2024年9月23日から10月1日に開催された、2025年春夏シーズンのパリ・ファッション・ウィークを現地取材してきました。数シーズン続いた“クワイエット・ラグジュアリー”のトレンドは影を潜め、今季は装飾主義が復活! ビッグメゾンの真髄であり、レガシーである職人技術を存分に活かした、眺めているだけでうっとりしてしまう精巧な装飾は、混沌とした時代の解毒剤のようなファッションの力を再確認させてくれます。
同時に、ビジネス的には二極化が進む社会の富裕層に向けた提案のよう。キーワードとなったのは、“軽さ”や“柔らかさ”といったふんわりとした雰囲気。シフォンやオーガンザといったふわふわと揺れる素材や、シアーな素材をレイヤードしたり、フリルやラッフルで流動的かつ軽快さを表現し、甘美なムードたっぷり。パウダーカラーの淡いニュアンスがランウェイを彩り、カラーセラピーを受けているようでもありました。
気候変動に伴う春夏の厳しい暑さをスタイリッシュに乗り切るリアルなアイディアでもありますし、メンタル的にも軽やかな気分と癒しを与えてくれたり、現代を生きる私たちに肩の力を抜くよう促してくれます。気分が高揚し、感情を揺さぶれ、熟考を促されるパリコレ。心の奥底まで届く刺激とインスピレーションを与えてくれる数日間はとても濃厚な時間なわけです。ブランドによって指針も市場も異なるので、何が正解か間違いかもなく、みんな違って、みんないい。ベストコレクションと一括りにはできないので、個人的な見解による“勝手になんでもランキング”でいろんな意味での“ベスト”をご紹介したいと思います。
Photo by ELIE
ベスト“購買欲をそそるコラボレーション”:セシリー バンセン
廃墟ビルの中でショーを行ったデンマーク発「セシリー バンセン」は、これまでに何度もコラボレートしている日本人写真家ホンマ タカシさんが撮影した山々の自然風景にインスパイアされたコレクションを披露。発売するなり即完してしまう「アシックス」とのコラボスニーカーに加え、今季はアウトドアウエアブランド「ザ・ノース・フェイス」との初コラボを発表しました。
Photo by ELIE
マウンテンジャケットやダッフルバッグなど、「ザ・ノース・フェイス」のクラシックなアイテムを「セシリー バンセン」らしい花柄のモチーフやアップリケを施して、ガーリーかつフェミニンに再解釈しました。インドア派の私も、これを着たら山に行きたくなっちゃうかも(?)。もちろん、アーバンウエアとしても着用できそうなピースで、購買欲を沸々と掻き立てます。特に今季は、「ヌメロヴァントゥーノ」や「ミュウミュウ」のランウェイで見かけた、スリップドレスやカクテルドレスの上にアノラックを合わせたスタイリングが目を引いたので、スポーティなアイテムを新たにトライしてみたいです。
Photo by ELIE
ベスト“見惚れちゃうほど神々しいセレブゲスト”:アクネ ストゥディオス
昨今のファッション・ウィークの話題といえば、なんといってもK-POPスターの来場です。ショーにセレブリティが来場すれば、それだけで注目を集めるのはもちろんですが、K-POPスターはファンの熱量が欧米のセレブリティのファンとは段違い。彼らの来場の瞬間を一目見ようと、前夜からショー会場周辺で待ち伏せるファンまでいるのです。
Photo by ELIE
K-POPも映画スターも、セレブリティに詳しくない私にとっては、誰が来場していようと興奮しないのですが、なかには例外があります。日本人なら誰もが認める日本を代表するスター、宇多田ヒカルさん! 平成元年生まれの私にとっては超世代ですし、ファッションのイメージがそこまで強くないので、来場するとなればその意外性もあって大興奮させられました。以前に数回「サカイ」に来場し、今季は「アクネ ストゥディオス」のショーに初参加。撮影と取材はNGだったのですが、宇多田さんが座っているは私の座席からランウェイを挟んで向かい側! 隠し撮りチャンス、とも思いましたが、やはり撮影は控えました。もはやアーティストとしての存在が神格化しているから、遠くからでも神々しいオーラを放っているように感じられ、ショーの最中もついつい見惚れてしまいました。
Acne Studios SS25/Hikaru Utada PHOTO by VICTOR BOYKO
ベスト“超現実主義的アルチザン”:ロエベ
絶好調の「ロエベ」は今季も期待を裏切ることがありません。コロナ禍以降に継続する“シュルレアリスム(超現実主義)”の美術様式を毎シーズン発展させており、今季は「あらゆるノイズを取り除いたとき、何が起きるのか? 」という疑問を出発点に、徹底的に限り削ぎ落として新たなシルエットを探求しました。
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芸術家の絵画作品が投影された、美術館で購入できる土産品に着想を得たTシャツは、前面にフェザーをあしらいその上にプリントを施しています。ほぼトップスのマイクロミニ丈のドレスは、薄くスライスしたマザーオブパールをパズルのように繋ぎ合わせて作られており、照明を浴びて虹色の光を放り幻想的なムード。薄いシルクを手で丁寧に引き裂き、ポニーヘアー、オーガンジー、ケーブルと組み合わせた波打つ球根のような形のドレスは、3人の職人が10時間かけて制作したもの。
Photo by ELIE
今季のキールックとなった軽量のクリノリンを内側に備えた、シルクジョーゼットのフープドレスは、さまざまな専門家の協力を得てテニスラケットくらい軽量なワイヤーフレームを開発したといいます。軽くなればそれだけ、着用者の動きに合わせて弾むように揺れる。そんな軽やかさのニュアンスを引き出すために、素材と技術の開発・向上に挑む姿勢は、まさに職人です。「ロエベ」の公式インスタグラムで、職人の制作作業の映像が投稿されているので、ぜひご覧ください。
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ベスト“本能的な胸キュンコレクション”:ミュウミュウ
パリコレ最終日にショーを行った「ミュウミュウ」の会場には、“真実なき時代(THE TRUELESS TIMES)”と題した架空の新聞が配布され、会場装飾は印刷工場のようなセット。ベルトコンベアーに乗った新聞が空間を駆け巡る中、フランスの歴史ある子ども服ブランド「プチバトー」とのコラボにより、子どものワードローブを再解釈したコレクションを披露しました。
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童心に帰り、ルールを無視して自由に好きなアイテムを組み合わせたルックに、胸キュンが止まりません! スタイリングだけでなく着こなしも自由奔放で、シャツは斜めに着用したり、結び目を作ったり、ディテールの無造作で荒っぽい雰囲気がこれまたカワイイ。何にそんなに胸が高鳴るのか、上手く言語化できないなら、それこそが“本能的”に惹かれるということなのでしょう。
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実際、本当に好きなモノ・コト・ヒトに対しては、理由がなかったりしませんか? きっとそれこそが“本能”であり、無条件で心に触れるのです。情報も雑音も届かず、固定観念に縛られない幼少期の純粋さを取り戻し、“本能”を目覚めさせることが“真実なき時代”を生きる私たちに必要だと告げるメッセージのようでもありました。
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ベスト“全方位で魅せる異次元シルエット”:サカイ
前途した「ロエベ」と同じく、新たなシルエットを探求し続ける「サカイ」は、設立25年目を迎えてさらにレベルアップしたような印象を受けました。ブレザーやトレンチコート、ブラウスといった見慣れたはずのベーシックアイテムは、生地をカットして垂らしたり、ラッフルの装飾に組み立てたり、立体的な構造で異次元のシルエットを生み出しました。
Photo by ELIE
今季はバッグを持って登場したモデルも極めて少なく、“洋服にフォーカスして欲しい”というデザイナーさんの想いと自信が現れているようでもありました。高いパターン技術に裏打ちされた複雑な構造は、じっくり見なければ、というかどれだけ見ても紐解けなさそう。日本を代表するブランドの一つとして、パリコレで異彩を放ち、影響力を高めています。「サカイ」の飽くなき探究心が創り出す斬新なシルエットは、新鮮さを常に渇望するファッション業界人の大好物。これからもまだまだ期待できそう! 25周年おめでとうございます。