真剣雑談 vol.1 【ゲスト:芦野恒輔(株式会社クアリア代表取締役】日本の未来を支える「教育」のあり方とは?(前篇)

2024.12.13 12:00
世の中のさまざまな「社会課題」に取り組み、明るい未来をつくっていくことを目指す「社会的コンサルティング集団」として活動している株式会社グライダーアソシエイツ。その代表である杉本哲哉が、各領域で活躍する方々との会話を通してそこに横たわる「課題」についてともに考える。そんな対談企画がこの「真剣雑談」です。

記念すべき第1回のゲストは株式会社クアリアの代表取締役・芦野恒輔さん。芦野さんは、杉本が事業構想大学院大学の客員教授を務めていたときのゼミ生でもあります。現在株式会社クアリアが取り組んでいるのは、高校生の「探究学習」へのフィードバックシステム。2022年度から全国の高校で導入された「総合的な探究の時間」では生徒ひとりひとりがテーマを考え、そのテーマについて継続的かつ自主的に学んでいくという取り組みが行われています。文部科学省が告示した学習指導要領では、「探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成すること」と定義されているこの「探究学習」は、実際の学校教育の現場でどのように活用され、この国の教育をどう変えていくのでしょうか。あらゆるビジネス、ひいては日本という国を成長させていく上でも欠かせないニッポンの「教育」の現在について、ふたりの対話が始まりました。
教育現場で「能力に差がある」ことを明確に認めることは難しい
杉本 今日は「教育」について考えていきたいんだけど、そのことで思うところがあって。近代以降の人間社会って、基本的に弱者も含めて全員を均等に生かそうとしてきているじゃないですか。いろいろなシステムや法律を整備して、ルールを遵守させるっていうメンタリティも培って、護送船団方式で落ちこぼれが出ないようにしていく、という。

芦野 はい。

杉本 でも野生動物は違う。強い個体だけが残っていく。人間だけが全然違うんだけど、進化論的にはそういう生き物って残っていくんだろうか、と思うんだよね。

芦野 教育業界にいる身としては早速センシティブな論点ですね(笑)。業界として「個性を大切にしよう」という文化はありますが、いざ教育現場で「能力に差がある」ことを明確に認めることは難しいんですよね。扱いに差をつけると能力差を肯定することになるので、「みんな一律で平等に」となりがちです。

杉本 教育の現場ではそういうときはどっちに合わせるの? 平等と公平は違うよね。

芦野 以前よく現場の先生から聞いていたのは「クラスの平均よりも少し上をターゲットにした授業をする」です。その上で、ついていけなくなった生徒には補習をするなど個別ケアです。ただし最近は、いわゆるGIGAスクール構想と言われる学校でのICT活用が広まりつつある中で、デジタルの力を使って「一人ひとりの個別に最適な学びを提供しよう」となってきていますね。とはいえ、もちろんそんなすぐに大きな変化を遂げることは難しく、どうしても一定の学力を想定した授業が展開して遅れた生徒をケアするといった旧来的な指導方法がまだ一定割合で展開されています。

杉本 マラソンで一番遅い人に声援を送ることも必要だし、そういう人に速く走るためのスキルを教えるというのも必要だと思う。それをやめるというのは単なるアナーキーだから。でも、小6なんだけど中2の数学がわかるとか、物理がわかるっていう子を止めてしまうようなルールにはしなくていいと思うんだよね。

芦野 そうだと思います。よくあるのが、「つるかめ算を習っているんだから、方程式で解いてはいけない」みたいな話。先ほどのICTの広まりとつながりますが、最近では自由進度学習といった学び方が注目されていますね。つまり個々人が自由な進度で学習しようというものです。あとは、WEB教材も増えている中で、提供できるキャパが無限に広がった結果、学年を制限せずに大量の教材を一気に提供できるようになったことも大きいですね。見方を変えると、例えば首都圏エリアにおける昨今の中学受験熱の高まりは広く知られてますよね。塾で当たり前に先取り学習、高難易度の問題を解いている中で、学校ではそうでない児童と一律同じ進度、難易度での学習を求めること自体がもはや現実的ではなくなっているように思います。とはいえ、なかなか表立った議論にはしづらいところが悩ましいですね。ここを放置しておくと、結局先取りしている児童、そうでない児童のどちらにとってもネガティブな面があると思います。

杉本 オレの頃は中学受験をする子なんて50人のクラスで4〜5人ぐらいだったと思うんだ。いまは都内だとクラスの半分以上が受験する、みたいなことになっていたりするじゃない。そうなると授業の現場ってどうなるの?

芦野 以前小学校の先生から聞いてリアルだなと思ったのは、小6の後半になると、保護者から「宿題は出さないでほしい」っていう要求が来たりして、「受験の邪魔をするな」という圧力を感じるそうなんです。あとはインフルエンザとかが怖いから、受験の時期になると長期欠席に入ってしまうとか。先生にとっても、保護者にとっても苦しさしかないやりとりですよね。
知識はちゃんと得ているんだけど、実生活で活かすイメージが持てていない
杉本 いまQareerのサービスが対象にしているのは高校生だと思うんだけど、高校にもそういう構造が生まれてきているんじゃないかなと思う。公立高校の先生というのは原則公務員でしょ。だからみんな同じ試験を受けて教員になっているし、異動もある。でも、公立の中でも進学校と呼ばれるような学校で教えるときって、たとえば東大や早慶を受験する生徒の質問に答えられたり、あるいはさらにその上のことを教えたりできないといけないわけで。それができるには、要は少なくともその科目で東大とかに入れる学力がないといけないよね。でも実際にはそんな先生ってほんの一握りしかいないと思うんだよ。高校の教員免許を持っているとはいえ。そうなると、その部分は塾や予備校が担っていくことになるよね。だから進学目的の学習指導という面で高校が担う役割とはなんなのか。先生も考えちゃうんじゃないかと思うんだよね。けどそのわりには、先生って業務量が多いっていうじゃない。ブラック職場だと言っている人も多いし、部活なんて到底見る余裕がないからそれこそそこは予備校じゃないけどアウトソーシングし始めたりしている。芦野くんは前職のベネッセ時代から学校教育の現場でいろいろ見たり聞いたりしていると思うんだけど、そのあたりは先生たちはどう感じているんだろう?

芦野 学校の位置づけとか先生の役割というところについては、業界全体ですごく迷っているというか、先生間でも考えがだいぶ異なりますね。ただ一緒くたに言えない部分もあって、まず地域性がすごく大きい。めちゃくちゃ分かりやすく言うと、例えば渋谷区、目黒区、港区あたりの学校と網走の学校ではまったく事情が違うし、都市部では中高一貫校がどんどん人気になっている。これだけ少子化とか言われてるのに、中高一貫受験者は年々増加しているという、ある種の異常事態が起きている。

杉本 中高一貫校は何が評価されているの?

芦野 いろいろ要因はありますが、カリキュラムへの期待のような前向きな評価と、「公立中よりも私立中」という消去法的な評価が混ざってるように思います。

杉本 中高一貫校は6年間で完成するプログラムを組んでいるわけだよね。12歳から18歳の年代って、そうやって6年間で見ていくほうがいいというのもあるのかもな。勉強ってさ、大人になるとわかるんだけど、すべてが学際的につながっているものじゃない。たとえば海の魚が好きだという子がいたとして、汚い海をきれいにするということに興味を持ったとする。それで調べていくと、海をきれいにするには実はこの法律が障壁になっているとか、工業地帯を保護する政策の問題があるとか――。

芦野 技術の問題だったり、ビジネスの問題だったり、全部がつながってくる。

杉本 そう、そうやって全部がつながって学問体系というのはできあがっている。だからそのきっかけとなる好きなものを見つける場と時間として小学校から高校までの12年間をボンって渡すんだっていう大方針を文科省は提示したほうがいいんじゃないかと思っていて。もちろん本当に基礎的な知識や考え方は教えないといけないんだろうけど、いろいろなものをフラットに並べて「どれが好き?」って常に問い続けるみたいなスタンスで子どもに接していくっていうのが正解な気がする。

芦野 それでいうと、「好き」っていう角度とはちょっと違うんですけど、最新のPISA調査(学習到達度調査)を見ると、数学なんかはOECD加盟国で1位ですよ。でも、「実生活における課題を数学を使って解決する自信」のスコアはOECD平均すら大幅に下回るんですね。知識はちゃんと得ているんだけど、実生活で活かすイメージが持てていないという、残念な状況になってますね。

杉本 でも「教養」ってそういうものでもあるんだけどね(笑)。

芦野 教養と言えば聞こえはいいですけど(笑)、そこまでいっていないものをひたすら注入されて、テストだけはやたらできる現状のように思うんですよね。

杉本 でも教養はあったほうがいい。それをヨーロッパはたぶん知っていて、いわゆるリベラルアーツっていうのが根付いてるし、その教育の仕方に対する含蓄がある。そうじゃないやり方で日本は一定程度伸びてきたけど、その伸びが止まってしまったというか、ある種の限界が来ているんじゃないかと思う。

芦野 それは同感です。最近注目されている大学で東京工業大学(現・東京科学大学)がリベラルアーツに注力していて、業界で注目されていますね。類似の問題意識から出ている動きだと思います。
好きなものにのめり込んでいる子がもっとリスペクトされる環境に
杉本 たとえば高校に入った時点で、単なる机上の学習からはもう解放して、その代わりに「好きなこと、やりたいことを見つけなさい」って問う。将来何をしたいのかが見つかれば、どの大学のどの学部に行けばいいかも見えてくるし、その先には社会があるわけだから、そこに向けた意識を持ち始めるんじゃないかって。そこへ「探究学習」を組み込んだら、すごく意味のあるものになるんじゃないかなと思うんだよね。

芦野 そうですね。探究学習はまさにそういうものなんですけど、一方では高校生の間でも評価が割れていて。なかには「大学受験の邪魔になるからいらない」というような意見を持つ生徒もいるんです。実際に先生からそういう話も聞きますし、僕らのサービスに提出されてくる探究学習の内容を見ても、「探究には意味がないことを証明する探究」みたいなことをやってくる生徒もいて。

――ひねくれてますね(笑)。

芦野 この前ある高校の先生と話していたら、「日本で一番多い探究のテーマってそれなんじゃないか」っていうくらい。そこははっきり分かれてしまっていますね。分かれること自体は一人ひとりの考えなので仕方ないと思うんですけど、好きなものにのめり込んでいる子とか、みんなと違う興味に没頭している子とかが、もっとリスペクトされる環境になればいいのになとは思います。ちょうど今日、探究学習で有名な都内の私立中高一貫校に行っていたんです。そこは「主体的に学ぶ」「探究的に学ぶ」というスローガンを掲げていて。そこの先生たちと今日話していたら、そこでも「やっぱり頑張ろうっていう子がリスペクトされる文化を創らないと、どんなに先生たちが指導スキル磨いてもしょうがないよね」という話になりましたね。

杉本 テレビ番組とかを見ていると、小学校5年でこんなことを習ってたんだとか思うんだよ。天体とか、社会とか、結構なレベルまで詰め込んでいるんだよね。これはこれで大事だと思うんだけど、「喜怒哀楽」ってあるじゃない? あれって人として重要な要素だと思っていて……オレ、会社をやってて、ある時期までは社員の結婚式によく出ていたのね。そのときに祝辞で話していた話があって。それは、楽しかったこととか、「おいおい」って思ったこととか、いわゆる喜怒哀楽を一番最初に伝えたいのは誰なのか、そこで第一想起の人が結婚相手だったら幸せだよねっていう話なんだけど(笑)。つまり、一緒になって怒れるとか、「それ違うよね」って思えるとか、喜怒哀楽が同じというのは人のコミュニティ、つまり社会にとってすごく大切だなって思うんだよ。あと、会話ってあるじゃん。家族でも友達でもいいんだけど、会話するときのテーマや内容って、教養がないと楽しめないものはまあまああるじゃない。

芦野 前提が揃っていないとできない会話。

杉本 そう。政治の話でも世界史の話でも、なんでも急に振って会話が成り立てば楽なんだけど、そうやって話を振ると絶対に止まっちゃうなっていう相手もいるじゃん。結局、話題のバンドは広いほうがおもしろいから。まあ、行きすぎると誰もついてこなくなっちゃうんだけど。たとえばオレいま、原油の精製についてすごく関心があるのね(笑)。

芦野 なんでですか?(笑)

杉本 いや、初めはどうして軽油は燃費がいいんだろう?っていうのを疑問に思ったんだよ。その説明ができないまま、「ディーゼルいいよ」とか言いたくない……と。石油コンビナートって、巨大な丸い設備があるじゃないですか。あれ「トッパー」っていうんだけど、そのトッパーで原油を精製してて。精製すると何が生まれると思う?

――ガソリン、灯油、重油、軽油……。

杉本 あとジェット燃料とか聞いたことがあると思うけど、他にナフサとか。これを石油精製商品の「主要6種」と呼びます。その精製をトッパーの中でやっているわけ。実際には原油からいきなりそれができるわけじゃなくて、商品化するには精製したものに基材と呼ばれるいろいろなものを混ぜていかないといけないんだけどね。

芦野 なるほど。

杉本 で、そのトッパーの中で行なわれていることを、小学校・中学校の理科で習う漢字2文字で表すとなんでしょう。ヒントは、原油を精製するにあたって、ある原油の特性を用いてる。

芦野 うーん。

杉本 正解は「蒸留」。

芦野 ああ(笑)。

杉本 あのトッパーって機密性が非常に高い。しかもあの形はどう見ても高圧に耐えられるようにできているでしょ。その中で原油の温度を上げていくと、液体が気体になっていく。その気体を冷やしていく過程で、順番にわかれていく。それは大きく6種に分かれていくんだよ。一番最初に取れるのはLPガス(液化プロパンガス)なんだけど。LPガスは沸点が低いから、最初に出てくる。次がガソリンとナフサ。そしてジェット燃料、灯油、軽油、重油の順。で、ガソリンというのは常温で気化する特性をもっている。つまりLPGに次いで沸点が低いんだよ。でも軽油も灯油も常温では揮発しない。そういう特性の違いがあるから、クルマのエンジンも、ガソリン車とディーゼル車では全然仕組みが違うんだな。ガソリン車のエンジンは気化したガソリンと空気を混ぜて、そこに火花で着火するためのプラグを組むけど、ディーゼルエンジンにはそのプラグがない。なぜなら燃料が気体にならないので空気と混ぜて混合気をつくれないから。

芦野 軽油は常温では気化しないから。

杉本 そのとおり。全然違うんです。じゃあその軽油からどういうふうにエンジンをかけるかというと、揮発しないので、簡単にいうとエンジンの内部に霧吹きみたいなものがあって、霧状にして噴射するんだよ。

芦野 なるほど、細かくしてパッと出す。

杉本 そして外から空気を取り込んで、その空気を圧縮するんです。空気って圧縮すると温度が上がるんだよ。逃げ場がない状況で空気を圧縮するとものすごい高温になる。そこへ軽油の霧をかけると自己着火してボンッと爆発する。あとは加圧と爆発を繰り返して、エンジンが動く。

芦野 知らなかった。

杉本 こういう話って、オレはおもしろいと思うんだけど、別におもしろくない人もいる。どっちが偉いとか偉くないとかの問題ではなく、同じ話ができる好みの問題かもしれないけど。

芦野 そうですね。

杉本 そうじゃない話もあるじゃん。単純にスポーツを観戦しながら「行けー!」ってなる感じとか。それはそれでいいんだけど、そういうのもできて、かつディーゼルエンジンの話もできるほうが豊かだ思うんだよね。ちなみにジェット燃料っていうのはガソリンより灯油に近いんですよ。

芦野 そうなんですか。

杉本 うん。ガソリンの隣に樹脂とかの原料になるナフサがあって、その後にジェット燃料や灯油が来る。灯油も軽油よりも沸点が高いけど揮発しないから、じつはディーゼルエンジンは灯油でも動く。ただ、クルマ用のディーゼル燃料っていうのは結構添加物が入っててね。潤滑剤とか。あと土地の気候に合わせて、凍らないようにしていたり。でも灯油はそうじゃないから、ずっと入れていたらエンジンは壊れるけど。

――なるほど。

杉本 原油の話が余りに長くなったけど(笑)、何が言いたいかというと、オレはクルマに興味があっただけなんだよ。だけどそれでここまで話が広がっていく。これが「探究」なんじゃないのって。だからオレにとってのクルマのように好きなことを見つけようぜ!っていうのをずっとやってるほうがいい教育なんじゃないかなと思うんだよ。ここには文系も理系もないし。いまみたいな話をできるのは、小中高ぐらいでちゃんと理科とかの教育をやっているからだとも思うんだけど。
入試においてもはや競争が成立していない
――ちなみに「探究学習」というのは、内申とかには影響するんですか?

芦野 学校は調査書に書きます。その雛形は文科省が出すんですが、そこでも意図的に「探究学習で何をしたか」を書く枠が設けられていたりして、「書けよ」っていう感じになっています。あと、探究学習でこのテーマをやってこういう学問に興味をもったので、ぜひ貴学に入りたいです、みたいなことを推薦入試で言う生徒は多いですね。これなぜかというと、偶然だとも思うものの、いまは一般入試より推薦で入学することが多いんですよね。

杉本 いまって一般入試で入る学生って4割くらい?

芦野 厳密には4割強ですね。一般入試以外で入学した学生が2021年度入試でついに過半数を超えたことは業界で話題になりました。一般以外というのは推薦といわゆる旧AOと言われる総合型のことで、これらは高3の12月までに合格が出るので「年内入試」って言ったりするんですけど。だから受験というと年が明けて「いよいよ本番だ」みたいな感覚がありますが、じつは半分以上の子はすでにそのレースにはいない。

――それは高校によって差はないんですか?

芦野 もちろんあります。端的に言うと、入試難易度の高い大学になればなるほど一般が多い。東大なんか、まだ95%以上が一般ですね。入試難易度の低い大学は推薦やAO入試が中心。というのは、当然後者の方が募集が苦しい。だから早いうちにひとりでも多く採ってしまいたいっていうことなんです。しかも少子化なのに大学は増え続けているから、学生の奪い合いが厳しくなっている。総合型(旧AO)、推薦、一般という順番は文科省が決めているので、「総合型で受験生の個性を見たい」とか「テストに表れない力を見たい」とか前向きな理由だけではなく、単純に早く学生を確保しないと経営に影響があるからどんどん前へ行くんです。東大とかは別に後ろでも優秀な学生は来るからっていう。

――なるほど。

芦野 でも、1回そうやって総合型や推薦での学生募集に力を入れ始めると、大学もこれまでと違う形で魅力的な学生と出会える手応えもあるようです。やっぱり総合型や推薦入試で、ペーパーテストでは見えないその生徒の強みや魅力が見えることも多いので。こういう動きと、探究学習が走り始めたのがタイミング的に一致したというのもあって。わかりやすい例でいうと、私と一緒にQareerをやっている平田(正英/株式会社Qareer CEO・CTOで、現在慶應義塾大学環境情報学部在籍)は、高校時代の探究学習のテーマが「どんな高校生でも習得できるプログラミングカリキュラムとは何なのか」というものだったんです。原体験として、自分はプログラミングができるようになったけど、友達から教えてと言われて教えるとみんなどんどん離脱していくというのがあって、これじゃダメだと思ったのがきっかけだったらしいんですが、探究していくうちに「プログラミング教育でクリエイティビティを育成すれば日本がより活性化するんじゃないか」という考えに至って、それを実現するためには慶應のSFCで学ぶ必要があるんだって総合型で伝えて受かった……という。もしかしたらそういうのがこれから主流になっていくんじゃないかと思っています。

――ただ、そのレベルで考えて探究学習のテーマを見つけられる生徒って稀じゃないですか?

芦野 稀です。

――もっとライトにできるといいですよね。クルマでもクラゲでもいいんですけど、それを本当に好きな子が、好きだからそれをとことん探究するという。

芦野 だから好きなもの、例えばサブカル系やアート系のテーマとかを選ぶ子も多いですよ。たとえばジャズの作曲についての探究っていうのがあったんです。その子はジャズが好きで好きでたまらなくて、ジャズの作曲をこれを機にやろう、みたいな。そういうのも全然ありですよね。

――ただ一方で、文科省が調査書にもそれを投影しているということは、探究学習自体がハックされて、受験対策化されていく可能性もありますよね。平田さんの場合は興味と入試の目的がたまたま一致したけど、ジャズの研究だと進学に有利かどうかは微妙かもしれない。

芦野 有名塾でも、総合型選抜や学校推薦型選抜対策を訴求するケースが非常に多くなりましたね。早稲田塾などは最近はもう完全に推薦用の塾になっているんです。

杉本 そこに活路を見出してるんだ。

芦野 少子化もあって大学入試もがらっと変わるのが見えていて、総合型や推薦が重要になっていくというのを早稲田塾の経営陣は分かっていたんだと思うんです。だからポジションを変えた。いま、推薦入試でどこが一番強いのかといったら早稲田塾ですよ。

杉本 AOとか推薦の枠が増えて、小さいマーケットじゃなくなってきているから、そっちのほうが将来成長の可能性があるって判断したということだ。

芦野 あと、これがまた時代観ある話なんですけど、入試においてもはや競争が成立してないというのもあるんですよ。つまり、昔は旧帝大、早慶上智、MARCH、日東駒専、大東亜帝国というのがありましたけど、昨今、一定の入試難易レベルを下回ると、競争が成立していないので極端に言えば「出せば受かる」と言われているんです。。倍率がそれぐらい下がっている。以前わりと名前の通ったある大学の入試担当の方と話したときのことが印象に残っているんですけど、「芦野さん、昨日総合型の面接だったんだ。もう必死で受からせるよね」って言うんです。来てもらわないと困るっていう状況なんです。改革がうまくいっている大学もありますけど、打つ手なしのところもあるみたいで。地方キャンパスもどんどん閉鎖されてますし。

――そもそも子どもの数が少ないですからね。

芦野 やっぱり教育に一番影響を与えているのは少子化だと思いますね。大学が殿様商売できなくなってきている。入試なんてある種究極の殿様商売じゃないですか。「どうしようかな、うちの大学に入れようかな」みたいな。それがじわじわ落ちてきて、多くの大学が「来てください」という状況に陥っていくと思います。

(後篇へ続く)
芦野恒輔さん
株式会社クアリア代表取締役。前職のベネッセグループ在職中は、一貫して学校向け事業に従事。2015年度から2年間、文部科学省「スーパーグローバルハイスクール事業」を担当し、探究学習への関心が強まる。以降、全国の探究学習を支援してきた。2022年度以降はベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター 主任研究員も兼務。当時高校生だった共同創業者平田の探究学習をサポートする中で問題意識が一致し、探究学習フィードバックシステム"Qareer"を構想。

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