお客様がどんな表情をしているか、どんな時間を過ごしてくださったか。そこを、ちゃんと見られていなかったと気付きました。
――その言葉を受けて、店の見え方も変わりましたか。
中土: 一緒に働くスタッフのことを、改めて強く感じました。NAKADOの料理も空間も、僕ひとりの力でできているものではありません。
食材に向き合う時間や、スタッフみんなの仕事があって、お客様に食事を楽しんでいただける。そこまで含めて、自分たちが届けているものを考えるようになりました。
食べ終わった後に幸せな気持ちになると言っていただけたことは、僕にとって大きかったです。料理をつくる側が思っている以上に、お客様の中に残るものがあるのかもしれない。それを教えていただきました。
料理人として25年やってきても、まだまだ気付かされることがあります。Instagramにも「まだまだ青いな」と書きましたが、本当にそう思いました。
――NAKADOでは、どんな時間を過ごしてもらいたいですか。
中土: 僕が届けたいのは、「記憶に残る時間と、心がほどける瞬間」です。
料理がおいしかったと言っていただくのは、もちろんうれしいです。それに加えて、食事が楽しかったと思っていただけることにも、大きな喜びがあります。味だけでなく、お客様が店で過ごす時間を広く考えていきたいですね。
記念日や大切な食事にNAKADOを選んでくださる方に、来てよかったと思っていただきたい。そのために、料理や空間をスタッフと一緒につくっていく。
自分たちの仕事を伝えることにも、これからは誇りを持ちたいと思っています。支えてくださるお客様や、一緒に働く仲間への感謝も、きちんと伝えていきたいです。
――最後に、広島で料理を続けるうえで、これからも大切にしたいことを教えてください。
中土: この店の料理を食べるために、広島へ来ていただけるようになりたいです。
広島には、地元の人もまだ知らない食材がありますし、それを育てている生産者さんがいます。料理をきっかけに、その人たちの仕事や土地のことまで知ってもらえたらうれしいですね。僕自身、広島で育ってきたので、料理で地元に貢献したいという気持ちがあります。
生産者さんを訪ねたり、ほかの料理人と一緒に料理をしたり、海外で食べていただいたり。そうした経験を、NAKADOに来てくださるお客様の食事に生かしていきたいです。
食事を終えた方から「幸せな気持ちになった」と言っていただける。そんな時間を、これからもスタッフと一緒に届けていきたいと思います。
中土(NAKADO)
所在地:広島県広島市中区堀川町4-18
公式Instagram:https://www.instagram.com/nakado.french/
ご予約:https://omakase.in/r/jj882481
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