人生を謳歌する、ブラジリアン・ヒップホップの名盤

2025.02.21 14:32
立春を過ぎても冬の冷たさが残る日々に、気分を上げてくれる作品を音楽ライターの栗本 斉さんに選んでいただきました。
まだまだ寒い日々が続くが、ほんの少し春の気配を感じるこの時期になると、そわそわしてしまう。2月から3月にかけては謝肉祭(カーニバル)のシーズンだからだ。といっても、日本ではあまり一般的ではないだろう。世界に目を向ければ、仮装した人々が街を行きかうヴェネチアや、スティールパン(ドラム缶で作ったドラム)が爆音で鳴り響くトリニダード・トバゴなど、この時期は各地で盛大にお祭りが繰り広げられる。そして忘れてはいけないのが、ブラジル・リオデジャネイロ(通称リオ)のカルナヴァルという世界最大の祭典である。
リオのカルナヴァルといえば、ドでかい山車の上にド派手な装飾を施し、露出度満点の美女たちが艶めかしく踊る印象が強いのではないだろうか。実際、リオにはサンボドロモというカルナヴァル専用のスタジアムがあり、夜通しパレードが行われる。その規模は想像を絶するものだが、パレードの屋台骨を支えるのがサンバという音楽だ。躍動するパーカッションのリズムと哀愁を帯びたメロディを全身で浴びていると、自然と涙がこぼれてくる。人生を謳歌するための音楽。それがブラジルのサンバだ。Marcelo D2『A Procura da Batida Perfeita』(2003)
今回はそんなサンバを紹介したいが、少し変化球でサンバとヒップホップが融合した傑作をピックアップしてみた。マルセロ・D2(デードイスと読む)は、90年代半ばに「プラネット・ヘンプ」というグループでデビューしたヒップホップ・アーティスト。政治、貧困、麻薬などをテーマにした過激なラップで一世を風靡(ふうび)し、1998年にソロ・デビュー。グループ時代からサンバとラップの融合を試みていたが、それが完成形となったのが2003年に発表したこのセカンド・アルバムだ。
冒頭の表題曲「À Procura da Batida Perfeita」から高揚感に満ちたサンバのリズムと軽快なラップが独特のグルーヴを生む。日本語で「完璧なビートを求めて」という意味を持つ曲だが、そのサウンドはまさに完璧と言っていい心地良さ。マルセロが繰り出すライムも、彼にしか出せないニュアンスや抑揚があり、ポルトガル語の意味が分からなくても耳になじむ。
さらに、生楽器の良さを生かしたバックトラックも秀逸で、“ブラジルのヒップホップ”というだけで小難しそうなイメージを抱く必要はまったくない。むしろポップでキャッチーでダンサブル。ヒップホップとしてだけでなく、モダンなサンバとしても十分に楽しめるし、聴いているだけでカルナヴァル気分にさせてくれる。
春が近づくと活動的になり、ゴルフや行楽の計画を立てるのも楽しくなる頃。カルナヴァルを想像させるマルセロ・D2のゴキゲンな傑作を聴きながら、寒さで縮こまっていた心身を解放し、気分を盛り上げてみてはいかがだろうか。
栗本 斉
音楽と旅のライター、選曲家/1970年生まれ、大阪出身。レコード会社勤務を経て、2年間中南米を放浪。帰国後はフリーランスで雑誌やウェブでの執筆、ラジオや機内放送の構成選曲などを行う。ビルボードライブでブッキングマネージャーを務めた後、再びフリーランスで活動。著書に『ブエノスアイレス 雑貨と文化の旅手帖』、『アルゼンチン音楽手帖』、共著に『喫茶ロック』、『Light Mellow 和モノ Special』など。2022年2月に上梓した『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社新書)が話題を呼び、テレビやラジオなど各種メディアに出演。
Edit : Yu Sakamoto

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