「保証人って何?」北九州市の児童養護施設で感じた壁。NPO法人支エールが「行政書士」講座を開催し、当事者目線での「クッション役」を目指す理由

2026.09.30 10:24
「弁護士は、問題が起きてしまった時に助けてくれる人。行政書士は、問題が起きないように『予防』してくれる人」
先日、NPO法人支エールは北九州市の児童養護施設にて、施設で暮らす若者たちを対象に「行政書士とは?」をテーマにした専門家講座を開催した。当初の想定定員6名を大幅に上回る14名の若者が集まり、配られた資料に熱心にペンで線を引く姿も見られた。
今回、僕がこの講座を企画した最大の目的は、行政書士という職業を覚えてもらうことそのものではない。これから社会へと飛び出していく彼らに、「トラブルを未然に防ぐための選択肢」があることを知ってもらうためだ。


■ 「生い立ちを知る大人」からの怪しい勧誘に、一歩立ち止まるために
自立して生きていく上では、家を借りる、携帯電話を契約する、働くなど、あらゆる場面で「契約」がつきまとう。もちろん大半は適切な契約だが、中には彼らの生い立ちや恵まれない境遇を知った上で、言葉巧みに怪しい話や不利益な契約を勧めてくる悪質な大人が存在することも事実だ。
知識や頼れる大人がいないまま社会に出た若者は、それが罠だと気づけずに巻き込まれ、一度の躓きで人生を大きく狂わせてしまうことがある。
別に絶対行政書士に相談しろという話ではない。「何かおかしいぞ」と思った時、あるいは契約書を交わす前に「トラブルを防ぐ専門家に相談する」という選択肢が頭の片隅に一つあれば、悪質な手口から一歩立ち止まって身を守ることができる。それが、僕が彼らに渡したかった防具だった。


■ 「保証人って何?」専門家の熱量と、子どもたちの困惑
しかし、実際に講座が始まると、現場ならではの課題が浮き彫りになった。
お招きした講師の先生は非常に真面目で、熱意に溢れた講義をしてくださった。だが、その熱量と専門的な内容に対し、子どもたちが圧に押されてポカンとしてしまう場面があったのだ。
例えば、講座の中で「保証人」という言葉が出た瞬間、子どもたちの間に「そもそも保証人って何……?」という戸惑いの空気が流れた。
その様子を見ていて、僕は「これでは難しすぎる」と胸が痛む思いがした。まだ社会に出ていない彼らにとって、契約や法的な概念は抽象的すぎる。どれだけ正しい知識であっても、子どもたちの目線まで噛み砕いて届けてあげなければ、彼らの心には残らないのだ。
講義の終わりに「何か質問はある?」と投げかけても、子どもたちは社会に出た経験がないため、具体例が分からない。そもそも何が分からないのか、何を質問すればいいのかすら浮かばないのが現実だった。
そんな中で子どもたちの心に一番強く残ったのは、難解な知識ではなく、講師が話した「バッジの話」だった。
弁護士バッジのモチーフは「ひまわり(自由と正義、どんな悪い人でも味方になる存在)」であるのに対し、行政書士バッジのモチーフは「コスモス(調和と真心、争いやトラブルを防ぐ存在)」であること。
講座の後、子どもたちの間で「何かあったら『行政書士の知り合いがいる』と言えるようになろう」と話していたという報告を聞き、僕は胸を撫でおろした。バッジのイメージを通してでも、「自分を守ってくれる身近な存在がいる」という事実が伝わったなら、この1時間の取り組みには大きな意味があったのだろうと思う。
■ 専門家の「正論」と、子どもたちの「不安」を繋ぐクッションに
この1時間を通して、僕は大きな気づきを得た。
専門家による正しい知識の発信は不可欠だ。けれど、昔自分も孤立を経験した当事者の先輩として僕がやるべき仕事は、ただ講座を企画して後ろで見守ることではなかった。
専門家の高い熱量と知識を、子どもたちが受け取れるサイズに「翻訳」し、間に挟まるクッションになることだったのだ。
次回からの講座では、僕は自身の立ち回りを大きく変える。
ただの企画者・聞き手ではなく、僕自身が子どもたちの代わりに「先生、そうは言っても保証人って具体的にどういう役割なんですか?」「家を借りる時に『これ怪しいかも』と思ったら、こんな小さなことでも相談していいんですか?」と、彼らが聞きづらい疑問をあえて専門家に投げかけるナビゲーターになる。
「あ、こんな些細なことでも大人や専門家に相談していいんだ」
子どもたちにそう思わせる空気を作り、専門家の正論と子どもたちのリアルな不安を繋ぐ架け橋になること。一人では何もできなかった不器用な僕だからこそ、次の誰かが目の前の課題をすり抜けて生き残るための「隣で一緒に泥をかぶる不格好な伴走者」であり続けたい。

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